病理学/代謝障害
「代謝異常」とは
[編集]「代謝異常」とは、字面は「代謝」に関わる異常だが、さらに消化器官の異常も分類上、代謝異常に含める。
なお、心臓の異常については(「代謝異常」ではなく)「循環異常」としてあつかうので、別単元になる。
健常人の代謝については生理学の本、または大学生物学の生理学分野などを参照のこと。
(病理学本にも健常人の代謝の概要があるが、本wikでは健常人については省略する。)
さて、たとえば糖尿病は、糖の代謝の異常である。なので、糖尿病は、代謝異常として分類される。
代謝異常は糖だけでなく、脂質やカルシウムなどの代謝の異常でも、代謝異常として分類される。
脂質の代謝異常としては、学問的・医学教育的には、家族性高コレステロール血症が、先天異常との関連も含めて(学問的にも)重要である。
- ※ ただし、本wikiでは既に『病理学/先天異常』の単元で、家族性高コレステロールの説明をしているので、本単元『代謝異常』では説明を割愛させていただく。
- ※ 代謝異常の原因は、酵素の異常である場合が多く、酵素の構造は遺伝子によって決まる[1]。なので、厳密には遺伝子の異常でもあるので先天異常である場合も多いのだが、しかし分類上、下記のような病気を代謝異常として分類する。
もし先天異常で無い場合でも、下記のような病気は起こりうるからだろう。
カルシウム代謝異常、骨代謝異常
[編集]石灰化
[編集]正常ではカルシウム塩の沈着しえない部分に、カルシウム塩(主にリン酸カルシウム[2][3])の沈着することを石灰化(せっかいか、英: calcification )という。「石灰沈着」(英: calcification )ともいう。ともに英訳は calcification なので、和訳の違いでしかない。
X線写真を使えば、もし体内に石灰化があれば、容易に撮ることが出来る。
なお、リン酸カルシウムは正常な骨にも多く含まれている物質である。なお、健常者でも、血液など骨以外の部分にもカルシウムが含まれている。しかし、体内のカルシウムの99%は骨に存在している[4]。
石灰化の原因としては、主に2~3種類に原因は分類され、
- ・なんらかの原因で高カルシウム血症をわずらっている場合に石灰化が起きやすい。
- ・壊死または変性した細胞が、石灰化する場合もある。
高いカルシウム血症にとって石灰が沈着することを転移性石灰化 metastatic calcification と言う[5][6][7]。(「転移」といっても、ガンの転移とは無関係である。)
- ※ 『標準病理学』の索引には、「転移性石灰化」が無い。しかし本文中にある(第5版ならP171)。
骨腫瘍によって他の臓器に石灰化の起きる場合もあるが、骨腫瘍では高カルシウム血症を引きおこしやすい。
さて、もし血清カルシウム濃度が平常値であっても、変成・壊死した細胞・組織には石灰沈着が起きやすく、これを異栄養性石灰化 dystrophic calcification という。
結核や[8]、動脈硬化で[9]、異栄養性石灰化による石灰沈着が見られる事が多い。
その他のカルシウム代謝異常
[編集]骨粗鬆症(こつそしょうしょう)など、よく知られた病気も、カルシウム代謝異常、骨代謝異常である。
低カルシウム血症が、ビタミンD欠乏、または副甲状腺機能低下によって、引きおこされる。
くる病、骨軟化症も、カルシウム代謝異常・骨代謝異常などに含める[10]。
タンパク質・アミノ酸異常
[編集]タンパク変性
[編集]- (※ 「タンパク」表記について: )近年は大学の医学教科書でも、「蛋白質」ではなく「タンパク質」のように書くことが多い。分厚い『標準病理学』や、同じく分厚い『スタンダード病理学』も、カタカナでの「タンパク」表記である。
硝子化
[編集]※ 未記述
アミロイドーシス
[編集]アミロイドといわれる異常な線維性[11][12]タンパク質が沈着する症状をアミロイドーシスという。染色法では、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)では、硝子化と似ていて区別がつかない。
