ここで扱う数列は離散的な現象を扱う際に威力を発揮する。数列はいろいろなところに応用されている。例えば、単利の計算には等差数列が、複利の計算には等比数列が応用できる。
数列とは[編集]
数を一列に並べたもの数列(sequence of numbers)という。数列のそれぞれの数を項という。
- (10 から 0 までの整数を大きい順に並べた数列)
- (正の整数を順に並べた数列)
- (正の奇数を順に並べた数列)
- (1から3をかけ続けた数列)
1番目から数えて、第1項、第2項、第3項のように、n 番目の項を第 n 項という。特に第1項は初項(first term)ともいう。以下、特に断りのない限り n は 1 以上の自然数とする。
第 項が である数列を と表記する。つまり、数列 の第1項から数項並べると
- である。
数列 において、この数列の第 n 項 を n の式で表すとき、この式を数列 の一般項(general term)という。たとえば、数列 1, 2, 3, 4, 5, ... の一般項は である。自然数の偶数の数列 2, 4, 6, 8, 10, ... の一般項は である。
項の数が有限である数列を有限数列(finite sequence of numbers)という。有限数列の最後の項を末項(final term)といい、項の総数を項数(arity)という。末項が存在しない数列を無限数列(infinite sequence of numbers)という。数列 1, 2, 3, 4, 5, ... は無限数列である。
解答
- 第1項から順に
- 第1項から順に
- 第1項から順に
演習問題
次の数列の一般項を推測せよ。
解答
- や など[1]
- など
等差数列[編集]
数列 において、定数 が存在して、任意の自然数 に対し となるとき、この数列 を等差数列(arithmetic progression (sequence))といい、 を公差(common difference)という。
を変形すると である。等差数列は名前の通り隣り合った項の差が等しい数列である。
例えば、 は初項 2 、公差 3 の等差数列である。
初項 、公差 の等差数列 について
- ...
なので、一般項は である。
初項 、公差 の等差数列 の第1項から第 n 項までの和 は
である。 これを逆順に並び替えて
を得る。この2つをそれぞれ足すと である。これより
を得る。また を代入して
である。
演習問題
初項3、 公差2の等差数列の一般項を求め、この数列の第 1 項から第 n 項までの和 を求めよ。
解答
がこの順に隣り合った等差数列の項であるとき、 より、 である。
また、 が成り立つとき、 より、 はこの順に隣り合った等差数列の項である。
以上より、 はこの順に隣り合った等差数列の項
演習問題
がこの順に隣り合った等差数列の項であるとき、 を求めよ。
解答
より
演習問題
150以下の自然数の内、7で割った余りが2である自然数の和を求めよ。
等比数列[編集]
数列 において、定数 が存在して、任意の自然数 に対し が成り立つとき、この数列を等比数列(geometric progression)といい、 を公比(common ratio)という。
を変形すると である。等比数列は名前の通り隣り合った項の比が等しい数列である。
例えば、 は初項 3 、公比 2 の等比数列である。
初項 、公比 の等比数列 の各項を並べて書くと、
のようになることから、等比数列の一般項は で与えられる。
初項 、公比 の等比数列 の第1項から第 n 項までの和 は
(1)
である。両辺に をかけて
(2)
を得る。
(2) - (1) より なので、 である。
また のとき第1項から第 n 項までの和 は である。[2]
演習問題
初項3、 公比が4の等比数列の一般項を求め、この数列の第 1 項から第 n 項までの和 を求めよ。
解答
それぞれ 0 ではない数 がこの順に隣り合った等比数列の項であるとき、 より が成り立つ。
また、 ならば、 より、 がこの順に隣り合った等比数列の項である。
よって、 がこの順に隣り合った等比数列の項
総和記号Σ[編集]
ここで、総和を効率よく表せる表記法について学ぼう。
数列 に対し、この数列の第 m 項から第 n 項までの和を で表す。つまり
である。[3]
例えば、 である。
ちなみにこの Σ はギリシア文字のシグマの大文字である。これは、Sum(和)を意味するラテン語 Summa の頭文字 S に対応するギリシャ文字である。
と と実数[4] に対し、
[5]
また、
である。
ここで、 を求めてみよう。
