高等学校理科/地学/地球の形と重力

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ジオイド[編集]

:1=平均海水面 :2=地球楕円体 :3=その地点の鉛直線 :4=地表面 :5=ジオイド 5のジオイドから4の地表面までの距離が「標高」であり、2の地球楕円体と5のジオイドとの距離が「ジオイド高」である。

実際の地球では、重力の大きさが場所によって変化し、また、重力の方向も、わずかに変化している。 たとえば、もし地下に密度の大きい物質が大量にあると、その高密度の物質のつくる引力によって重力の方向が高密度物質に引き寄せられている。

そのため、仮に静止しているときの海水面でさえ、実際には、起伏(きふく)がある。 海水面は潮汐などによって変動しているが、この場合では、比較的長期に渡って平均した平均海面(へいきん かいめん)を考える。

海水のように、水などの流動する物体は、重力によって下方へと集まるので、海水面は重力に垂直になる。

地上については、仮想的な海面を考えて、仮に地球全体を仮想的な海面で覆ったとして考えた場合の、仮想の全地球の表面海面は、表面に起伏を持った、1つの閉じた曲面になり、この曲面をジオイド(geoid)という。

標高の基準は、ジオイドを基準としている。

地球重力モデルのEGM96によるジオイドとWGS-84地球楕円体との高さの差(ジオイド高)

大陸のジオイドの実際の測定には、人工衛星の軌道を解析して、測定している。

ジオイドには起伏があるので、地球楕円体の面とは差がある。この差をジオイドの高さという。ニューギニアでは約+70m高く、北極で+16m、南極で−27mである。ジオイドは西洋なしの形をしている。太平洋の西側でジオイドが高いのは、海洋プレートの引きずり込みの影響だと考えられており、その引きずり込みによるマントル対流などの変化によるものと考えられている。ジオイドの分布は、地下で起きているマントル対流の影響などを受けている。

重力異常[編集]

地球の形を地球楕円体だと仮定すれば、ある地点での引力と遠心力を理論的に算出でき、こうして計算された、ある地点でのその引力と遠心力の合力を標準重力(ひょうじゅん じゅうりょく、normal gravity)といい、これは重力の理論値である。

しかし、実際の重力測定値は、この重力理論値である標準重力とは、ずれている。なぜなら、たとえば、地下の密度分布が場所によって異なるため、である。標準重力と測定値との差のことを重力異常(じゅうりょく いじょう、gravity anomaly)という。

  • フリーエア補正

また、測定の際、測定地点の高さによっても、測定値は変わる。このときの「高さ」とは、ジオイド面からの高さのことであれば、他の地域との比較がしやすく、理論的には望ましい。 ジオイド面からの高さによって重力値が変化するので、測定値を換算し、ジオイド面上での値(つまりジオイド高さ 0m での値)に換算する必要がある。このようなジオイド高さ0mの場合にした重力値の補正のことをフリーエア補正(フリーエアほせい、free-air correction)または高度補正という。

また、このフリーエア補正された重力値と、標準重力との差のことをフリーエア異常(free-air anomaly)という。

なおフリーエア補正について、ジオイド付近の高度と重力の関係についてであるが、ジオイド面から高度が1m高くなるごとに重力は約 3×10−6 m/s2 小さくなる事が分かっている。


  • 地形補正

具体例として、もし近くに山などがあると、重力はその山の引力を受ける。なので、他の地域と比較したい場合に、これを補正する必要のある場合もある。

一般的には、もし地表には起伏や凸凹がある場合、仮想的に埋め立てを行ったとして、仮想的に地面を水平にならしたとして計算をするが、これを地形補正(topographic correction)という。

※ このため、山がある場合、その山の最高の標高の、おおよそ半分くらいの標高の平坦な台地で、地形を近似することになる。また、補正後の地形の水平面は、ジオイドに平行になる。
  • ブーゲー補正

また、ジオイド面と観測地点の間には、物質が存在する。

ジオイド面と観測地点の間に、仮想的な地殻が平均密度で存在すると仮定し、その仮想地殻による影響を除く補正がブーゲー補正(Bouguer correction)である。

フリーエア補正および地形補正された値をさらにブーゲー補正した重力値と、標準重力との差をブーゲー異常(Bouguer anomaly)という。

もし、ある地点の地下に高密度の物質が大量にあれば、ブーゲー異常が正になるのが観測される。このため、ブーゲー異常が、鉱床の探査などに応用される。一方、もし地下に低密度の物質が大量にあれば、ブーゲー異常はマイナスになる。