- ※ なお医学では、センイが体内由来の場合、「繊維」ではなく「線維」と書く。
しかし、コンゴ赤(コンゴーレッド)染色で、アミロイドはオレンジに染まり、これを偏光顕微鏡で観察すると黄緑色の複屈折を呈する[13][14]。
「認知症」として有名なアルツハイマー症では、脳にアミロイドーシスが見られる[15][16]。
アルツハイマー由来のアミロイドは、主に脳に限局的にアミロイドが見られる[17]。
その他の事例では、免疫グロブリンのL鎖[18][19][20]と結合したアミロイドや、関節リウマチ[21][22]のアミロイドがある。
免疫グロブリン由来のアミロイドは、全身に症状が見られる[23][24]。
- ※ 上記の他にも、多様なアミロイドがあるが、『病理学』の総論としては、これ以上の深入りの説明を省略する。専門書や、(wikiがあれば)各論を参照してもらいたい。
高尿酸結晶および通風
[編集]健常者でも、核酸は、分解されるとプリン体になり、さらに、尿酸となる。ヒトの場合、最終的に(尿素ではなく)尿酸として[25]、排泄される。
哺乳類の中には、尿素として排出するものもあるが、しかしヒトやチンパンジーなど一部の動物は例外であり、ヒトやチンパンジーなどは尿酸までしか分類できない[26]。
核酸に由来するプリン体の異常により、尿酸が血中に増量した結果、血中に尿酸塩(尿酸ナトリウム)が析出すると、関節、とくに足の親指の第二関節に、膨張した炎症と痛みをもたらし、この症状を通風という。
通風ならば、尿酸値も高いので、尿酸結石も、腎尿細管など[27][28]に(結石が)見られる。
予防や対症療法としては、肉類や豆類・貝類などは分解によって大量のプリン体を発生するので、食事はなるべく肉類などを控えるように指導されるのが一般的である。飲酒が通風を促進>[29]するとも言われているが、あまり定かではなく、紹介してない病理学書も多い(『標準病理学』や『スタンダード病理学』には見当たらない)。
尿毒症
[編集]腎不全(じんふぜん)により、血中の尿酸・尿素の濃度が上がると、本来なら尿中に排泄されるべき物質が体内に蓄積し、痙攣や出血など[32]の尿毒症(にょうどくしょう)といわれる症状になる。
通風腎を放置すると、腎不全から尿毒症になり、死に至る場合もある[33]。
アミノ酸代謝障害
[編集]フェニルケトン尿症やアルカプトン尿症なども、アミノ酸の代謝障害である。
- ※ 高校生物で説明済みのため、本ページでは省略する。
この他にも、白皮症やチロシン血症など、40種類ものアミノ酸代謝障害が知られている[34]。
糖代謝異常
[編集]糖尿病
[編集]- ※ まず、「ブドウ糖」のことを化学では「グルコース」とも呼ぶ。
- 生化学ではグルコースと呼ぶのが一般的だが、臨床や救急ではブドウ糖と呼ぶのが一般的である。
- このため、病理学の医学書でも、「ブドウ糖」と呼ぶのか「グルコース」と呼ぶか一貫していないので、ご容赦を願う。
- ※ すでに高校で糖尿病について初歩を習っている。
- 1型糖尿病と2型糖尿病の違いなど、高校の検定教科書でもコラムなどで習う。
- 万が一、高校で採用された教科書にそのコラムがなくても、参考書(チャート式)にほぼ確実に書いてあるはずである。
- 本wikiでは、高校で習った分野は説明を割愛する。
- 関連事項
さて、1型糖尿病では、脂肪が消費されるので、その結果、酸性のケトン体が生成されるので、 血液が酸性に片寄る。
- (※ ケトン体の「産生」と言うのが一般的だが、本wikiでは発音が「酸性」と同じで紛らわしいので、ケトン体の「生成」と言い換えた)
健常者の正常時の血液や細胞外液などの体液のpHは約7.4±0.05であり[35]、弱アルカリ性である。
糖尿病のケトン体による酸性への体液pHの片寄りのように、血液pHや細胞外液など各種の体液pHが健常者の平常時と比べて酸性に片寄ることをアシドーシスという。アシドーシスの原因が代謝異常ならば、代謝性アシドーシスのようにも言う。(代謝性でないアシドーシスやアルカローシス(後述)もあり、たとえば「呼吸性アシドーシス」という呼吸関係の要因のアシドーシスもある。)
