高等学校美術I/パース

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
※パースの理論は、素人が間違って理解してしまいやすい分野です。もし高校卒業後に本格的に絵を描いていくつもりなら、いつか専門書など書籍でキチンとパースの理論を確認しましょう(けっして当wikiを鵜呑(うの)みにしてはいけません。ネットを鵜呑みにしてはいけません)。
また、実写やイラスト、建築画など分野ごとにパースの理論は大きく異なります。なので、もしパースの理論を学ぶなら自分の目指す分野を選んで学ぶことになります。どうしても書籍代を節約したくてネットのパース解説の記事を読んだり動画を見る場合は、せめて自分のめざす分野のプロによる解説を優先的に見ましょう。例えば、漫画のパースについて建築画のパース理論を参考に勉強しても、ほとんどが遠回りの勉強になるでしょう(同様、建築画のパース理論は、漫画では直接的には役立ちません)。異分野の作家による解説は後回しです。

広角パースと望遠パース[編集]

パースとは、パースペクティブ(perspective)の略であり、遠近法透視図法の意を持ちます。


実際の人間の目の見え方は、広角レンズ的なパースでもなく、望遠レンズ的な望遠パースでもないのです。

なお、広角レンズは、視野角が広いだけでなく、焦点距離が短いという特徴もあります。

一般の携帯用の手持ちカメラなどで、家族旅行などで皆が気軽に使えるカメラは大抵、広角レンズです。

望遠レンズは、視野角や狭いだけでなく、焦点距離が長いという特徴もあります(視野角が狭いことで、、遠くのものを大きく撮影する)。

ゲームで スーパーマリオ1 や スト2(ストリートファイター2)などの、真横から見たゲームがありますが、ああいうのが望遠パース的な構図です。

さて、アニメーションではよく、やや遠くから眺めた構図で描きます(なお、漫画は作家ごとによる)。つまり、アニメーションでは、望遠パースの掛かった絵柄で書くことが多いです。

スーパーマリオ1は、望遠パースのすごく強い画面です。

アニメーションでも、視界内での被写体の左右の位置関係を分かりやすくしたい場合に(けっして、スーパーマリオ1ほどの強い望遠パースではないが)、さらにより望遠っぽいパースを使うこともよくあります。特にアニメーションでは、セル(レイヤー)の合成のしやすさから、望遠パースが好まれます。

なので、多くのアニメーションの愛好者は、望遠パースに見慣れています。


パースの教本などでは、三点透視法とか二点透視法とかでよく人物にパースをつけて説明していますが、あれはパースを強調するために、かなり近くから人物を眺めた構図だったりします(つまり、焦点距離が短い = かなり広角パースが強い)。

広角パースのほうが遠近による大小差が大きいためパースの仕組みが分かりやすいので、広角で説明図を描く教本のほうが多いのです。また、実際には人物にパースを強くつける機会は、あまりありませんが(人物よりも建築物にパースをつけるほうが多い)、しかし建築物は描くのが大変なので、かわりにマンガ調にデフォルメされた人物にパースを強くつけることが、イラスト教本でよくあります。

肩幅程度の横幅のポーズに人間ですら、人間にパースを30度くらい付けるイラスト教本は、よくあります。

実際の人間の胴体の厚み程度では、写真のように、パースは、ほとんどつかない。

現実の風景を観察すれば一目瞭然ですが、たとえば自宅のベランダを(一般的な民家の広さとする)、室内のベランダから50センチくらい前から斜め前方のベランダ床を見ても(真正面のベランダ床を見ても、傾斜は0になる)、いちおう斜め前方のベランダ床にパースはついているのですが、しかしパースの角度はベランダすら、せいぜい角度にして片側15度くらいです。ベランダでなくとも、お風呂の床のタイルでもいいです。床に、直線状または格子状に模様があると、パースが分かりやすいです。

なので、ベランダやお風呂の床タイルの斜め前方に見下ろした視界では、パース自体はあるものの、ほとんどパースは目立たず、他人から「実はベランダにもパースがついているよ。ほら床を見てごらん」とか指摘されてようやく気づけるほどしか、パースはついていません。またベランダ直前のその室内から、となりの家の一般の民家の窓ガラスも、パースがついているかどうかも、分かりづらい程度です。

