薬理学/アセチルコリン関係の薬物

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概要[編集]

アセチルコリンは、化学式を見ると分かるが、エステル化合物である。アセチルコリンは、その化学式の内部構造で、エステル構造を含んでいる。

※ エステルの意味については『高等学校化学I/脂肪族化合物/エステル』を参照のこと。

コリンエステラーゼという酵素は、アセチルコリンを分解する酵素であり、アセチルコリンを分解してコリンと酢酸とにする。

このため、アセチルコリンと類似の構造をもつコリンエステル化合物も、コリンエステラーゼは分解する。

なので、コリンエステラーゼ阻害薬により、神経の作用は増強される。

よって、重症筋無力症の治療にコリンエステラーゼ阻害薬は使われる。


ややこしい事に、アセチルコリンと類似の構造で、エステル構造をもつ化合物のことを、「コリンエステル類」という。

つまり、コリンエステラーゼは、けっしてコリンエステルを作る化合物ではない。

むしろ、コリンエステラーゼによって、コリンエステルが分解される場合のほうが多いかもしれないくらいである。


コリンエステラーゼ阻害物質[編集]

一方、毒性の高い薬にも、コリンエステラーゼ阻害をする薬物がある。

医療では用いられないが、農薬や殺虫剤で使われるパラチオンやマラチオンといった有機リン系農薬も、コリンエステラーゼ阻害剤である。

また、毒ガスのサリンも、コリンエスエラーゼ阻害剤である。 ここでいうサリンとは、日本では「地下鉄サリン事件」で使われた「サリン」も同じ種類の物質である[1]

では、医療で使われるコリンエステラーゼ阻害薬、農薬・毒ガスとの違いは、どこにあるのだろうか。


それは、脂溶性の違い[2][3]だと考えられている。

※ 大学用の医学教科書だと厳密性を重視して、脂溶性の違いだと名言してはない。だが、章・節の構成を見ると、どの医学書でも、脂溶性を重視しているので、事実上は日本の医学者たちは、コリンエステラーゼ阻害剤における可逆/可逆の毒性の違いの原因は、脂溶性の違いであると考えている。

パラチオンやマラチオンなどの有機リン農薬、毒ガスのサリンも、構造上、脂溶性が高いと考えられる。

コリンエステラーゼ阻害をする猛毒ガスのサリン、ソマン、タブン、VXガスも、すべて脂溶性が高い。

なおパラチオン、マラチオン、サリン、ソマン、タブン、は化学式中に、リン原子(P)を持っている。

※ このため、いわゆる有機リン系のコリンエステラーゼ阻害剤が、毒性が高いと考えてもいい。


脂溶性の高い事により、脳の血液脳関門を突破するので、中枢神経にも作用し、毒性が高いと考えられる。

なお、パラチオンやマラチオン、サリンなどは「非可逆性コリンエステラーゼ阻害剤」として分類される。


※ 「パラチオンやサリンなどは非可逆性コリンエステラーゼ阻害剤です!」と言っても、
「では何がどう非可逆な作用をしているのか? その作用機序は何か?」との答えになってないので、
本wikiではそういう説明をしない。

一方、医薬品として用いているコリンエスエラーゼ阻害薬であるエオスチグミン、ジスチグミンなどは、脂溶性が低い。


なお、ネオスチグミン、ジスチグミン、ビリドスチグミン、エドロホニウム、アンベノニウムは、 いずれも医薬品として用いている可逆性コリンエスエラーゼ阻害薬であり、 いずれも第4級アンモニウム構造を有する[4]。(アンモニウム構造のため脂溶性が低いので中枢神経にも移行しにくく[5]、そういう仕組みで毒性も低いと考えられる。)


また、上述のネオスチグミン、ジスチグミン、ビリドスチグミン、エドロホニウム、アンベノニウムは、 いずれも、重症筋無力症に用いられている[6]

エドロホニウムは作用時間が短く、重症筋無力症の診断に用いられる[7][8]

それ以外に、ネオチグミンは術後の腸管麻痺や膀胱麻痺[9]や排尿困難[10]の改善。

アセチルコリン関係の受容体[編集]

