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高等学校商業 経済活動と法/債務不履行

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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債務不履行

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契約が結ばれたが債務者が債務を履行しない事や、あるいは債務の履行が不完全なことを、債務不履行(さいむ ふりこう)という。

債務不履行には、履行遅滞(りこうちたい)、履行不能(りこうふのう)、不完全履行(ふかんぜんりこう)などがある。

履行遅滞

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たとえば、ある物の売買の契約で、先に代金が支払われ、売り主Aが買い主Bに対して「今月末に商品を引き渡す」と契約したにもかかわらず、売り主が翌月になっても商品を引き渡さなかった場合が、履行遅滞(りこう ちたい)である。

つまり、約束の期限になっても、債務が履行されないことが履行遅滞(りこう ちたい)である。 債権者は、履行の強制や、損害賠償、契約の解消、などが出来る。


損害賠償の請求

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履行遅滞の場合、債権者は損害賠償を、その債務者に請求できる。(民415) けっして、履行遅滞後に起きた事の費用を、なんでもかんでも請求できるわけではない。請求できる範囲は、原則として、その履行遅滞によって、通常に発生するはずの損害の請求分だけである。(民416)

損害賠償の支払い方法は、損害を金銭に見積もって、その金額が金銭にて支払われるのが、通常である。(民417)

契約の解除

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履行遅滞によって債務不履行の場合は、解除をする前に、まず原則として、債務を履行するように催告するなどして期間を与えなければならない。相当の期間を定めて、催告をしなければならない。(ただし、判例により、催告そのものが短くても、催告の日から充分な日数が経過すれば、契約を解除できる。 ※ 参考文献: 川井健『民法入門』、有斐閣、第7版、281ページ)

相当の期間を定めて催告をしたにもかかわず、それでも債務が履行されなければ、債権者は、その契約を解除することもできる。契約を解除した場合、契約が始めから無かった事になる。

例外的に、たとえばクリスマスのイベントのために商品を納品する債務などのように、時期を過ぎたら価値が無くなる場合の債務は、催告なしで解除できる。(民542)

売買の契約を解除した場合、売り主は代金を返却する義務があり、買い主は引き渡しを受けていた物を返却する義務がある。(民545)このように、お互いに契約前の状態にもどす義務がある。このように、契約の解除によって、債権者と債務者の双方が、お互いに契約前の状態に戻さなければならない、という義務を原状回復義務という。(※ 「原」の字に注意。「現状」ではなく「原状」。)

履行不能

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たとえば住宅の売買において、買主が代金を支払ったが、売り主の過失によって、家屋が焼けて無くなってしまった場合は、「履行不能」(りこう ふのう)に分類される。

債務者の過失によって、債務が履行が物理的に不可能になってしまった場合のことを履行不能という。

(いちおう、同じ建物を建て直したりすれば、原理的には履行は可能であろうが、しかし現実的には「履行不能」として扱われる。法学書でも、売り物である家屋が焼失したような場合は「履行不能」として扱ってるのが普通。)

※ なお、売り主の故意・過失によらずに(例: 落雷、隣の家からの火事の類焼などによって、)焼失したような場合は、「危険負担」の問題になる。『高等学校商業 経済活動と法/売買の売り主と買い主の責任』で危険負担の話題を解説している。

履行不能の場合、債権者は、債務者に履行不能についての損害賠償を請求できる。(民415)(※ 「履行不能」は、債務者の責めに帰すべき理由なので、損害賠償は債務者に請求される。) 賠償の金額は、その物の価格を賠償するという「填補賠償」(てんぽ ばいしょう)をする事になるのが、このような損害賠償の場合では一般的である。

または、債権者は、履行不能となった契約を解除することもできる。また、履行不能のため契約解除する際には、催告は不必要である。(民543)なぜなら、仮に催告したところで、たとえば売り物の家屋焼失の場合なら、そもそも売り物が物理的に存在しない状態なので、「引き渡し」という債務の履行の見込みが無いので、そもそも催告の必要性が無いからである。

※ では、損害賠償を請求した上で、さらに解除も出来るかどうか? それは高度な問題であるようで、法学書にもハッキリとは説明されておらず、よって、このwikibooks高校教科書では説明を省略する。

不完全履行

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買った本に落丁や乱丁があった場合のように、形式的には債務の行動が行われているが、債務者の責めに帰すべき理由によって、その債務が完全には履行されていない場合のことが不完全履行である。

