高校化学 芳香族化合物
ベンゼン
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ベンゼン は、6個の炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子が1個ずつ結合した環状構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
ベンゼンの構造式は、炭素原子間の結合が二重結合と単結合を交互にくり返すように書かれる。しかし、実際には、炭素原子間の6本の結合はすべて等価であり、結合の長さはすべて0.140 nm である。これは、単結合(0.154 nm)と二重結合(0.134 nm)の中間の値であり、ベンゼンの炭素原子間の結合は、単結合と二重結合の中間の性質をもつ。実際には結合が環全体に広がっていると考えられている。
ベンゼンの不飽和度は 4 である。
この特徴的な環構造をベンゼン環という。ベンゼン環の構造は
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
製法
[編集]アセチレン を赤熱した鉄に接触させると、3分子が重合してベンゼンが生じる。
工業的には、ベンゼンは、石油(ナフサ)の接触改質などによって得られる。
性質
[編集]- 特有の臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点 80 ℃、融点 5.5 ℃)である。
- 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
- 引火しやすい。炭素の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
- 人体には有毒で発がん性がある。
ベンゼンの置換反応
[編集]ベンゼンは、ベンゼン環が安定であるため、アルケンと比べて付加反応を起こしにくい。一方、置換反応では環の構造が保たれるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。
スルホン化
[編集]ベンゼンスルホン酸は強酸である。また、親水性のスルホ基をもつため、水に溶ける。
ニトロ化
[編集]ニトロベンゼンは、無色〜淡黄色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度 )。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
ニトロ基の数が多くなると、爆発性をもつようになる。ピクリン酸やトリニトロトルエン(TNT)などが例である。なお、ニトログリセリンやニトロセルロースも爆発性をもつが、これらは硝酸エステルであり、ニトロ化合物ではない。
ハロゲン化
[編集] ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。たとえば、鉄粉または塩化鉄(III)を触媒として塩素を反応させると、水素原子を1個置換してクロロベンゼン が生じる。
p-ジクロロベンゼン
- クロロベンゼンにさらに塩素を反応させると、ジクロロベンゼンが生じる。このうち、パラジクロロベンゼン(p-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点 54 ℃)であり、防虫剤として用いられる。
アセチル化
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ベンゼンと塩化アセチル を、粉末状の塩化アルミニウム を触媒に反応させると、ベンゼン環の水素原子が1個アセチル基 に置換され、アセトフェノン が生じる。
アルキル化
[編集]ベンゼンと塩化アルキル を、塩化アルミニウムを触媒に反応させると、置換反応が起こる。
たとえば、クロロメタン を反応させると、水素原子が1個置換されてトルエン が生じる。
トルエンは有機溶媒としてよく用いられるが、シンナーなどの成分でもあり、蒸気を吸い込むと中毒を起こすおそれがある。
ここで扱った5つが、ベンゼンのおもな置換反応である。
| 例題1 ニトロベンゼンの収率 |
|
ベンゼン 7.8 g を混酸でニトロ化したところ、ニトロベンゼンが収率 80 %で得られた。得られたニトロベンゼンは何 g か。原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16 とする。 |
ベンゼン のモル質量は 78 g/mol であるから、7.8 g は である。 より、理論上は、ニトロベンゼンが 0.10 mol 生じる。ニトロベンゼン のモル質量は 123 g/mol であるから、収率 80 %のとき、 である。
答: 9.8 g
| 反応名 | 反応剤 | 置換 |
|---|---|---|
| スルホン化 | 濃 | → (スルホ基) |
| ニトロ化 | 濃 (触媒: 濃 ) |
→ (ニトロ基) |
| ハロゲン化 (塩素の場合) |
(触媒: ) |
→ (クロロ基) |
| アセチル化 | (触媒: ) |
→ (アセチル基) |
| アルキル化 | (触媒: ) |
→ (アルキル基) |
ベンゼンの付加反応
[編集]ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温・高圧下でニッケルなどの触媒を用いると、水素が付加してシクロヘキサン を生じる。
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサン を生じる。
1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサンはベンゼンヘキサクロリド(BHC)とも呼ばれ、かつては殺虫剤として使われていた。
芳香族炭化水素
[編集]| 名称 | 構造式 |
|---|---|
| トルエン | |
| スチレン | |
| ナフタレン | |
| アントラセン | |
ベンゼン環をもつ炭化水素を
これらの化合物は芳香をもつものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、燃えると、すすを多く出す。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。

