学習方法/高校数学
- ※注意 勉強法に王道はありません。十人いれば十人それぞれに合った勉強法があります。だから、このページを過度に信用しないでください。
使用すべき教材[編集]
- 高校生の教材を用いる
高校数学の学習で用いるべき教材は、まず高校生用の教科書と、高校生用の参考書です。 ですが、もし中学校の教科書レベルのことが分かっていないなら、中学校の数学も数研出版の最新シリーズの教科書や中学参考書で復習しましょう。ただし、一部の高校入試で出題されるようないたずらな難問を解けなくても気にする必要はありません。それに取り組むぐらいなら、高校の教科書で学習するべきです。
高校教科書でお勧めするのは新課程だと、数研出版の最新シリーズ、第一学習社・実教出版・啓林館といった新編シリーズです。最新シリーズは易しい図解や脚注が多く苦手な人でもわかりやすく作られています。
また、中学数学を復習する場合は、まずは中学参考書や、あるいは中高一貫用の教科書など、中学生用の教材で復習してください。大人向けの啓蒙書(けいもうしょ)などの読み物は、普通は、高校生の中学復習用には作られていません。
- 難問集は不要
数学の問題集には、数研出版のいわゆる「黒チャート」など、とても難しい問題集もあります。腕試しやカッコつけのために挑戦する受験生もいますが、あまり得策ではない場合が多いでしょう。近年の入試傾向では、数学の難しすぎる問題の出題は、減ってきています。また、数学だけ突出して成績を上げても他教科とのバランスが悪ければ合格にはつながりません。
- 基本的には高校の学習を中心に。中学数学は現地調達で。
あなたが高校の新入生(高校1年生)だとして、中学数学の復習をしたほうがよいかどうかは、人にもよりますが、多くの人は数学の家庭学習では中学の復習よりも先に、まずは高校数学の教科書や参考書を読み進めて計算練習していくほうが良いでしょう。もし高校数学の学習中に、もし中学レベルの知識が出て来ても、どうしても分からないところがあれば、その都度、中学の参考書を読んで復習すれば済むのですから。
- 啓蒙書は不要
学生時代に数学を身につけられなかった大人向けの啓蒙書は、読み物として読書を楽しむ分には結構ですが、いわゆる数学の学習に役立つものではありません。そもそも市販の啓蒙書の多くは、中には優良な本もたくさんありますが、多くの本が計算式を省いており、さらに表現をかみ砕くことで取っつきやすい風を装うために、計算式と証明が少ないせいで、かえって中身がわかりにくくなっている本も多いです。
そもそも、手を動かして計算せずに数学を習得することは不可能です。読書は読書、数学の学習は数学の学習、両者は切り離して考えるとよいでしょう。
ですから、もし啓蒙書を利用するにしても、できれば数学の先生などの専門家に相談してから本を選んだほうがよいでしょう。
教科全体の学習方針[編集]
高校数学の開始で重要なことは?[編集]
高校数学を学習し始めるにあたって、まず重要なこととは、なんでしょうか?
答えは「まずは、各単元の新たな理論の前提になる”決まりごと”を、知ること」です。高校数学の各単元における前提の決まりごとを文章化したものは、「定義」という言葉で表現されており、通常の教科書や参考書では、その単元の章・節の冒頭部のあたりに記載されています。
文章として表現された決まりごとは、それだけでは意味のわかりにくいものもあります。わかりにくい決まりごとの内容をかみ砕いて理解しやすくするために、簡単な計算例や例題・基本問題などを用いて決まりごとを説明している場合もあります。そのような例題などが、教科書・参考書では、各単元の冒頭のほうに書いてあるはずです。ある単元の決まりごとについて初めて学習する場合は、単に定義の字面を読むだけでなく、さらに例題とその解答を読み、理解しておきましょう。
高校数学で出現する新概念について、もし、まったく、これらの定義や決まりごとを知っていなければ、ほとんどの問題が解けません。逆に、定義を知っていれば、どんな問題でも、原理的には解くことが可能になります。なぜなら、決まりごとの中で問題が作られるわけですから。しかし、実際に全ての問題にテスト時間の短時間(たったの数十分)で、対応できる人間はほとんどいないので、決まりごとから公式や計算パターンなどを導いて解答の作成を効率化します。よって、公式などを覚えて使いこなすことが、問題を解くという観点では重要になります。
教科書や参考書などで公式が紹介されている場所は、かならずしも例題や基本問題といった冒頭部とは限らず、たとえば発展問題や応用問題などにも、導出にやや手間のかかる公式が紹介されている場合もあります。なので、できれば発展問題や応用問題なども計算練習しておきましょう。
