コンテンツにスキップ

高等学校物理/物理I/運動とエネルギー/仕事とエネルギー

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

仕事とエネルギー

[編集]

物理学でいう「エネルギー」(英:eneregy エナジー)とは、物理学でいう「仕事」(しごと、英:work ワーク)をする能力のことである。より具体的にいうと、エネルギーとは、静止していた他の物体を動かせる能力のことである。

(なお、「エネルギー」という読みは、ドイツ語での発音に由来する読み方であり、英語では「エナジー」と発音するのが近い。日本では、この物理量のことは「エネルギー」というのが一般的である。)

では、物理学でいう「仕事」とは何か。それを、これから学んでいこう。

仕事

[編集]

仕事

[編集]
仕事

物体に力をかけたまま力の方向に移動させることを、「物体に仕事をした」などという。 いっぽう、単に力を加えただけで、物体が動かない場合は、「仕事をしていない」のである。

ここでは、図のように、物体に一定の大きさの力 F[N] を加えたとして、その力の方向に s[m] だけ変位したとする。

仕事のF-sグラフ

このとき、力がする仕事(しごと、work) W は、つぎの式で表される。

W=F・s

仕事 Wの単位は ジュールJ] である。 なお

1[J]=[N m]

である。

仕事の記号は通常では W または w で書かれる。大文字または小文字のダブリューである。

仕事は、ベクトルではない


力の向きと変位の向きが異なる場合

[編集]
力の向きと動かす向きが違う場合

図のように、水平方向から角度 θ で、力 F で引いている場合で、水平方向に s[m] だけ動かした場合の仕事は、

W=F・s cos θ

なぜなら、力 F の、移動方向の分力は、

F cos θ

である。 また、さきほどの節の仕事の定義より、仕事の式の力は、移動方向の分力のみを考えればよい。なお、垂直方向には動いていないので、垂直方向の分力 F・s sin θ は仕事をしていない。なので、水平方向の分力のみを計算すれば仕事が求まる。そして、その、水平方向の分力 F cos θ がする仕事とは、

W=(F cos θ )・s

である。これを整理して、仕事 W は

W=F・s cos θ

となる。


負の仕事

[編集]
(未記述)

斜面をすべり降りる場合の仕事

[編集]
(未記述)

仕事の原理

[編集]

滑車の場合

[編集]
動滑車と仕事の原理

たとえば図のように動滑車を使うと、物体を持ち上げるのに必要な力は半分になるが、物体を滑車を使わないときと同じ距離だけ持ち上げたい場合に、ひもを持ち上げるのに必要な距離が2倍になるので、結局、滑車を用いても、「力の大きさ × 移動量」という量は同じである。つまり、仕事の大きさは、滑車を使っても変わらない。

てこ や 斜面 でも、力の大きさは変えられても、そのぶん手元の移動距離が増えてしまい、結局、仕事の大きさは変えられない。 仮に摩擦の無い理想的な てこ や 斜面 があったとしても、それを、どんなに組み合わせても、「力の大きさ × 移動量」という量は同じであり、つまり仕事は変わらない。

このように、どんな道具を使って力の大きさを変えても、道具を使わない場合と、仕事が変化しないことを、仕事の原理という。

(記述中)

てこ の場合

[編集]
(※ ここに図を追加。)

図のように、比率 1:2 の てこ が、あったとしよう。

図で分かるように、距離 h[m] だけ持ち上げるのに必要な力は半分の で済むが、物体を持ち上げるのに必要な手元の移動距離が、2倍の 2h[m] になっている。 結局、仕事は変わらない。

念のため、仕事 W を計算してみても、

であり、結局、距離 h 持ち上げるのに必要な仕事は mgh である。

斜面での仕事

[編集]
斜面と仕事原理

図のように、傾き θ の斜面があるとしよう。計算の簡単化のため、斜面は滑らかであるとして、摩擦は無いとしよう。 また、0° < θ < 90° としよう。

この場合、物体を鉛直方向に h[m] だけ高い場所に上げる仕事を計算しよう。

まず、物体を動かすのに必要な力は、斜面を用いた場合、図から分かるように、

である。

しかし、高さhまで上げるために必要な、斜面の距離は、

である。

結局、仕事 W は

となり、仕事は同じである。

※重力加速度などは別である。

運動エネルギーと位置エネルギー

[編集]

エネルギー(英:energy エナジー)とは、物理学でいう「仕事」(しごと、英:work ワーク)をする能力の大きさを、数値的に定量的に表したものである。

なお、「エネルギー」という読みは、ドイツ語での発音に由来する読み方であり、英語では「エナジー」と発音するのが近い。日本では、この物理量のことは「エネルギー」というのが一般的である。

運動エネルギー

[編集]

運動エネルギー

[編集]

