高等学校政治経済/経済/経済思想

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経済社会の歴史[編集]

安価な政府[編集]

アダム・スミス

産業革命のころ、イギリスでのイギリスの経済学者アダム・スミス(Adam Smith)は、『国富論』(または『諸国民の富』)を著作し、市場には価格を自動的に調節する「見えざる手」(invisible hand)が存在するため、個々人が自己の利益のためだけに売買を自由にするだけでも、全体が幸福になると主張した。

このような、政府はなるべく、民間の経済活動については、自由放任(じゆうほうにん、レッセ=フェール、laissez-faire)として、政府は経済に関わらないとする考えを「安価な政府」(cheap government、小さな政府)という。

アダム・スミスは、現代では「経済学の父」と呼ばれ、アダム・スミスは古典派経済学の祖とされている。アダム・スミスを中心とする彼の時代の経済学は、古典派経済学と言われる。

なお、後世のドイツのラッサールは、このような「安価な政府」の考え方を批判の意味合いで、「夜警国家」(やけい こっか)と呼んだ。

(※ 範囲外 :)アダム・スミスの「見えざる手」の元ネタは、一説には思想家マンデヴィルの著書『蜂の寓話』の語句にもある「私悪すなわち公益」だとも言われる。

また、アダム・スミスは富の源泉は労働にあるとする労働価値説を主張し、リカードやマルクスなどに影響を与えた。

社会主義[編集]

マルクス

現実の近代世界での経済の歴史は、アダム・スミスによる予想とは違い、自由な経済活動が増えるにつれ、貧富の格差がひらいたり、景気の変動がはげしくなったりしていった。

マルクス(Karl Marx)はこうした資本主義経済の矛盾から、生産手段の私的所有と市場経済にもとづく資本主義の崩壊は歴史的・必然的な現象であると考えた。そして、資本主義が自壊したのちに生産手段が社会的所有へと変わる社会主義経済へと移行すると予想した。マルクスは『資本論』を著し、資本主義の経済体制を分析した。

修正資本主義[編集]

1929年のアメリカから始まった世界恐慌により、各国の株式市場などの金融市場が不安定になり、安価な政府の考えでは、不況が解決できなくなった。

そのため、「安価な政府」とは別の考え方の、政府が積極的に経済活動を行う政策が行われた。

アメリカでは、ダム開発などの公共投資などを積極的に行うニューディール政策が、フランクリン=ローズベルト大統領によって進められた。

ケインズ

同じころ、イギリスの経済学者ケインズ(Keynes)は、『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年刊行)で、政府は有効需要(ゆうこう じゅよう)を増やすべきだと主張した。 有効需要とは、貨幣の支出をともなう需要のことである。

ケインズの考えによると、私企業や家計が経済活動を行うように、政府も景気安定などのための経済活動を行うべきだとする。

アメリカのニューディール政策は、ケインズ主義にもとづく政策である、と分類するのが一般的です。(※ 実教出版『公共』教科書の見解)

このニューディール政策やケインズの理論などのように、自由放任ではなく、原則的に市場はなるべく自由にしつつも、政府は経済投資などで市場に積極的に関わるべきだとする経済思想のことを混合経済または修正資本主義という。

(※ 範囲外 :)20世紀後半のアメリカの有名な経済学者サムエルソンが、「混合経済」という表現を用いており、彼の著作した経済教科書などでその表現(mixed economy)が用いられている。アダム・スミス的な従来の自由放任的な経済理論と、ケインズ思想にもとづく当時としては新しい経済理論との混合のようなニュアンスだろう。

なお、この、ケインズのような政策では、政府の支出が増えるため、インフレーションや財政赤字が起きやすいという性質がある。

「大きな政府」との関係

中学で「小さな政府」と「大きな政府」を習ったと思いますが、ケインズ思想を重視する政策は基本的に、「大きな政府」になる傾向があります。なぜなら、政府は雇用の安定化などのために、民間では不採算な部門にも、積極的に政府が市場介入するからです。(※ 実教出版『公共』教科書をもとにwiki側でやや脚色。教科書では、歴史的な流れを書いてるが、実質的には、まあ、ケインズ政策が「大きな政府」だと言っているので)

当然、財政赤字などが膨らみやすいという欠点が、ケインズ思想にはあります(政治家は選挙対策などのため、普通は税金をそんなに上げたがらないので)。※ 財政赤字うんぬんも、まあ実教の教科書の構成がそんな感じである。直接は言ってないが。

「大きな政府」でも「小さな政府」でも、それぞれ長所と欠点があります。

中学では、「大きな政府」は「税金が高い」という傾向を習ったと思います。

高校では、それに加えて、実は「大きな政府」は「財政赤字になりやすい」傾向もあるという事も習います。

「小さな政府」はその逆であり、つまり「財政赤字になりにくい」傾向があるし、もちろん税金は安いのです。

原理的には、「税金が高いけど財政の健全な国」などの可能性もあるでしょうが、しかし実際には政治家の選挙対策などの都合により、増税は有権者ウケが悪いので、往々にして政治家による「大きな政府」的な政策の主張は、財源の税金を軽視したり有権者の関心に入らないようにしたりして、財政の悪化につながりやすい傾向があるし、事実、20世紀後半の日米の財政がそういう歴史の実例です。



新自由主義[編集]

1970年代から80年代になると、政府の財政赤字などを理由に、経済政策を「小さな政府」にする国が出てきた。

イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権、日本の中曽根康弘(なかそね やすひろ)政権などが、このような経済政策である。


冷戦の終了[編集]

冷戦の後半になると、ソビエト連邦の経済や財政が行き詰まった。ソ連はペレストロイカで、部分的に自由競争をみとめる経済改革をして、それなりに効果もあがったが、ソビエト連邦は計画経済をやめ、またそれにともないソ連を解体し、ソ連解体にともない東ヨーロッパ諸国も民主化し、こうして冷戦は終結した。

現在、東ヨーロッパ諸国やロシアは、資本主義の経済政策である。

零戦後半のころ、中国でも改革開放(かいかくかいほう)政策がとられ、経済の自由競争が導入されていった。

同じころ、ベトナムでもドイモイ(=刷新)政策で、市場経済が導入されていった。