なお、健常者の平常時と比べて体液pHが塩基性(アルカリ性)に片寄る場合をアルカローシスという。
アシドーシスの原因がケトン体の過剰な生成による場合をケトアシドーシスという。
- ※ なんと、『標準病理学』を読んでも、索引にはアシドーシスやケトアシドーシスなどが書いていない(しかし本文中にある、標準病理学の第5版ならP145あたり)。標準生理学には、ケトアシドーシスが索引にある。
つまり、1型糖尿病は、ケトアシドーシスの原因になる[36][37]。
- ※ 「ケトーシス」という用語があるが「ケトーシス」と「ケトアシドーシス」では若干、意味やニュアンスが違う。近年の医学書では「ケトアシドーシス」である。
- ケトアシドーシスのほうがpHが酸か塩基か分かりやすいので、特に問題ないだろう。
- 単に「ケトーシス」とだけ言った場合、血中または尿中のケトン体濃度が正常よりも高い状態の事をいい[38]、PHについては言及していない。つまり、ケトン血症またはケトン尿症をまとめたものがケトーシスである[39]。
- 糖尿病が進行するなどして「ケトーシス」の症状が重度になったものを「ケトアシドーシス」という用法もある[40]。未治療の糖尿病で、体液がアルカリに傾くという意味でのケトアシドーシスになると、致命的になる事がある[41]。
アシドーシスを引きおこす要因は1型糖尿病のほかにも様々な疾患があるので、アシドーシス 一般については、これ以上は説明を深入りしない。
詳しくは生理学の専門書を参照せよ。
とりあえず、1型糖尿病がケトアシドーシスを引きおこす事を理解してもらいたい。
なお、糖尿病患者の5%が1型糖尿病である[42]。つまり、糖尿病患者のほとんどは2型糖尿病である。
糖尿病は1型も2型も、インスリンの分泌に障害がある事は同じである。しかし、どうインスリン分泌の障害があるのかが違い、下記のように2つに分類される。
- 1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)
1型糖尿病は、なんらかの原因で すい臓 のランゲルハンス島が消失・破壊されるなどしており、インスリンをまったく分泌できない場合である。症状をおさえるための治療では、1型糖尿病ではインスリンが投与される。「インスリン依存性糖尿病」と言われるのは、この1型糖尿病である。
※ 再掲になるが、糖尿病患者の5%が1型糖尿病である[43]。
自己免疫疾患によるランゲルハンス島の消失・破壊による1型糖尿病が、有名である[44]。しかし、自己免疫疾患ではなくても、何らかの原因でランゲルハンス島などが消失・破壊されている場合もあり、その場合でも1型糖尿病に含める[45]。
- 2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)
2型糖尿病は、インスリンを分泌できるが、分泌量が少ない場合である。すい臓の機能がなんらかの原因で弱まっているか、あるいは拮抗因子の過剰などで起きる[46]。
生活習慣病として、肥満などが「糖尿病」の原因になりうるといわれるのは、この2型糖尿病のことである。糖尿病患者の90%以上を2型糖尿病が占める[47]。
2型糖尿病の治療としては、食事療法といった生活習慣の改善のほか、インスリンの分泌をうながしたり分泌の調整をする薬剤の投与がされる場合もある。インスリン非依存性糖尿病とは、2型のこと。
- ※ この他、妊娠糖尿病などがあるが、例外的なので説明は省略する。
なお、2型糖尿病について、政府などが生活習慣病として指定しているものの、しかし一卵性双生児の統計からは、糖尿病の一致率90~100%と高いので、そのため原因遺伝子もあると考えられている[48]。
現代では2型糖尿病の要因は、遺伝要因と生活習慣が組み合わさったものだと考えられている[49]。
- 症状
