薬理学/薬物の生体内動態

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用量に関する概念[編集]

基本的な概念[編集]

※ 『NEW薬理学』には、ED50などの話題は無い。『シンプル薬理学』または『標準薬理学』を参照すると、載っている。
※ なお、高校の「看護」科目(という専門科目がある)の検定教科書を読んでも、ED50などは扱っていないので、本wikiの参考文献を探す際には大学生むけの教材を探す必要がある。


薬理学では、まだ医薬品として厚生労働省などによる許認可を受けていない化学物質も扱うだろうから、本wikiでは単に「薬物」と言おう。(薬理学の市販の教科書でも、単に「薬物」と言う場合が多い。)

※ 「薬物」といっても、麻薬のような違法なニュアンスは無い。また、アルコールなどの医薬の対象外の化学物質も、文脈では薬物と言う場合もある。


薬物の投与量のことを「用量」(dose)と言う[1]

※ 本wikiでは説明の簡略化の都合上、以降の説明では、なるべく「投与量」を語句を使って説明するが、教材によっては「用量」の語で説明する場合もある。


薬品に限ったことではないが、その物質を過剰に大量に人に投与しすぎると、その人が死んでしまう。


動物を死に至らしめる量のことを致死量といい、英語で lethal dose (「リーサル・ドーズ」と読む)という。

倫理的な事情により、人に致死量の薬を投与する実験は不可能・困難なので、製薬の研究開発では(※ マウスなどの)動物で実験する。

さて、人によって薬の影響の強さは違うので、統計的に処理をする必要がある。

用量と反応の関係

ある薬物の投与量(用量)を増やしていく実験をして、50%の動物が死ぬ投与量のことを「50%致死量」[2]または「中央値致死量」[3]といい、記号で LD50と書く。

LD50とは、たとえば、少しづつ投与量を増やして幾動物実験において、100匹の動物に投与したとき、その投与量になるまでに50匹の動物が死んでいる投与量のことである[4]

※ なお、薬事法で、致死量(LDに相当)の値が、「劇薬」や「毒薬」の分類をする際の基準のひとつになっている。薬事法の具体的な数値については省略する。理由は、将来的に法改正で変更する可能性もありうるので。なお、経口投与と皮下注射とで、薬事法での致死量などの基準値が異なるので、(経口投与の値と皮下注射の値)混同しないように。
※ 標準薬理学でも、薬事法のLDの値については触れていない。『シンプル薬理学』などで触れている。照林社『超入門 新 薬理学』でもLDと薬事法の関係について触れているが、絶版になっているので(照林社の公式サイトでも紹介していない)、深入りしない。なお、照林社本は(医学部ではなく)看護学の本。


さて、医薬品では、致死量に到達しない範囲で、その薬を投与する必要がある。

まったく投与せずに投与量がゼロだと、その薬物の効果は出てこない。そして、少しづつ投与量を増やしていくと、ある程度の量の大きさで、被験動物に、医薬として目的の効果が出始める。目的の効果の出ているときの投与量のことを有効量という。

被験動物の50%に薬効が出る量を、ED50という。EDとは effective dose のことである。とはいえ、このED50という統計値を測定するには、前提として薬効の基準が必要である。


上述のED曲線やLD曲線など、用量と反応の累積頻度をグラフにした曲線のことを用量反応曲線という。用量反応曲線の形状は、横軸の用量を対数にすると、形状は通常ではS字型になる場合が多い[5][6]

※ コラム[編集]

長いので、単独の節として分離。

コラム的な話題
ヒストグラム

用量反応曲線が縦軸が累積であるグラフということは、つまり、数学の統計分野の用語でいう、「ヒストグラム」である[7]。本wikiサイトでは『中学校数学/1年生/数量/データの活用』などでヒストグラムを説明済み。ただし、用量用法曲線のヒストグラムでは、縦軸は頻度になっているのでパーセント単位である。(中学の初等的なヒストグラムとは、やや違う。)

なお、中学高校の数学教育では、統計の単元は学習年次がよく変更されるので、閲覧時期によってはリンク先がズレている場合もありうるので注意のこと。


計算について

なお、実務での計算の際に重要な事として、効果と投与量は直線比例しない[8]、という事である。つまり、投与量が2倍になったからといって、効果は必ずしも2倍にならない。薬物の効果を計算で算出するには、事前に実験をして用量反応曲線を描いてから、その実験値および実験に基づくグラフから算出しなければならないという事である[9]

なぜ、そうするかというと、(医学・薬学などの医薬系の実務に限らず、)製造業などの機械産業などの計算でも、実務における実験値のグラフは、中学高校の数学で使うグラフとは異なり、実務の実験値グラフは数式では精度よくは表せない形状になる場合が多い。なので、実務では、グラフ形状から算出する必要がある。

