高等学校美術I/高校美術教育そのものについて

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

高校美術で習わないかもしれないこと[編集]

基本[編集]

「自分は何を知っているか」だけでなく、「自分は何を知らないか?」という苦手分野の把握とか「どの程度知っていて、どの程度知らないのか」という習熟の程度の把握などの事を知るのも仕事などの集団作業では重要なことです。

こういうのを「無知の知」とか、あるいは心理学用語や教育学用語で「メタ認知」とも言います。

こういう「無知の知」のため、高校美術の欠点も把握しておきましょう。

高校の美術に関しては、下記のような内容が実務と比べると不足しているかもしれません。

そのほか[編集]

ダンスとか演劇とか、日本では小中高の芸術教育に基本的に含まれないが、海外ではニュージーランドなど、ダンスや演劇を芸術教育として扱う国もある[1]。ご参考に。

なお、ダンスは日本では体育で中学校カリキュラムにて扱っている。

日本では高校の芸術教育は音楽、美術、書道そして工芸からの選択となっているが、外国では音楽、美術、演劇という科目構成になっている国も多い[2]

日本の芸術教育は、国際的には、少し例外的なようである。

演劇の公立高校もある

なお、日本の高等学校でも、「芸術総合」高校と名付けられている高校には、美術・音楽の専門科目だけでなく(美術IIではなく専門科目「ビジュアルデザイン」とか。音楽IIではなく専門科目「ソルフェージュ」とか)、演劇(「舞台表現」ともいう場合がある)の専門科目も存在している。

演劇の専門科目名は学校によって異なっているので、当ページでは説明を省略。

指導要領では、「演劇」の学科は定められていない。そのためか、演劇科の検定教科書というのは無い。

すでに公立高校に演劇の高校があるので、いちいちニュージランドを手本に「日本の高校教育にも演劇教育を輸入せねば!」とか模索する必要は無い。

CG実習の授業の有無について、ほか[編集]

高校の実情[編集]

小学校の図工や、中学・高校の美術の授業は、設備などの関係もあってか、コンピュータはあまり使いません。

例外として芸術系の高校でない限り、CG(コンピュータ・グラフィックス)の実習は、あまり習わないと思います(2次元絵・3次元絵とも)。なぜなら普通の中学・高校では、美術室などに専用コンピュータを用意できません。情報科目用のコンピュータ室はどこの高校にもあるでしょうが、しかし普通の高校のコンピュータ室では絵を描けるようにはなっていません。(たとえば一般的にコンピュータ室では、消しゴムや絵の具や液体などは厳禁のはずです。)

ペンタブレット

タッチペンやペンタブレットなどのデバイスが多くの高校では用意できません。一般的な高校ではコンピュータ室も美術室も、タッチペンなどは全く用意していないだろうと思います。

なお、美術高校や芸術高校と言われる専門学科のある高校では、すでにペンタブレットを導入しています(しかも液晶ペンタブだったりする)。

設備の都合などで中学高校の美術ではコンピュータを使いませんが、しかし現代の商業イラストレーションの仕事の少なくない割合で(つまり、そこそこ多めの割合で)、コンピュータおよびタッチペン(またはペンタブレット)を使って制作されている作品も多々あることは念頭に入れておいてください。


ほか、美術の実習などでポスターなどを作る場合、高校側の設備の都合で、文字なども手書きで描いたりすることも多々ありますが、しかし校内に提示されている各種の学外制作のポスターの文字を観察すれば分かるように、商業ではポスターの文字は基本的にはコンピュータ用の書体を使います。

文字が変形している場合でも、すでに専用ソフトウェア(Adobe illustrator や inkscape など)に、ベクター形式のフォント文字を変形させて描画する機能があったりして、決していた絵描きがいちいちフォントを自作しているわけではありません。フォントも、無料のものから有料のものまで多くのものが存在しているので、いちいちフォントを作る機会は仕事ではあまり無いでしょう。