o-、m-、p- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む[1]。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置をオルト位、1つ空いて離れた位置をメタ位、ベンゼン環を挟んで正反対の位置をパラ位と呼び、それぞれ記号o-,m-,p-をつけて異性体を区別する。
| 名称 | 融点 / ℃ | 沸点 / ℃ |
|---|---|---|
| ベンゼン | 6 | 80 |
| トルエン | -95 | 111 |
| スチレン | -31 | 145 |
| o-キシレン | -25 | 144 |
| m-キシレン | -48 | 139 |
| p-キシレン | 13 | 138 |
| ナフタレン | 81 | 218 |
| アントラセン | 216 | 342 |
おもな芳香族化合物
[編集]ベンゼン環に置換基が1個結合した化合物には、次のようなものがある。
| 名称 | 示性式 | 置換基 |
|---|---|---|
| トルエン | メチル基 | |
| スチレン | ビニル基 | |
| ニトロベンゼン | ニトロ基 | |
| ベンゼンスルホン酸 | スルホ基 | |
| フェノール | ヒドロキシ基 | |
| ベンジルアルコール | ヒドロキシメチル基 | |
| アニリン | アミノ基 | |
| ベンズアルデヒド | ホルミル基 | |
| 安息香酸 | カルボキシ基 |
側鎖の酸化反応
[編集]側鎖(ベンゼン環に結合している炭素鎖)は、ベンゼン環に直接結合した炭素原子に水素原子が結合していれば、強力な酸化剤によりすべてカルボキシ基 まで酸化される。
例えば、トルエン・エチルベンゼン・スチレンは硫酸酸性条件下で過マンガン酸カリウムと反応させると、芳香族カルボン酸である安息香酸を生じる。
同様に、o-キシレンはフタル酸、m-キシレンはイソフタル酸、p-キシレンはテレフタル酸を生じる。
側鎖の炭素原子の数によらず、1つの側鎖は、ベンゼン環に直接結合した炭素原子を含む1個の になる。したがって、酸化で生じるカルボン酸のカルボキシ基の数は、もとの化合物の側鎖の数と等しい。
| 例題2 C8H10 の異性体 |
|
分子式 で表され、ベンゼン環をもつ化合物には、何種類の構造異性体があるか。また、そのうち、過マンガン酸カリウムで酸化すると安息香酸を生じるものはどれか。 |
からベンゼン環 または を除くと、残りは炭素原子 2 個である。側鎖が1つの場合はエチルベンゼン 、側鎖が2つ(メチル基2個)の場合は o-、m-、p-キシレンであるから、構造異性体は4種類である。側鎖が1つのエチルベンゼンだけが、酸化されて安息香酸を生じる。キシレンは、カルボキシ基を2個もつフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を生じる。
答: 4種類、エチルベンゼン
トルエンのニトロ化
[編集]混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位や p-位がニトロ化されて、ニトロトルエン が生じる。
-
o-ニトロトルエン
-
p-ニトロトルエン
-
2,4,6-トリニトロトルエン
さらにニトロ化すると、2,4,6-トリニトロトルエン(略称: TNT)が生じる。TNT は爆薬として用いられる。
なお、「2,4,6」とは、トリニトロトルエンの図で、 のついている炭素原子を1番として、右回りでも左回りでも、2番目、4番目、6番目の位置に があることを表す。
フェノール類
[編集]| 名称 | 構造式 |
|---|---|
| フェノール | |
| o-クレゾール | |
| m-クレゾール | |
| p-クレゾール |
ベンゼン環にヒドロキシ基 が直接結合したものをフェノール類と呼ぶ。ベンゼン環に直接結合したヒドロキシ基をフェノール性ヒドロキシ基、ベンゼン環以外の炭素原子に結合したヒドロキシ基をアルコール性ヒドロキシ基という。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。
構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。

フェノール類のヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類は、炭酸よりも弱い酸である。
フェノール類は水に溶けにくい(フェノールは少し溶ける)が、水酸化ナトリウムなどの強塩基の水溶液と反応して塩となり、水に溶ける。
ナトリウムフェノキシドの水溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素を通じると、フェノールが遊離する。
- ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
検出反応
[編集]フェノール類の水溶液に塩化鉄(III) 水溶液を加えると青紫〜赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。
| 例題3 C7H8O の異性体 |
|
分子式 で表され、ベンゼン環をもつ化合物には、何種類の構造異性体があるか。また、そのうち、金属ナトリウムと反応して水素を発生するものと、塩化鉄(III)水溶液で呈色するものは、それぞれ何種類か。 |
構造異性体は、ベンジルアルコール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、アニソール(メチルフェニルエーテル )の5種類である。ヒドロキシ基をもつ、ベンジルアルコールと3種類のクレゾールは、金属ナトリウムと反応して水素を発生する(4種類)。エーテルであるアニソールは、反応しない。塩化鉄(III)水溶液で呈色するのは、フェノール類である3種類のクレゾールである(3種類)。
答: 5種類、4種類、3種類
フェノール
[編集]フェノールはベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造である。
特有の匂いをもつ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。