なお、用量反応曲線の形状は、数学でいう「シグモイド曲線」に形状が近い[10]。軸に対数が使われているかどうかにかぎらず、ああいった形状の曲線のことを「シグモイド曲線」という。

しかし、実務ではけっしてシグモイド曲線の方程式から算出するのではなく(数学では、指数関数などを使ったシグモイド曲線の方程式が提唱されている。その他、微分方程式などで提唱されている)、薬理学の実務では実験グラフから算出しなければならない[11]

また、けっして、化学で習う、化学平衡や反応速度論などの方程式から算出するのでもない。 生物系の大学でも科目「生化学」で、『高等学校化学II/化学平衡』で習うような式を発展的にさらに細かく習うが、あくまで参考程度である。

つまり、けっして、

のような式から算出するのではない。

そうではなく、実際に実験動物などに投与した実験グラフから、最終的には算出する事により、精度よく算出する事が出来るのである。

※ 羊土社『はじめの一歩の薬理学』でも、そういう見解。同じような式を紹介している。


なお、説明の都合上、高校化学でも使う「A」「B」の文字で説明したが、薬理学では慣習的に、

の文字を使うことが多い[12][13]

[D] が薬物の濃度[14]、[R] が受容体の濃度[15][16]、である。また、[DR] は薬物と受容体との結合物(「複合体」[17])の濃度である。

なお、上式に対応する化学式は

である[18]。(矢印の記号が違うのは、wikiの都合。実際の実務では、高校化学と同じ矢印記号を用いてよい。)

なお、生化学などでは、ミカエリス・メンテンの式などを、上述の濃度式などを使って求める場合がある。


※ wiki著者による追記

上述の実験グラフによる算出テクニックは、医学にかぎらず、理科系・理工系の業界での実務において、大量の部品からなる製品の挙動を解析する際などの、基本的なテクニックのひとつであろう。(高校物理や大学教養物理だったら部品が1~2個だし形状も単純なので、数式による近似計算が可能だが、しかし現実の設計では、部品が数百個~数万個もあったりして、近似計算が困難であるし、無理やりに近似しても精度が悪くて大して役立たない。)

また、学問の世界でも、「複雑系」や「カオス」などといわれる分野など、計算量の膨大な問題を、なんとか数値的に扱う場合にも使えるテクニックのひとつである。

数式は、あくまで参考程度である。実務では精度が必要なため、実験値にもとづく実験グラフを用いる必要がある。もちろん、なるべく事前に実験しておくのである。(以上、追記。)


基本的な概念のつづき[編集]

ED50とLD50の位置関係は通常、右図のように、ED50と比べてLD50のほうが小さくなるので、グラフではLD曲線はED曲線の左側に来る[19]

LD50とED50の位置関係


さて、50%致死量を50%有効量で割ったものの事、つまり の値を治療係数といい、薬物の安全性の指標のひとつになっている。 治療係数が高いほど、安全性が高い。

致死量の代わりに、後述の「中毒量」を使う場合もある。


グラフの50%の部分は、(医学関係者たちの)経験的に勾配が最も急な場合が多く、そのため、精度よく50%の部分を測定しやすい場合が多い[20]。このような測定上の理由が、治療係数の指標にて50%の部分が使われる理由の大きな要因のひとつになっている[21]

※ けっして、実際の患者に、中毒量の50%を投与するわけではないだろう。
だが、それであっても指標としては精度上の理由で50%の部分を使うという、実務的なテクニック。
  • 中毒量

投与しても死なない薬物であっても、もし後遺症などの有害作用のある薬物を投与されては、たまったものではないだろう。

薬物の投与において、有害作用が出た場合、そのことを「中毒」という。

そして、(ある薬物を投与した際に)有害作用の出てくる投与量のことを「中毒量」という。


薬の用量の語句

無効量と有効量の境界値を最小有効量という。

※ 言葉で説明するよりも、図を参照したほうが分かりやすい。なお、この図のレイアウトは照林社本をベースにし、用語はシンプル薬理学の用語に準拠した。
『パートナー薬理学』にも、似たレイアウトの境界図があるので(『パートナー薬理学』改訂第3版、2019年3月31日 第3版 第2刷 発行、P25)、けっして看護学だけでしか通用しない図ではないので、医学部系の読者も安心してよい。

