高等学校化学I/脂肪族化合物/アルデヒド
アルコールとエーテル | アルデヒドとケトン | カルボン酸とエステル | 油脂とセッケン |
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脂肪族化合物 | 官能基 | アルコール | エーテル | アルデヒド | ケトン | カルボン酸 | エステル | 油脂 | セッケン |
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カルボニル化合物[編集]
原子団 をカルボニル基(carbonyl group)という。カルボニル基
をもつ化合物のことをカルボニル化合物(carbonyl compound)という。
カルボニル基の少なくとも1個の水素Hがついた結合の化合物をアルデヒド(aldehyde)という。
官能基 -CHO を アルデヒド基という。
また、カルボニル基に2個の炭化水素基が結合した化合物 R -CO- R’ のことをケトンという。ケトンの官能基 -CO- をケトン基という。
カルボニル化合物には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などがある。
アルデヒド[編集]
主なアルデヒドを示す。
示性式 | 名称 | 構造式 |
---|---|---|
HCHO | ホルムアルデヒド | ![]() |
CH3CHO | アセトアルデヒド | ![]() |
ホルムアルデヒドでは、官能基-CHO の結合相手は炭化水素でなく水素 H だが、便宜上(べんぎじょう)、ホルムアルデヒドも含む形で、アルデヒドの一般式を
- アルデヒドの一般式 R-CHO (Rは炭化水素またはH)
のように書く事も多い。(※ 数研出版の教科書が、この書き方。)
さらに慣習的に、但し書き(ただしがき)を省略し、単に
- アルデヒドの一般式 R-CHO
で済ます場合もある。(※ 実教出版の教科書の図表が、この書き方。)
一般的な性質[編集]
アルコールの部分で学んだように、第一級アルコールを酸化するとアルデヒドが得られる。
- 還元性
アルデヒド基には還元性があり、他の物質を還元して自らは酸化されやすい。アルデヒド基 -CHO は酸化されるとカルボキシル基 -COOH となるので、つまりアルデヒドはカルボン酸になりやすい。
-
- (*) 酸素を受け取る酸化反応が起こる。
そのため、アルデヒドは銀鏡反応やフェーリング反応といった還元性の有無を調べる反応により検出することができる。
- 水溶性
分子量の小さいアルデヒドは、水に溶けやすい。
銀鏡反応[編集]
アンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドをくわえて加熱すると、銀イオン Ag+ が還元されて、銀 Ag が析出する。これを銀鏡反応(ぎんきょうはんのう、silver mirror test)といい、アルデヒドのような還元性のある物質を検出することに利用される。 試験管に銀が付着して鏡のようになることから、「銀鏡」という名前が付いている。
- 参考
銀鏡反応は、詳しくは、以下のような反応である。 このアンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドなどの還元性のある物質を加え、湯浴で加熱すると、ジアンミン銀(Ⅰ)イオンが還元されて単体の銀が析出し、試験管の壁に付着する。アルデヒド自身は酸化されてカルボン酸となる。
- RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 3OH- → RCOOH + 4NH3 + H2O + 2Ag↓
フェーリング反応[編集]
フェーリング液(Fehling′s solution)と呼ばれる液体にアルデヒドを加えて加熱すると、フェーリング液中の銅(II)イオンCu2+が還元されて、酸化銅(I) Cu2Oの赤色沈殿が生成することから、アルデヒドが還元性をもつことを確認することができる。この反応をフェーリング反応という。なお、アルデヒド自身はこのフェーリング反応で酸化されてカルボン酸となる。
- 参考
- フェーリング液とは、硫酸銅(Ⅱ)、酒石酸ナトリウムカリウムと、水酸化ナトリウムの混合水溶液である。硫酸銅(Ⅱ)水溶液をA液、酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液をB液として、A液とB液とを使用直前に混合して調整する。これは、フェーリング液が不安定で、長期間保存することができないためである。A液は硫酸銅(Ⅱ)水溶液なので青色をしているが、これにB液を加え混合したフェーリング液は、銅(Ⅱ)の錯イオンを生じて深青色の水溶液となる。
