高等学校商業 経済活動と法/売買の売り主と買い主の責任
同時履行の抗弁権
[編集]売買のような双務契約で、もし片方だけが債務を履行して、もう片方の当事者が債務をまったく履行しなければ、不公平な結果になってしまう。なので、双務契約では、なるべく双方が同時に契約を履行するのが望ましい。
このような事情もあり、民法では、相手が契約を履行しないかぎり、自分も契約を履行しなくてもいい、というような同時履行の抗弁権が認められている。(民533) (※ 同時履行の抗弁権が必要な理由の事情についての参考文献: 川井健『民法入門』、有斐閣、第7版、2754ページ。)(※ 参考文献2: 東京法令出版の検定教科書。)
売り主からみれば、買い主が代金を支払わないかぎり、品物を渡さない事も、「同時履行の抗弁権」によって主張できる。 同様に、買い主からみれば、売り主が品物を渡さないかぎり、代金を支払わないという主張も、「同時履行の抗弁権」によって主張できる。
ただし、当事者どうしの特約などによって、一方が先に債務を履行することに合意している場合には(たとえば、売り主が品物を引渡したあとに買い主が代金を支払うというような特約をしていれば)、同時履行の抗弁権は存在しない。(民533但書)
危険負担
[編集]たとえば、売買のような双務契約で、一方の債務の履行中に、売り主・買い主の当事者のどちらにも責任の無いような事情で、品物が消失・破損などをしたような場合、買い主は代金を支払う必要があるのか、あるいは、売り主と買い主のどちらが損害賠償などの責任を負うのか、などの問題がある。
このような問題のことを「危険負担の問題」という。
債権者主義
[編集]民法では、「特定物」(ここでの「特定物」とは「家屋」などと解釈されてるようである)の売買の場合なら、原則として、買い主の負担にせよ、のような規定をしている。(民534) この規定のように、危険負担については買い主負担にする考え方のことを「危険負担の債権者主義」という。しかし、民法534条の規定には反対意見も多いようである。(※たとえば、川井健『民法入門 第7版』、277ページで、反対意見の例をいくつか紹介している。) たとい、買い主に家屋を引き渡す前の時点での事故による消失・毀損であっても、買い主の責任になるのである。そこで、世間でのじっさいの家屋売買の契約では、特約などを定めて、家屋を引き渡す前ならば売り主の責任にする、などの特約を定めている場合も多い。
なお、売り主と買い主の双方に責任のない事情で家屋が毀損・消失する事情とは、たとえば隣の家からの出火による火事による類焼、あるいは落雷、などの事情である。
まとめると、
- 類焼や落雷によって、品物である家屋が毀損・滅失した場合、負担を負うのは売り主・買い主のどちからかというと、特約が無いかぎり、特定物(=家屋)の売買での危険負担は債権者(買い主)の責任である。
というふうになる。
債務者主義
[編集]- (※ 検定教科書の範囲内)
なお、以上の「債権者主義」が適用される場合とは、あくまで家屋など「特定物」の「売買」の場合である。アパート住まいのような、家屋の貸し借りでは、別問題である。また、一般の動産の売買でも、別問題である。
アパートの賃貸借の場合、隣家からの火事などによって、家主が貸せなくなれば、借家人は家賃を払わなくていい。このような住宅の賃貸借の契約では、家主のほうが債務者とされ、借家人は債権者とされる。さて、家主が家屋貸借の債務を履行できなくなったので、借家人も家賃支払いの債務を免れる(つまり、借家人は家賃を払わなくてよい)、という主義である。(民536) このように、履行できなくなった債務(例の場合、アパート賃貸借)について、(アパート部屋貸しの見返りとしての)反対給付(家賃)をしなくていい、というような考えを「債務者主義」という。
実務
[編集]法律の規定ではないが、実際には、契約時に、輸送中の破損や盗難などの危険負担をどちらがするのかを事前に決めておくのが通例である。
日本国内のビジネスでは通例、「現場渡し価格」と「持ち込み渡し価格」のどちらかである場合が多い[1]。
- ※ 詳しくは『ビジネス基礎』の市販の検定教科書を参照せよ。
贈与
[編集]たとえば誕生日に時計をプレゼントするなどのように、無償で財産権を相手に与える事を贈与(ぞうよ)という。(民549)
贈与が書面によらない口約束だけ場合、その贈与は、履行される前なら、当事者のどちらからでも取り消せる。 また、贈与は一般に無償契約であることから、贈与者は、売り主のような担保責任を負わないのが原則である。(民551)
(※ 範囲外:) なお、時計をプレゼントする、という贈与が履行された場合、その時計の所有権は移動し、時計をプレゼントした側(贈与者)から、時計をもらった側(受贈者)へと所有権は移動する。(※ 参考文献: 野村豊弘『民事法入門』、有斐閣、第6版、80ページ、)
- ^ 『ビジネス基礎』、実教出版、令和2年12月25日検定、令和4年1月25日発行、P144