高等学校化学II/化学平衡

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化学平衡[編集]

可逆反応において、順方向の反応と逆方向との反応速度がつりあって反応物と生成物の組成比がマクロ的に変化しなくなる状態を扱う分野である。

学習する分野[編集]

  • 可逆反応
  • 平衡移動
    • ルシャトリエの原理
    • 濃度変化に伴う平衡移動
    • 圧力変化に伴う平衡移動
    • 温度変化に伴う平衡移動
    • 濃度平衡定数・圧平衡定数
    • 平衡定数
  • 電離平衡
    • 水の電離
    • 酸・塩基の電離とpH
    • 緩衝溶液
    • 弱酸・弱塩基の電離
    • 溶解平衡

可逆反応[編集]

例えば、水素とヨウ素の混合気体を容器に入れ、一定温度に保っておくと、一部が化合してヨウ化水素を生じ、水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。また、この容器にヨウ化水素だけを入れて同じ温度に保っておくと、一部が分解して水素とヨウ素が生じ、やはり水素・ヨウ素・ヨウ化水素の混合気体になる。

このように、「水素とヨウ素の化合」と「ヨウ化水素の分解」のように、ある反応に対してその逆の反応も起こるとき、一方を正反応、他方を逆反応といい、このどちらも進むような反応を可逆反応とよぶ。また、一方向にしか進まない反応を不可逆反応という。

平衡移動[編集]

ルシャトリエの原理[編集]

可逆反応が平衡状態にあるとき、温度や圧力の条件を変化させると、正反応または逆反応のどちらかが進んで、新たな平衡状態になる。この現象を平衡移動という。平衡移動の向きにはある一定の規則があり、これは、ルシャトリエの原理(平衡移動の原理)とよばれる。この規則は、次のようなものである。

 可逆反応が平衡状態にあるとき、濃度や温度・圧力といった条件を変化させると、条件の変化を和らげる向きに反応が進んで、平衡が移動する。

条件変化を和らげる向きとは、条件変化の効果を打ち消す向きに反応が進むことを示している。例えば、圧力を上げれば圧力が下がる向きに反応が進み、温度を上げれば熱を吸収する向きに反応が進むことになる。

平衡定数[編集]

一般に、

のような可逆反応が起こるとき、この反応系が化学平衡に達すると、化学平衡のときの各物質の濃度の間には、Kを定数として、次の関係が成り立つ。

この関係を質量作用の法則(化学平衡の法則)といい、そのときの定数Kを平衡定数という。1つの反応系では、温度が決まれば平衡定数は一定値をとる。あるいは、上で定義された平衡定数の定義が、濃度の平衡によることから濃度平衡定数ともいい、その意味で表す際には、記号Kcを用いる。

圧平衡定数[編集]

上で定義された濃度平衡定数とは異なる平衡定数として、各々の反応物・生成物の分圧pをもとに定義する平衡定数がある。 平衡時の分圧を考えると、次のように圧平衡定数Kpが定義される。

濃度平衡定数と圧平衡定数には、反応式が

で表わされる場合に、分圧がモル濃度と比例することから、次の関係式がある。

この関係式を導出する。理想気体の状態方程式の

PV=nRT

は、圧力Vを右辺に移動すれば、

P=(n/V)RT=cRT

と、圧力Pとモル濃度cの関係式となり、圧力と温度とが比例する。この p=cRT を状態方程式を、圧平衡定数の式に代入すれば、

以上の計算例は、2個の反応物から2個の生成物が生じる反応式の場合だったが、他の反応式でも同様に、圧平衡定数と濃度平衡定数の関係式がある。

電離平衡[編集]

水の電離[編集]

純水の水は、わずかであるが電気伝導性をしめす(※ 東京書籍の教科書、チャート式など)。純水は、わずかだが電離をしていて、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-を生じて、電離平衡の状態になっている。


このとき、水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH-]は等しく、25℃で1.0×10-7[mol/l] となっている。

水はわずかにしか電離しないので、濃度[H2O]の値はほぼ一定とみなせるので、定数とみなせる。これより、[H+]と[OH-]の積の値も温度一定のときに一定値となる。この値を水のイオン積といい、Kwで表す。

