高等学校化学基礎/化学結合

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化学結合の分類

一般の物質は、いくつかの原子が結びついて分子や結晶を作ってたり、イオンが結びついて結晶を作っている。物質中での原子と原子の結びつきを化学結合という。またイオンとイオンの結びつきも化学結合(chemical bond)という。

化学結合の結合の力は、粒子間の電子の授受による。その電子の授受の仕方により、結合の種類が以下のように分類される。

  • イオン結合:
イオン結合.

例えば食塩NaClなどが、単体のNaとClからNaClへと結合する際は、原子どうしが近づくと原子と原子の間で、電子が完全にどちらか一方に移動することで、陽イオンと陰イオンが生じる。その陽イオンと陰イオンとが結びつく結合をイオン結合(ionic bond)という。原子の種類ごとに、電子を引き寄せて束縛しようとする力は異なり、これを相対的に数値で表示したものを電気陰性度(electronegativity)というが、比較的に電気陰性度の大きい原子と小さい原子の結合で生じるのが一般である。電気陰性度の大きい物ほど、電子を吸引する力と電子を束縛する力とが大きい。

  • 共有結合:

一般に原子が近づくと、各原子の電子軌道上にある電子を共有することができる。(ただし、共有できる原子数には限りがある。) このような結合を共有結合(covalent bond)という。 電気陰性度がある程度高く、また電気陰性度が同じくらいの原子の結合で、共有結合が生じるのが一般的である。

なぜ、このような共有結合の現象が起きるかというと、原子規模の物理法則では、物質が狭い場所に押し込められると不安定になり広がろうという不確定性原理とよばれる性質を持つことに由来する。その不確定性原理による広がりの力が、電子どうしの反発力に勝る場合、複数の原子が、電子を共有する現象が起こる。 (不確定性原理の証明は、高校レベルでは困難なので、読者が高校生や中学生なら、ここでは不確定性原理の名前と概略を知っているだけで良い。)

複数の原子が電子を共有した結果、軌道も共有する。


  • 金属結合:

例として鉄が、合金ではない鉄の結晶を作る場合で説明する。鉄の結晶は、結晶全体で電子を共有している。だからこそ、外部から鉄に電流を流そうとすると、鉄には電気を流せる。鉄に限らず銅の結晶やアルミニウムの結晶でも、同様に、結晶全体で電子を共有している。 このように結晶が鉄や銅やアルミニウム等のような結晶を金属結晶(metallic bond)と言い、分子の単体がそのような性質をもつ元素を金属元素と言う。その金属元素の単体(ここでの「単体」とは、合金ではないという意味)の結合を、金属結合という。 また、このような結晶全体で共有された電子は結晶中を、ほぼ自由に移動できるので、金属中の電子を自由電子(free electron)という。

  • 分子間結合

以上のイオン結合や共有結合や金属結合は、原子どうしの結合であった。いっぽう、分子間結合は、分子どうしの引力によって生じた結合である。


イオン結合の仕組み[編集]

塩化ナトリウム型構造

たとえば、塩化ナトリウムNaClでは、ナトリウム原子からは価電子の1個を出して陽イオンのナトリウムイオンNa+になっている。塩素原子Clは、ナトリウムから不出された価電子を受取り、陰イオンの塩素イオンCl-になっている。

このナトリウムイオンと塩素イオンとの結合によって、塩化ナトリウムになっている。

イオン結合しているNaClは、その分子1個では、中性であり、分子中のNaの部分もほぼ中性であり、Clの部分もほぼ中性である。だが、外部から電気的な力が加わると、Naに近い側は正電荷になり、Clに近い側は負電荷になる。 だから、複数のNaCl分子が近くにあつまると、NaCl原子中の正電荷に傾いているNaの近くには、別のNaCl原子の負電荷に傾いてるClが近づく。そうすると、多数のNaClが集まった物質では、Naの隣にはClが隣接し、そのClの隣には、別の分子のNaが隣接し、さらにそのNaの隣にはまた別の分子のClが隣接するという規則的な配列が繰り返される。 このような理由から、イオン結合をしている分子は、おなじ分子式の物質が集まり、結晶になろうとする。そのイオン結合をしている分子からなる結晶をイオン結晶(ionic crystal)という。イオン結晶では、陽イオン(positive ion)と陰イオン(negative ion)が規則的に配列をしている。

結晶の1個ずつの分子どうしは、べつにイオン結合をしているわけでは無いので、イオン結晶はもろい。棒などでつつくなどして外力を加えると、すぐに割れてしまったり壊れたりして、粉末状になってしまうことが多い。外力で割れやすいのは、原子配置が一個でもずれると、同種の電荷のイオンどうしが接近してしまい反発してしまうからである。

イオン結晶の性質

イオン結晶(ionic crystal)は、一部の例外を除けば、イオン結晶は水に溶けやすい。イオン結晶を溶かした水は電気を通す。 水に溶かしていない、固体状の結晶じたいは電気を通さない。ただしイオン結晶を高温にして液体にすると、液体の場合には電気を通す。