ほか、一見すると手描きのように見える題字でも、実はすでにデジタルフォントとして販売または配布されているものもあり、商業ポスターなどでは多く使われています[3]


ほか、ポスターが画像データの場合や、あるいは印刷する場合は問題ないのですが、webサイトでフォントを表示する場合、閲覧者側のコンピュータにインストールされていないフォントは表示されずに、別のフォントに置き換わったりします[4]

こういう事にも気を付ける必要があります。

ポスター中のフォントについては、ポスターごと画像(PNG画像など)にしてしまうのも手です。


題字デザインなどでよくあるミスのひとつとして、影の付けすぎがあります。

影をつけすぎると、読みづらくなります。私たちが文字を読むときは、文字の黒い部分だけでなく白い部分(または背景色の部分)も含めて、セットのイメージで覚えています。なので、その背景の部分に影が入り込むと、分かりづらくなるのです。

なお、美術としてイラストレーターが文字などを描くことを「レタリング」と言い、中学高校の美術教育でもレタリングとして分類されています[5]


配色

世の中には、目に障害があって、色の区別ができない人がいて、そのような病気のことを色弱や色盲などと言います。

種類もあるのですが、たとえば赤と緑の区別ができないタイプや、それとは別に赤と黒との区別ができないタイプもあります。色弱・色盲には、P型とかD型とかのタイプがあります[6]


医学的な話を省略したいので、このような問題にどう対処すればいいのかというと、基本的には、色だけで情報を教えるのを避けるのが良いです。


色はヒント程度にしておいて、色を見なくても、文字でも情報が分かるようにするとか。

なお、赤と緑の区別がつかないといっても、明るさを変えることで、たとえば暗い赤と明るい緑とすれば、区別つきます。(明るい赤と暗い緑でも区別が可能)

「明度」(めいど)を知ってれば、明度に差をつけることで、色弱の対策になります[7]


スマホアプリなどで、色弱・色盲者にどう見えるかをシミュレーションして確認できるアプリもあります[8]

Adobe の Photoshop でも、すでにそういう色弱シミュレーション機能があります。


その他、デザインの常識として、余白があります。

ポスターに文字を描くときは、ちゃんと紙の外周部に余白(「マージン」[9]ともいう)をつくる必要があります[10][11]

余白が無いと、文字が読みづらいです。余白の部分に画像が来てもいいですが、しかし文字は余白にはおかないようにしましょう。

中学で習った事も高校範囲です[編集]

本wikiの本ページでは美術1では中学の復習までしませんが、たとえば美術1で色相環を復習しています[12]

高校での色相環の内容は、中学美術とほぼ同じです。


水彩画や版画なども、すでに中学で習っているでしょうが、高校でも美術1の教科書などで、また習います[13][14]


高校で新しく習う可能性あるのは、もし美術3まで履修できるなら、高校3年生あたりで、もし油絵またはアクリル絵具でしょうか。いちおう、教科書会社のwebサイトでも油彩画の技法なども紹介しています。

しかし、ほとんどの普通科高校では、そもそも美術3までは「美術」科目が存在せす(美術1で終わりか、美術2で終わりの学校が多い)、普通科高校では、なかなか油絵・油彩画などを扱わないと思います。


2020年以降の現代、学科に美術科のある高校でないと、美術3の履修は、なかなか難しいと思います。

※ かつて1990年代、日本にまだ美術学科の高校が少ない時代があって、そういう時代だと普通科高校でも美術3や音楽3など履修できる自由度の高い高校も多かった時代もあったが、しかし2020年代以降の現代の普通科高校ではそういう履修は難しくなってしまった。

いちおう、美術1の検定教科書でも、目次を見れば、油絵の具や、アクリル絵の具、日本画の絵の具も紹介しています[15][16]。しかし、普通の高校普通科の多くでは、油絵およびアクリル絵、日本画の実習は、まず行いません。


