高等学校保健体育座学編/思春期と健康

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キーワード[編集]

思春期・性ホルモン・排卵・生理(月経)・性周期・基礎体温・射精・欲求不満

思春期の体と健康[編集]

※【中学校保健体育】「生殖機能の成熟」の内容も参照して下さい。より専門的に説明します。

男性と女性の体

 男性と女性の生殖器を見分ける生物学的な特徴を第一次性徴といいます。思春期を迎えると、性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)の分泌量が増えます。性ホルモンは性腺に影響を与えて、精子や卵胞の分泌を促したり、妊娠を継続させたりします。性ホルモンは、男性ホルモン(アンドロゲン)と女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)に分けられます。この内、女性ホルモンは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。男性も女性も男性ホルモンと女性ホルモンの両方を体内で作っています。思春期を迎えると、生殖器以外の部分で明らかに男性らしい体つきや女性らしい体つきが見られます(第二次性徴)。例えば、男性は声変わりや筋骨の発達、女性は特に胸部や腎部の皮下脂肪の増加や体型も丸みを帯びてきます。

女性の体と思春期[編集]

性ホルモンと排卵・生理の周期

 女性の卵巣は思春期を迎えると、卵胞刺激ホルモンの働きで、卵胞は成熟して卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌します。卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌すると、まず、女性の胸(乳房)が大きくなり、皮下脂肪も増え、全体的に丸っこい体型になります。次に、女性生殖器が発達します。やがて、黄体形成ホルモンの働きで黄体が大きくなり、黄体ホルモンが分泌されます。黄体ホルモン(プロゲステロン)は、受精卵の着床を助ける働きがあります。黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響で基礎体温も高温期を迎えます。基礎体温が一時期下がって、高温期に入ると卵巣から卵子排卵されます。排卵は次の月経の12~16日前に行われます。排卵されると、卵胞ホルモン(エストロゲン)の働きで子宮内膜が厚くなります。排卵後は卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の量が増加します。黄体は排卵後の卵胞で作られ、受精しなければ消えてしまいます。もし、受精しなかったら、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の量が減って、生理(月経)も始まります。もし受精すると、基礎体温の高温期が続きます。子宮内膜に受精卵が着床して、黄体も妊娠3か月まで成長します。やがて、黄体も消えてしまいます。このように、女性の体内は、明らかな生理(月経)に加えて、様々な周期的変化も起こっています。また、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の分泌量は時期によって変わるため、子宮内膜の厚みも変わります。

 初めての生理(初経)が始まっても数年間は、卵子や子宮があまり発達していません。そのため、排卵生理(月経)の周期も安定しません。やがて排卵と生理(月経)の周期が安定すると、性周期も安定します。生理開始日から次の生理開始前日までは25〜38日で繰り返されます。なお、女性はそれぞれ生理の周期が違います。

月経に関わる健康問題
 生理痛の程度は人それぞれ違います。同じ人でも月によって痛みに違いが見られます。月経困難症とは、日常生活に影響を与えるような下腹部の痛みや頭痛をいいます。子宮内膜症など子宮の疾患が原因で月経困難症も起こります。子宮内部の組織が卵巣や腹膜などの子宮以外の部位で増殖すると、不妊の原因となります。一方、月経困難症があると、子宮内膜症に将来かかりやすくなるかもしれません。

 一方、月経前症候群は、生理の3~10日前に発生します。生理(月経)が始まると怒り・腹痛・不安・頭痛などの心や体の不調が改善したり治ったりする病気の総称です。

 上記の症状がある場合と3か月以上生理が来ない場合、出来るだけ早く医療機関に相談しましょう。

 基礎体温はベッドに横になりながら舌の下で測ります。低体温期と高体温期が基礎体温にあり、排卵や月経前後で変わります。十分な睡眠をとって、翌朝の起床後すぐに基礎体温を測って、基礎体温の変化に気づくと、性周期がわかります。基礎体温計では、スマートフォン用アプリを使って、検温データを送れます。検温データを送ると、体温がどのように見えるかをグラフで示したり、過去の生理周期から次の排卵日を予測したり出来ます。このように、毎日の基礎体温を記録すると、いつ排卵するかが分かります。しかし、思春期に、精神的ストレス・無理なダイエット・激しい運動などを行うと、卵巣や子宮の発達が遅くなります。その結果、生理不順になったり、排卵がなかったり、生理が全く起こらなかったりします。また、無生理が続くと、骨粗鬆症になったり、不妊症になったりします。

