高等学校美術I/高校の学科の事情

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普通科以外との競争[編集]

普通科高校の人にはイメージがつきづらいかもしれませんが、世の中には、俗に(ぞくに)「美術高校」などと言われる、学科が「普通科」ではなくて「美術科」である公立高校(県立高校とか都立高校とか)があります。

なお、実際の高校名は、たとえば「○○県立△△芸術」高校みたいな名前で、音楽科・美術科・舞台表現科(演劇系)といった複数の学科の併設だったりします。演劇とかも、すでにそういう学科があります。「舞台芸術科」とか「舞台表現科」みたいな学科が、首都圏の芸術高校の公立高校にもうあります。

さて、普通科では、高校1年の「美術I」・「音楽I」・「書道I」の選択必修が2単位です(法律上は、ほか「工芸I」というのもある)。しかし美術高校では、美術の授業が25単位以上あります(法令などで、そう決まっています)。なお、この「25単位」という基準は、商業高校や工業高校などのそれぞれの専門科目数の基準と同じ単位数です。

普通科高校の一般科目の「美術」科目とは別に、専門科目の「美術」教科というのが存在しており、その美術教科のなかの「素描」(そびょう)科目とか「ビジュアルデザイン」科目とかを美術高校の生徒は履修しています。

どこの県にも、だいたいそういう美術科や音楽科の学科をもつ芸術高校が最低でも1校あって、毎年、各学校で各学科から40名以上(場合によっては80名以上)が卒業しています。

美術系の仕事に就きたい場合、そういう美術科卒の人達との競争になるのです。

さらに美術科とは別に、少なくとも首都圏や京都・大阪などでは、「総合科」という学科の総合高校のなかに美術系の選択科目群があったりします。

べつに「彼らとの競争に勝つために美術にもっと打ちこめ」と言いたいわけでもなく、「美術なんて目指すな」と言いたいわけでもなく、そもそも上記のような美術高校や総合高校が日本には昔から存在していて(平成初期にはもう、日本各地に存在していました)、もし美術業界を志望する場合はそういう層との競争になるという事を知ってください。

普通科卒・商業高校卒などの人のよくある勘違いで、「日本でイラストレーターを目指していたり趣味にしていたりする人、もっと少ないと思ってた」というのは、普通科高校や工業高校・商業高校などの出身者が良く言う事です。

普通科の進学校と商業高校だけを見て、けっして「うちの県出身の、アニメ絵風のイラストレーターは少ないから、私が初の、県のアニメ絵風のイラストレーターになろう」とか、勘違いしなくでください。そういう競争相手の高校生はもう、毎年、各県の美術高校にたくさんいます。

美術高校だけでなく音楽高校も同様です。

美術高校は、高校野球などスポーツで話題にならない高校であるので、高校の存在自体を知らない人や、高校受験のときに模試などの地元の公立高校一覧などで名前だけ聞いたが今は忘れ去ってる人も多いですが、しかし、そういう芸術系の高校が各都道府県にもう既にあるのです。そして、多くの美術高校は卒業生を毎年、何十人も各県から送り出しています。


世間では、もしかしたら「美術に強い高校は、たとえば東京の私立の女子高みたいな、お嬢様学校が・・・」とか思ってるのかもしれませんが(マンガとかでもそんな感じのを見かけます)、現実は違います。25単位の時間をかけて美術や音楽をやってる専門高校(普通科以外の学科の高校)の人に、普通科の人では技量と専門知識では及びません。

明治時代とか大正時代なら、そういう東京・神奈川や京都・大阪・兵庫とかの私立のお嬢様学校的な人のほうが得意だったのかもしれませんがね・・・。今はもう21世紀の令和です。

教育行政や大学の本音[編集]

簡単に言うと、表立っては政府もマスコミも言わないですが、たとえば、どこの都道府県も内心では「芸術やスポーツには、仕事としての需要が小さい」と思っています。その証拠に、日本での高校の配置で、美術科や音楽科などの芸術系の高校の数や、体育科の高校の数は、かなり少なめです。そして何より、「美術・音楽は、基本的には単なる娯楽であり、学問との結びつきは仮にあっても小さく間接的なものにすぎない」と思っています。

その証拠に、法律上は普通科の「美術」科目は「美術III」までありますが、しかし多くの高校は美術IIまでしか履修できませんし、まして私立進学校にいたっては美術Iまでが大半です。

国語教師や数学教師や英語教師が校長になる中学高校はあっても、一方で美術教師や音楽教師が校長になる学校は、普通科高校では、ほぼ皆無だと思います。

また、大学では、ほとんどの大学で、美術や音楽の授業はなくなります。体育ですら、大学では2020年代ではもう、体育は大学の必修科目ではないです(なお、昭和の昔は、体育は大学では必修でした)。

家庭科も、大学では存在しない大学が、大半です。

医学部に行くと、解剖(かいぼう)スケッチや顕微鏡スケッチ(顕微鏡で見た映像を模写する)の実習はあったりするらしいですが、しかし芸術性は求められていません(形状の理解や伝達などが目的)。そういう理系の大学でのスケッチ実習の授業では、「芸術性が求められていない」と指導するくらい、らしいです。


さらに、世間の多くの消費者の中では、芸術の中にも格差があり、美術はその地位が低めです。

芸術の中でも、たとえば政治家が書道をしたりもしますが、しかし美術・絵画は基本的に政治家はしません。音楽や書道と比べて、美術は低く見られています。天皇家も、音楽をするのに美術はしないのが基本です。

大学でも、音楽室のある大学は比較的に多くあっても、美術室は美大と教育大を除けば、ほぼ皆無です。

口先では「日本のマンガ産業やアニメ産業は大切で・・・(以下略)」みたいなことを言う学者や大卒の評論家はいますが、しかし彼らの大学には、そもそも美術室すら無いのが現実です。

大学によっては絵画の飾ってある大学もあるかもしれませんが、しかし美術室は無いのが普通です。たとえるなら、大学にトイレはあっても、トイレ清掃員を育成する授業も部屋も無いのと同じです。