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高等学校古文/漢詩/春望

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本文

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春望杜甫

国破やぶレテ山河在あリ
城しろ春ニシテ草木深シ
感㆑ジテハ時ニ花ニモ濺㆑そそギ涙ヲ
恨㆑うらんデハ別レヲ鳥ニモ驚㆑おどろカス心ヲ
烽ほう火くわ連㆓ナリ三月㆒ニ
家書抵㆓あたル万金㆒ニ
白はく頭とう掻かケバ更さらニ短ク
渾すべテ欲㆑ス不㆑ざラント勝㆑たヘ簪しんニ

訓読文と語釈等

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訓読文 語釈等
国[† 1]破れて[† 2]山河在り
城[† 3]春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ[† 4]
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす[† 4]
烽火[† 5] 三月[† 6]に連なり
家書[† 7] 万金に抵(あた)る
白頭[† 8]掻けば更に短く
渾(すべ)て[† 9]簪(シン)[† 10]に勝えざらんと欲す

  1. ^ 唐王朝といった概念的な「国家」のイメージではなく、城(別註参照)に囲まれた地域(「国(國)」は「囲(囗)まれた地域(或)」)で、具体的には長安。
  2. ^ 「あれはてる」こと。「敗れる」ではない。
  3. ^ 城と言うとき、日本の「しろ」を想像すると誤る。中国の城は、「万里の長城」で想起されるような城壁で都市を囲んでいるものである。そこは、庶民も生活し農耕も行われていた訳であるが、戦乱により住民が逃げ(又は殺され)、農地などに草が生い茂っている様である。
  4. ^ 4.0 4.1 最も一般的な読みに従う。詳細は「解説」参照。
  5. ^ 戦いに使う狼煙(のろし)。ここでは、戦争が続いていることを象徴する。
  6. ^ このときの「三月」は、安史の乱における具体的なある3ヶ月間を指す解釈もあるが、「一日三秋(日本では『一日千秋』)」、「白髪三千丈」などの「三」の用法で「何ヶ月も」の意であろう。
  7. ^ 家族からの手紙
  8. ^ 白髪頭
  9. ^ すべて、まったく。否定辞を下に置いて「まったく〜しない」
  10. ^ 髪に刺して冠を留める留め具。かんざし。朝廷に出仕する際の正装である冠を意味し、「もう、宮仕もできなくなった」と嘆いていると解することもできる。

現代語和訳

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春望(春の眺め)
国は(戦乱で)ぼろぼろになったが、山河は(昔からの姿で、変わらずに)ある。
城内には春が来ているのに、耕されもせず草木が青く茂っている。
時世を感じては、咲く花にすら、涙をこぼし、
家族と別れて暮らすことを恨んでは、(朝に)鳥が鳴くのも(家族が戻ったのではないかと)そわそわしてしまう。
戦ののろしの火は何ヶ月も続き、
都を離れ避難を続ける家族からの手紙は、何よりもの宝物である。
(心を痛め、年老いてしまった)白髪の頭を掻けば、髪は抜け落ち、
まったく、かんざし(簪)を挿すこともできなくなってしまった。

解説

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盛唐期の詩人杜甫の五言律詩。詩の成立は757年頃、安史の乱(755年~763年)で一度奪われた長安城を回復した当時のものとされる。

杜甫の、最も有名な詩と言って良い。宋代、欧陽脩や司馬光が高く評価したことで、杜甫の代表的作品と認識されるようになった。その評は日本へも伝わり様々な文学作品に影響を与えている。技巧にこらず非常に平明な詩であり、これが広く受け入れられた理由の一つでもあろうが、逆にこの点をもって、評価を低くする漢詩人もいる。そのためであるかは不明であるが、有名な唐詩のアンソロジーである『唐詩選』には選ばれていない。

戦乱に荒れた国都長安の姿を見て、破壊された人為の建物などと変わることなく息衝く自然を対比し、人の世の無常と、家族と離れ生活する身の上を嘆く。

「感時花濺涙、恨別鳥驚心」について

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「感時花濺涙、恨別鳥驚心」は、日中とも伝統的に「花」「鳥」は、杜甫を主語として、杜甫が心を動かす対象とする。しかし、各々対象であれば、本来の文法的には、「濺涙於花」など、動詞に後置するのが通常である。主語-動詞の関係では「花は涙を濺ぎ」「鳥は心を驚かす」と読むのが自然であり、各々擬人化した表現と解することもできる。このように読むと、花と鳥が単なる「涙を誘う対象」「心を動かす対象」ではなく、杜甫の悲しみを自然そのものが共有しているような世界となる。

つまり、

時世を悲しんでいると、花まで涙を濺いでいるように見える。
別離を悲しんでいると、鳥は心を驚かされた声を発しているようだ。

というイメージである。

ただし、現代的な意味で「花に人間の感情を設定する」というより、杜甫の感情が自然界に投影され、自然と自己の境界が曖昧になる表現としたものではないか。

句法

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  • 押韻:「深」 「心」 「金」 「簪」
  • 対句形式
    • 第2聯
      • (感⇔恨):感情を表する動詞
      • (時⇔別):出来事を表す名詞
      • (花⇔鳥):鑑賞して楽しむ対象
      • (濺⇔驚):動詞
      • (涙⇔心):心情を表す名詞
    • 第3聯
      • (烽火⇔家書):名詞
      • (連⇔抵):動詞
      • (三⇔萬):数詞
      • (月⇔金):名詞(「光り輝くもの」で共通の範疇の意識があるのか?)