いっぽう、立っている人間の 肩幅 や 胴の厚さは、どう考えてもベランダなどの通路よりも狭いし、窓ガラスよりも直立人間の横幅・肩幅・胴厚は狭いので、現実の人間の観察のさいに50センチ以上遠くにいる人体にパースが目立つことは、(現実の人間の視界では)ないでしょう。(ただし、相手か自分のどちらかが寝そべっていたり、あるいは相手が両手を前後に広げていたりしたら(歌舞伎のポーズみたいに)、近くにいる相手にパースがやや目立つ場合はあるかもしれません。)

私たちが書籍などで普段みる人間の顔写真は、実はやや望遠ぎみです(撮影者が一般にレンズの焦点距離を公表しないので不明だが、広角で被写体の顔を近づけて撮影すると顔がかなり歪んで(ゆがんで)撮影されて見苦しいので、普通はやや望遠だと思われる)。

美術などで資料として使う写真には、そういうゆがみは避けたいので、人物の顔写真などは望遠で撮影されていると思われます。

なので、正面顔の写真なら、手前にある鼻と、やや奥にある耳とでは、すでに望遠レンズによる奥行きの圧縮がついていて、ああいう構図の写真になっているわけです。

望遠レンズで遠くの人物を撮影した時、顔が小さく映っていても,写真のプリントアウト時に拡大してみて顔の大きさが標準レンズ撮影時に同じになるようにプリントアウトすると、写真上での顔の形はほとんど同じに見えます。

よく、テレビ業界などで、まるでバズーカ砲みたいに大きさが人間の顔みたいに大きい大型カメラがあるが、あれは何かと言うと、大型の望遠レンズです。大きいカメラほど焦点距離が長く、視野角も小さいでしょう。

望遠的なレンズで撮影するぶんには顔の形は歪まないようですね。

なので、その望遠の状態からやや前後に被写体が動いたくらいでは、望遠では奥行きによるパースによる左右位置の変化の影響は小さいので無視できます。同様に、あるいは顔を斜めにしたくらいでは、ほとんどパースの左右位置の変化の影響は表れないでしょう。

※ 望遠レンズによる奥行きの圧縮は、美術のほかにも、マスコミ報道の実写映像で応用されたり、または宣伝写真などでも応用される場合もあり、用途としては人数の密度を高めに錯覚させたい場合に使われる場合があります。たとえば商店街などが実際よりも混雑して盛況なように見せたい場合に、望遠レンズで写真撮影することにより奥行きを圧縮することで、写真を見た観客に、あたかもその商店街での客の密度が高いかのように錯覚させる撮影手法なども、昔からよくあります。
※ 一般の人間の顔写真に近いのは、望遠レンズです。望遠100mmレンズ、135mmレンズ、200mmレンズでも、ほとんど撮影された写真での顔の各部の位置は同じです。広角で撮影する場合は、70mmレンズなどで撮影すると考えられる。(広角30mmで近い人の顔を撮影しても、あまりに歪んでおり、顔写真としては使い物にならない。近似計算だが、まるで反比例のグラフのように、0(ゼロ)mm近くでは急速に写真が変化するが、しかし基準となる数値(この場合は70mm~100mmあたり)を超えると、あまり写真が変化しなくなる。)
※ もし幾何学的に正確に構図での被写体大小を計算するなら三角関数をつかった方程式で計算すればよいのだろうが、しかしそれだと計算が複雑すぎる。
なので、計算の手間をへらすために反比例として近似を考えると、割と、実物の構図と近い構図になる。
しかし、それだと絵を描くさいに作図が大変なので、さらに「近距離の場合だけ、被写体が離れると、マイナスの一次関数のように遠くほど被写体が小さくなる」、として近似している。

とにかく、あまり、通常の顔写真以上にパースの強調された写真というのは、発生しづらいのです。(遠くにあるものは、遠くにあるので縮小こそされているが、しかし拡大してみれば、形状はほとんど標準の距離の状態と(形が)変わらないのである。)

なので、被写体の顔がよほどカメラの近くにないかぎり(たとえば顔の どアップを至近距離(10~15センチくらい)で撮影してるのでもないかぎり)、けっして、よくみる顔写真以上のパースがつくことは通常、ありえないのです。

しかし一方絵の勉強として、あえて人物にパースを広角で強めにつけたイラストを練習することが必要な場合もあります。

また、漫画やアニメーションでも、あえてパースを実際にはありえないほどに強調する手法もあり、たとえば格闘マンガなどでカメラ方向(観察者のいる方向)に向かって出されたパンチをやたらと大きく描いて(この場合はパンチマンの)手のスピード感や迫力などを強調するような手法で、このような手法の呼び名はよく「嘘パース」(うそパース)と言われます。