アセチルコリンの受容体には、主にムスカリン受容体と、ニコチン受容体の2種がある。

ムスカリン受容体とは、薬物のムスカリンに反応するので、そういう名前がついている。

同様に、ニコチン受容体は、薬物のニコチンに反応するので、そういう名前がついている。

なお、ムスカリンとは、毒キノコのベニテングダケに含まれるアルカロイドである。


ムスカリン性作用薬[編集]

ベタネコールはムスカリン性作用を示し、消化管と膀胱に選択性が高い。(要確認:)排尿を促進させる方向に向かう。 ベタネコールはコリンエステラーゼで分解されず、そのためベタネコールは作用時間も長い[11]

ベタネコールの構造は、アセチルコリンの酢酸基をカルバミン酸基で置換したものになっており、そのためコリンエステラーゼで分解されない。

ベタネコールの副作用として、気管支喘息、低血圧など。特に気管支喘息は、ベタネコールの禁忌になっている。(気管支喘息の患者に、ゼッタイに投与してはいけない、という意味)


ムスカリンは、ムスカリン受容体の語源にもなっているので当然、ムスカリン性作用を示すが、臨床応用は無い。


ビロカルビンというアルカロイドは、ムスカリン性作用を示し、眼圧効果作用があるので緑内障の治療薬として用いられる。発汗、唾液分泌などの副作用があり、さまざまな分泌腺を刺激促進する。ピロカルボンは、ニコチン性作用も弱いながらも少しだけある。


カルバコールは緑内障に用いられる。カルバコールはコリンエステラーゼで分解されず、そのため持続時間も長い[12]。また、カルバコールはムスカリン作用とニコチン作用を両方とも持っている[13]

※ カルバコールはニコチン性作用も示すため、「ムカカリン作用薬」として紹介するのは不適切かもしれない。しかし、カルバコールだけで一つの節を使うのは不便なので、ここで紹介する事にした。医学書では、そもそもカルバコールを無視する医学書もある。シンプル薬理学と標準薬理学以外では、紹介すらされない。
※ちなみにシンプル薬理学では、ニコチン作用薬として紹介されている。


アセチルコリンを、薬物として見方を変えて見直してみると、当然だが、アセチルコリンはムスカリン作用とニコチン作用を両方とも持っている[14]。(そもそもムスカリン受容体もニコチン受容体も、アセチルコリンの受容体なので。)

薬物投与でのアセチルコリンの作用では、主にムスカリン作用が目立ち、高用量の場合にだけニコチン作用(骨格筋の興奮など[15][16])も目立つようになる[17][18]

臨床的には、アセチルコリンは、手術後の麻酔による腸管麻痺[19]からの回復のための腸管運動の促進などに用いられる[20]

アセチルコリンは経口投与は無効であり、皮下注射も効果は低いので、静脈注射で投与する。

また、当然だが、コリンエステラーゼによりアセチルコリンは分解されるので、薬物としてのアセチルコリン薬剤の持続時間は短い。

アセチルコリン投与により、血圧は低下するが、これはムスカリン受容体への作用による[21][22]。(臨床では、血圧低下の目的では用いられていないので、動物実験[23]の結果などから判断している。)


抗コリン作用薬[編集]

アトロピン[編集]

アトロピンは、ナス科植物のアルカロイドが原料、または基本構造である。

ベラドンナ(植物名)、ロート(植物名)、ヒヨス(植物名)、などにアトロピンの原料・類似物質が含まれる。 アトロピンは抗コリン薬であり、非選択的抗コリン薬である。


原料のヒヨスチアミンは光学異性体があり、旋光性である。 しかしアトロピンは抽出の仮定でラセミ体となり、非旋光性である。

アトロピンにはl体(エルたい)とd体が等量含まれるが、d体には作用が無い。


医学教育的には、アトロピンは、臨床的には散瞳薬として、眼底検査で用いられる場合がある事を教えられるが、しかし作用時間が長すぎて臨床では不便である。

より作用時間の短い類似薬(トロピカミドなど)が現代では開発されているので、類似薬を使う場合もある。 眼底検査では、(アオトロポンよりも、)持続時間の短いトロピカミドが適している[24][25]

ただし、虹彩炎の治療では、アトロピンが適している[26]


アトロピンは、眼圧上昇を引きおこす。毛様体筋を弛緩させる。

また、眼圧上昇を引きおこすので、緑内障には禁忌である[27][28]