糖尿病の症状は、1型でも2型でも[50]、動脈硬化症を引きおこし、脳血管や大動脈に動脈硬化が起きると、被害が大きくなる[51][52]。また、糖尿病は、網膜血管も傷つけるので、失明引きおこす。その他、糖尿病は、腎臓の糸球体の微小血管も傷つけるので、腎不全も引きおこす[53][54]。
- ※ いちおう、高校生物の検定教科書のコラムでも糖尿病の症状が書いてあったりするが、高校ではあまり詳しくないので、病理学として症状を再記。
その他、末梢神経の障害もあり、しびれ を引きおこす。
なお、一般に糖尿病患者は太っていると思われがちだが、しかし1型糖尿病患者は、やせていることが多い[57]。
その他、1型・2型とも[58]、のどが渇いており(口渇)、水を良く飲むが(多飲)、多くの尿を出す(多尿)[59]。多飲・多尿の原因は、高い血糖により、血液の浸透圧も高いので、細胞内(浸透圧が低い側)の水が血液側(浸透圧の高い側)に引っ張られるので、脱水症状に似た状態になっているため[60]と考えられている。
- 診断基準
普通は、まず血糖値を測定する。(けっしてpHをまず測定するのではないので、注意。)
なお、血糖とは、血液中のグルコース(ブドウ糖)のことである。(※ 高校生物では、あまり「血糖」という用語を教えていない。)
日本では、糖尿病学会が、糖尿病における血糖値の診断基準を作成している。
健常者の血糖値は普通、空腹時なら60~110mg/dLである[61]。なので、空腹時に126 mg/dL 以上が糖尿病の疑いだとされる[62][63]。
- ※ なお、満腹時なら、血糖値が上がり、健常者でも上記の数値を上回るので、混同しないように。
- なお、「dL」とは、デシリットルのこと。 「SI単位と併用できる非SI単位」リットルにSI接頭語のデシを前置した単位であるが、医学では引き続きデシリットル単位を使う。
血糖値が随時200mg/dLなら、糖尿病と診断されるのが一般的である[64][65]。
随時でなくとも、75gブドウ糖負荷試験を行って、2時間後の血糖値が200 mg/dL 以上なら、糖尿病であるとして判定する[66][67]。
まとめると、
- 空腹時血糖 126以上、
- 75gブドウ糖負荷試験の2時間後値が200以上、
- 随時血糖値 200以上、
のいずれかに当てはまるなら、初回検査では糖尿病の疑いありとして「糖尿病型」として診断され、後日に再検査をする。上記3つのうち、再検査をして2回満たせば、「糖尿病」と確定する。
詳しくは、日本糖尿病学会が診断基準を作成しているので、必要ならそれに従うこと。
このほか、ヘモグロビンA1c の値が臨床的に糖尿病の診断に用いられている[68][69]。。
糖原病
[編集]「糖尿病」(とうにょうびょう)とは「糖原病」(とうげんびょう)は異なる。(2文字目が「尿」ではなく「原」)
糖原病(とうげんびょう)とは、細胞内にグリコーゲンが異常に蓄積する病気である。グリコーゲンの分解に必要な酵素に異常がある事により、引きおこされる[70][71]。
グリコーゲンの(分解過程の異常ではなく)合成過程に異常のある場合に、その病気を「糖原病」と呼ぶべきかどうかは、医学書によって見解が分かれている。
- ※ 標準病理学は、呼ぶべきではない、という見解。
- ※ スタンダード病理学は、呼ぶべきだ、という見解。
ムコ多糖症
[編集]酸性ムコ多糖の分解に関するリソソーム酵素の先天的な欠損により、ムコ多糖類が分解できないので、心内膜や血管膜や肺[72]などにムコ多糖類が蓄積したり、それら(心内膜や肺などの)のマクロファージの原形質に空洞が見られる[73]。
(※ 『スタンダード病理学』および『シンプル病理学』では(「産生」ではなく)「酸性」の表記)
該当のリソソーム酵素の欠損しているの患者の多くは小児期にムコ多糖症を発症する[74][75]。
なお、ムコ多糖症は劣性遺伝である[76]。
- ※ 常染色体(の劣性遺伝)か性染色体かについては、種類によって異なるので、説明を省略。
脂質異常
[編集]高脂血症とは、血液中で、コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つが高い症状を言う。
