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病理学/炎症

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

概論

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炎症は、細胞障害に対する生体防御のための反応である。しかし、炎症がアレルギーなどを引き起こすこともある。

炎症の一般的な症状として、発赤(Rubor)、腫脹(Tumor)、発熱(Calor)、疼痛(Dolor)、機能障害(Functio laesa)の5つがあり、これらをまとめて「炎症の5兆候」または「古典的兆候」と呼ぶ。

発赤、腫脹、発熱、疼痛の4つは、セルズスの4兆候とされる。セルズス(Celsus)は紀元前の医者の一人である[1][2]。ガレノス(Galenus)が、これに機能障害を加え、5兆候とした[3][4]

※ 「セルズス」とは、パラケルススとも言われるケルススのことであるとされている。この記述については議論がある。詳しくは議論ページを参照。

炎症には、様々な細胞が防御や治療に関与しており、白血球、血小板、マクロファージ、好中球、好酸球、肥満細胞などが含まれる。

過程
  1. ヒスタミンなどの生理活性物質により、血管透過性が亢進する。その結果、血管の充血が起き、5兆候のうちの発赤と腫脹が生じる。
  2. 傷害部にマクロファージやリンパ球(特に白血球)が集積する。マクロファージは、細菌や死んだ細胞を貪食し、サイトカインを分泌して他の免疫細胞を引き寄せる。
  3. 炎症の経過として、急性炎症から慢性炎症へと移行することがある。急性炎症では、主に好中球が反応し、炎症の初期段階での感染に対抗する。一方、慢性炎症ではマクロファージ、リンパ球、形質細胞が主に関与し、長期的な炎症反応が続く。
  4. 炎症反応が続くと、組織の再生が始まる。組織修復のために、血管新生や線維芽細胞の増殖が起こり、損傷部位の修復を助ける。この過程では、成長因子やサイトカインが重要な役割を果たす。
好中球

傷口などで膿(うみ)ができる場合があるが、膿の主成分は好中球および好中球の変性・壊死したものである[5]

好中球は本来、細菌の殺菌のために傷口に集まる。ウイルスに関しては、『標準病理学』では言及されていない。他の文献では、ウイルスはおそらく対象外であると考えられている[6]

好中球は、その内部に顆粒を持ち、過酸化分解酵素およびタンパク分解酵素を含む。急性の炎症では、好中球が多く見られる[7][8]

化学伝達物質

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ヒスタミンやセロトニン、プロスタグランジン、インターロイキン、各種酵素などをまとめてケミカルメディエーターと呼ぶ[9]

※ 薬理学において「ケミカルメディエーター」という表現がよく使われる。

アミン

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ヒスタミン

ヒスタミンは、好塩基球の顆粒、および脂肪細胞、血小板から多く分泌される[10][11]

脂肪細胞では、ヒスタミンがあらかじめ生産され、顆粒として貯留されている[12][13]

ヒスタミンの放出により、その刺激を受けた血管が拡張したり、血管透過性が亢進したりする。『標準病理学』では、細動脈が拡張するが細静脈は収縮する立場を取っているが、『スタンダード病理学』は単に血管が拡張すると説明している。

血小板に蓄えられているセロトニンも、血管の拡張や血管透過性の亢進に寄与する。

好塩基球と肥満細胞は、同じ系統の細胞と考えられている[14]。『標準病理学』では明言していないが、同じ節で「好塩基球、肥満細胞」とまとめている(第5版の40ページ)。『スタンダード病理学』第4版でも、95ページで「好塩基球や肥満細胞は」とまとめて説明している。

アラキドン酸代謝産物

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プロスタグランジンおよびロイコトリエンは、細胞膜のリン脂質からいくつかの反応を経て生成される。

プロスタグランジンには幾つかの種類があり、ほとんどは炎症に関与する働きを持っている。

生成の経路は、リン脂質がホスホリパーゼによって分解されアラキドン酸となり、その後、シクロオキシゲナーゼ(COX)によりプロスタグランジンに変換される。また、アラキドン酸はリポキシゲナーゼによりロイコトリエンとなる。

「プロスタサイクリン」とも呼ばれるプロスタグランジンI2(PGI2)は、血管拡張作用と血小板凝集阻害作用がある。「トロンポキサンA2」(TXA2)は、プロスタグランジンH2から生成され、血管収縮作用と血小板凝集作用がある。このように、プロスタグランジンI2とトロンポキサンA2は、作用が対立している。

薬剤アスピリンは、酵素COXを阻害することでプロスタグランジンの合成を抑制し、炎症を抑える[15][16]

そのほか

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T細胞やB細胞などのリンパ球、補体と呼ばれる物質、好酸球、好塩基球、好中球、肥満細胞、マクロファージ、樹状細胞などが炎症の部位に分泌され、関与している。

分類

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漿液性炎

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血漿からフィブリノーゲンを除いた成分を漿液という。漿液にフィブリノーゲンが含まれないため、粘度は低い。漿液の滲出を見られる炎症を漿液性炎と呼び、火傷や虫刺されに見られる[17]

粘膜から粘液や漿液の滲出が見られる炎症はカタルと呼ばれ、アレルギー性鼻炎もカタルであり、漿液性カタルに分類される[18]

アレルギー性鼻炎のことを「鼻カタル」と呼ぶ場合もある[19]

カタルは漿液に限らず、粘液が滲出される炎症も含む。区別のために、粘液が滲出される場合には「粘液性カタル」と呼ぶこともある[20]

漿液性炎は、少量の好中球の滲出を伴うことが多い[21][22]

線維素炎

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フィブリンの析出が目立つ炎症

が線維素炎であり、フィブリノーゲンが多く含まれる滲出液が関与している[23]

線維素炎はしばしば感染によるものであり、フィブリノーゲンが細菌の代謝物に反応して析出した結果、糸状のフィブリンが形成される[24]

化膿性炎症

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化膿性炎症は主に細菌によって引き起こされ、膿が生成される炎症である。膿は主に好中球の変性物質で構成されている[25]

脚注

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  1. ^ 『標準病理学』
  2. ^ 『スタンダード病理学』
  3. ^ 『標準病理学』
  4. ^ 『スタンダード病理学』
  5. ^ 『シンプル病理学』
  6. ^ 『なるほど なっとく!病理学』
  7. ^ 『標準病理学』
  8. ^ 『スタンダード病理学』
  9. ^ 『標準病理学』
  10. ^ 『標準病理学』
  11. ^ 『スタンダード病理学』
  12. ^ 『標準病理学』
  13. ^ 『スタンダード病理学』
  14. ^ 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』
  15. ^ 『標準病理学』
  16. ^ 『スタンダード病理学』
  17. ^ 『スタンダード病理学』
  18. ^ 『標準病理学』
  19. ^ 『標準病理学』
  20. ^ 『標準病理学』
  21. ^ 『標準病理学』
  22. ^ 『シンプル病理学』
  23. ^ 『標準病理学』
  24. ^ 『スタンダード病理学』
  25. ^ 『スタンダード病理学』