シュメール語/文法入門/所有接辞

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所有接辞[編集]

Sumerian seal

総論[編集]

どんな言語であっても、「私の」羊と「あなたの」羊を区別する方法は必要なものです。多くの言語では、例えば英語での「my」と「your」のようなこの役割のための単語を持っています。日本語の場合は格助詞「の」を使います。シュメール語では代わりに接尾辞を使うわけです。それほど特別なことではありませんから身構えなくても大丈夫ですよ。


さて、シュメール語での所有接辞の使い方は複数形標識.ene [𒂊𒉈]と同じです。「彼女の女王」は英語ではher queen、シュメール語ではnin.ani [𒊩𒆪𒀀𒉌]となります。(ninaniの間の点は論理的な区切りを示すために便宜的に置かれているもので、発音には影響しません)独立した単語か接尾辞かといった純粋に文法上の違いの他は特に変わるところはありません。


所有接辞の一覧[編集]

古代言語の文法を示すのにこのような表をよく使うのですが、左側に単語を、右側に人称、単数か複数か、男性格か女性格かを示しています。 シュメール語では男性格か女性格かではなく生物格と非生物格になるのですが(後ほど説明します)、まあ同じようなものです。特に表記がなければ生物格を示しています。


.ĝu 𒈬 私の 一人称単数
.zu 𒍪 あなたの 二人称単数
.ani 𒀀𒉌 彼の/彼女の 三人称単数
.bi 𒁉 それの 三人称単数、非生物
.me 𒈨 私達の 一人称複数 生物
.zu.ne.ne 𒍪𒉈𒉈 あなた方の 二人称単数
.a.ne.ne 𒀀𒉈𒉈 彼らの/彼女らの 三人称複数

[Thomsen §101]

例題[編集]

いくつかの接辞を見てきましたので、さっそく使ってみましょう。名詞に接尾辞をくっつけるだけです。簡単ですよ。


  1. ama.ĝu [𒂼𒈬] = 私の母
  2. lugal.ani [𒈗𒀀𒉌] = 彼の王 または 彼女の王
  3. nin.a.ne.ne [𒊩𒆪𒀀𒉈𒉈] = 彼らの女王

どうでしたか?

接尾辞に関するあれこれ[編集]

正書法(筆記)と音韻学(発音)[編集]

さきほどの表をみて最初に気づくのはĝの存在でしょう。これは何でしょうか? これはシュメール語に存在したある音を表現する文字ですが、残念ながら私達はまだこの音が実際にどのように発音されていたかわかっていないので、便宜上近いであろう音(この場合はg)にハットをくっつけて通常の/g/との違いを表現したものです。現時点ではこの音はkingの最後の鼻音、音韻学でいう/ŋ/の発音に近いものと推定されています。シュメール語の表記法は表音文字ではなく、唯一の音韻学的証拠は後の時代のアッカド語での発音ですから確実とはいえませんが、ともかく/g/と区別するためにも/ŋ/のように発音することにしてください。

注意:ĝはトルコ語のアルファベットにあるğとは異なります。

複数形の扱い方[編集]

所有接辞のうち複数形のものは、単数のものに/ene/の音を加えたものによく似ていることに気が付きましたか? 接辞の合成はシュメール語の典型的な特徴です。実際のところ、これらは単数の所有接辞にシュメール語/文法入門/複数形で学んだ複数形標識.ene [𒂊𒉈]を付け加えたものなのです。


これは膠着語の特徴です。基本単語を修飾する多くの小さな接辞があり、独立した接辞をいくつも組み合わせて一つの意味ある語を形作るのです。


例えば、シュメール語のbad.a.ne.ne [𒂦𒀀𒉈𒉈]という語を見てみましょう。bad [𒂦]は「壁」を意味します。ここに.aniを付け加えることで「彼/彼女の壁」となり、さらに.eneを追加することで「彼らの壁」となるのです。(.aniの最後のiの発音は後に続く.eneeに飲み込まれています)ですから、シュメール語の接辞を分解していけば中身を解析することができます。とってもシンプルですね!


Treatment of Classes[編集]

Also, we see that there is only one case of a non-sentient class posessive, namely the 3sg. You might ask how to represent an idea like the base of the cliffs - and you'd be right to ask. We see several mechanisms used to work around this limitation, but in practice, it's almost always clear what the text is saying even though we might say it in a different way in English.


発音の変化[編集]

(この節の内容は覚えなくても大丈夫です。後でまた説明しますよ)

所有接辞が属格処格に付属したとき、単独の接辞の最後が/a/に変わる傾向があります。


  • .ĝa [𒂷] - 私の (一人称単数、sentient, 属格・処格)
  • .za [𒍝] - あなたの (二人称単数 sentient, 属格・処格)
  • .ana [𒀀𒈾] - 彼の/彼女の (三人称単数, 属格・処格)
  • .bi.a [𒁉𒀀] or .ba - それの (三人称単数 non-sentient, 属格・処格)

 語彙[編集]

  1. til [𒋾] = 命
  2. bad [𒂦] = 壁
  3. Uruk [𒌷𒀔] = ウルク, 初期メソポタミアの主要な都市
  4. e [𒂍] = 家, しばしば神殿
  5. e.gal [𒂍𒃲] = 宮殿

例題[編集]

[追加の語彙:接尾辞.ak [𒀝]は属格を表現するもので、X Y.akは「YのX」と読みます。また.ir [𒅕]は「のための」を示す接尾辞です。]

シュメール語から日本語へ:

  1. til.zu [𒋾𒍪]
  2. bad.bi [𒂦𒁉]
  3. nin.ani [𒊩𒆪𒀀𒉌]
  4. bad Uruk.ak [𒂦𒌷𒀔𒀝]


日本語からシュメール語へ:

  1. 彼女の子のために
  2. 我が王
  3. 彼の家
  4. あなたの神殿の女王


歴史[編集]

シュメール語に対する私達の知識の多くは紀元前3000年から紀元前1500年にかけて楔形文字で記された粘土板から得られたものです。葦の茎を(花瓶に花を活けるためにそうするように)斜めに切り落としたものを使い、粘土に細かな刻みをいれて文字を記したのです。この刻み目は三角形を引き伸ばした、つまりくさびのような形に見えるので、楔形文字と呼ばれるようになりました。

これらの粘土板に記された主題は多岐にわたります。文明の繁栄ぶりから予測できる通り最も多く見つかっているのは公的書類や取引記録の類です。続いて、大きな建物の跡からは奉納の記録が多く見つけられています。もう少し希少なのが文学や詩といったところです。


文献は(そのほとんどが)粘土板に記されているため、風化にさらされています。文や語句が失われていたり一部が欠けていることもしばしばで、読み解くことを難しくしています。幸いなことに石などの固い物質に刻まれたものも時折見つかっており、それら美しいシュメール語の碑文が世界中多くの博物館に収蔵されています。例えばルーブル美術館にはシュメール語についてのあらゆるタイプのコレクションがあります。


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