運動している物体(仮に、これをAとする。)は、他の物体(仮にBとする。)にぶつかれば、その物体Bに力を及ぼしたり、物体Bを動かしたりできる。

つまり、運動している物体には、仕事をする能力があり、したがって運動している物体はエネルギーを持っている。 この、運動をしている物体が持つエネルギーを運動エネルギー(うんどうエネルギー、kinetic energy)という。

種々の実験の結果によると、物体の運動エネルギー K は、物体の速さを v とし、その物体の質量を m とすると、

である。

運動の方向がどちらであっても、物体が持っているエネルギーは同じである。

運動エネルギーの単位は、ジュール(J)である。

実際に、この量は質量と速度の2乗の積で出来ていることから、この量の単位は

[kg] [/]
= [kg ] [m]
= [N] [m]

となり、確かに仕事の単位(J)と等しいことが分かる。


  • 運動エネルギーの式の導出

図のように、質量 m[kg]の物体Aが右向きに進んでいるとしよう。物体Bと衝突してから、物体Aが一定の力 F [N]で物体Bを押しながら、距離 s[m] だけ進んで、静止したとする。

このとき、力が一定なので加速度が一定になり、等加速度直線運動の公式より、

である。

この式を移項して整理すると、

となる。(証明おわり)


速さが2倍になると、運動エネルギーは4倍になる。速さが3倍になると、運動エネルギーは9倍になる。

運動エネルギーと仕事の関係

[編集]

質量 m[kg]を持つ物体が、水平方向に速度 v1 [m/s] で運動していた。このときその物体に、ある仕事 W [J]をし、その物体の速度をv2まで引きあげた。

一般に、物体になされた仕事の大きさのぶんだけ、物体のエネルギーが変化する。 この場合、仕事Wと運動エネルギーの関係は

となる。

もし、速度を引き上げるときの力 F が、一定の力だとすると、等加速度直線運動の公式から、さきほどの公式を証明できる。

実際に、等加速度直線運動の公式より、

である。式を移項して整理すれば、

となる。(証明おわり)

力が一定でない場合でも、つまり加速度が一定でない場合でも、微小区間に区切って計算することで、その区間内では加速度が一定と近似できるので、加速度一定の場合と同様の公式が成り立ち、 よって、力が一定でない場合でも、

となる。

位置エネルギー

[編集]

位置エネルギー

[編集]

高さh[m]に持ち上げた質量m[kg]の物体は、手を離せば、重力によってmg[N]の力を受けながら、地面までの距離hの分だけ落下するので、手を離すと仕事をmgh[J]することになる。 ということは、高さh[m]にある質量m[kg]の物体はエネルギーをmgh[J]ほど持っていることになる。 このような、物体の高さによるエネルギーを位置エネルギー(いちエネルギー、potential energy)という。

位置エネルギーは物体の高さhと物体の質量mと重力加速度gに比例する。位置エネルギーの記号をUで表した場合、位置エネルギーUは

である。

弾性力のする仕事と位置エネルギーの関係

[編集]
弾性力と位置エネルギー

ばね に蓄えられるエネルギーも、位置エネルギーと見なしてよい。

例として、図のように、水平に ばね が置いてあるとする。そして、自然長からx[m]伸ばしたとする。このとき、ばね に蓄えられるエネルギー(位置エネルギー)を求めよう。計算の簡単化のため、摩擦は考えないとする。

ばね定数を k[N/m]として、弾性力 F は F=kx [N]とする。

位置エネルギーの場合、仕事 W のぶんだけ、位置エネルギー U が増すのだから、位置エネルギーを求めたいなら、まず仕事 W を求めればよい。

ばねの弾性力 F=kx のする仕事 W を求めるには、横軸に伸びx[m]、縦軸に弾性力F[N]のグラフを求め、そのグラフから図形的に仕事の値を求めればよい。

そのグラフは、右図下のグラフのようになる。 そのグラフから分かるように、 自然長を基準にして、x[m]伸びた場合の弾性力 F=kx のした仕事 W[J] は、

である。

そして、その仕事()と同じ大きさのエネルギーが蓄えられるので、これが、弾性力による位置エネルギーである。 つまり、弾性力による位置エネルギー U[J]は、

である。一般に、弾性力の計算では、この式を公式として扱う。

弾性力による位置エネルギーのことを弾性エネルギー(だんせいエネルギー、elastic energy)ともいう。

さきほどの右図では、伸ばした場合の図だったが、縮めた場合でも、自然長を基準に、同様の公式が成り立つ。

  • 例題
弾性エネルギーの差

自然長から x1[m]伸ばされて静止させていた、水平に置かれた ばね を、さらに伸ばして、自然長から x2 まで伸ばした。

このときの位置エネルギーの差を求めよ。


答え

それぞれの位置エネルギーをU2、U1とすれば、

を求めればよい。よって、

(答え)

