病理学/炎症

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概論[編集]

炎症は本来、細胞障害に対する生体防御のための反応である。ただし、炎症がアレルギーなどを引きおこす場合もある。

炎症の一般的な症状として、発赤(Rubor)、腫脹(Tumor)、発熱(Calor)、疼痛(Dolor)、機能障害(Functio leasa)の5つがあり、この5つの症状をまとめて、 炎症の「5兆候」とか「古典的兆候」などという。

なお、発赤、腫脹、発熱、疼痛の4つを、セルズスの4兆候という。セルズス Celsus は人名で、紀元前の医者の1人[1][2]。 ガレノス Galenus が、これに機能障害[3][4]を加えて5兆候とした。

※ 「セルズス」とは、パラケルススとも言われるケルススの事か?

炎症には、様々な細胞が防御や治療のために関与しており、 白血球や血小板、マクロファージや好中球や好酸球、肥満細胞、などなど、様々な細胞が関与している。

過程
  1. ヒスタミンなどの生理活性物質により、血管透過性が亢進するので、その結果として血管の充血が起きる。これにより、5兆候のうちの発赤・腫脹が起きている。
  2. 傷害部にマクロファージやリンパ球(特に白血球)が集積する。
  3. ※ 未記述.


好中球

傷口などで膿(うみ)が出来る場合があるが、膿の主成分は、好中球および、好中球の変性・壊死したものである[5]

好中球は本来、細菌の殺菌のために傷口に集まっている。(※ ウイルスは対しては、『標準病理学』では言及されてない。他の文献[6]では、ウイルスはおそらく対象外だろうと考えられている。)

好中球は、その内部に顆粒を持ち、その顆粒が過酸化分解酵素およびタンパク分解酵素を持っている。

急性の炎症で、好中球が多く見られる[7][8]

化学伝達物質[編集]

なお、下記のヒスタミンやセロトニン、プロスタグランジン、インターロイキンや、各種の酵素など、などをまとめて、ケミカルメディエーターという[9]

※ よく薬理学で「ケミカルメディエーター」という表現が使われる。

アミン[編集]

ヒスタミン

ヒスタミンは、好塩基球の顆粒、および脂肪細胞、血小板[10][11]から多く分泌される。

脂肪細胞では、ヒスタミンはあらかじめ生産されており、顆粒としてヒスタミンが貯留されている[12][13]

ヒスタミンの放出により、その刺激を受けた血管が拡張したり、血管透過性が亢進したりする。

※ 『標準病理学』では、細動脈は拡張するが細静脈は収縮するという立場。『スタンダード病理学』は、その立場を取らず、単に血管が拡張するという立場。


血小板に蓄えられているセロトニンも、同様に血管の拡張や血管透過性の亢進の働きをする。


好塩基球と肥満細胞は、同じ系統の細胞だろうと思われている[14]

『標準病理学』では、明言してないが、同じ単元の同じ節で「好塩基球、肥満細胞」とまとめている(第5版の40ページ)。『スタンダード病理学』第4版でも、95ページで、「好塩基球や肥満細胞は」とまとめて一緒に説明している。


アラキドン酸代謝産物[編集]

プロスタグランジンおよびロイコトリエンという物質が、細胞膜のリン脂質から幾つかの反応を経由して作られる。


プロスタグランジンには幾つかの種類があり、プロスタグランジン類といわれるが、プロスタグランジン類のほとんどは、炎症に関わる働きをする種類のものである事が分かっている。


生成の経路は、

リン脂質がホスホリパーゼにより分解され、アラキドン酸になる。

アラキドン酸が、シクロオキシゲナーゼ(COX)により、プロスタグランジンになる。

アラキドン酸はまた、(プロスタグランジンとは別の反応経路で、)リポキシゲナーゼにより、ロイコトリエンになる。


「プロスタサイクリン」とも呼ばれるプロスタグランジンI2(PGI2)は、血管拡張作用と血小板凝集阻害作用がある。

「トロンポキサンA2」(TXA2)という物質は、これはプロスタグランジンH2から作られる物質であり、血管収縮作用と血小板凝集作用がある。

このように、プロスタグランジンI2とトロンポキサンA2は、働きが対立している。

薬剤のアスピリンは、酵素のCOXを阻害することでプロスタグランジン合成を阻害する仕組みにより、炎症を抑えるという仕組みである[15][16]

そのほか[編集]

T細胞やB細胞などのリンパ球、補体といわれる物質、好酸球、好塩基球、好中球、肥満細胞、マクロファージ、樹状細胞、・・・などが炎症の部位に分泌されるなどして、関わっている。

分類[編集]

漿液性炎[編集]

血漿からフィブリノーゲンを除いた成分のことを漿液という。漿液にフィブリノーゲンはが含まれていないので、粘度は低い。漿液の滲出(しんしゅつ)を見られる炎症のことを、漿液性炎という、火傷や虫刺されで、漿液性炎が見られる[17]

なお、粘膜から粘液や漿液の滲出の見られる炎症のことをカタルという。アレルギー性鼻炎もカタルであり[18]、漿液性カタルである[19]

アレルギー性鼻炎のことを「鼻カタル」のように、カタルにその部位をつけて言ったりする[20]

なお、カタルは漿液と限らず、粘液であっても滲出の見られる炎症ならカタルといい、区別のために(粘液が滲出される場合には)「粘液性カタル」のように言う場合もある[21]

漿液性炎なら、少量の好中球の滲出を伴う場合が多い[22][23]>。


線維素炎[編集]

