高等学校理科/地学/地球の形と重力
ジオイド
[編集]実際の地球では、重力の大きさが場所によって異なり、重力の方向もわずかに変化している。たとえば、地下に密度の高い物質が大量に存在すると、その引力によって重力の方向が高密度物質に引き寄せられる。
このため、静止しているときの海水面でさえ、実際には起伏がある。海水面は潮汐などによって変動するが、ここでは比較的長期に渡って平均した平均海面(へいきん かいめん)を考慮する。
流動する物体である海水は、重力によって下方に集まるため、海水面は重力に垂直となる。地上においては、仮想的な海面を想定し、地球全体を仮想的な海面で覆った場合の海面は、表面に起伏を持つ1つの閉じた曲面となる。この曲面をジオイド(geoid)と呼ぶ。
標高の基準はジオイドを基準としている。
大陸のジオイドの実際の測定には、人工衛星の軌道を解析して行われる。
ジオイドには起伏があるため、地球楕円体の面とは差が生じる。この差をジオイドの高さといい、たとえばニューギニアでは約+70m高く、北極で+16m、南極で−27mである。ジオイドは一般に西洋なしの形をしており、太平洋の西側でジオイドが高くなるのは、海洋プレートの引きずり込みの影響と考えられ、この引きずり込みによるマントル対流などの変化に起因する。ジオイドの分布は、地下で起きているマントル対流の影響を受けている。
重力異常
[編集]地球の形を地球楕円体と仮定すれば、特定の地点での引力と遠心力を理論的に算出できる。こうして計算された、ある地点での引力と遠心力の合力を標準重力(ひょうじゅん じゅうりょく、normal gravity)と呼び、これは重力の理論値である。
しかし、実際の重力測定値はこの標準重力とは異なり、これは地下の密度分布が場所によって異なるためである。標準重力と測定値の差を重力異常(じゅうりょく いじょう、gravity anomaly)という。
- フリーエア補正
測定の際、測定地点の高さによって測定値が変化する。「高さ」とはジオイド面からの高さを指し、これにより他の地域との比較が容易になる。ジオイド面からの高さによって重力値が変わるため、測定値を換算し、ジオイド面上での値(つまりジオイド高さ0mでの値)に補正する必要がある。このようにジオイド高さ0mの場合に行った重力値の補正をフリーエア補正(フリーエアほせい、free-air correction)または高度補正という。また、このフリーエア補正された重力値と標準重力との差をフリーエア異常(free-air anomaly)という。なお、フリーエア補正に関して、ジオイド付近の高度と重力の関係は、ジオイド面から1m高くなるごとに重力が約3×10−6 m/s2小さくなることが分かっている。
- 地形補正
具体例として、近くに山などがあると、重力はその山の引力を受ける。このため、他の地域と比較する際に補正が必要となる場合がある。一般的には、地表に起伏がある場合、仮想的に埋め立てを行い、地面を水平にならしたとして計算をするが、これを地形補正(topographic correction)という。
- ※ このため、山がある場合、その山の最高の標高の約半分くらいの高さの平坦な台地で地形を近似することになる。また、補正後の地形の水平面はジオイドに平行となる。
- ブーゲー補正
ジオイド面と観測地点の間には物質が存在する。ジオイド面と観測地点の間に、仮想的な地殻が平均密度で存在すると仮定し、その影響を除く補正がブーゲー補正(Bouguer correction)である。フリーエア補正および地形補正された値をさらにブーゲー補正した重力値と標準重力との差をブーゲー異常(Bouguer anomaly)という。
もし、ある地点の地下に高密度の物質が大量に存在すれば、ブーゲー異常が正になることが観測される。これにより、ブーゲー異常は鉱床の探査などに応用される。一方、地下に低密度の物質が大量に存在すれば、ブーゲー異常は負となる。