薬物は、投与量がゼロでは、もちろん効果は無い。つまり投与量ゼロなら無効である。投与量を増やしていって、初めて効果の出てくる投与量のことを「最小有効量」という。

文字通り、「最小有効量」はまた、有効量の最小値でもある(※ 証明は数学の話題になるので省略する。)。 図から明らかなように、「最小有効量」は無効量と有効量の境界値のことでもある(※ 証明は数学の話題になるので省略する。)。

※ 数学の説明省略については、以下の耐用量や中毒量、致死量でも同様に、本wikiページでは数学的な言及を省略する。

また、効果が出始めたあとにも投与量をさらに増やしていった場合、増やしすぎると中毒が出てくる。投与量を少しずつ増やしていき初めて中毒の出る投与量のことを最大耐用量という[22]。以前は「極量」と言った。[23]


そして、中毒量になっても さらに投与量を増やしていくと、ついには実験動物が死んでしまうが(致死)、投与量の最小値のことを「最小致死量」という。


  • 安全域

特に明確な定義は無いが、最小有効量から最小中毒量の差を「安全域」という。 安全域が広いほど、安全に使いやすい。

よく、薬理学の教科書で、上記のような意味で、「安全域」という言葉が使われる。

※ たとえば『NEW薬理学』改訂第6版、P601。


  • その他

さて、上記では説明の簡略化のため言及せずにおいていたが、薬物を同じ量の投与をしても、子供と大人とで効き方は違うし、大人どうしでも男女でも効き方は違うし、成人男性どうしでも太っている人とやせている人とで効き方は違う。

ある薬物を投与した場合の、被験者の血中における薬物の濃度のことを「血中薬物濃度」という。血中学物濃度は通常、体重 kg と投与量mgの割合で、mg/kg の単位で使うことが多い。

※ 『標準薬理学』などをみても、説明していない。なので、外部サイトなどで調べると、たとえば参考サイトブロムフェノホス - 厚生労働省, 抗菌薬TDMガイドライン Executive summary - 日本化学療法学会 など。


「mg/kg 体重」などの表記のように、分母側に「体重」を補って意味を分かりやすくする場合もある。

※ 『標準薬理学』第7版 でも、mgでなくmL(ミリリットル)だが、20ページ目の左段の下から5行目あたりで「40 mL/kg 体重」という表記がある。


※ 血中薬物濃度は、被験者への投与量に比例するので、なので上述の「最小有効量」などの意味の説明では、「投与量」の語を使って説明している。医学書でも「投与量」または「用量」の語句で説明されている。

薬事法にもとづく劇薬や毒薬などの分類の基準値・規制値でも、この血中薬物濃度の単位 mg/kg で提示されているのが普通である。

※ なお、薬事法にもとづいて官公庁が規制値を告示などをするが、しかし薬事法そのものの条文には規制値は書かれていない。厚生労働省などの管轄する、関連の機関から規制値が公表されているので、それを参考にす事。

さらに、経口投与と注射投与とで、規制値が異なるので、実務では混同しないように。注射投与の際も、静脈注射と動脈注射か皮下注射かの区別など、注射部位の差異があるので混同しないように。

参考文献[編集]

医学の参考文献
  • 今井正 ほか『標準薬理学 第7版』 、医学書院、2015年3月25日 第7版 第1刷、
  • 石井邦雄 ほか『パートナー薬理学 改訂第3版』、南江堂、2019年3月31日 第3版 第2刷 発行、
  • 田中千賀子ほか『NEW薬理学 改訂第6版』、2016年2月10日 第6版 第6刷発行、
  • 植松俊彦ほか『シンプル薬理学 改訂第3版』、2005年6月1日 第3版 第3刷発行、
  • 石井邦雄 ほか『はじめの一歩の薬理学 第2版』、2020年1月15日 第2版 第2刷発行、


看護学の参考文献
  • 小山岩雄『超入門 新 薬理学』、照林社、2006年5月10日 第1版 第1刷発行

脚注[編集]

  1. ^ 『標準薬理学』、第7版、P14
  2. ^ 『シンプル薬理学』
  3. ^ 『標準薬理学』
  4. ^ 『シンプル薬理学』
  5. ^ 『標準薬理学』
  6. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  7. ^ 『標準薬理学』
  8. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  9. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  10. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  11. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  12. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  13. ^ 『標準薬理学』
  14. ^ 『標準薬理学』
  15. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  16. ^ 『標準薬理学』
  17. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社
  18. ^ 『標準薬理学』
  19. ^ 小山岩雄『超入門 新 薬理学』、照林社、2006年5月10日 第1版 第1刷発行、P21
  20. ^ 『パートナー薬理学』
  21. ^ 『パートナー薬理学』
  22. ^ 『シンプル薬理学』
  23. ^ 『シンプル薬理学』