抑制として、唾液腺、汗腺や気道分泌や消化液分泌などの腺分泌・液分泌などの抑制。

また、唾液や気道分泌を抑制するため、麻酔前の処置に「麻酔前投薬」としてアトロピン硫酸塩[29]が使われる。

またアトロピンには、麻酔中や手術中に発生する迷走神経反射を抑える効果もあるので、アトロピン硫酸塩[30]の「麻酔前投薬」都合がよい[31][32]


そのほか、アトロピンの作用として、パーキンソン病によって起きる錐体外路系の障害による振戦、硬直を抑制するので、パーキンソン病治療に使われる。

そのほか、抗精神病薬の副作用でパーキンソン病的な副作用の見られる場合があり、その副作用を抑えるためにアトロピンを用いる場合もある[33]

中枢神経系の作用は、治療量ではほとんどみられないが、中毒量になるような大量の投与では、幻覚、錯乱などの作用があり[34]、ついで昏睡する[35]

なお中毒に関しては、精神的な作用よりも、呼吸麻痺などによる死亡の危険性[36][37]があることのほうが重要であろう。

ただし、アトロピンの安全療域は広く[38]、普通の用量を投与している限りは安全だろうと思われている。

なお、中毒を解毒するには、コリンエステラーゼ阻害薬を投与する[39]


逆に、コリンエステラーゼ阻害薬による中毒による中毒を解毒するためには、アトロピンを大量に投与する[40][41]。、毒キノコのなかにはムスカリンを持っているものもあり[42]、そのような種類の毒キノコの解毒にもアトロピンを用いる[43][44]。他の種類の毒キノコには無効である[45]


類似薬

ビレンゼピンは、胃液の分泌を抑制するので、胃潰瘍の治療に用いられる。ビレンゼピンは、M1ムスカリン受容体を遮断している[46][47]、と考えらているが、一説には遮断しているのはM3ムスカリン受容体だという説もあり、胃液分泌はM1ではなくM3だという説もある[48]


散瞳薬には、作用時間の短いものとしては、上述のトロピカミドのほか、シクロペノラートもある[49][50]

ニコチン受容体関係[編集]

  • 自律神経節の関係

ヘキサメトニウムはニコチン受容体に親和性を有し[51]、アセチルコリンによる自律神経節伝達を遮断する[52][53][54]。かつて高血圧の薬として用いられたことがあったが[55][56]、副作用のため用いられなくなった。

※ 「ニコチン受容体遮断薬」ではなく、ニコチン受容体に親和性のある自律神経節遮断薬。アセチルコリン関係の神経分泌は複雑なので、このような分類になっている。

現代では、薬理学実験などでヘキサメトニウムは用いられるのみである[57]


メトニウム化合物とは、数個のメチレン基の直鎖の両端にアンモニウム塩のついた構造の化合物であり[58]、つまり

(CH3)N+ - (CH2) n - N+ (CH3)

の構造の化合物であるが[59]、 この構造を有する化合物はふつう節遮断作用を有し[60]、 メチレン基5個のペンタメトニウム、メチレン基6個のヘキサメトニウムは節遮断作用を有する。

また、メチレン基10個のデカメトニウムは骨格筋弛緩薬であるが[61][62]、この仕組みは骨格筋接合部の遮断によるものである[63]

脱分極性遮断薬[編集]

スキサメトニウムは、「サクシニルコリン」とも言う。

また、スキサメトニウムの構造は、アセチルコリンが2個結合した構造である[64][65]


スキサメトニウムは投与後は、非特異的コリンエステラーゼによって分解されるため、通常5分程度で消失する[66][67]

スキサメトニウムは、筋弛緩の作用があり、臨床的には麻酔時の筋弛緩、器官内挿管、骨折脱臼の整復、などに用いられる。

スキサメトニウムはシナプス後膜Nmニコチン受容体に対するアゴニストであり、投与後にいったん筋収縮するが、まもなく弛緩する[68]

つまり、脱分極が持続して筋弛緩が少々続くので、そのため「脱分極性遮断薬」という分類をされている。

スキサメトニウムの一時的な筋収縮は、「一過性」とよく形容される。つまり、スキサメトニウムは、投与直後には一過性の筋収縮をするが、まもなく筋弛緩をし、そしてコリンエステラーゼで分解されるので5分程度で消失する。


副作用

スキサメトニウムの重大な副作用として、悪性高熱症がある[69][70]

