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高等学校古文/形容詞・形容動詞

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

形容詞

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用言のうち、事物の状態・性質、人の感情を表し、基本形の語尾が「-し」(あるいは濁音化した「-じ」)であるものを形容詞という。


形容詞 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
憂し (く) けれ
から かり かる かれ

このような活用をク活用という。

ク活用の形容詞には「(かた)し」「(さや)けし」「無し」などがある。


形容詞 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
悪し (しく) しく しき しけれ
しから しかり しかる しかれ

このような活用をシク活用という。

シク活用の形容詞には「(あや)し」「いみじ」「悲し」などがある。


上代には未然形・已然形の活用語尾として「-(し)け」も用いられた。

表の一段目の活用を本活用、二段目の活用を補助活用(カリ活用)という。

補助活用は、上代には本活用の連用形にラ変動詞「あり」のついた「-(し)くある」「-(し)くあり」「-(し)くある」「-(し)くあれ」という形であり、時代が進むにつれ縮約してこのような形となった。形容詞の用法を補う性質が強く、主に助動詞を伴う場合に用いる。

形容詞の仮定条件用法「-(し)くは」は、『形容詞連用形+係助詞「は」』説と『形容詞未然形+接続助詞「ば」の清音化』説がある。このページでは前者を採用しているため、活用表の未然形の欄を括弧にした。

形容詞「(おほ)し」は、補助活用にも終止形・已然形が存在する。また、形容詞「同じ」の連体形は、漢文訓読では「同じき」、和文では「同じ」と使い分けられていた。

形容動詞

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用言のうち、事物の状態・性質、人の感情を表し、基本形の語尾が「-なり」「-たり」であるものを形容動詞という。

形容詞 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
あはれなり あはれ なら なり なり なる なれ (なれ)

このような活用をナリ活用という。

ナリ活用の形容動詞には「清らなり」「愚かなり」「らうたげなり」などがある。


形容詞 語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
儼然たり 儼然 たら たり たり たる (たれ) (たれ)

このような活用をタリ活用という。

タリ活用の形容動詞には「荒涼たり」「堂々たり」「断乎たり」などがある。


形容動詞は形容詞と同様、上代には『名詞+助詞「に」+ラ変動詞「あり」』『名詞+助詞「と」+ラ変動詞「あり」』という形であり、時代を経るにつれ縮約したものである。上代は縮約していない語が多く、形容動詞は非常に少なかった。平安時代に形容詞が不足したことにより、縮約が進んだ。

「-か」「-やか」「-らか」「-げ」などの接尾辞を伴った単語はナリ活用形容動詞の語幹になりうる。((ほの)(たを)やか (うら)らか をかしげ etc.)

タリ活用は漢語を語幹とし、主に漢文訓読や和漢混淆文で用いられる。

タリ活用の語幹になる漢語は、同字反復(朗々 洋々 悠々 etc.)、「-然」で終わるもの(粛然 凄然 平然 etc.)、「-乎」で終わるもの(茫乎 確乎 合乎 etc.)が多い。

ナリ活用の命令形、タリ活用の未然形・已然形・命令形は用例が少ない。

形容動詞が用言や助詞に連なる場合、連用形として非縮約形から「あり」を抜いた「-に」「-と」が用いられる。


語幹用法

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ク活用形容詞・形容動詞の語幹は独立して用いられる場合がある。シク活用形容詞は終止形に同様の用法を持つ。

形容動詞は他の品詞に比べて語幹の独立性が強く、辞書の見出し語でも語幹で示されるのが一般的である。

(補足:語幹の強い独立性から、形容動詞を独立した品詞と見做さない学説もある。)

感動表現

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単独または感動詞を伴って感動的な表現になり、文を言い切る。

  • いで、あなや。(源氏物語・若紫)
    • まあ、なんて子供っぽいことを
  • あな、いみじ
    • まあ、大変。(枕草子・第七段)

連体修飾語化

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格助詞「の」を伴って連体修飾語となる。

  • をかしの御髪や。(源氏物語・若紫)
    • 美しい髪だこと。
  • おぼろけの願によりてにやあらむ。(土佐日記・1/21)
    • 並々ならぬ祈願のおかげであろうか。

転成

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品詞が変わることを転成という。

接尾辞「-さ」「-み」がついて名詞となる。

  • 深さ
  • 嬉しさ
  • 悲しみ
  • 楽しみ


接尾辞「-がる」がついて動詞となる。

  • 寒がる
  • おもしろがる
  • あはれがる


先ほど紹介した接尾辞「げ」による形容動詞化も転成の一種である。

ク語法・ミ語法

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用言の連体形に形式名詞「あく」がついて名詞化する用法をク語法という。

「あく」は動詞「あくがる」の「あく」であり、抽象的な「もの・こと」を意味する。「あく」単独で用いられる用法は奈良時代には既に消滅していたとみられる。非縮約形は絶滅しており、平安以降は一部の語が化石化して残る。

  • 恋しけく
  • 悲しけく
  • 安けく


『体現+(接続助詞「を」+)形容詞の語幹+接尾辞「み」』の形で「(体言)が(形容詞)ので〜」という原因・目的を表す連体修飾語となる用法をミ語法という。

平安以降は和歌専用の文法として残る。

  • 瀬をはやみ(小倉百人一首・第九十九番)
    • 川の流れが速いので
  • 深み(新古今和歌集・巻一・第二十四番)