「自動車を買ったが、新車なのに故障しててヘッドライトが付かない」(東京法令出版の検定教科書にある例)のような場合も、不完全履行である。

※ 法学書の有斐閣『民法入門』(著:川井健)にある例では、買ったばかりのテレビが壊れてた場合も、不完全履行である。

債権者は、不完全履行をした債務者に対し、新品に交換してもらうなどのように、債務者に完全な履行をすることを請求できる。この場合、履行遅滞と同じように扱われる。

また、あらためて完全に履行しても意味のない債務の場合、または、あらためて履行するのが不可能な債務の場合なら、損害賠償を請求する事ができる。(民415)

強制執行

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債務の履行期が来ても債務者が履行しない場合(つまり、債務不履行の場合、)、債務者に履行を強制するためには、債権者は裁判所に訴え出て、そして履行を命じる判決をもらう必要がある。判決が出たにもかかわらず、債務者が債務を履行しなければ、国家権力によって、強制的に履行させる事になるが、これを「強制執行」(きょうせい しっこう)という。(民事執行法22)

強制執行には、次のように直接強制、代替執行、間接強制などの種類がある。

直接強制

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たとえば、売買の契約で代金を払ったにもかかわらず、売り主が買い主に品物を渡さないという裁判での強制執行の場合なら、国家権力が、売り主から、その品物を取り上げて、その品物を買い主に引き渡すのが、合理的である。このように、債務者から物を取り上げて、それを債権者に引き渡すことが直接強制である。

また、金銭支払いの債務を強制する場合は、債務者の財産を差し押さえて、これを競売(けいばい)にかけて金銭に変えて、そして金銭を債権者に引き渡す。(民事執行法172)

なお「競売」とは、いわゆる「オークション」「せり」のようなものであり、つまり「競売」とは、まず公開して多数の買取り希望者を集めて、どの金額で買うかをそれぞれの買取り希望者から聞いて、最高値で買うと約束した人に買ってもらうという方法。

代替執行

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(※ 未記述)

間接強制

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たとえば、債務を負っている人とその債務の内容が、著名なピアニストが債務者であり、ある仕事でピアノを引くことが債務であったり、または、著名な画家が債務者であり、ある仕事で絵を描くことが債務である場合などは、第三者に債務をしてもらっても無意味だし、かといって本人が債務を履行しようとしないので債権者は困ってるわけだから、なんらかの方法で、債務者に心理的に強制させる必要がある。

そこで、裁判所が「債務を履行しない場合には、債権者に対して、1日あたり金銭 ◯◯円を債務者は履行までのあいだ支払いつづけろ」という判決をして、それを強制するのが、間接強制である。


なお、夫婦間の同居義務(民752)については、判例により強制執行できない。(大判昭和5年9月30日民集9巻926頁) 夫婦間の同居義務は直接強制では強制できないし、間接強制もできない。(※ 検定教科書の範囲。)(※ 参考文献: 有斐閣『民事法入門』、野村豊弘、第6版、) 同居義務が強制執行できない理由は、自由意志を尊重するという名目である。

参考: 債務不履行の損害賠償請求と強制執行

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債務が履行されない場合、民法(第415条)を根拠に、損害賠償を請求することもできる。 あるいは、民事執行法の手続きにもとづいて、履行を強制する事もできる。

※ 契約の解消によって債権者が債権を放棄することも可能だろうが、債権者に利点が無い。なので、債務不履行の際に、債権者が、おそらく現実に行う行為は、損害賠償請求 か 強制執行の手続き かの、2つのうちの、どちらかだろう。

くわしくは前の節で説明してあるので、興味があれば、それぞれの節を参考のこと。

なお、「強制執行させたが、それでも債権者に損害が残る」というような場合には、さらに損害賠償請求も出来る。(※ 参考文献:三省堂『現代法入門』、有賀恵美子ほか、2014年第4刷)(※ 範囲外) このように強制執行と損害賠償の2つが行われる場合もある。


範囲外: 強制執行妨害罪

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なお、強制執行をされる対象の財産(預金も含む)を隠す行為は犯罪である。また、財産を隠す目的にもとづき財産を第三者に売却したりする行為も、犯罪である。これらのように、強制執行の対象の財産を隠す行為は、強制執行を意図的に妨害してると見なされ、強制執行妨害罪という犯罪になる。(刑法96の2)(参考文献: 有斐閣『刑法2各論』町野朔ほか、第2版、255ページ)

公務執行妨害罪(刑法95の1)と強制執行妨害罪(刑法96の2)とは違う犯罪なので、混同しないように。