フィブリンの析出の目立つ炎症なら、線維素炎という。 ジフテリアに見られる。


粘膜などの表面に、線維素が膜状に沈着するので、偽膜性炎ともいう。


化膿性炎[編集]

好中球の滲出の目立つ炎症のことを化膿性炎という。

膿(うみ)といわれる、黄白色、あるいは黄緑色の不透明な液状のものを滲出する[24]

膿は、多数の好中球が脂肪変性を起こしたものである[25]


膿が、鼻腔や胸腔など生体に元からある体腔に溜まった場合、その症状を蓄膿(ちくのう)という。


一方、組織の内部に出来る膿を膿瘍(のうよう[26])といい、これは好中球が周辺の組織を分解しているもの[27][28]と思われている。

※ 誤字に注意。 「腫」(しゅ)瘍ではなく「膿」(のう)瘍。
※ 『標準病理学』は膿瘍を紹介せず。


壊疽性炎[編集]

腐敗菌などの感染により、炎症の部位の腐敗の激しい場合、これを壊疽性炎という。腐敗性炎[29]という場合もある。

虫垂炎を放置すると壊疽性炎になる場合がある[30][31]


その他[編集]

炎症部が壊死(えし)している場合など、壊死性炎[32]という。

※ 「壊死」は「壊疽」とは意味が異なる。
壊死とはネクローシスのこと。

特異性炎および肉芽腫[編集]

肉芽腫(にくげしゅ[33])は類上皮細胞を含む。

一般に、マクロファージが処理しきれない異物が大量にある場合に発生する[34][35]と考えられている。

※ なお、「肉芽」の読みについて、日本の医学では「にくげ」と読む[36]。(3文字目が「が」でなく「げ」)
しかし、「線維芽」は「せんいが」と読む[37]。あまり方針が一貫していない。

一説では、「類上皮細胞」とは、マクロファージが上皮細胞の形態になったもの[38][39]とされる。

※ 『標準病理学』や『スタンダード病理学』には、マクロファージと類上皮細胞の関係が書いていない。

結核[編集]

結核症は、結核菌の感染によって引きおこされる。結核では、乾酪壊死と呼ばれる壊死を病変部に起こす。なお、一般に結核による壊死は慢性である[40]

また、結核結節(ラングハンス型巨細胞[41][42]など)と呼ばれる肉芽腫を形成する[43][44]


結核の肉芽腫の構造は、肉芽腫(結核結節)の中心部に乾酪壊死が起こり、それの周囲で取り囲むようにラングハンス型居細胞や類上皮細胞が見られる[45][46]


梅毒[編集]

梅毒は、梅毒トレポネーマの感染によって引きおこされる。

梅毒は、進行の程度により、第1期から第4期に分類される。

梅毒の第3期で、「ゴム腫」と呼ばれる肉芽腫が形成される[47][48]


サルコイドーシス[編集]

サルコイドーシスという原因不明[49]の、肉芽腫が形成される疾患がある。

(結核とは違い、)サルコイドーシスでは乾酪壊死は伴わない[50][51]

その他[編集]

シリカ[52]やベリリウム[53]の吸引による、肺の肉芽腫がある。

ハンセン病による肉芽腫がある[54][55]

真菌症や、ネコひっかき病で、肉芽種がある[56][57]

脚注[編集]

  1. ^ 『標準病理学』
  2. ^ 『スタンダード病理学』
  3. ^ 『標準病理学』
  4. ^ 『スタンダード病理学』
  5. ^ 『シンプル病理学』
  6. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  7. ^ 『標準病理学』
  8. ^ 『スタンダード病理学』
  9. ^ 『標準病理学』
  10. ^ 『標準病理学』
  11. ^ 『スタンダード病理学』
  12. ^ 『標準病理学』
  13. ^ 『スタンダード病理学』
  14. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  15. ^ 『標準病理学』
  16. ^ 『スタンダード病理学』
  17. ^ 『スタンダード病理学』
  18. ^ 『標準病理学』
  19. ^ 『スタンダード病理学』
  20. ^ 『標準病理学』
  21. ^ 『スタンダード病理学』
  22. ^ 『標準病理学』
  23. ^ 『シンプル病理学』
  24. ^ 『標準病理学』
  25. ^ 『標準病理学』
  26. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  27. ^ 『スタンダード病理学』
  28. ^ 『シンプル病理学』
  29. ^ 『標準病理学』
  30. ^ 『スタンダード病理学』
  31. ^ 『標準病理学』
  32. ^ 『標準病理学』
  33. ^ 『シンプル病理学』
  34. ^ 『スタンダード病理学』
  35. ^ 『標準病理学』
  36. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  37. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  38. ^ 『シンプル病理学』
  39. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  40. ^ 『標準病理学』
  41. ^ 『スタンダード病理学』
  42. ^ 『標準病理学』
  43. ^ 『スタンダード病理学』
  44. ^ 『シンプル病理学』
  45. ^ 『標準病理学』
  46. ^ 『シンプル病理学』
  47. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  48. ^ 『スタンダード病理学』
  49. ^ 『スタンダード病理学』
  50. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  51. ^ 『スタンダード病理学』
  52. ^ 『スタンダード病理学』
  53. ^ 『標準病理学』
  54. ^ 『スタンダード病理学』
  55. ^ 『標準病理学』、第5版、P56
  56. ^ 『標準病理学』
  57. ^ 『シンプル病理学』