また、アオリ、俯瞰という構図もありますね。 アオリとは、観察者が下側にいて、下側から上方向に向かって、物を見上げる構図です。

いっぽう、フカンとは、観察者が上側にいて、上側から下方向に向かって、下方を見る構図です。

例として、親子が立って、いたとしましょう。

親が、幼い(おさない)我が子を見るとき、フカンの構図でしょう。

いっぽう、幼い(おさない)子が、立っている親の顔を見るとき、アオリの構図でしょう。

演出的に「アオリ/フカンであり、なおかつ、広角パースを強調する」のような構図にする場合もあります。

現実にない空間を描く場合がある[編集]

美術では、作風にもよりますが、望遠パースと広角パースは、都合に応じて逆らって使われます。実写のカメラでは本来、望遠レンズと広角パースがひとつなぎののカットで混在する事はありませんが、しかし手描きの絵画やアニメなら、カメラでは不可能な映像を作ることも出来ます。

たとえば、有名アニメ映画監督の使う手法で、群集シーンなどで人物は望遠パースだが、建物などの背景は広角パースで描く、という手法もあります。有名な例では、アニメ映画『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』などで有名なアニメ会社スタジオジブリが、よくそういった望遠パースと広角パースとの混在で、群衆シーンなどの絵を書きます。(たとえば1998年ごろの日本テレビ系列の科学番組『特命リサーチ200X』で、ジブリのそういう作画技法がテレビで紹介された事もあります。)もし広角パースを人物にも使うと人物も縮小してしまいますが、しかし演出の都合で人物をなるべく大きく表現したい場合が多々ありますので、そういった場合に、人物だけ望遠パース的に、縮小率を小さくしたりする場合もよくあります。屋外シーンなどで時々、望遠パースと広角パースの意図的な混在が使われます。

また、マンガなどでも、「嘘パース」(うそパース)と言って、演出などの必要に応じて、カメラレンズならありえない程度に極端に手前のものが大きくなったパースを使う場合もあります。よく格闘マンガなどで、パンチで突き出した拳が、実際の構図よりも手がかなり大きかったりしますが、これも嘘パースの例です。

しかし、このようなパース混在の手法が比較的に容易に実装できるのは、手描きの絵の場合です。コンピュータグラフィックの場合、そのソフトウェアのシステムにもよりますが、嘘パースや広角・望遠の混在パースなどは、実装が難しくなります。CGで嘘パースなどを表現する場合、代替的に、そのシーンだけキャラクター3Dモデルを別途作成したりして、表現します。つまり、手前に来る人物だけ大きさを拡大した巨人のモデルにしたり、あるいは格闘のパンチシーンなら手だけ大きいキャラクターモデルを作ってそのモデルに入れ替えたりして表現します。たとえば2012年のアニメ映画『アシュラ』(ジョージ秋山 原作、東映アニメーション制作、プロダクションIG制作協力)でも、そのように3Dモデルを別途作成することで、CGでの嘘パースを実装しています。

なお、このような嘘パース撮影のためにモデルごと作り変える手法は別にCGアニメ業界が発明したわけではなく、日本でも昭和の特撮番組『ウルトラマン』の時代にすでに似たような手法があり、ウルトラマンの変身シーン(いわゆる「シュワッチ」(変身時の掛け声))のときの手前に突き出た右手を大きく強調するポーズを撮影するときに、実はミニチュアのウルトラマンの右手だけが左手よりも数倍も大きいミニチュアを使って撮影されています。

ともかく嘘パースなどは、上述のように作成に手間が掛かるので、(アニメ映画なら可能かもしれませんが、しかしプレステ作品などの)ゲームソフトの3D映像で表現するのは難しいかもしれません。

演出によるウソの映像は、パースのほかにも、光源によるウソも比較的に芸術業界では有名な演出です。

太陽はひとつですので、太陽光も一方向からやってくるのが、自然な光です。しかし、ポスターイラストなどでは、被写体の立体感を強調するために、しばしば、観客に分からない程度にさりげなく、光源を2~3個用意した構図のイラストが描かれている場合も多々あります。

イラストだけでなく、女優モデルなどの写真撮影でも同様の撮影技法があり、被写体の立体感を強調するために光源を複数用意して、暗室などでメインの光源1つとサブ光源1~2個で被写体の女優を照らして撮影するというテクニックも、ときどき使われている事もあります。