フェノールの合成
[編集]ベンゼンに直接ヒドロキシ基を置換することはできないが、フェノールはベンゼンを原料としてさまざまな経路により合成することができる。中でも、工業的にはクメン法が重要である。
- クメン法
- ベンゼンとプロペン(プロピレン)を、酸触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
- クメンを酸素(空気)で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。(ペルオキシドは「過酸化物」の意)
- 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
ベンゼンもプロペンも石油から得られ、希硫酸も石油の脱硫で得た硫黄から接触法で安く合成できるので、クメン法は、ハーバー・ボッシュ法と同じく、安く大量生産できる工業的製法の成功例の一つである。また、副産物のアセトンも有機溶媒などとして用いられるので、無駄にならない。
なお、クメンヒドロペルオキシドがフェノールとアセトンに分解する過程では、ベンゼン環が酸素原子に結合する位置が移る転位反応が起こる。
3つの反応式をまとめると、次のようになる。ベンゼン 1 mol から、フェノールとアセトンが 1 mol ずつ生じる。
| 例題4 クメン法の量的関係 |
|
クメン法でフェノールを 47 kg つくるとき、同時に生じるアセトンは何 kg か。また、原料のベンゼンは何 kg 必要か。ただし、反応はすべて完全に進むものとし、原子量は H = 1.0、C = 12、O = 16 とする。 |
フェノール のモル質量は 94 g/mol であるから、47 kg は である。上のまとめの式より、アセトン (モル質量 58 g/mol)とベンゼン (モル質量 78 g/mol)も、それぞれ である。したがって、アセトンは 、ベンゼンは である。
答: アセトン 29 kg、ベンゼン 39 kg
他にも、ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解や、クロロベンゼンからフェノールを合成する方法も存在する。
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では、水酸化ナトリウムを 300 ℃前後で融解させるので、アルカリ融解ともいわれる。
また、フェノールはコールタール(石炭の乾留から生じる液体)の分留によっても得ることができる。
フェノールの反応
[編集]フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。

また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。ピクリン酸は、塩化鉄(III)の呈色反応を示さない、水に可溶で電離する、強酸であると、フェノール類としては特異な性質をもっている。
なお、「2,4,6」とは、フェノールの図で、 のついている炭素原子を1番として、右回りでも左回りでも、2番目、4番目、6番目の位置に置換基があることを表す。ピクリン酸は 2,4,6-トリニトロフェノール、トリブロモフェノールは 2,4,6-トリブロモフェノールである。
フェノールと臭素水の反応は、白色沈殿が生じるので、フェノールの検出にも用いられる。
| 例題5 2,4,6-トリブロモフェノールの生成量 |
|
フェノール 0.94 g を含む水溶液に、十分な量の臭素水を加えたところ、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿が生じた。反応が完全に進んだとすると、沈殿は何 g 生じるか。原子量は H = 1.0、C = 12、O = 16、Br = 80 とする。 |
フェノール のモル質量は 94 g/mol であるから、0.94 g は である。反応式より、2,4,6-トリブロモフェノール (モル質量 331 g/mol)も 生じるから、その質量は である。
答: 3.3 g
芳香族カルボン酸
[編集]ベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した化合物を芳香族カルボン酸という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して塩を生じ、水に溶ける。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
安息香酸
[編集]
安息香酸は、トルエンの酸化により得られる。トルエンを過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱すると、側鎖の が酸化されて、安息香酸が得られる。塩基性の水溶液中では、安息香酸ナトリウムまたはカリウムが生じるので、酸を加えて安息香酸を遊離させる。
トルエンから安息香酸までの反応の際、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 が酸化されてホルミル基 となり、ベンズアルデヒド が生じる。ベンズアルデヒドは無色で芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
フタル酸・テレフタル酸・イソフタル酸
[編集]フタル酸 はベンゼン環に2個のカルボキシ基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2個のカルボキシ基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
フタル酸は、工業的には、o-キシレンの酸化によって得られる。
なお、酸化バナジウム(V)を触媒としてナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
テレフタル酸はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2個のカルボキシ基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシ基が離れているため、加熱しても分子内の脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となる PET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸は、工業的には、p-キシレンの酸化によって得られる。