融点に関しては、イオン結合をしている物質の融点は高い。

共有結合[編集]

共有結合は、おおむね、以下のような仕組みである。 例として、水素分子での水素原子どうしの結合で説明する。

  1. 水素原子が近づく。
  2. それぞれの原子核は、相手原子の価電子(valence electron)を引き合う。
  3. 価電子は、もとの原子を引き付けるから、結局、電子を仲立ちとして、原子核どうしが近づく。原子核どうしが近づいた結果、電子軌道の一部は共有されるので、電子殻の一部が共有される。
  4. 共有された電子殻の一部では、水素原子の合計2個の価電子は1対になっている。このように価電子が対になったものを電子対(でんしつい,electron pair)という。

ここで注意すべきなのは、電子どうしには引力が生じない、ということである。原子核どうしにも引力は生じない。あくまでも電荷の異なる粒子どうしの、原子核と電子とが電気引力を及ぼしているのである。同種の電荷である原子核どうしには反発力が生じている。同様に、同種の電荷である電子どうしにも反発力が生じている。


このように価電子を仲立ちとして、電子を共有することによって生じる結合を共有結合(covalent bond)という。

対電子は、なにも結合だけではなく、1個の原子の電子殻上でも、価電子が多い場合は、対電子が生じる。 たとえば、L殻の原子では、5個の価電子を持つN原子は1組の電子対をもつ。6個の価電子を持つO原子は2組の電子対をもつ。7個の価電子を持つF原子は3組の電子対をもつ。比較のため、同じL殻のC原子を例に出すと、4個の価電子を持つC原子は0組の電子対をもつ。

非共有電子対[編集]

黒丸で表されたのが、水酸化物イオンの非共有電子対
丸線で囲まれたのが非共有電子対。左から、アンモニア、水、塩化水素の非共有電子対

電子対は、必ずしも全てが結合に寄与するわけではない。結合に寄与する電子は、他の原子の価電子と対を作る場合のみである。したがって、同じ原子内の電子どうしで対を作っている場合は結合に寄与しない。このような同じ原子内の価電子どうしで対を作っている電子対を非共有電子対(ひきょうゆうでんしつい,shared electron pair)という。

不対電子[編集]

電子はなるべく軌道が広がったほうが安定であるから、電子殻上の電子はなるべく広がろうとする。その結果、1個の原子では、対を作らない価電子が出てくる。これを不対電子(unpaired electron)という。 たとえばL殻の原子では、4個の価電子を持つ炭素原子Cは不対電子を4個もつ。5個の価電子を持つ窒素原子Nは不対電子を3個もつ。6個の価電子を持つ酸素原子Oは不対電子を2個もつ。7個の価電子を持つフッ素原子Fは不対電子を1個もつ。 なお、K殻原子である水素原子の不対電子は1個である。

共有結合を行う電子は、不対電子である。たとえば4個の不対電子をもつ炭素原子Cは、水素Hと結合してメタン CH4 を作る事ができる。

3個の不対電子を持つ窒素原子Nは、水素原子Hと結合すれば、アンモニアNH33 を作ることができる。

また、水素との結合のように、各原子が1個ずつ相手原子に不対電子を提供して共有電子対になった結合を単結合(たんけつごう)という。

構造式では単結合を1本の棒線で表す。たとえば水素分子は

HーH

である。棒線の1本あたり、1組の共有電子対を表している。 なお、このような共有電子対を表す線を価標(かひょう,bond)という。

多重結合[編集]

二重結合[編集]

ニ酸化炭素

ニ酸化炭素CO2 でのCとOと結合を考える。不対原子は、O原子には2個あり、C原子には4個ある。 そうすると、1個のC原子と1個のO原子との結合に参加する不対原子は、O原子からは2個であり、C原子からはOの不対電子の相手をするC原子の不対電子が2個ほど必要である。

そうすると、結合は4個の不対電子から2対の共有電子対が形成される。このように2対の共有電子対が形成される結合を二重結合(double bond)という。

構造式で表す場合、二重結合は = のような、上下の長さが等しい2本線で表す。(つまり2本の価標である。)棒線の1本あたり1組の共有電子対を表している。

ニ酸化炭素CO2の構造式は

O=C=O

である。 なお、構造式は、分子の実際の形には対応しない。あくまで構造式は共有電子対の共有の様子を表示したものである。

三重結合[編集]

N2の三重結合。

たとえば窒素分子N2のN原子どうしは3組の共有電子対で結合している。3組の共有電子対による結合を三重結合(triple bond)という。構造式では、3本の価標で表す。

配位結合[編集]

アンモニウムイオンは配位結合のいい例である。

アンモニアNH3を水や濃塩酸HClと反応させるとアンモニウムイオンNH4+が生じる。 これはアンモニアの非共有電子対に、水素イオンが吸引された結果である。水素イオンは価電子を放出して正電荷になっているので、電子に引きつけられる。 このように非共有電子対に、価電子が空のイオンが吸引されてできる結合を配位結合(はいい けつごう ,coordinate bond)という。

