例5
例によって とおくと
となる.この割り算を実行しよう.
これはいつまでたっても割り切れない.しかしここで諦めては長蛇を逸する.
そこで 回,上の演算を実行すると,
商:
剰余:
を得る.したがって,
ならば,無限回の施行の後,
となって割り切れる.このとき商は,
となる.
験算
よって,この は,初期条件 をみたす解であることが分かった.
上で行った験算は, でなくても, が正しい解を与えることを示している.そこで,
の場合にも,正しいを解が得られるように工夫してみよう. で割るということは,積分するということであった.
を積分すれば となる. のベキ級数は で収束する.
そこで割り算を少し変形して、次のように から先に割っていこう.
この演算を無限回続けると, であるから,商は収束して,
となる.
の場合の考察は後まわしにして,これら 2 種の計算法の検討をしておこう.
の場合
の場合
このように の関数を あるいは で展開し, は微分, は積分と考えて形式的に計算すると,正しい答に導かれる.例えば例1は
となって同じ答を得る.
例6
で展開するとどうなるか.
解答例
と項が無限に生成されてしまい,うまくいかない.
上に示した幾つかの例において,微分方程式の解は得られるには得られたが,まだ多くの問題点を残している.
手法のいかがわしさは暫くおくとしても,一つの方程式に対して一つの解しか得られず、任意の初期値を満たす解が得られないのは大きな欠陥である.
このことは,次のような方程式
(1.5)
を取り扱うとき,深刻な問題となる.というのは,単に と置いたのでは,
となって,得られた解 は正しい解には違いないが,視察でも求まるつまらない解だからである.
さて を積分と考えることによって、色々な初期値が得られる可能性のあることを前に示唆しておいた.
そこで,ひとまず (1.5) を から で積分してみよう.
(1.6)
を得る.そこで,積分は微分 の逆演算であるという考えを一方深めて,改めて,
あるいは,もっと正確に,
(1.7)
と定義しなおすことにしよう.そうすれば式 (1.6) は,
となる.初期値 が入ってきたところが,単に とおいた場合と根本的に異なっている.
この式を について解き,
これを で展開すると,
(1.8)
[1]
を得る.
さてここで定義 (1.7) に戻り,
以下同様にして,
(1.9)
が得られることに注意すると,式 (1.8) は
となる.上の式の( )内は の Taylor 展開である.よって,
を得る.これが式 (1.5) の正しい解であることは明らかである.
どうやら我々は満足するべき解法にかなり近づいたようである.次節でもう少し掘り下げて考えてみよう.
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因数分解 より
今 , は公比で とすれば,右辺、初項 公比 等比級数の和は収束して
その和は .ここでは形 が「収束する条件を満たす」として上記の導出を逆方向に適用する.