高等学校公共/民主主義,立憲主義
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本節では、民主主義と立憲主義の意味を理解しましょう。
民主主義と社会契約説
[編集]アメリカの大統領エイブラハム・リンカーンは「人民の、人民による、人民のための政治」という言葉で国民主権・国民の政治参加・国民受益の原則を示しました。
社会契約説
[編集]社会契約説は、社会や国家などの共同社会や集団組織は人々が契約を結んで設立したという学説で、市民革命に影響を与えました。絶対王政期の王権神授説(神権説)が統治者の権力を神から与えられた神聖なものであるとして正当化するのに対して、社会契約説は統治者の権力の正当性を人々の契約に求めます。そのため、社会契約説から国民(人民)主権という考え方が生まれてきます。17~18世紀にかけてトマス・ホッブズ、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソーによって社会契約説は展開されました。
トマス・ホッブズ:『リヴァイアサン』
[編集]トマス・ホッブズは契約によって設立された国家を聖書に登場する怪物に例えてリヴァイアサンと呼びました。
自然状態(戦争状態)と社会契約(各人の間の契約)
[編集]社会契約が結ばれる以前の状態、つまり国家も法も存在しない状態を自然状態と言いますが、トマス・ホッブズは、この自然状態を戦争状態とみなしました。なぜそうなるかと言うと、人々は自分の身を守る権利(自己保存権)を生まれながらに持っていて、それをみんなが勝手に行使しようとするからです。しかし人間は理性的な動物なので、このような「万人の万人に対する闘争」が行われる無秩序な状態からの打開策を考えました。これが国家の創設です。
つまり、みんなが一斉に自己保存権を放棄し、強力な国家権力にそれを全面的に譲渡するという契約を結べば丸く収まるというわけです。わかりやすく言うと、みんながピストルなどで武装している社会よりも、警察などの国家権力が暴力を独占しているほうが安全です。
ただ、トマス・ホッブズの議論は無秩序を恐れるあまりに絶対君主を擁護につながると批判されました。
ジョン・ロック:『市民政府二論』(『統治二論』)
[編集]自然状態(一応自由で平等な平和の状態)と社会契約(国民と主権者の間の契約)
[編集]ジョン・ロックは、自然状態において人間は自由・平等であるばかりでなく、基本的に平和だと主張しました。しかし、生命・自由・財産に対する権利(自然権・所有権)が不安定かつ不確実です。自然状態では司法機関が存在しないので、所有権の侵害があった時に逮捕も裁判も出来ません。そこで、こうした権利を確実にするために社会契約によって国家機構を創設しました。トマス・ホッブズと違い、国家に全権利を譲渡するわけではありません。所有権を確実にするという目的を実現するために、人民の代表者(≒国会議員)に権利の一部を信託するだけです。
抵抗権
[編集]代表者達が上記の目的を守らなかった場合、人民は抵抗権・革命権に基づいて政府を変更します。このような間接民主制を理想とした主張は、名誉革命を正当化するとともに、アメリカ独立革命に大きな影響を与えました。アメリカでは今でも憲法で人民の武装が権利として保障されています。
ジャン=ジャック・ルソー:『社会契約論』
[編集]自然状態(自由で平等な状態)と社会契約(各人と共同体との間)
[編集]ジャン=ジャック・ルソーは自然状態を平和な状態ととらえています。無分別な赤ん坊が悪徳を知らないように、法の存在しない未開の人々は純朴で善良だからです。
ところが、現在の文明社会には不平等と不公正、それに悪徳が満ち満ちています。その理由は、人々が私有財産への権利意識に目覚めたからです。みなが「自分の持ち物」に執着するようになるからこそ、様々な争いが起こってしまいます。以上の事態をジャン=ジャック・ルソーは、「人間は自由なものとして生まれましたが、(現在は)至るところで鉄鎖につながれています。」と表現しています。
このような事態は、社会契約によって本来の自由・平等を回復しなくてはなりません。これは一般に「自然に帰れ」という標語で表されます。彼が主張しているのは決して原始時代への回帰などではなく、人間本来のあり方を実現します。
一般意思と直接民主制
[編集]一般意志は個人の意見の総和(=全体意志)ではありません。もし一人ひとりが他人を考えずに自分の私的な利益だけを考えるなら、「税金は廃止しましょう」みたいな結論が出るかもしれません。でもこれでは国家が破綻し、結果としてほとんどの人が不幸になってしまいます。
これに対して、誰もが自分の私的利益を棚上げし、社会の一員(公民)として社会にとっての利益を考えるなら、議論の末に何かしら納得のいく結論(ベストの税制など)が出るのではないでしょうか。これが一般意志です。
一般意志を導くためには、みんなにとっての利益をみんなで考えなくてはならないので、私的利害の代表者が集まる議会は認められません。したがって、ジャン=ジャック・ルソーは、ジョン・ロックが肯定した間接民主制を批判し、直接民主制を擁護しました。