線型代数学 > 逆行列
この章では逆行列の性質について議論する。
なお、行列の四則演算(和、積など)については 行列概論 を参照のこと。
逆行列の定義[編集]
定義1.1.2
行列
が逆行列をもつとき
は正則(regular)である、という。
逆行列という言い方のほうが馴染みがあるかもしれないが、線形代数学では、正則(せいそく)という言い方をよくするので慣れてもらいたい。
逆行列の性質[編集]
逆行列の一意性[編集]
1.1.3の証明

の逆行列として

の他に

が存在したとすると

を左からかければ

∴

である。□
逆行列であるための条件[編集]
証明は後述する。(定理1.1.4の証明の手段として、まず、これから説明する定理1.1.5と補題1.1.6を先に証明する。)
逆行列に関する演算[編集]
逆行列であるための条件の証明[編集]
ここから先は行列の基本変形を理解しているものとして話を進める。
まず、次の補題を示す。
補題1.1.6の証明
の逆行列を
とすると、


したがって、
が成り立つので、
は正則。□
は、

の逆行列である。したがって、

は正則。□
それでは、定理1.1.4を証明することにする。
定理1.1.4の証明
数学的帰納法で示す。
のとき、
行列はただの数字となるので、正しい。
のとき定理は正しいと仮定する。
が
をみたしているとき、
なので、基本行列の積
が存在して、
と変形できる。(ただし
)
また、
とおけば、(ただし
)
より
となる。
ここで、帰納法の仮定と補題より
は正則。
は正則。( ただし
)
は正則だから
も正則。
以上より

のときも定理は正しい。

のときも同様である。□
逆行列の求め方[編集]
以下の文で説明するが、まず、正則行列は基本行列の積で表わせる。また、正則行列は左基本変形だけで(もしくは右基本変形だけで)単位行列に変形できる。
なぜなら、仮に行列
が正則であるとすれば、このとき、正則の定義より、関係式

をみたす基本行列の積の行列
と
とが、それぞれ存在する。
は、それぞれ正則だから
,および 
が成り立つ。基本行列の逆行列は基本行列であるから、以上の考察より正則行列は基本行列の積で表わせることが分かる。
すなわち、正則行列は左基本変形だけで(もしくは右基本変形だけで)単位行列に変形できる。
以上のことから次の定理が成り立つ。
定理1.1.7
仮に行列
が正則行列のとき、

を左基本変形することで以下の行列を得たとする。
(ただし
)
このとき、
である。
の逆行列を求めよ。
解法の手順
- まず
を用意する。
- (第2行の-2倍を第1行に、2倍を第3行に加える)

- (第2行と第1行を入れ替える)

- (第2行を第1行に加え、第2行の2倍を第3行に加える)

- (第3行を第2行に加え、さらに第2行を-1倍する)

よって逆行列は、
練習問題[編集]
逆行列を以下の(1),(2)の行列について求めよ。
(1)
(2)
答え (1)
(2)