イソフタル酸もフタル酸の異性体であり、互いにメタ位に2個のカルボキシ基が存在する。イソフタル酸は、m(メタ)-キシレンの酸化によって得られる。
サリチル酸
[編集]サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシ基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させると、サリチル酸ナトリウムが生じる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質をもつと同時に、フェノール類としての性質ももつ。
サリチル酸の誘導体は、古くから、柳の樹皮が解熱や鎮痛に用いられてきたことと関係が深い。しかし、サリチル酸は、皮膚や粘膜を刺激する作用があり、内服すると胃が荒れる副作用がある。現在では、この作用を利用して、ウオノメなどの外用の治療薬として用いられる。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基 での置換反応)すると、アセチルサリチル酸となる。アセチルサリチル酸はアスピリンとも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
サリチル酸のカルボキシ基をメタノールでエステル化すると、サリチル酸メチルとなる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
| 性質等 | アセチルサリチル酸 | サリチル酸メチル |
|---|---|---|
| 形状 | 無色の結晶(白色粉末) | 芳香性無色液体(油性) |
| 水への溶解性 | 微溶 | 難溶 |
| による呈色反応 (フェノール性ヒドロキシ基の検出) |
示さない | 赤紫色に呈色 |
| 水溶液による弱酸遊離反応 (カルボキシ基の検出) |
を発生 | 示さない |
| 主な用途 | 解熱鎮痛剤 | 外用消炎剤(湿布) |
アセチルサリチル酸の結晶にサリチル酸が残っているかどうかは、塩化鉄(III)水溶液を加えて調べることができる。赤紫色に呈色すれば、フェノール性ヒドロキシ基をもつサリチル酸が残っている。
| 例題6 アセチルサリチル酸の収率 |
|
サリチル酸 6.90 g に無水酢酸を十分に作用させたところ、アセチルサリチル酸が 7.20 g 得られた。収率は何 %か。原子量は H = 1.0、C = 12、O = 16 とする。 |
サリチル酸 のモル質量は 138 g/mol であるから、6.90 g は である。反応式より、アセチルサリチル酸 (モル質量 180 g/mol)は、理論上 0.0500 mol、すなわち 生じる。したがって、収率は である。
答: 80.0 %
芳香族アミン
[編集]アンモニア の水素原子を炭化水素基で置換した化合物をアミン(amine)といい、ベンゼン環にアミノ基 が直接結合した化合物を芳香族アミンという。
芳香族アミンは弱塩基性であり、アンモニアに化学的性質が似ている。
アニリン
[編集]アニリンはベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリン は無色油状の液体(沸点 185 ℃)で、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、水より重いので、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 を生じて、水に溶ける。
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリンの水溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、次亜塩素酸イオンにより酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これはアニリンブラックと呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。なお、一般にアミン・フェノールは酸化すると黒系統の色になることが知られている。
- 製法
アニリンは、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。
この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するので、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
アセトアニリド
[編集]アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、アセトアニリド を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
この反応で生じた結合 をアミド結合という。アミド結合は、タンパク質を構成する結合としても重要である。
アゾ化合物
[編集]アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを5℃以下に冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液を少しずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム を生じる。
このように、ジアゾニオ基 を含む化合物をジアゾニウム化合物と呼び、ジアゾニウム塩を生じる反応をジアゾ化と呼ぶ。亜硝酸ナトリウム は、塩酸と反応して亜硝酸 を生じ、これがアニリンと反応する。
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、水溶液中で温度が上がると、フェノールと窒素に分解してしまう。そのため、5 ℃以下に冷却して反応を進行させる必要がある。
なお、塩化ベンゼンジアゾニウムの水溶液を加熱して分解させる反応は、フェノールの合成法の一つである。
ジアゾカップリング