特に、ハロタン麻酔との併用で、悪性高熱症が起きやすい[71][72]。。

悪性高熱症の治療にはダントロレンが用いられる[73][74]


筋肉痛の副作用があり、術後の[75]麻酔から回復したあとに[76]筋肉痛がある。筋肉痛の原因は、投与初期の筋収縮による筋線維の断裂[77]によるもの[78]だと考えられている。

また、外眼筋の拘縮により眼圧を向上させるので[79]、緑内障には禁忌[80][81]


このような副作用の多さのため、現在はスキサメトニウムの使用は減少している[82][83]

ダントロレン[編集]

ダントロレンは、骨格筋小胞からのCa2+放出を抑制する。

全身麻酔で、悪性症候群が発生する場合があるが、その際の特効薬としてダントロレンは用いられる。

悪性症候群の発生率が手術例1万5000件に1例ほどのまれな疾患であるが[84]、発症すれば60~70%といった高確率で死に至る現象である[85]

悪性症候群の原因として、リアノジン遺伝子の異常が考えられており[86]、全身麻酔薬により遺伝疾患に該当の患者は異常にCa2+が長時間にわたって分泌されるので発熱をする[87]

なお、悪性症候群の治療には、ダントロレンと併行して、体温を下げる処置と、電解質を補う処置も必要である[88]

ダントロレンの用途は、悪性症候群のほかにも、脳脊髄関係[89](脳血管障害[90]など)の各種の痙性麻痺にもダントロレンが用いられる[91][92]

なお、ダントロレンの副作用には、ねむけ、めまい、脱力感、消火器症状、肝機能障害、などがある[93][94]

局所麻酔薬[編集]

歴史などの概要[編集]

現在、局所麻酔薬として実用化されているものは、コカインをプロトタイプとする一群の薬物であり、 具体的にはプロカインやリドカインである。


では、まずコカインを振り返って学習しよう。

南米原産のコカの葉を噛むことによって、疲労回復をはかった。、

その後、19世紀後半には、欧米ではコーラなど飲料にも成分として取り入られた。

そして1860年、コカ葉からコカインが単離された。

そして1884年、フロイトが、コカインの作用に注目し、麻酔に応用することを提唱した。

そして同僚のケラーにより、眼科手術の局所麻酔薬として実際にコカインが使用された。


やがて、依存性が問題視された。

1905年にプロカインが世界初の合成局所麻酔薬として合成され[95]、1948年にはリドカインが合成され、そして現代でも局所麻酔薬としてプロカインやリドカインは使われている。


生理学的な概要[編集]

コカインに限らず、局所麻酔薬は一般に、主に神経にある電位依存性Na+チャネルに拮抗することで[96]、麻酔作用を起こす。

このような仕組みのため、痛覚神経に限らず、麻酔された部分の知覚神経を全般的に可逆的に抑制する。

そもそも局所麻酔薬とは、意識を左右することなく、局所の感覚を鈍磨させる薬物のことであり、主に痛覚を鈍磨させる目的で使用される[97]

なお、現代ではコカインは実は鏡像異性体(「光学異性体」)である事が分かっており、つまりコカインにはd体とl体の2種類があるが、d体とl体のどちらとも鎮痛作用のある事が明らかになっている[98]

※ 余談だが、化学系の学部・学科では、鏡移しの異性体について、「光学異性体」ではなく「鏡像異性体」と言う表現を、国際的には近年、使うようになってきているらしい。[99]


局所麻酔薬の様式[編集]

表面塗布[編集]

粘膜、角膜[100][101]または皮膚創傷面に塗布する。

気管支や胃粘膜[102]などの粘膜も、組織的には粘膜なので、表面麻酔に分類される[103][104]。気管支、胃潰瘍に対しては、比較的に毒性の低い薬物を使う[105]

コカイン、リドカインなどが表面塗布[106][107]

浸潤麻酔[編集]

注射により、手術などの際に、局所部位に感覚麻痺を起こさせる。

リドカイン、プロカイン、ブピバカイン、メピバカインなどが浸潤麻酔[108][109]

伝達麻痺[編集]

神経幹、神経叢、神経束[110]、神経節[111]などの周囲に、注射して、感覚麻痺を起こさせる。

リドカイン、プロカイン、ブピバカイン、などが浸潤麻酔[112][113]

脊椎麻酔[編集]

