ラテン語の名言/リーウィウス/consilia magis res dent hominibus quam homines rebus

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consilia magis res dent hominibus quam homines rebus
  • 名言(1):cōnsilia magis rēs dent hominibus quam hominēs rēbus (原文 [接続法][1]
  • 名言(2):cōnsilia magis rēs dant hominibus quam hominēs rēbus [2] 
    • 英訳例 men's plans should be regulated by the circumstances, not circumstances by the plans[2]
      (人間のプランは状況によって規制されるべきものであって、状況がプランによって規制されるべきではない)
    • 邦訳例[3] 「戦略は状況が人にあたえるものであり、人が状況に押しつけるものではない。」
    • 人が状況(情勢)に判断を与えるというよりむしろ状況(情勢)が人に判断を与えるのだ
cōnsilia magis rēs dent hominibus quam hominēs rēbus
判断(を) むしろ 事(が) 与える 人(に) よりも 人(が) 事(に)
名詞・
中性・複数・対格
副詞・
比較級
名詞・
女性・複数・主格
動詞
3人称・複数・現在・能動・接続法
名詞・
男性・複数・与格
関係副詞 名詞・
男性・複数・主格
名詞・
女性・複数・与格
語釈
  • cōnsilium(複数形 cōnsilia) 「判断、判断力」または「会議」あるいは「計画、作戦計画」など
  • magisquam ... 「...というよりむしろ~」
  • rēs 「物事、事柄」または「事態、事情、情勢、状況」ほか
意味

情勢判断状況判断:状況を把握・分析してどのように対処すべきか判断すること[4]) に関する名言である。
人間の主観によってではなく、客観的に判断・対処するべきだ、ということ。

前216年のローマの執政官ルーキウス・アエミリウス・パウルスがこのように言ったと、リーウィウスが記している。

出典

リーウィウス著 『ローマ建国史』 第22巻38節[5]

背景
ハンニバルの進撃路

第二次ポエニ戦役の火ぶたが切られると、第一次戦役の復讐に燃えるカルタゴの将軍ハンニバル・バルカは、イタリア半島北西部を守るローマ軍の虚を突いてアルプス越えを果たし、ティキヌス川の戦いトレビア川の戦いトラシメヌス湖畔の戦いの三度の戦いでローマ軍を破って執政官ガイウス・フラミニウス・ネポスを敗死させる。 この緊急事態に驚いた元老院は、執政官の任命によらない異例な手続きでクィントゥス・ファビウス・マクシムス独裁官に任命する。独裁官ファビウスは、ハンニバルの得意な各個撃破戦術を成功させないように、無理に決戦することを避ける持久的な戦略を採った(いわゆる ファビアン戦略 Fabian strategy の由来)。だが、このような迂遠的な戦略は、ローマの民衆には消極的・弱腰との印象を与え、クーンクタートル(cūnctātor 「のろま」)と嘲笑されたファビウスは不人気のまま独裁官の任期を終えた。ファビウスを非難して決戦へと民衆を煽ったガーイウス・テレンティウス・ウァッローと、対抗馬に立てられた冷静な慎重派のルーキウス・アエミリウス・パウルスの二人が前216年の執政官に選ばれる。

新たな徴兵を終え、ハンニバルとの決戦(カンナエの戦い)へと出発する前の首都ローマでの演説で、ウァッローは前独裁官ファビウスらを激しく非難し、自分が戦争に勝利すると息巻く。これに対して、決戦に不本意な同僚執政官パウルスは、敵軍の状況を知らないうちには勝つことはできないと、慎重策を主張した。標題の名言は、間接話法で語られた次の一節の一部である。

sē, quae cōnsilia magis rēs dent hominibus quam hominēs rēbus, ea ante tempus immātūra nōn praeceptūrum
, quae cōnsilia magis rēs dent hominibus quam hominēs rēbus, ea ante tempus immātūra nōn praeceptūrum
自分は 人が状況に与えるというよりむしろ状況が人に与えるところの判断を それを その時の前に 時期尚早なまま 前言しないであろう
人称代名詞
単数・対格
関係形容詞
中性・複数・対格
(関係節) 指示代名詞
中性・複数・対格[6]
前置詞 名詞
中性・単数・対格
形容詞
中性・複数・対格
否定辞 未来分詞
男性・単数・対格[7]


脚 注[編集]

  1. ^ 間接話法の副文中の動詞は接続法にするという文法規則に従っている。
  2. ^ 2.0 2.1 consilia res magis dant hominibus quam homines rebus EUdict LatinEnglish などを参照。
  3. ^ 『ローマ建国以来の歴史5』 安井萠訳、京都大学学術出版会、2014年 を参照。
  4. ^ 状況判断(ジョウキョウハンダン)とは - コトバンク などを参照。
  5. ^ livy Book XXII, 38 (The Latin Library) などを参照。
  6. ^ 先行詞が、関係節の後に続いている。
  7. ^ sumの不定法esseを補うと、未来・能動・不定法になる。

参考文献[編集]

校訂版
by C.F.Walters; R.S.Conway, Oxford University Press, 1974 (Clarendon Press, 1929)
ISBN 978-0-19-814622-3 (0-19-814622-1)
ウォルターズ&コンウェイ共編、オックスフォード古典叢書(1929年初版、1974年再刊)
邦訳
  • 『ローマ建国以来の歴史 5──ハンニバル戦争(1)』
安井萠訳、京都大学学術出版会、2014年、ISBN 978-4-87698-484-8

関連項目[編集]