- (※ 生化学: )後述する「リポタンパク質」とは何か。通常の脂肪分子は、そのままでは非極性分子であるので水に溶けない。なので、そのままの脂肪では、血液で脂肪を運ぶには不便である。このため、脂肪を血液で運びやすくするためには、水溶性・両親媒性のタンパク質と結合する必要がある。このような、脂肪と結合する両親媒性のタンパク質がリポタンパク質である[77]。リポタンパク質は、その密度に応じて幾つかの種類があり、密度に応じて下記のようにLDL(低比重リポタンパク質)、HDL(高比重リポタンパク質)のように分類される。
- なお、(極性があるためか、)リポタンパク質は電気泳動で分離することが可能[78]。
- 健常人の脂質
健常人において、リポタンパクには、いろいろな種類があり、その比重によって分類され、VLDLリボタンパク質(超低比重), LDLリボタンパク質(低比重), IDLリボタンパク質(中間比重) 、HDL(高比重リボタンパク質)と色々あるが、特にLDLがコレステロールと関係が深いとされている。
- ※ この「比重」は、脂肪がリポタンパク質のタンパク質部分と結合したセットの状態での比重を表している。このため、脂肪は水よりも比重が軽いので、タンパク質部分に対する脂肪分子の割合の多い種類のリポタンパク質ほど、(脂質の割合が大きいので)その比重が低密度になっている[79]。
コレステロールは、血液中の低比重リボタンパク質(LDL)から供給される。
消化吸収された脂肪をもとに、肝臓で作られたトリグリセリドなどをもとに、超低比重リボタンパク質 VLDL が合成される。
また、トリグリセリドがリボタンパクと結合し、カイロミクロンというものを形成する。
筋肉など人体の種種の器官でエネルギー消費のために分解された分解された元カイロミクロンだった残骸は、「カイロミクロンレムナント」あるいは単に「レムナント」といい、肝臓に送られて代謝される[80][81]。
- ※ 生理学の本を読んでも、コレステロールの周辺についてあ、あまり細かく書いてない(『標準生理学』や『生理学テキスト』など)。
一般的にLDLの高い場合が問題視されるが[82]、しかしHDLの高い病気の場合もある(「高HDL血症」という病気もある)。
- 脂肪肝
健常者では肝臓の脂肪は、重量あたり2~4%の脂肪である。しかし、総重量比で10%を超えたら病的であり、これを脂肪肝(しぼうかん、fatty liver)と呼ぶ。
肥満、糖尿病、過大なアルコール摂取などで脂肪肝になる[83][84]。
顕微鏡で観察すると、円形の脂肪滴が表面の各所にあるのが見れる。
色素代謝異常
[編集]「色素代謝異常」という場合の「色素」とは一般に、ヘモグロビンやメラニン色素などのように、体内で産生される色素のことである。
けっして刺青(いれずみ)などの話題ではない[85]。
ビリルビンと黄疸
[編集]胆汁(たんじゅう)色素の主成分であるビリルビンは、ヘモグロビンが分解されたものである。
寿命の尽きたヘモグロビンは、老廃物となり、マクロファージによって分解され、ヘムとグロビンに分解される。
分離されたヘムが、開環の変形をしていき、ビリベルジンを経て、最終的にビリルビンになる。
血中のビリルビンは、アルブミンと重合している非抱合型(間接)ビリルビンとして運ばれている。
ビリルビンは、肝臓でグルクロン酸抱合を受け、抱合型(直接)ビリルビンとなる。
- ※ 『薬理学』科目でも肝臓でのグルクロン酸抱合について説明されるので、読者がもし予備知識を必要なら『薬理学/薬物の生体内動態#代謝』も参照せよ。
胆汁に出されるのは、抱合型(直接)ビリルビンである。
- ※ 「直接」とか「間接」の用語の由来は、直接ビリルビンはジアゾ試薬にすぐに反応するので「直接」、間接ビリルビンはアルコール前処理をしたあとに反応するので「間接」[86]。
黄疸(おうだん)とは、血中のビリルビン濃度が上昇し、その結果として、眼球結膜[87]や皮膚などが黄色く見える病気なので、黄疸という名前がついている。
上述のように肝臓でビリルビンの代謝が調節されているので、肝炎によっても黄疸になる。