局所麻酔薬を脊椎クモ膜下腔に注入し、神経根のレベルで伝導を遮断する。

麻痺域が頚髄に至ると呼吸麻痺を起こし人工呼吸器[114]が必要になるので、注意する[115][116]

硬膜外麻酔[編集]

硬膜外腔に注入し、伝導を遮断する。


コカイン系薬物の化学構造[編集]

局所麻酔薬の構造は普通、両端に芳香環と3級アミンをもち、それらがエステル結合またはアミド結合を介して、繋がっている構造になっている[117]

(※ 編集者への注意 : ) ここに化学構造式の図を追加のこと。

場合によっては、端の片方は、芳香環ではない場合もあるが、その場合でも脂溶性分子であるのが普通である[118]

また、もう片方の端も、3級アミンでない場合もあるが、親水性の分子である場合が普通である[119]


また、両端の間に、場合によっては、エステル結合/アミド結合に加えて、さらに直鎖などを介している場合もある[120]


各論[編集]

プロカインはエステル型である。プロカインは効力も低いが毒性も低い。作用持続時間は比較的に短いが[121][122]、アドレナリンを併用することにより、持続時間を延ばすことができる。

プロカインは組織浸透性が低いので、表面麻酔には用いられない[123][124]

表面麻酔には、コカインまたはリドカインが用いられる[125]

プロカインは分解産物のパラアミノ安息香酸がアレルギーを起こすことがある[126][127]


リドカインは、アミド型としては世界初のアミド型合成麻酔薬である。エステル型ではなくアミド型なので、エステル過敏の患者にはアミド型のリドカインが麻酔の第一選択薬になる[128]

リドカインは、速効性でプロカインよりも作用持続時間が長い。

※ 「即効性」ではなく「速効性」[129][130]です。

リドカインは肝臓で代謝される。しかし、アミド結合をもつので、コリンエステラーゼでは分解されない[131]。このため、血中エステラーゼでは分解されない[132]

リドカインは、脊髄くも膜下麻酔以外の[133]ほとんどの局所麻酔に使われる[134]。 リドカインは表面麻酔にも用いられる[135]

心筋細胞の興奮を抑制することから[136]、抗不整脈薬としても用いられる[137]

このような機序のため、副作用として、麻酔として使いたい場合でも、体循環に移行してしまった場合には、心筋抑制という副作用が現れる[138]

麻酔用途では、副作用の抑制のために局所麻酔として使うべきだが[139]、単独投与では全身に移行しやすいので[140]、一般にアドレナリンと併用して血管を収縮させることで局所性を高める[141][142]


ブピパカインはアミド型麻酔であり、硬膜外麻酔、伝達麻酔に用いられる[143][144]


メビバカインは、浸潤麻酔、硬膜外麻酔、伝達麻酔に用いられる[145][146]


オキセサザインは、酸性下でも有効な局所麻酔薬であり、胃粘膜など[147]消化管局所麻酔薬として使われる[148][149]


テトラカインは、脊椎麻酔によく用いられる[150][151][152]


コカイン

麻酔薬としてのコカインは、局所麻酔薬である。

さらにコカインの場合、神経終末のモノアミントランスポーターに結合して阻害する。

また、コカインはみずから血管収縮作用を持つので[153](もしくは、アドレナリンの作用を増強する[154])、(血管収縮作用を持つアドレナリンを併用せずに)単独で用いられたこともあった[155]

コカインは、中枢神経刺激作用により、多幸感、精神的高揚[156](精神的発揚[157])がある。コカインは薬物依存性があり、麻薬に指定されている。

依存性の問題などから、現代ではコカインは使用される機会は少ないが、鼻粘膜[158]の表面麻酔でコカインを使用する場合がある[159]。依存性などの理由により、適用するなら表面麻酔にとどめるべきという考えによる[160]

コカインの副作用の痙攣には、バルビツール酸系薬を用いて対処する[161][162]

コカインは、使用されるなら局所麻酔薬として使うべきだが、大量に投与すると全身作用が表れ、また、不整脈[163]、心筋梗塞[164]などの心臓抑制[165]の副作用がある。


クラーレ関係[編集]

