高等学校公共/国民所得と私たちの生活

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本節では、国民所得について学んでいきます。各用語の定義をしっかり理解して下さい。

国民所得[編集]

国民所得の定義[編集]

 国民所得とは、ある一定期間(通常1年)に一国の経済活動で新たに生み出された価値(付加価値)の総額、あるいはそれに見合って受け取られる所得の総額です。最終生産物の総額と同じです。家計や企業などの経済活動の規模を国全体で捉える上で、重要な手がかりとなります。

国民所得の計算[編集]

 パンの生産を例にとり、国民所得の計算方法を説明してみます。農家・製粉業者・製パン業者が労働や資本などの生産要素を投入して小麦→小麦粉→パンを生産する場合を考えます。

 まず、農家が10の価値の小麦を生産します。この時の付加価値は10です。農家の所得となります。次に、製粉業者が農家から小麦を購入し、これを加工して20の価値の小麦粉を生産します。このときの付加価値は10です。製粉工場の労働者の賃金や業者の利潤となります。そして、製パン業者が製粉業者から小麦粉を購入し、これを加工して30の価値のパンを生産し、消費者に販売します。この時の付加価値は10です。パン工場の労働者の賃金や業者の利潤となります。

 もし、ここで生産された小麦・小麦粉・パンの価値を全て足し合わせると、10+20+30=60となり、消費者が手にした最終生産物(パン)の価値を上回ってしまいます。そこで、それぞれの付加価値の部分だけを足し合わせれば、10+10+10=30となり、最終生産物と同じ価値になります。あるいは、全ての生産物の価値(総生産額)から、パンを作りあげる中間段階で購入された原材料の価値(中間生産物)を引くと、60-(10+20)=30となるので、最終生産物と同じ価値になります。このように、国民所得は生産額の二重計算を防ぐように計算されます。

三面等価の原則[編集]

 国民所得は、生産・分配・支出の三つの面から捉えられます。そして、生産国民所得・分配国民所得・支出国民所得のどの方法で算出しても必ず同じ額になります。これを国民所得の三面等価の原則といいます。

生産国民所得[編集]

 生産面から捉えた国民所得で、国全体でどれだけの生産が行われたかを示しています。各産業部門で作り出された付加価値(最終生産物)の合計です。

分配国民所得[編集]

 所得の分配面から捉えた国民所得で、生産で得られた所得がどのように分配されたかを示しています。生産に投入された各生産要素に対して支払われた額の合計です。雇用者報酬(賃金など)、財産所得(地代・利子・配当など)、企業所得(企業の内部留保など)からなります。

支出国民所得[編集]

 支出面から捉えた国民所得で、各経済主体が分配された所得をどのように支出したかを示しています。政府も、家計や企業に分配された所得から租税を徴収し、消費や投資を行っています。財やサービスに対して支出された最終需要額の合計です。民間の消費と投資、政府の消費と投資、経常海外余剰(輸出と輸入の差額)からなります。

国富[編集]

国富の定義[編集]

 国富(国民資本)とは、ある時点までに蓄積されてきた一国全体の資産の総額です。有形資産と対外純資産から構成されます。有形資産は、個人の住宅・耐久消費財、企業の工場・機械(生産資本)や在庫品、道路・港湾・公園・上下水道・公共施設など(社会資本)、土地・森林・地下資源のように再生産不可能な固定資産からなります。対外純資産は、対外資産(債権)から対外負債(債務)を差し引いた額です。このように、国富は国全体の富を図るものさしといえます。

日本の国富[編集]

 日本の場合、外国に比べて地価が高いので、土地が有形資産の半分以上を占めています。また、住宅・公園・上下水道など生活関連の社会資本が、道路・港湾・工業用地など生産関連の社会資本に比べて立ち遅れています。

国民所得と国富の関係[編集]

 国民所得はある一定期間における経済活動の量・流れ(フロー)を示す概念であるのに対して、国富はある時点における蓄積量(ストック)を示す概念です。

国内総生産・国民総所得の国際比較[編集]

国内総生産(GDP)の国別順位(名目)(2021年)
国内総生産(GDP)の国別順位(名目)(2021年)

 2021年の日本の国内総生産はアメリカ合衆国、中国に次いで世界第3位となっています。1人当たり国民総所得は世界第23位となっています。




国内総生産と国民総生産[編集]

 国民所得の規模は、一般に国内総生産や国民総生産という統計指標で算出します。ただし、狭い意味での国民所得は「要素費用表示の国民所得(NI)」をさしており、家計や企業が提供した労働や資本などの生産要素の対価として受け取る所得(雇用者報酬・財産所得・企業所得)のみを算出します。

要素費用表示の国民所得
 現実の経済では、政府が生産物に間接税をかけたり補助金を出したりしているので、市場価格表示による生産物の大きさは、各生産要素が実際に生み出した生産物の大きさと食い違ってきます。このため、要素費用表示の額は、市場価格表示の額から間接税を引き、補助金を足して計算します。

 従来、日本では統計指標として国民総生産が重視されてきました。しかし、経済のボーダーレス化が進み、国民総生産と国内総生産の乖離が明らかになってきたため、1990年代半ばから主要な経済統計は国内総生産に切り替えられました。

国内総生産[編集]

国内総生産(GDP)

[市場価格表示]

=国内の総生産額-中間生産物

=国内の最終生産物の総額

=国民総生産-海外からの純所得(要素所得の純受け取り)

国内純生産(NDP)

[市場価格表示]

=国内総生産-固定資本減耗(減価償却費)
国内所得(DI)

[要素費用表示]

=市場価格表示の国内純生産-間接税+補助金

 国内総生産(GDP)とは、一国の経済活動で、その国の国内で1年間に新たに生産された財やサービスの付加価値の総額です。外国人や外国企業が国内で生産した財やサービスの付加価値も含まれます。なお、国内総生産を支出面から捉えたものを国内総支出(GDE)といいます。国内総生産と国内総支出は市場価格表示で、国内純生産は市場価格表示と要素費用表示の両方で算出されています。

海外からの純所得(要素所得の純受け取り)
 海外からの純所得とは、海外に提供した生産要素の対価として受け取る所得(雇用者報酬や財産所得など)から、海外から提供された生産要素の対価として支払う所得を引いたものです。「海外からの要素所得の純受け取り」ともいいます。
固定資本減耗(減価償却費)
 生産過程で使用した建物や機械設備など(固定資本)の減耗分を評価した額を、所得統計では固定資本減耗、企業会計では減価償却費といいます。固定資本減耗分は新しく生み出された価値ではないので、生産要素の対価として分配される純粋な付加価値を求める際には差し引かなければなりません。

国民総生産[編集]

国民総生産(GNP)[市場価格表示] =国民全体の総生産額-中間生産物

=国民全体の最終生産物の総額

=国内総生産+海外からの純所得(要素所得の純受取り)

国民純生産(NNP)

[市場価格表示]

=国民総生産-固定資本減耗(減価償却費)
国民所得(NI)

[要素費用表示]

=国民純生産-間接税+補助金

 国民総生産(GNP)とは、一国の経済活動で、その国の国民が1年間に新たに生産した財やサービスの付加価値の総額です。国民が海外で生産した財やサービスの付加価値(要素所得)も含まれます。なお、ここでの「国民」には1年以上その国に居住している外国人や外国企業も含まれています。