なお、普通科高校では、美術教科書の内容すべては、実習できません。大幅に時間不足です。美術1や美術2でもそうです。

「彫刻」とか美術1の目次にありますが、まず、やりません。やるとしたら、紙粘土などをつかった塑像(そぞう)でしょうか。


逆に、美術の検定教科書にはない七宝焼きとかでブローチとかの初歩的な工芸品を、もしかしたら美術2あたりで作るかもしれません。そういう高校もチラホラ聞きます。公表されてる学校だと、日大の付属高校がそう[17]。芸術コースのない普通科高校でも、美術部用に購入でもされた七宝焼きの窯(かま)を普通科美術の授業にも流用したりなど。

「工芸」科目で使う七宝焼き窯を流用してるだけでは・・・と思うかもしれないが、しかし実は「工芸」科目を開設していない高校も多い。多くの高校が、中学でも習う美術・音楽・書道 の3つまでしか開設していなかったりするのが現実。だから美術高校または工業高校でないのに「工芸」の科目がある高校は、じつは設備のいい高校なのである。

もし七宝焼きを実習するとしたら、学年は美術2~美術3だろうか。なぜなら、本来なら美術科目ではなく工芸科目の内容なので(しかし実際は20世紀の昔から、七宝焼きが高校美術でも容認されているが)、選択必修の美術1で七宝焼きをやるのは、やや難しいかもしれないからである。


教科書会社の光村書店のサイトで、美術2の目次に「シルクスクリーン」とか「銅版画」とかあったが[18]、まあ、多くの高校では、この実習は無理だろう。シルクスクリーンなどの実習の話をまず聞かない。


私立高校のサイトとか見ると、CG教育でAdobe(アドビ)のフォトショップとかイラストレーター(※ソフト名)とかその他のアドビソフトを使ってたりする。ほか、私学のICT機器の導入のアピール動画とか見ても、フォトショップとかアドビソフトが定番である。Adobeのソフトのセットは、まとめてでも販売されてて、Adobe Creative Suite (「CC」と略)とか Adobe creative suite (「CS」と略)とかで販売されているが、かなり高い。(学割や学校一括購入による値引きが効いているとはいえ、高値だろう。)Adobe CS をもし個人で買うと年間7万円以上とか、かなり高い。

公立の普通科高校に(および、農業高校や工業高校などの、美術高校以外の専門高校には)、そんなソフトのカネはないかもしれないので、公立だとそういうのは実習できないかも。


ソフトウェアの定額サービス化の傾向

むかし、ソフトウェアは1度買えば、壊れないかぎりは、ずっと使い続けることができる販売の形態が主流でした。

しかし近年、ネットサービスなどの多くは、利用期間の長さに応じてお金を払う定額制になっています。月額料金など、期間限定でまとめて料金を払う仕組みであり、これを「サブスクリプション」と言います[19]

※ 高校の帝国書院の教科書では、ネットフリックスの写真が、サブスクのコラムで写っています。

Adobe の CC や CS の年額支払いもサブスクリプションです。


生成AIについて[編集]

※ 美術に限った話ではないですが、上述のITスキルの説明のついでに本ページで説明します。

生成AIについては、検定教科書には書かれていませんが、文科省が授業などへのAI活用を容認しています。[20]

ただし、著作権などには注意してください。

なお、AIとは「人工知能」のことです。(※ 読者は「言わなくても分かるわい」と思うかもしれないが、じつは中学では2023年時点では「AI」の単語を習わない可能性があるので、念のため「AI」の意味を説明した。)

文科省によるAI利用のガイドラインのPDFでは、「透明性に関する懸念」として表しています。[21]

現状、生成AIには権利問題などがあるため、作品の本体には組み込まないほうが安全かもしれません。アイデア出しなど、作品の前段階で非公開の段階でのみ限定的に使うとか。(ゲーム企業などはそうしています(つまり、作品本体には組み込まず、書類などにのみ生成AIによる生成イラストを使っている事例がある。) )