実際の入試問題などでは、さらに入試頻出問題の解法パターンも覚えることが有効ですので、参考書のやや難し目の発展問題や章末問題なども練習することになりますが、新入生にとっては当面は後回しです。まず新入生は、基本問題あたりを重点的に計算練習しましょう。
例題への向き合い方[編集]
「例題の練習の仕方は、例題を読んで、分からなければ、なるべく早く解説と解法を見ることです」[1]とか「そもそも教科書や参考書で、例題の直後に解説が書いてある理由は、なるべく読者に早めに解説を読んでもらいたいので、わざわざ例題の直後に解説を書いてあるのです。例題は、解説を理解させる事も目的です」[2]と言った主張があります。これらはあながち完全に間違いと決めつけることはできない主張ですが、ことはそう単純ではありません。学習の各段階に応じて、例題の使い方は変わってきます。ここでは、初めてその単元を学ぶ際の向き合い方について述べます。
初めて学ぶときには、例題を見てまず問題の意味を把握しましょう。問題の意味を把握しないのに自分で問題を解くことができるかできないかの判断もできませんし、問題の意味を把握する前に解答を読んでも意味がわかるはずがないのに完全に無意味です。問題の意味を把握する作業(図を描いてみたり、文字式に具体的な数字を代入して様子を観察する作業を含みます。しばしば思った以上に時間がかかりますし、かけるべきです)を省略していきなり解答を読むのは間違った学習です。問題の意味を把握したうえで、解法が見えてくれば自分で解くことがベストですが、初めてであればしばしばそうもいかないでしょう。その場合には、解答を読み始めることになります。その際、解答が「何をしているのか」を把握しようとすることは言われなくても多くの人がすると思いますが、加えて「なぜそのようなことをしようとしたのか」にも意識を向けるのが大切です。すべての操作には動機がある、と言っても過言ではありません。動機は見えづらいことも多いですので、わからなければ先生などに質問してみるのもよいでしょう。操作の動機まで含めて、自分にとって腑に落ちるところまで例題をしゃぶりつくすのが第一段階です。
次に、しばらく時間を空けた後で、その例題や近くにある類題を用いて、解答の流れを再現してみましょう。ここができるかできないかには、先述した「なぜそのようなことをしようとしたのか」を真剣に考えることができたかできなかったかが関わってきます。「何をしているのか」を把握し暗記することを目指す人が多いですが、人は悲しいぐらい忘れてゆく生き物[3]ですので、それには限界があります。「なぜ」の動機の部分だけならば覚える量も少ないですし、覚えるきっかけがあることも多いので、それを積み重ねていくのが有効なのです。その問題を忘れるための十分な時間を空けた後で解答を書くことができれば、学習は成功です。
以上のような向き合い方が理想的ですが、現実には時間的制約もあり、その理想通りにはいかないものです。しかし、理想形は忘れず念頭に置いた上での学習を薦めたいものです。なお、受験直前期に解法パターンを確認するような場合にも例題は有効ですが、その場合には学習のしかたはまったく異なってきます。そのような場合の例題の活用法については、いずれ述べたいと思います。
公式の暗記について[編集]
公式を暗記する、とよく言いますが、式の見た目の形を覚えるだけでは意味がありません。どのようなことが成り立つのか、その事実はいつ使えるのか、どうやって証明されるのか、を理解することが重要です。その式が、どのようなときに使えるのかを理解するためには、例題・基本問題などの計算練習が良い手段です。また、たとえ、式の詳細な形はうろ覚えでも、証明を理解していれば、自分で正確な形を導くことが可能です。
「知識を暗記することはすべて悪い」というわけではありません。いろんな問題の計算練習をたくさんしていく中で、しだいに公式を暗記していってほしいということです。いろんな問題で計算練習をたくさんするには、理解が必要です。
公式の証明は、きちんと理解するべきです。高校の教科書レベルの公式なら、証明はそんなに難しくないはずです。
ただし、すべての公式・計算パターンは、数が多すぎるので、ふつうは覚えきれません。通常の学習は、すべての公式の暗記ではなく、優先度の高い公式、優先度の高い計算パターンを覚えておいて、そこから、必要に応じて、他の計算式などを導きます。公式の中にも、重要度の高い公式と、やや重要度の低い公式とがあります。普通の教科書・参考書では、基本的な公式ほど、その本で優先的に(章の冒頭や、節の見出しの近くなどに)書いてありますので、それを参考にすると良いでしょう。やみくもに全ての式を平等に覚えようとするのではなく、大切な式は何かを念頭に置いて、数学の学習を進めましょう。どの公式が大切かは、単元によって違うので、一概には言えません。