等差数列で習ったことを思い出せば、 は第1項が1、公差が1の等差数列の第 n 項までの和なので、 である。
また、等比数列の和を総和記号を使って書き直せば、 である。
次に、 を求めてみよう。
である。ここで に 1 から までを代入したものはそれぞれ
である。この 式をそれぞれ足し合わせると
左辺はほとんどが打ち消し合い、 となるので
である。ここで を代入して について整理すれば
を得る。
同様に を求めることが出来る。
であるので、 に 1 から までを代入してそれぞれを足し合わせれば、
である。これを変形して
なので、 である。[6]
演習問題
以下を計算せよ。
階差数列[編集]
数列 に対し
で与えられる数列 を数列 の階差数列という。
数列 の階差数列 および初項 を利用して の一般項を求めてみる
階差数列の定義から
である。
それぞれの式を足し合わせれば
つまり
- を得る。
解答
である。
数列 を階差数列とする数列 の第 n 項は
であることを思いだそう。
これを元に計算すれば、 のとき、
である。 だったので、この式は でも成り立つことが確かめられる。
漸化式[編集]
数列の隣り合った項どうしの関係を表す式を漸化式(recurrence relation)という。
たとえば、上の漸化式を満たす数列は公差1の等差数列である。これだけでは数列は一意的には定まらないが、さらに初項を と与えると、自然数列
を得ることができる。ここでは漸化式が与えられたとき、それを満たす数列 にはどのようなものがあるか、具体的に求める方法を考える。漸化式を満たす数列を求めることを、漸化式を解くという。
簡単なもう一つの例として、
のようなものがある。これは、
と変形することで、公比2の等比数列であることがわかる。であることをあわせると、一般項は
であることがわかる。
一般に、漸化式 を満たす数列 は等差数列なので、一般項は である。
漸化式 を満たす数列 は等比数列なので、一般項は である。
隣接二項間漸化式[編集]
隣接二項間漸化式の定義は次のとおりである。
定義 ―
p, q を n に無関係な定数とし、数列 の漸化式が
で表されるとき、この漸化式を(定数係数をもつ線型の)隣接二項間漸化式という。
このような隣接二項間漸化式は等差数列または等比数列に帰着できることが知られている。まず p = 1 のとき、漸化式は であるから、これは等差数列である。次に、 p ≠ 1 の場合を考える。
ここで、もし を と変形することが出来れば、数列 は等比数列であり、一般項は である。よって と数列 の一般項を求めることができる。
さて、問題は を満たす をどのように求めるかということだが、 を変形して となる。これが と等しくなるので、 つまり、 となる を求めればよい。[7]
演習問題
であり、漸化式 を満たす数列 を求めよ。
隣接三項間漸化式(発展)[編集]
隣接三項間漸化式の定義は次のとおりである。
定義 ―
p, q を n に無関係な定数とし、数列 の漸化式が
- … (1)
で表されるとき、この漸化式を(定数係数をもつ線型の)隣接三項間漸化式という。
ここでは (1) の隣接三項間漸化式を等比数列に帰着して解く方法を考える。公比 β の等比数列
の一般項を で定義すると、
- … (2)
(2) の等比数列を (1) と係数比較すると、次の関係が得られる。
これは二次方程式の解と係数の関係であるから、二次方程式
の解 α, β を用いて、(1) の隣接三項間漸化式は (2) の等比数列の漸化式に帰着することができる。この二次方程式を隣接三項間漸化式の特性方程式という。特性方程式の2つの解は便宜上区別したもので、解の取り方によらない(以下の定理は α と β を入れ換えても成立する)。
定理1.1.6
隣接三項間漸化式 (p, q は n に無関係な定数)は、特性方程式 の解 α, β を用いて、公比 β の等比数列 に変形することができる。
隣接三項間漸化式は等比数列 に変形することにより、等比数列の一般項の公式 を用いてただちに解くことができる。
練習問題(漸化式)[編集]
(i)
(ii)
(iii)
のをそれぞれ計算せよ。
ただし、
(aは任意の実数。)
とする。さらに、一般に
(b,cは任意の実数。)についても計算せよ。
(i)
特性方程式は、
となる。よって、この式は、
と書き換えられる。ここで、
と書き換えると、上の式は
となり、通常の等比数列の表式となる。ここで、
を用いると、
となる。ここで、
を再び用いると、
が得られる。
(ii),(iii)についても同様に計算を行うと、
が得られる。
