高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族炭化水素

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芳香族化合物 ベンゼン 芳香族炭化水素 フェノール類 芳香族カルボン酸 アニリンとアゾ化合物

芳香族炭化水素[編集]

名称 構造式
トルエン
C6H5CH3
トルエン
スチレン スチレン
ナフタレン
C10H8

 ナフタレン 
 アントラセン 
C14H10

 アントラセン 

ベンゼン環をもつ炭化水素を芳香族炭化水素(ほうこうぞく たんかすいそ、aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換したトルエン(toluene、化学式:C6H5CH3)やキシレンや、ベンゼンが2個結合したナフタレン(naphthalene、化学式:C10H8)、などがある。

おもな芳香族炭化水素を右表に示す。

これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。

キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。

キシレンの異性体

「o-キシレン」は「オルトキシレン」と読み、「m-キシレン」は「メタキシレン」と読み、「p-キシレン」は「パラキシレン」と読む。

このように2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置をオルト位、1つ空いて離れた位置をメタ位、ベンゼン環を挟んで正反対の位置をパラ位と呼び、それぞれ記号o-(オルト)、m-(メタ)、p-(パラ)をつけて異性体を区別する。


名称 融点[℃] 沸点[℃]
ベンゼン 6 80
トルエン -95 111
スチレン -31 145
o-キシレン -25 144
m-キシレン -48 139
p-キシレン 13 138
ナフタレン 81 218
アントラセン 216 342


ベンゼンの反応[編集]

ベンゼンの置換反応[編集]

ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりも付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンの水素原子は置換反応を起こしやすい。

  • スルホン化(スルホ基での置換反応)
濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO3H に置換され、ベンゼンスルホン酸 ( C6H5SO3H ) を生じる。
ベンゼンスルホン酸の合成式

このように、スルホ基で置換される現象をスルホン化(sulfonation)という。

ベンゼンスルホン酸は強酸である。


  • ニトロ化(ニトロ基での置換反応)
濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸(読み:「こんさん」) )にベンゼンを加え加熱すると、ニトロベンゼン ( C6H5NO2 ) を生じる。
ニトロベンゼンの合成式

このような反応をニトロ化(nitration)という。

ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm3)。

ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。


  • ハロゲン化(ハロゲン原子での置換反応)
p-ジクロロベンゼン
ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換してクロロベンゼン ( C6H5Cl ) が生じる。
クロロベンゼンの生成
クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(p-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。

一般に、ハロゲン化合物ができる現象をハロゲン化(halogenation)という。ベンゼンの、ハロゲンによる置換も、ハロゲン化の一例である。

ベンゼンの付加反応[編集]

ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C6H12 ) を生じる。

ベンゼンの水素付加反応


また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C6H6Cl6 ) を生じる。

ベンゼンの塩素付加反応

トルエンのニトロ化[編集]

混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C6H4(CH3)NO2 が生じる。

さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。

ベンゼンの発見の歴史[編集]

ケクレ

ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。

その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C6H6 である事が1834年に分かった。

しかし、当時はベンゼンが6角形である事が気づかれておらず、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。

さて、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。 ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させたが、ベンゼンの構造がわからず悩んでいた。

そして、ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。

そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。

ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。

この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。

発展: ベンゼン環の共鳴[編集]

共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう。)。
π電子の説明図、など
(図中の文字はドイツ語)
下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。

ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。

なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。

このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を共鳴(きょうめい)という。

ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。

(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)

つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。


なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。

ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、

ベンゼン環

でベンゼン環を表記する場合もある。


o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。

O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。


あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を ベンゼン環 で表して共鳴を表現してもよい。

O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。


また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。