ただし、黄疸は必ずしも肝炎によるものとは限らず、溶血による溶血性黄疸や、主に先天性のビリルビン代謝異常の場合もある。
溶血性黄疸の場合、血液中に、間接ビリルビンが増大する[88][89]。なお、新生児黄疸といわれる新生児の黄疸の多くは、新生児の溶血性黄疸なので、間接ビリルビンが増大している[90]。
先天性のビリルビン代謝異常には、酵素に異常の見られるものとして、ジルペール症候群(ギルベルト症候群、ジルベルト症候群ともいう)や、クリグラ=ナジャー症候群、デュビン=ジョンソン症候群などの場合もある[91][92]などがあり、これらを体質性黄疸という[93][94]。
なお、胆汁に放出された抱合型(直接)ビリルビンの大部分は腸管内でウロビリノゲンに変化して糞便とともに排泄される。しかし、ウロビリノゲンの一部は腸管で吸収され、肝臓に戻って胆汁に再利用されるか(「腸管循環」[95][96]という)、腎臓に送られ最終的に尿中に排泄される[97][98]。
なお、糞便の色調は、胆汁によるものである。結石などで胆道系が物理的につまって(閉塞して)液体が通行できなくなると、胆汁が血中に流れるため黄疸になるのだが(「閉塞性黄疸」という)[99]、このとき消化物には胆汁が送られないので、糞便は色調が灰色[100]になる。
なお閉塞性黄疸では、血中の抱合型(直接)ビリルビンが増加する[101][102]。
- ※ その他、未熟児は血液-脳関門が未熟なため、黄疸を発症すると脳に波及しやすく[103][104]、重症化しやすい。この新生児ビリルビン脳症のことを、伝統的に核黄疸という[105][106][107]。
- ※ 薬理学分野と、病理学分野で、少々、新生児の核黄疸についての定説が違っている。標準病理学では、新生児の血液-脳関門について言及していない。
- 新生児ビリルビン脳症については薬理学の教科書で、「核黄疸」の名前で、よく紹介される。「病理学」教科書では、「標準病理学」以外では、新生児ビリルビン脳症について説明していない。
その他
[編集]ヘモグロビンも「色素」に分類されるので、高校で習う、鎌状赤血球症も、分類上は色素代謝異常である[108]。
萎縮や肥大など
[編集]萎縮
[編集]医学における器官の「萎縮」(いしゅく)とは、いったんは正常な大きさになっていた器官が、なんらかの理由で、小さくなる事、および小さくなったままの状態の事を言う。
なお、発育障害などのように、始めから器官が大きくなれなかった場合は(「萎縮」ではなく)、低形成(ていけいせい)という。始めから、形成されていない場合は、無形成という[109]。
- ※ 分類の仕方によっては、臓器の萎縮(いしゅく)を、代謝障害に含める場合もある[110]。
- 『細胞障害』というものに萎縮を分類する場合もある[111]。
- 細胞障害ではなく、傷害に対する「細胞、組織の適応」などに分類する場合もあるが、しかし現代では萎縮・肥大・過形成のほかにも、分子生物学的な細胞の適応現象がいろいろと知られているので、この分類は本ページでは採用しない事にした。
- ※ 『標準病理学』は、萎縮の定義を扱わず。少なくとも、索引には見当たらない。『シンプル病理学』または『スタンダード病理学』などで調べることになる。
萎縮には、 老化による萎縮、栄養障害による萎縮、廃用性萎縮などがある。
思春期における胸腺の萎縮など、成長や加齢において健常者にもみられる萎縮のことを生理的萎縮という。
- ※ 老人の筋肉などの萎縮を、生理的萎縮に含めるか、含めないか、医学書ごとに異なり、一致していない。
- 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』、『なるほど なっとく!病理学』では、「老人性萎縮」を「生理的萎縮」に含める立場。
- いっぽう、『シンプル病理学』、『スタンダード病理学』では、「老人性萎縮」を「生理的萎縮」とは関連づけず、言及しない立場。
- ※ なお、高齢者の加齢による萎縮には、老人の筋肉の萎縮のほかにも、閉経後の女性の子宮や卵巣の縮小を萎縮に含める場合がある[112]。ただし、ホルモンの内分泌性萎縮のほうで閉経を扱う場合もあり[113]、学生はあまり深入りしなくていい。
