高等学校化学I/脂肪族化合物/アルコール
アルコールとエーテル | アルデヒドとケトン | カルボン酸とエステル | 油脂とセッケン |
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脂肪族化合物 | 官能基 | アルコール | エーテル | アルデヒド | ケトン | カルボン酸 | エステル | 油脂 | セッケン |
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アルコールの構造と分類[編集]
炭化水素の水素をヒドロキシ基(-OH)で置換した構造 R-OHのものをアルコール(alcohol)という。メタノールやエタノールなどは、ヒドロキシ基 -OH をもっているので、アルコールである。(なお -OH基の呼び名は、昔は「ヒドロキシル基」と呼ばれている場合もあった。現在は「ヒドロキシ基」に統一されている。)
右表に主なアルコールを示す。
示性式 | 名称 | 構造式 |
---|---|---|
CH3OH | メタノール | ![]() |
C2H5OH | エタノール | ![]() |
アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。
- 価数
- アルコール分子中のヒドロキシ基の個数をそのアルコールの価数という。
分子中にヒドロキシ基が1個のものを一価アルコールという。分子中にヒドロキシ基が2個のものを二価アルコールという。 メタノールもエタノールも、一価アルコールである。
- 級数
- アルコール分子中の、ヒドロキシ基の結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数による分類があり、以下のように第一級、第二級、第三級に分類される。
具体的にいうと、OH基のついた炭素に他の炭素が1つ結合している場合を第一級アルコールという。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が2つ結合している場合を第二級アルコールという。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が3つ結合している場合を第三級アルコールという。
- ※ 化学でいう「第一級アルコール」〜「第三級アルコール」とは、けっして、アルコールの濃度のことではない。また、値段などのことでもない。
二クロム酸カリウム水溶液などの酸化剤により第一級アルコールと第二級アルコールは酸化され、それぞれアルデヒドおよびケトンを生じる。
分類 | 構造 | 化合物の例 | 沸点 |
---|---|---|---|
第一級 アルコール |
![]() |
1-ブタノール 2-メチル-1-プロパノール |
117℃ 118℃ |
第二級 アルコール |
![]() |
![]() 2-ブタノール |
99℃ |
第三級 アルコール |
![]() |
![]() 2-メチル-2-プロパノール |
83℃ |
一般的な性質[編集]
水溶性について[編集]
アルコールはヒドロキシ基をもつが、このヒドロキシ基は親水性のため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。しかし、アルコールでも、炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。
融点や沸点[編集]
アルコールは、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。この理由は、アルコールのヒドロキシ基が分子どうしで水素結合をしているため、というのが定説である。
ナトリウムとの反応[編集]
また、アルコールの水溶液は中性であり、したがって、これから説明する反応は、けっして酸・塩基反応ではない。
アルコールに単体のナトリウムNaを加えると、反応して水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa になる。
- 2R-OH + 2Na → 2R-ONa + H2↑
例えばエタノールにナトリウムを反応させると、水素を発生しながらナトリウムエトキシド(C2H5ONa)を生じる。
- 2C2H5OH + 2Na → 2C2H5ONa + H2↑
炭素数が多いほどアルコールとしての性質が弱くなり、ナトリウムとは穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。
ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。
- R-ONa + H2O → R-OH + NaOH
水溶液は中性[編集]
アルコールの水溶液は中性である。つまり、アルコールのヒドロキシ基は、水溶液中では電離していない。
酸化反応[編集]
- アルコールに適切な酸化剤を用いて酸化させた場合
- 第一級アルコールを酸化させると、まずアルデヒドになり、アルデヒドがさらに酸化すると、カルボン酸になる。
- 第二級アルコールは、酸化されるとケトンになる。
- 第三級アルコールは、酸化されにくい。
脱水反応[編集]
濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。
具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。
なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(しゅくごう、condensation)という。
メタノール[編集]
メタノール(CH3OH)はメチルアルコールとも呼ばれ、無色透明の液体であり、もっとも単純なアルコールである。人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水とは任意の割合で溶け合う。
メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO などを用いて、一酸化炭素 CO と水素 H2 とを反応させる手法が主流である。
- CO + 2H2 → CH3OH
メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている。
- 参考
二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。
- (*)水素原子が分子から奪われる酸化反応である。
エタノール[編集]
エタノール(C2H5OH)は無色透明の液体のアルコールである。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。
- 発酵: C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。
- 合成: CH2=CH2 + H2O → CH3CH2OH
濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。このように2分子から簡単な分子が取り除かれて結合し1つの分子となることを縮合(しゅくごう、condensation)という。
- 2C2H5OH → C2H5-O-C2H5 + H2O
一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。
- C2H5OH → CH2=CH2 + H2O
参考: 多価アルコール[編集]
エチレングリコール[編集]
エチレングリコール(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。
自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。
- (※範囲外) 不凍液として用いられる場合、誤飲を防ぐために着色されている(緑色などに着色されている)。(※ 第一学習社の教科書で、不凍液の着色について紹介している。)
- ウィキペディア日本語版によると、エチレングリコールそのものの色は無色透明。また、エチレングリコールには毒性があるとのこと。
ペットボトルの材質ポリエチレンテレフタラートをつくるための原料にも、エチレングリコールは使われている。(※ くわしくは化学IIで習う。)
エチレングリコールには甘味があるが(※ 文英堂シグマベストで教えている)、しかし毒性があるので、けっして飲んだりしてはいけない。
- ※ エチレングリコールがヒドロキシル基をもつことと、水に溶けることを関連づけて覚えよう(参考書などで、そういう説明をしている)。検定教科書では慎重性を期して、そういう理屈付けはしてないが、覚えやすいので、関連づけよう。
- 範囲外: エチレングリコールの製法
- (※ いちおう第一学習社の教科書に書いてあるが、ほとんどの教科書・参考書で触れられておらず、事実上の高校範囲外。)
エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)(※ 範囲外:) なお、エチレンオキシドは沸点が約10℃なので、常温では気体になりやすい。医学で滅菌用のガスとしてもエチレンオキシドは使われる。(ここまで範囲外)
そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)
つまり、
- エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール
という反応である。
※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。
グリセリン[編集]
1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。