NH4+の結合について、アンモニウムイオンNH4+の持つ結合N-Hの4個の結合は、4個とも同等であり、配位結合したあとは区別できない。 このような理由から、配位結合は共有結合の一種と見なされる。


オキソニウムイオン

水H2Oや、希塩酸などの酸性溶液では、少しだけイオン化をしていて、H3O+とOH-とにイオン化をしている。このH3O+は、H2OにHが配意した配位結合である。このH3O+をオキソニウムイオン(oxonium ion)という。


極性[編集]

水分子の極性

水素分子H2や塩素分子Cl2のように同種の原子の共有結合で出来た結合において、電子対はどちらにも片寄らず、したがって電荷はかたよらない。 このような電荷の片寄りのない分子を無極性分子(むきょくせいぶんし,nonpolar molecule)という。

いっぽう、塩化水素分子HClでは、塩素に電子は片寄っている。その結果、H原子は、すこしばかりの正の電荷 δ+ を持ち、塩素原子は少しばかりの負の電荷 δ- を持つ。このように分子内に電荷の片寄りのある状態を極性(きょくせい,polarity)と言い、極性の有る分子を極性分子(polar molecule)という。


三原子以上の場合の極性

ニ酸化炭素CO2ではC=Oの結合には極性があるが、分子全体ではO=C=Oが直線上の形状のため、2個のC=O結合の極性同士が反対向きになり、極性が打ち消し合う。したがって、分子全体ではニ酸化炭素は極性をもたない無極性分子である。このように原子数が3子以上の場合は、分子の形状が極性に関係してくる。

水H2Oは極性分子である。分子全体では折れ線の形になっている。

メタンCH4は無極性分子であり、正四面体の構造をとる。正四面体の4個の頂点に対応する位置に水素原子Hがあり、正四面体の中心に対応する位置に炭素Cがある。


水素結合[編集]

水中における水素結合ネットワークの模式図。赤は酸素原子を示し、青が水素原子を示す。赤線が共有結合を示し、黒線が水素結合を示す。

16族原子のOと結合したH2Oは、同じ16族原子との化合物のH2SやH2Seとくらべて、沸点が特に高い。 17族のFとの化合物のHFは同じ17族原子の HCl などとくらべて沸点が特に高い。 15族のNとの化合物のNH3も同様に、他の同属化合物より沸点が特に高い。 このような現象の仕組みを述べる。

O、F、Nとも電気陰性度の高い元素である。 例としてHFを解説する。フッ化水素HFはフッ素の電気陰性度が大きく、電子はフッ素に吸引される。この結果、水素原子は静電荷にかたよる。この大きく分極した水素を仲立ちとして、周囲のHF原子のFを吸引することで、物質全体として強い結合をする。 これを水素結合(hydrogen bond)という。水素結合は、相手の原子がO、F、Nなどの電気陰性度の高い場合である。

水素結合.


金属[編集]

金属では、電子は金属全体を動ける。電子殻の視点で見れば、実際に電子殻を周辺の多くの原子と共有している。共有結合と違って特定の原子間で電子を共有しているのでは無い。金属原子は、電子の広がらせやすさが大きい。 金属内の電子は、その結晶全体を動け、特定の原子には拘束されない。このような電子を自由電子(free electron)という。 また、自由電子による金属同士の結合を金属結合(metallic bond)という。

金属の性質[編集]

金属の特徴的な性質は、展性と延性や金属光沢、また、熱や電気を伝えやすいといったようなものがある。

展性と延性[編集]

金属を強く叩く加工をすると、箔状に広げることが可能だが、箔状に広げても、金属がつながったままで、割れたり切れたりしにくく、叩いても金属がつながったままで広げやすい性質を展性(てんせい,ductility)という。また、金属を伸ばして線状に引き伸ばしても、切れにくくつながったままの性質を延性(えんせい,malleability)という。 この展性や延性は、自由電子による。金属結合が自由電子による結合なので、加工によって変形をしても、原子の配列が変わっただけで、金属全体では自由電子を共有しつづけるので、金属結合を維持し続けるからである。

金属光沢[編集]

金属には光沢が有る。これは、金属表面で光の反射が起こるからである。より正確に言うと、光をいったん吸収して、その直後に再放出をするので、反射をする。金属によっては、全ての波長を反射せずに波長の一部の光を吸収するので、その結果、金属は色みを帯びて見えることになる。

銀では、ほぼすべての入射光を反射するので、銀白色に見える。(白色とは、可視光の波長が全て揃っている光の状態である。) 銅や金など、色づいて見える金属は、入射光の一部の波長の光を金属が吸収している事による。

その他の性質[編集]

金属は自由電子の働きで熱や電気のをよく伝えるため、導体とも呼ばれる。さらに、単体のケイ素Siや、ゲルマニウムGeのように、導体と絶縁体の中間的な性質をもつものを半導体という。
金属は温度が高くなればなるほど電気抵抗が大きくなる。これは、金属原子の熱運動が激しくなり、自由電子の移動を妨げるためである。また、金属の中には、低温状態で電気抵抗が0になるものがあり、この現象を超伝導という。