不適切な活用例として、文科省は、

『各種コンクールの作品やレポート・⼩論⽂などについて、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として応募・提出すること(コンクールへの応募を推奨する場合は応募要項等を踏まえた十分な指導が必要)』

という悪例を上げています[22]


ほか、生成AIに対する生成の命令に、個人情報やプライバシーに関する情報などを入力してしまうと、AI・サーバーが個人情報を学習して覚えてしまうので、第三者が生成命令をしたときに個人情報が漏洩してしまう可能性があります。

文科省のPDFでも、その懸念を出しています。生成AIに個人情報などを入力してはいけません。

よく分からなければ、無理して生成AIを使う必要もありません。文科省は意訳「注意すれば、AIを使ってもいいよ」という感じのことを言ってるのにすぎず、決して「使え」なんて文科省は言っていません。

  1. ^ 田中耕治 編『よくわかる教育課程 第2版』、ミネルヴァ書房、2018年2月28日 第2版 第1刷 発行、P.168
  2. ^ 平田オリザ 著『「演劇を生かした教育」』 2023年02月07日 (火) 2023年12月03日に閲覧.
  3. ^ 平本久美子 著『失敗しないデザイン』翔泳社、2020年7月15日 初版 第1刷発行、P53 や P144
  4. ^ 瀧上園枝 著『やさしいデザインの教科書 改訂版』、エムディエヌコーポレーション、2018年4月21日 初版 第1刷発行、P77
  5. ^ 山崎正明 著『美術の授業がもっとうまくなる50の技』、明治図書、2020年11月 初版 第4刷 刊、P26、
  6. ^ 間嶋 沙知 著『見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン』、マイナビ、2022年11月30日 初版 第1刷 発行、P40
  7. ^ 間嶋 沙知 著『見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン』、マイナビ、2022年11月30日 初版 第1刷 発行、P55
  8. ^ 間嶋 沙知 著『見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン』、マイナビ、2022年11月30日 初版 第1刷 発行、P41
  9. ^ 坂本伸二 著『デザイン入門教科書』、SBクリエイティブ、2015年7月30日 初版 第2刷 発行、P22
  10. ^ 平本久美子 著『失敗しないデザイン』翔泳社、2020年7月15日 初版 第1刷発行、P148
  11. ^ 坂本伸二 著『デザイン入門教科書』、SBクリエイティブ、2015年7月30日 初版 第2刷 発行、P22
  12. ^ ポイント3 充実の巻末資料 | 令和4年度版 美術1 | 高等学校 美術 | 光村図書出版
  13. ^ 教科書|高校生の美術1|高等学校 美術/工芸|日本文教出版 2023年9月22日に確認.
  14. ^ [ https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/k-bijutsu/04bi/07 目次 | 令和4年度版 美術1 | 高等学校 美術 | 光村図書出版 ] 2023年9月22日に確認.
  15. ^ 教科書|高校生の美術1|高等学校 美術/工芸|日本文教出版 2023年9月22日に確認.
  16. ^ [ https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/k-bijutsu/04bi/07 目次 | 令和4年度版 美術1 | 高等学校 美術 | 光村図書出版 ] 2023年9月22日に確認.
  17. ^ 【日本大学高等学校・中学校】美術科の学び | eduスタッフ訪問記
  18. ^ 目次 | 現行版 美術2 | 高等学校 美術 | 光村図書出版 2023年9月22日に確認/
  19. ^ 帝国書院『05新公共総合特色書.indd - 06公共_内容解説資料.pdf』
  20. ^ 生成AIの利用について:文部科学省
  21. ^ ⽂部科学省 初等中等教育局『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』、令和5年7⽉4⽇
  22. ^ ⽂部科学省 初等中等教育局『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』、令和5年7⽉4⽇