ホルムアルデヒド[編集]
ホルムアルデヒド(HCHO)はもっとも単純な構造のアルデヒドであり、水に溶けやすい無色刺激臭の気体である。いわゆる「ホルマリン」(formalin)はホルムアルデヒドの約37%水溶液であり、動物標本の保存溶液や、消毒剤として用いられる。
(※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。)
ホルムアルデヒドはメタノールを酸化することで得られる。銅線を加熱して酸化銅(Ⅱ)とし、これを試験管に入れたメタノールに近づけると、メタノールが酸化されてホルムアルデヒドを生じる。
- CH3OH + CuO → HCHO + H2O + Cu
なお、銅線を加熱して酸化銅にする方程式は
- 2Cu2 + O → 2CuO
なので、これとまとめて、反応式を
- 2CH3OH + O2 → 2HCHO + 2H2O
と書く場合もある。
なお、ホルムアルデヒドがさらに酸化されると、ギ酸になる。ギ酸も条件によってはさらに酸化されて二酸化炭素と水を生じる。
- ※ 毒性については、検定教科書によって記述が分かれる。実教出版はホルムアルデヒドに毒性があるとしてるが、東京書籍は記述してない。
- (※ 範囲外: )世間一般的には、ホルムアルデヒドは健康に悪いと考えられている。かつて建築業界で、建築材の接着剤などから発生するホルムアルデヒド蒸気による健康被害として『シックハウス症候群』が社会問題になったことがあるくらいである。(※ チャート式に、シックハウス症候群について書いてある。)
アセトアルデヒド[編集]
アセトアルデヒド(CH3CHO)は分子中に炭素が2つあるアルデヒドであり、水や有機溶媒によく溶ける。
(※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。)
実験室ではアセトアルデヒドは、エタノールを酸化することで得られる。エタノールに酸化剤として硫酸酸性の二クロム酸カリウムK2Cr2O7 水溶液を加え加熱すると、アセトアルデヒドが生じる。
- 3C2H5OH + Cr2O72- + 8H+ → 3CH3CHO + 2Cr3+ + 7H2O
また、工業的にはアセトアルデヒドの製法は、塩化パラジウム PdCl2 と塩化銅 CuCl2 を触媒に用いて、酸素によってエチレンを酸化することでも得られる。
- 2CH2=CH2 + O2 → 2CH3CHO
アセトアルデヒドは、酢酸の原料や防腐剤として用いられる。
アセトアルデヒドがさらに酸化されると、酢酸になる。
- CH3CHO → CH3COOH
飲酒とアセトアルデヒド[編集]
(※ 高校化学の範囲内。第一学習社の検定教科書に記述あり。)
日本酒や洋酒など、市販のアルコール飲料は、エタノールの水溶液である。
ヒトが酒(エタノール水溶液)を飲むと、おもに腸でエタノールが吸収され、血管を通って肝臓に運ばれ、そして肝臓で酵素によってアセトアルデヒド CH3CHO に分解される。さらに別の酵素によって、酢酸 CH3COOH に変化する。そして最終的に、二酸化炭素と水に分解される。
※ 範囲外: カルボニル基の極性[編集]
(※ 範囲外:) 検定教科書には書かれてないが、カルボニル基には極性があり、Cがδ+の電荷を帯びており、Oがδーの電荷をおびている。
二重結合を介して、
- Cδ+ = Oδー
のように分極している。
また、カルボニル基をもつ簡単な分子は水に溶けやすい理由として、おそらく、カルボニル基の酸素原子が、溶液の水素分子と水素結合をするためであろう、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学 新訂版』、新井貞夫、185ページ) つまり、C=Oは親水基であろうと考えられている。(※ 参考文献: 『チャート式シリーズ 新化学I』平成19年第5刷)
(以上、教科書の範囲外。)
備考[編集]
- (※ 備考: ) アルデヒド基のIUPAC正式名は「ホルミル基」である。だが、日本の一般の産業では、「ホルミル基」の呼び名は、まったく普及していない。一般の産業では -CHO のことは「アルデヒド基」で呼ぶのが慣習である。ほとんどの検定教科書(高校『化学』科目)も、「ホルミル基」の名前は紹介してない教科書ばかりである。いちぶの検定教科書は(※ 実教出版)、脚注などで補足的に「ホルミル基」の名前を紹介する書籍もあるが、その(実教の)教科書ですら本文のほとんどでは -CHO では「アルデヒド基」で呼んでいる。