解説の読み方[編集]
問題集を解く中で、付属の解説を読むことはよくあります。しかし、解説を読んだら、読むだけで済ませずに、手を動かして計算をしてみて、自分の理解を確認してください。けっして解説を読んだだけで満足して終了しないでください。
自分の手を動かしてみると、案外と理解していないことに気付くこともあるものです。目を通しただけで「理解した」と自称する人が多くいますが、その中で本当に理解している人はかなり少ないのです。試験勉強をしていて「理解した」と思った問題が、その後の試験で解けなかったりするのがその証拠です。このような現象が発生するのは「理解したことを忘れるからだ」と思っている人は勘違い。それは「実は最初の時点で理解していなかったから」なのです。数学では、本当に理解したことを忘れることはありえません。
逆に、解説を読んでもどうしても分からなかったら、とりあえず解説の言うとおりに計算をしてみてください。計算によって、見落としていたことがはっきりする場合もあります。「才能がない」「センスがない」と嘆く人は、たいていこの作業をしていません。単に努力が足りないのです。高校数学に、大した才能なんて必要ないのです。
天下り的に感じたら[編集]
初めて学習をする際には、ある程度は天下り的に感じることがあるかもしれません。数学の理論を作られる手順と、数学を教育する際に教える順序とは、少々違うからです。多くの単元で、理論が作られるまでの試行錯誤の部分は省略され、「このような事実が成り立つ。証明はこれこれである」という記述になりがちです。ここに違和感を覚えることもあるかもしれません。
たとえば高校では、二次方程式を解く過程で虚数が必要になる、という説明をしています。しかし、虚数を導入しないと解けない方程式は、解けないということにしてしまえば済むじゃないか、と思うかもしれません。実際、歴史的には虚数は三次方程式の研究の中で必要性が見いだされました。三次方程式の解の公式を作る中で、解は実数だけれど計算過程で虚数が登場してしまうということがあったのです。しかし、そのようなことは現代において複素数を利用するために学習するという立場では、学習に時間が掛かり、多くの高校生には不適切なので、説明されません。
既に存在する知識を学習するというのは、このようなものです。歴史の教科書に「縄文時代には磨製石器が使われた」「源氏物語は紫式部が書いた」とあるのを、自分が石器を掘ったり文献を読んだりしていないからといって納得しないでいては話が進みません。数学も同じで、ある程度までは諦めて他人の言うことを鵜呑みにしたほうがよいのです。もちろん、ある程度まで学習した後に、改めて「あれは、どうしてだったのだろう」と考え直すことは大切なことです。でも、その答えがそう簡単に得られるものばかりとは限りません。気長に時間をかけて勉強する中で、だんだんとわかってくる背景というものもたくさんあります。数学は一生かけて勉強する価値のある学問です。気になることがあるのであれば、一生をかけて、背景も含めて理解していけばよいのです。
よりすすんだ数学の学習について[編集]
あなたが数学をより理解したいと思っているのであれば、高校数学よりさらに高度な数学を学習するのも悪くはありません。ただし、それは大学受験の受験勉強では、役に立たないことは承知しておいてください。
さて、中学入試や高校入試では、難関校を受験する人などは、進学先の課程の先取り学習をして受験勉強をした人もいると思います。なぜなら、出題先の学校が、進学先の中学レベルや高校レベルの知識を知っていれば簡単に解けるが、知らないならば相当の思考力を要する、という問題を出題することがあるからです。それに対応するための勉強法として、先取り学習をすることで対策ができるため、そのように対策をしたという人もいるかと思います。
しかし、大学入試ではそのような先取り学習をするメリットは、あまり ありません。大学に入ってから学ぶ数学というのは、知識の面では既に知っているようなことを、見方をより精密にしたり、より抽象度を上げることでまとめて扱ったり、といった部分も多いためです。たとえば、なのは高校生でも知っていますが、大学1年生の授業でもほぼ間違いなくもう一度証明します。「受験勉強」に特化するのであれば公式を覚えていさえすればよいのですから、これを先取り学習してもあまり効果がないのです。
数学ばかりを学習しない[編集]