廃用性萎縮とは、使わない器官が萎縮していく事であるが、典型的な例としては、よく、骨折などで該当部の骨格筋を使わないでいると、その部分の筋肉が萎縮する現象がよく知られている。
なお、宇宙の無重力空間で作業する宇宙飛行士にも、筋肉の廃用性萎縮が見られる[114]。
上記の萎縮の他にも、ホルモン性萎縮、神経機能障害による神経性萎縮[115]など、さまざまな萎縮が知られている。
骨格筋の神経がなんらかの理由で切断されると、その骨格筋は萎縮する事が知られている[116][117]。
- ※ 『シンプル病理学』では、筋肉の単元(ページ310あたり)で神経性萎縮を扱っている。たまたま神経性萎縮が130ページにあり、筋肉の単元が310ページにあるが、誤記・誤植ではなく偶然。
- ※ スタンダード病理学では「脱神経性萎縮」という用語を使っている。本wikiの上記の文では、簡単なほうに表現を合わせるため、シンプル病理学の表現(「神経性萎縮」)にあわせた。
その他、栄養不足や栄養障害でも、人体のさまざまな組織が萎縮する(栄養障害性萎縮[118][119])。(※ 栄養障害性萎縮のことを「飢餓性萎縮」[120][121]ともいう)
肥大
[編集]萎縮とは逆に、細胞の容積または器官の容積が、正常時よりも大きくなることを肥大(ひだい)という。
病的な理由による肥大としては、高血圧症による心肥大などがある[122][123]。
なお、病気が原因による肥大のことを病的肥大という。
「病的」肥大とは言うものの、この肥大は通常、病気による障害を解決しようとして、人体が対症療法的に適応した結果である。たとえば高血圧による、心筋の肥大なら、肥大しないままだと、血液が十分に送れないから、肥大しているわけである[124]。
- ※ だから『標準病理学』でも、細胞の「適応」のような名称の単元で、肥大・過形成や萎縮などを紹介している。
- 萎縮が「適応」というのは、エネルギーの節約のため[125]の人体の仕組みのひとつだと考えられているからである。
- ※ ただし、ホルモン分泌異常による、標的の器官の肥大などは、適応とは限らないだろう。
なお、病的でなくても、その器官の容積が大きくなれば「肥大」の表現は使われ、たとえば筋力トレーニングの結果の筋肉の「肥大」などがある[126][127][128]。
筋トレなどの健康な肥大は、生理的肥大といわれる。
過形成
[編集]なお、容積ではなく細胞数が多くなることは過形成(かけいせい)という。
その他
[編集]ニーマン・ピック病
[編集]ニーマン・ピック病(Niemann-Pick 病)は、スフィンゴミエリナーゼの欠損[129]。
古典型は乳児期に発症[130]。
本来、スフィンゴミエリンは神経系にも多く存在している[131]。(なので、)Niemann-Pick 病は神経障害も起こす[132]。
脚注
[編集]- ^ 『シンプル病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 石井邦雄・坂本謙司『はじめの一歩の薬理学』、羊土社、2020年1月15日 第2刷 第1刷発行、P232
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『標準病理学』
- ^ 『スタンダード病理学』
- ^ 『シンプル生理学』
- ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
- ^ 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ R.K.Murray ほか著『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版』、上代淑人・清水孝雄 監訳、平成23年1月31日 発行、P226
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