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高等学校言語文化/小諸なる古城のほとり

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本文

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小諸(こもろ)なる古城のほとり
雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なす蘩蔞(はこべ)は萌えず
若草も()くによしなし
しろがねの(ふすま)岡邊(おかべ)
日に溶けて淡雪󠄁(あわゆき)󠄁流る

 

あたゝかき光はあれど
野に滿つる(かをり)も知らず
淺くのみ春は(かす)みて
(むぎ)の色はつかに青し
旅人の(むれ)はいくつか
畠中(はたなか)の道󠄁を急ぎぬ

 

暮れ行けば淺閒(あさま)も見えず
(かな)佐久(さく)の草笛
千曲(ちくま)川いざよふ波の
岸近󠄁き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飮みて
草枕しばし慰む

注釈

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  • 小諸なる古城:長野県小諸市にある小諸城跡。現在は懐古園という公園になっている。
  • 遊子:旅人。
  • 蘩蔞:春の七草の一つ、「はこべら」のこと。
  • 藉く:「敷く」の異表記。
  • よしなし:方法がない。漢字では「由無し」で、「由」は「知るよしもない」の「よし」である。
  • しろがね:銀。ここでは、白銀色の雪を指す。
  • 衾:寝具。布団。ここでは、雪が降り積もっていることを指す。
  • 岡邊:ここでは「野辺」の意。
  • 淡雪󠄁:うっすらと積もって柔らかく消えやすい春の雪。
  • はつかに:(わず)かに。
  • 畠中:畑の合間の。
  • 淺閒:浅間山。群馬-長野県境にある標高2568mの活火山。1783年の噴火では、同年のラキ火山・グリムスヴォトン火山の噴火と合わせて天明の大飢饉やフランス革命の原因となる飢饉を引き起こした。
  • 佐久:現在の長野県佐久市。かつて中山道の宿場町として栄えた。
  • 千曲川:信濃川の長野県における呼び名。蛇行が激しく洪水を多く引き起こしたことが名の由来。
  • 岸近󠄁き宿:千曲川のほとりにある中棚鉱泉のこと。
  • 草枕:旅。旅の仮寝。

鑑賞

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この『小諸なる古城のほとり』は、島崎藤村の詩集『落梅集』に収められた近代詩である。

島崎藤村は1872年生、1943年没の詩人・小説家で、浪漫主義・自然主義家として活躍した。代表作に『破戒』『椰子の実』『初恋』などがある。

藤村は、1899年4月から1905年3月までの6年を、小諸義塾の英語・国語教師として過ごした。中棚鉱泉および隣接の水明楼(小諸義塾塾長・木村熊二の書斎)を度々訪ねたといわれる。

小諸市は『文学国語』の「ラムネ氏のこと」にも登場する。