次に、より一般的な場合について計算する。
について特性方程式を用いると、
となる。
よって、上の式は、
となる。
を用いると、
が得られる。
実際、
の結果を代入すると、
が得られ、上の結果と一致する。
(i)
(ii)
について
を計算せよ。
ただし、
- (は、任意の実数。 )
漸化式の右辺が通常の数でないときには、それぞれ異なった手法で計算を進める必要がある。このような場合の一般的な計算は指導要領の範囲を超えるため、限られた場合について例を示すことにする。
(i)の場合については、右辺のについて、
ををとした
を引くことで右辺が定数に等しくなることに注意する。このとき、実際に引き算した値を計算すると、
が得られる。ただし、
とおいた。この式は、先ほど一般的に計算した式と等しいため、簡単に
を計算できる。ただし、今回は初期値であるの値が求められていないので、まずはを計算しなくてはならない。ここで、
となり、が求められた、この値を数列bnの初項として上のに関する漸化式を解くと、
が得られる。ここで、
は数列の階差数列に等しい。よって、
が得られる。この和を計算すると、
が得られる。
- 答え、
(ⅱ)
左辺は既に見た漸化式と同じ形であるが右辺に(aは実数)が加わった点が異なる場合である。この場合にはまず最初に両辺をで割るとよい。 このとき、上の式は
となる。更にの置き換えをすると、漸化式
が得られるがこれは既に扱った漸化式である。この式は
となり
が得られる。を用いると
が得られるので、これを用いて
が得られるが、この式からは、
となる。
数学的帰納法[編集]
自然数 1, 2, 3, 4, 5, ... は無限に存在するので、任意の自然数に関しての命題を証明するとき、1つ1つの自然数を列挙していくことは不可能である。そこで、ここでは任意の自然数に関して成り立つ命題を有限の手順で証明する方法を考える。
自然数 に関する命題 [8]が任意の自然数に関して成り立つことを証明するには、次の2つの事柄を示せばよい。
- 任意の自然数 k について である。
- が成り立つ。
2. の条件より n = 1 について P は真であるから、1. の条件より n + 1 = 1 + 1 = 2 についても P は真である。これより n = 2 について P は真であるから、n + 1 = 2 + 1 = 3 についても P が真であることがいえ、以下同様にすべての自然数に対して P は真であると結論できる。
このような証明法を数学的帰納法(mathematical induction)という。
数学的帰納法を用いて
を導出する。まずn=1のとき、
(lhsは左辺の意味。)
,そして
(rhsは右辺の意味。)
となり、確かに正しいことが分かる。次にn = lのときこのことが正しいと仮定する。このとき、
となり、n = l+1 のときにも、この式が正しいことが示された。よって数学的帰納法より、この式は1以上の全てのnについて成立する。
コラム:フィボナッチ数列[編集]
フィボナッチ数列は のように、前とその前の項の和が次の項になる数列である。
フィボナッチ数列の漸化式
は隣接三項間漸化式であるが、 よりこの特性方程式は
である。これを解くと、
- (黄金比 φ として知られる)
公比 β の等比数列の一般項に初項 を代入すると、
ただし α + β = 1 より 1 - α = β という関係を使った。これは α と β を入れ換えても成り立つため、次の連立方程式が得られる。
辺々を引いて について解くと、
ここで であるから、求める一般項は次のようになる。
これはフィボナッチ数列の一般項を求める公式(ビネの公式、Binet's formula)として知られている。
- ^ 二番目の式は から得られたものである。有限個の項が与えられた数列の一般項は一意に定まるわけではない。
- ^
- ^ 変数 の代わりに他の文字 や を使用して や としても意味は変わらない。なぜなら、これらはすべて、 を表しているからである。慣習的にこの添字には などが用いられることが多い。
- ^ 複素数について既に学んでいる読者は複素数としてもよい
- ^ この式変形は足し算の順序を変えただけである。
- ^ これは 1 から n までの自然数の和を2乗したものになっている。
- ^ この式は の を とした式になっている。
- ^ つまり、 は命題 をまとめたものだとも言える。 が自然数のとき は命題なので、 は真(正しい)か偽(間違い)のいずれかである。例えば、 が のとき、 は偽である ( と はどちらも正しくない) が、3以上の自然数 m に対して は真である。