数学の学習はもちろん大切なことですし、楽しいことですから、数学ばかりをしたくなる人もいるでしょう。あなたが趣味で高校数学を学習しているのであれば、それで構いません。ですが、あなたが高校生であり、高校を卒業したい、進学や就職をしたいと考えているのであれば、他教科の学習も当然必要です。数学の学習ばかりに時間を割いてはいられないはずです。
数学は、定義などの決まり事の中から導く学問ですから、もし数学しか勉強しないと、その決まり事の中の事しか知識が身に付かないので、知識量が少くなります。
ノートをどうやって使うか[編集]
数学では、一度理解したことを忘れることはありませんので、授業で聞いたり参考書を読んだりしたときにすべてを理解できるのであれば、その内容をメモするノートは必要ありません。しかし、そのような人はまれですので、多くの人はノートを利用することになります。ただし注意すべきなのは、ノートはあくまで補助であって、ノートづくりが目的ではないということです。複数の色を駆使して鮮やかなノートを作り上げる人がときどきいますが、その作業自体は数学の学習には役立たず、無駄な時間になることがほとんどです。
一方、ノートではない「雑紙」は、他の教科と比べてたくさん必要になるのが数学の学習です。紙の枚数のことを気にせずに好きなだけ計算や試行錯誤に使えるような「紙」はたくさん用意しておくべきです。不要になったプリントの裏紙など、なるべく遠慮なく使い捨てられる紙を、たくさんストックしておくとよいでしょう。そのような紙を用いて、問題に対してどんどん試行錯誤を繰り返して挑戦する作業のほうが、はるかに数学の学習として役に立ちます。
そうして試行錯誤した結果をきれいにまとめたものを、ノートに記すとよいでしょう。むろん「きれいに」という意味は、日本語の助詞の「てにをは」をしっかり補って、読みやすい文章で答案を作成するということであり、色鮮やかにすることではありません。そうして完成したノートを教員に確認してもらうことで、採点者に通用する答案を作成する練習をすることができます。
問題集の解答解説をノートにきれいに書き写し、その中で論理展開がわからないところを教員に質問する人がいます。その作業は、意味があることもありますが、無意味なこともあります。その問題を解くための基礎知識が不足している場合は、解答を読んでもわからないのは当然だからです。そのような状況で教員に質問し、やっぱり意味がわからなかった、あの教員は説明が下手だ、と嘆く前に、自分の基礎知識を疑うべきでしょう。
科目別の学習方針[編集]
まず前提として、高校を卒業するためには、入学時に示されたカリキュラムの科目をすべて履修・修得することが必須です。ただ受験に必要がないというだけの科目を「必要がない」と言ってはいけません。あなたが大学受験をするとしても、その前段階として高校を卒業しようとしているはずです。
その上で、大まかな流れを述べると、数学Ⅰ·Ⅱ·Ⅲの3科目は、この順序で積み上げていくことが必要な科目です。数学Ⅲが難しいので理解できない、という人の何割かは、数学Ⅱを理解していないせいです。数学という教科の特性として、土台が揺らいでいるにもかかわらずその上の内容を理解することは絶対に不可能です。特に、二次関数・三角関数・微分積分に関する計算力・処理力を、低学年のうちの反復練習を通じてしっかり身につけておかなければなりません。
数学ABの2科目は、その流れからは外れて個別に学習することができる内容が多いです。ただ、数学Bを理解するには数学Aを理解しているに越したことはないですし、数学Bを理解していないと数学Ⅲを理解することはできません。とはいえ、数学Ⅰ·Ⅱの理解を確実に深めておかなければならないことに比べると、優先順位は下がるでしょう。
大学受験を考える場合、大学入学共通テストでは数学Ⅰ・数学ⅠA・数学Ⅱ・数学ⅡBの試験があります。多くの大学は数学Ⅰや数学Ⅱでは受験不可なので、大学入学共通テストを利用して大学進学を目指す場合、ⅠAもしくはⅠAⅡBの学習が必要になるでしょう。数学Ⅲは大学入学共通テストでは課されません。
数学ABを受験で使用する場合は単元の選択にも注意が必要です。学習指導要領ではそれぞれ3つの単元から「適宜選択」することになっており、学校ではすべての単元を授業しない場合もあります。しかし、大学入学共通テストで数学ⅠAや数学ⅡBを受験する場合はそれぞれ最低2単元は学習する必要があります。さらに国公立大学の二次試験などでは、数学Aは3単元すべて、数学Bは「数列」と「ベクトル」の2単元を出題範囲とするのが一般的です。これらの授業を受けていなければ、独学が必要になる場合があります。