[編集]分子中にアゾ基 をもつ物質をアゾ化合物と呼ぶ。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、
アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。
アゾ化合物の利用
[編集]芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料(アゾ染料)や顔料として用いられる。

また、メチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中の pH によって色が変わるので、pH 指示薬として用いられている。
芳香族化合物の分離
[編集]芳香族化合物の混合物をジエチルエーテルに溶かし、酸や塩基の水溶液を加えて、塩にして水層に移すことにより、分離することができる。
| 化合物 | 加える水溶液 | 水層に移る理由 |
|---|---|---|
| 芳香族アミン(アニリンなど) | 塩酸 | 塩(アニリン塩酸塩など)になる |
| 芳香族カルボン酸(安息香酸など) | 炭酸水素ナトリウム水溶液 | ナトリウム塩になる( が発生する) |
| フェノール類 | 水酸化ナトリウム水溶液 | ナトリウムフェノキシドなどの塩になる(中和反応) |
芳香族カルボン酸は炭酸より強い酸であるから、炭酸水素ナトリウムと反応して塩になるが、フェノール類は炭酸より弱い酸であるから、炭酸水素ナトリウムとは反応しない。
水層に移った塩は、もとより強い酸や塩基を加えると、もとの化合物にもどる。たとえば、アニリン塩酸塩の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えるとアニリンが遊離し、安息香酸ナトリウムやナトリウムフェノキシドの水溶液に塩酸を加えると、それぞれ安息香酸やフェノールが遊離する。遊離した化合物は、再びジエチルエーテルを加えて抽出することができる。
| 例題7 芳香族化合物の分離 |
|
アニリン、フェノール、安息香酸、ニトロベンゼンを含むジエチルエーテル溶液がある。これを分液漏斗に入れ、次の操作を順に行った。水層 A〜C とエーテル層 D には、それぞれどの化合物が(塩として)含まれるか。
|
- 塩基性のアニリンだけが塩酸と反応し、アニリン塩酸塩となって水層 A に移る。
- 炭酸より強い酸である安息香酸だけが炭酸水素ナトリウムと反応し、安息香酸ナトリウムとなって水層 B に移る。フェノールは炭酸より弱い酸であるから、反応しない。
- フェノールが水酸化ナトリウムと反応し、ナトリウムフェノキシドとなって水層 C に移る。
- 酸とも塩基とも反応しない中性のニトロベンゼンは、エーテル層 D に残る。
答: A アニリン(アニリン塩酸塩)、B 安息香酸(安息香酸ナトリウム)、C フェノール(ナトリウムフェノキシド)、D ニトロベンゼン
なお、操作 2 と 3 の順序を逆にすると、水酸化ナトリウム水溶液を加えた段階で、安息香酸とフェノールがともに水層に移り、分離できない。
芳香族化合物の検出反応
[編集]| 試薬・操作 | 反応する化合物 | 変化 |
|---|---|---|
| 塩化鉄(III)水溶液 | フェノール類(フェノール、クレゾール、サリチル酸など) | 青紫〜赤紫色に呈色する |
| 臭素水 | フェノール | 2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる |
| さらし粉水溶液 | アニリン | 赤紫色に呈色する |
| 硫酸酸性の二クロム酸カリウム水溶液 | アニリン | アニリンブラック(黒色)を生じる |
| 炭酸水素ナトリウム水溶液 | カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など) | を発生して溶ける |
| ジアゾ化したのち、ナトリウムフェノキシド水溶液 | アニリン | 橙赤色のアゾ化合物を生じる |
発展:ベンゼン環の共鳴
[編集]

ベンゼンの二置換体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、ベンゼン環の炭素原子間の結合は、すべて、単結合と二重結合の中間の状態になっているからである。
このように、1つの構造式では表せない分子を、複数の構造式の重ね合わせとして表す考え方を共鳴という。
ベンゼン環が共鳴しているということは、価電子(π電子)が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環全体に広がって存在しているということである。このような現象を、電子の非局在化という。この性質により、ベンゼン環は安定性が高い。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、

でベンゼン環を表記する場合もある。
共鳴している構造式は、下図のように両矢印でつないで書き、[ ]で囲って表す。

発展: ベンゼン環の置換基の配向性
[編集]| オルトパラ配向性 | 、、、、、、 |
|---|---|
| メタ配向性 | 、、、、 |
オルト・パラ配向性
[編集]
ベンゼンの一置換体は、置換基の種類によって、オルト位とパラ位での置換を起こしやすいものと、メタ位での置換を起こしやすいものがある。
たとえば、トルエンをニトロ化すると、o-ニトロトルエンや p-ニトロトルエンが多く生成される。このようにオルト位とパラ位での置換反応が起きやすい置換基をオルト・パラ配向性という。
これは、オルト・パラ配向性の置換基がベンゼン環に電子を供与することによって、オルト位
とパラ位で反応が起きやすくなるためである。ただし、ハロゲンは、ベンゼン環の反応性を下げるが、オルト・パラ配向性を示す。
メタ配向性
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メタ配向性の置換基のベンゼン一置換体は、オルト位とパラ位での置換反応を起こしにくいため、メタ位での置換反応を起こしやすくなる。
- メタ配向性の置換基は、ベンゼン環の電子を吸引し、反応が起きにくくなる。そのため、相対的にメタ位での置換反応が多くなる。
- ^ たとえば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。