ツボクラリン[編集]

d-ツボクラリンは、南米の原住民が狩猟の際の矢毒として用いていたクラーレという数種類のアルカロイドの混合物に含まれることで知られている。

筋弛緩をさせる。まず、眼筋や指筋など活動性の高い筋肉から弛緩させ、ついで四肢筋、体幹筋などを弛緩させ、最後には横隔膜も弛緩し、呼吸麻痺で死亡させる。

ツボクラリンの化学構造は、4級アンモニウム化合物である[166][167]

クレーレで狩猟した獣の肉を原住民は食べていても原住民には筋弛緩は起きない[168]ことから、消化管からは吸収されない[169]と考えられている。 消化管からの吸収の悪い理由は、4級アンモニウム化合物なので生体膜を通過しにくいから[170]だとされる。

また、血液脳関門も通過しない[171]。血液脳関門を通貨しない理由も、4級アンモニウム化合物であるため[172]だとされる。

胎盤関門も通過しない[173][174]

現在、臨床では用いられていない。

かつて、全身麻酔薬の補助剤としてツボクラリンが用いられたこともあった[175]


クラーレの作用機序としては、ニコチン受容体の競合的阻害による[176]遮断が関係しているとされる。これらの作用のため、アセチルコリンと競合的に拮抗するので[177]、「抗コリン作用薬」として分類される場合もある[178]

血圧が降下する[179][180]

脂肪細胞(マスト細胞)からヒスタミンを放出させる効果がある[181][182]。 血圧低下の作用も、ヒスタミン遊離によるものだという説もある[183][184]

ベクロニウム[編集]

ベクロニウムは、ニコチン受容体の遮断作用を弱めてある[185]。また、ヒスタミン放出作用も無い。

ベクロニウムは循環系の作用が無いが[186]、これはニコチン受容体の遮断作用を弱めたからである[187]

また、作用発現が早い。こういった理由から、手術時の筋弛緩や器官挿管などで[188]、臨床的によく使われる[189][190]

ロクロニウム[編集]

ロクロニウムは、ベクロニウムの誘導体である。ベクロニウムよりも作用発現が早い[191][192]

適応・副作用・禁忌(妊婦・妊娠可能性のある患者を除く)などはベクロニウムとほぼ同様で[193]、ベクロニウムの類似薬[194]である。

脚注[編集]

  1. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P55
  2. ^ 『NEW薬理学』、P242
  3. ^ 『シンプル薬理学』、P75
  4. ^ 『パートナー薬理学』、P64
  5. ^ 『シンプル薬理学』、P75
  6. ^ 『パートナー薬理学』、P66
  7. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P54
  8. ^ 『パートナー薬理学』、P66
  9. ^ 『標準薬理学』、P230
  10. ^ 『パートナー薬理学』、P66
  11. ^ 『標準薬理学』、P228
  12. ^ 『標準薬理学』、P228
  13. ^ 『標準薬理学』、P228
  14. ^ 『標準薬理学』、P227
  15. ^ 『パートナー薬理学』、P62
  16. ^ 『NEW薬理学』、P237
  17. ^ 『標準薬理学』、P227
  18. ^ 『パートナー薬理学』、P62
  19. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、羊土社、P54
  20. ^ 『標準薬理学』、P227
  21. ^ 『標準薬理学』、P227
  22. ^ 『NEW薬理学』、P317
  23. ^ 『パートナー薬理学』、P61
  24. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P55
  25. ^ 『NEW薬理学』、P247
  26. ^ 『NEW薬理学』、P247
  27. ^ 『標準薬理学』、P235
  28. ^ 『NEW薬理学』、P247
  29. ^ 『NEW薬理学』、P248
  30. ^ 『NEW薬理学』、P248
  31. ^ 『標準薬理学』、P235
  32. ^ 『NEW薬理学』、P248
  33. ^ 『NEW薬理学』、P248
  34. ^ 『パートナー薬理学』、P66
  35. ^ 『NEW薬理学』、P248
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  37. ^ 『NEW薬理学』、P249
  38. ^ 『NEW薬理学』、P249
  39. ^ 『NEW薬理学』、P249
  40. ^ 『標準薬理学』、P235
  41. ^ 『NEW薬理学』、P249
  42. ^ 『NEW薬理学』、P249
  43. ^ 『NEW薬理学』、P249
  44. ^ 『標準薬理学』、P235
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  46. ^ 『NEW薬理学』、P249
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  49. ^ 『パートナー薬理学』、P68
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  71. ^ 『パートナ-薬理学』、P79
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