である。

※注意. 間違えて、【誤答例→】 【←誤答例】としないように。


保存力

[編集]
斜面と仕事原理

重力による位置エネルギーは、重力の仕事についての 仕事の原理 から分かるように、高さによってのみ決まり、その移動途中の経路には寄らない。

重力のほか、ばね の弾性力による、ある時点での弾性エネルギーも、その時点での伸び x[m] によってのみ決まり、その途中の経路には寄らない。

この重力や弾性力のように、途中の経路によらず、その時点での位置のみによって、あるエネルギーが決まる場合、その重力や弾性力などの力を保存力(ほぞんりょく)という。

重力は保存力である。弾性力は保存力である。

※ この単元([[高等学校理科 物理I 運動とエネルギー)ではまだ習わないが、静電気力も保存力である。詳しくは、高等学校理科 物理I 電気などの単元で習う。

いっぽう、動摩擦力は、保存力ではない。

保存力によるエネルギーの値は、始点と終点によってのみ決まる。

力学的エネルギーの保存

[編集]

力学的エネルギーの保存

[編集]
落下運動と力学的エネルギー

図のように、かりに、物体をある高さ h2[m]から高さh1へ落下させたとする。

空気抵抗を無視すれば、重力がした仕事のぶんだけ、運動エネルギーが増加するので、次式(じしき)が成り立つ。

移行して、同じ添字(そえじ)の項をまとめれば、次式が得られる。

となる。

これは、位置エネルギーと運動エネルギーの和が、点Aでも点Bでも同じである。

このことから、位置エネルギーと運動エネルギーの和は一定である法則が得られる。

この法則を 力学的エネルギー保存の法則(law of conservation of energy) という。

なお、運動エネルギーと位置エネルギーをまとめて、力学的エネルギー(りきがくてきエネルギー、mechanical energy)という。

ある物体の全ての力学的エネルギーの和を E[J]とすると、その物体の運動エネルギーを K[J]とし、その物体の位置エネルギーを U[J]としたとき、

である。

滑らかな曲面を滑り落ちる物体の場合

[編集]
曲面上の坂を下る

図のように、かりに、物体をある高さ h[m]から高さ0へ転がりおろしたとして、高さ0で、その物体の速さ v[m]を測る実験を行なう。計算の簡単化のため、物体の初速度は 0 とする。また、摩擦や空気抵抗は、無視できるとする。

物体が仮に球状の場合、転げ落ちる物体の回転によるエネルギー計算法は、高校レベルを越えて大学レベルの計算になるので、ここでは回転エネルギーを無視できるように、球状ではないと形状とする。

さて、図を見ると分かるように、垂直抗力は運動方向と直角であるので、垂直抗力は仕事をしない。

よって、位置エネルギーの計算では、重力 mg による仕事だけを考えればよい。

なので、重力がした仕事 mgh[J]のぶんだけ、運動エネルギーが増加する。 よって、

となる。

この式を v について解くと、

(計算の簡単化のため、vの符号は正のみとした。)

そして実験結果も、この式 と同じ結果になる。

よって、この場合、式 が物理学的に正しいことになる。(物理学は実験科学であるので、実験的に検証された式は正しい。)

振り子の運動の場合

[編集]
振り子の力学的エネルギー

張力は運動方向に垂直なので、仕事をしない。よって、張力による仕事は0であるので、張力によるエネルギー変化は0である。

なので、位置エネルギーと運動エネルギーだけを考えればよい。

したがって、振り子のおもりについても、力学的エネルギー保存の法則が成り立ち、

である。

実際の運動での力学的エネルギー

[編集]

実際の運動では、摩擦や空気抵抗などのため、運動している物体は、そのうち静止する。なので、実際の物体では、力学的エネルギーは保存しない。

また、経路によって、物体のエネルギーの大きさが変わってくるので、摩擦力は保存力ではない。

失われたぶんの力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギー)は、摩擦のため、熱などになって、周囲に放出される。

なお、摩擦によって放出されるエネルギーのことを摩擦熱(まさつねつ)という。

熱については、くわしくは熱の単元 高等学校理科 物理I/熱 で習う。

  • 例題
動摩擦と力学的エネルギー

図のように、傾き θ の荒い面の坂で、位置Aで初速度 V_A[m/s]を与えて、物体を滑らせる場合を考える。その後、物体は、斜面にそってs[m]だけ滑り落ち、物体は位置Bで速度V_B になったとする。

高校物理の、この問題では、動摩擦力の大きさは、一定としてよい。

動摩擦力を f[N] とすると、動摩擦がする仕事 W2[J] は、

である。

いっぽう、重力のする仕事は、

である。

また、図より、

失われたぶんの力学的エネルギーが、摩擦力による仕事と等しいから、次式が成り立つ。

雑題

[編集]
  • 雑題 1
力学的エネルギー 物体の最高点

右図のように、すべり台の上で初速度0で球を転がした場合の運動を考える。 すべり台から飛び出したあとの球は、元の位置までは上がらない。

なぜなら、運動エネルギーがあるからである。