男性の体と思春期[編集]

 思春期になると、男性の声が変わり、髭も生え、筋肉も逞しくなります。男性ホルモン(アンドロゲン)を活発に分泌されるようになると、男性生殖器の精巣も発達します。精子は精巣内で毎日作られます。しかし、女性の周期性は見られません。性的刺激を受けたり性的興奮を感じたりすると、陰茎に血液が素早く流れます。その結果、陰茎が勃起します。この時、精子は精管を通って、前立腺と精嚢からの分泌液と一緒に精液になります。男性の性的興奮が満たされると、精子は尿道から体外に排出されます(射精)。精子はある程度時間が経つと分解されて体内に取り込まれるため、射精をしなくても、たまり続けたり体に悪影響を与えたりしません。自慰行為(マスターベーション)とは、性的快感を求めて自分の性器を刺激する行為です。自慰行為(マスターベーション)をしてもしなくても、健康や成長に悪影響は一切ありません。

思春期の心と健康[編集]

思春期と心の発達[編集]

 心の面でも、思春期を迎えると子供から大人へと変わっていきます。個人差があっても、体の変化が早いほど、自分の性別(男性・女性)を意識したり、異性に魅力を感じたりします。また、思春期後期の高校生になると、同級生の中でも自分の立ち位置を気にするようになります。自分の容姿や体型を気にしたり、体の変化に不安や悩みをもったりするかもしれません。そして、親や身近な人に頼らず、自分を大切にしたい気持ちがさらに強くなります。思春期は、自分らしく社会で生きていくために準備をして、自己実現をする時期です。そのため、私達は試行錯誤をしながら将来の目標に向かって努力していきます。しかし、その中で、何かをしなければならない重圧を感じながらも、どうすればいいのかわからなくなります。また、何かをしたくても親からどう見ているのか、経験不足から思い通りにならなくて、葛藤・焦り・欲求不満に陥ってしまいます。このように、思春期を迎えると様々な悩みやストレスが出やすくなります。

思春期の健康課題[編集]

 思春期を迎えると性ホルモンが急速に上昇します。その過程で、前頭前野の感情領域は、思春期を迎えるとより衝動的になります。一方、前頭前野の思考領域や判断領域は緩やかに成長します。そのため、思春期を迎えると、どうしても危険な行動、不注意な行動、悪質な行動につながりかねません。具体的に説明します。好奇心が高まると、喫煙・飲酒・薬物乱用・激しいダイエットなども行ってしまいます。自転車や自動車に乗るなどの危険な行為もつながります。また、悩みやストレスに上手く対応出来ません。その結果、悲しみや怒りを感じたり、暴力・過食・嘔吐をしたり、わざと自分の体を傷つけたり、ひどい場合は自ら命を落とします。自殺は15歳から24歳の若者で主要な死亡原因となっています。また、精神疾患は、思春期から20歳代に見られます。このように、思春期は精神的にも肉体的にもはっきりしません。将来の健康のためにも、自分1人で抱え込まないようにしましょう。そして、なりたい自分になるために、周囲の人や専門家に相談してみるのも構いません。相談先として、保健所・精神保健福祉センター・保健センター・医療機関が利用出来ます。また、Meekssolo2clubのように何でも相談出来るようなウェブサイトもあります。このほか、相談先として思春期・FP相談ラインとチャイルドラインがあります。内容は次の通りです。

  • 思春期・FP相談ラインでは、思春期の体や緊急避妊などについて電話で相談できます。
  • チャイルドラインでは、18歳までの子供が電話やチャットで相談出来ます。

資料出所[編集]

  • 第一学習社『高等学校 保健体育 Textbook編』北川薫ほか編著 2022年
  • 大修館書店『現代高等保健体育』衞藤隆ほか編著 2022年
  • 大修館書店新高等保健体育渡邉正樹ほか編著 2022年