[mol2/l 2]

水の平衡定数をKとすると、平衡定数Kとイオン積Kwは以下の関係にある。

[mol2/l 2]


25℃におけるKwの値は

[mol2/l 2]


このイオン積の値が成り立つのは、水だけでなく、酸や塩基や他の中性の水溶液でも同様に、水素イオンと水酸化イオンとのイオン積は一定で、1.0×10-14 [mol2/l 2]が成り立つ。また、値の1.0×10-14 [mol2/l 2]は常温付近での値であり、温度がかわると少しだけ値が変わるが、常温付近ならば桁の10-14のところまでは変わらないので、実用上は一定値1.0×10-14 [mol2/l 2]と見なすことが多い。

このといったイオン濃度の概念を用いると、水溶液における酸性の定義や塩基性の定義を以下のように数値的に定義できる。

水溶液における酸性とは、水素イオン濃度が水酸化イオンよりも大きい状態である。

酸性:

同様に、水溶液の中性や塩基性も、イオン濃度で定義できる。

中性:
塩基性:


  • 発展
(※ チャート式に表あり。)

水のイオン積と常温付近の温度の関係は、下記のとおり。

温度 Kw[mol2/l 2]
20℃ 0.29×10ー14
25℃ 1.01×10ー14
30℃ 1.47×10ー14
(※ 下記の内容は実教出版、第一学習社で紹介。)

また、水の電離は吸熱反応であり(※ 上の表と関連づけて覚えよう。)、熱化学方程式は

である。

酸・塩基の電離とpH[編集]

水溶液の酸性は、水素イオン濃度[H+]が大きいほど強くなり、塩基性は水酸化物イオン濃度[OH-]が大きいほど強くなる。ここで、[H+]と[OH-]のどちらか一方が決まれば、他方は水のイオン積により求めることができる。ふつう、水溶液の酸性/塩基性は水素イオン濃度[H+]によって表す。

しかし、[H+]の値は広い範囲で変化するため、扱いにくい。そこで、[H+]の常用対数をとって、それに負符号を付けたものを用いて、酸性/塩基性の程度を表す。この値を水素イオン指数といい、pHで表す。pHの読みは「ピーエイチ」またはドイツ語読みで「ペーハー」と読む。日本語訳ではpHを水素イオン指数という。

pHの値がpH=7ならば中性である。 pHの値は塩基性になるほどpHが高くなる。pHが7より高いpH>7の状態では塩基性である。pHがとりうる最大値は理論上では14である。pH=14のときは、 [H+]=10-14 である。

pHの値は酸性になるほどpHが低くなる。pHが7より低いpH<7の状態では酸性である。pHがとりうる最大値は理論上では0である。pH=0のときは、 [H+]=100=1 である。

水酸化イオン[OH-]の対数をとったものをpOHという。(「ピー オーエイチ」と読む) pHとpOHについて、イオン積から次の公式が成り立つ。

pH + pOH =14

あるいは

pH =14 - pOH

pH指示薬[編集]

物質の中には、水溶液に接触させた時に、水溶液のpHの値によって色が変化するものがある。このような物質はpHを調べるのに用いることができるので、これらの物質のうちpHを調べる物質として実用化されている物質をpH指示薬という。いわゆるリトマス試験紙もpH指示薬に含まれる。またリトマス試験紙のように、pH指示薬を試験用の紙に染み込ませて用いる事が多い。このようなpH指示薬を染み込ませてある紙をpH試験紙という。 pH指示薬は、その物質によって、色を変えるpHの範囲が限られている。たとえば、メチルオレンジはpH=3.1以下では赤色で、そこからpHが高くなると黄色味を増していき、pH=4.4では橙黄色である。pH=4.4より高いpHでは橙黄色のまま、ほとんど色が同じなので、このpHの範囲では指示薬として用いられない。 このように指示薬の色が変わるpHの範囲を変色域という。

pHメータ[編集]

pHを正確に測定するには、電位差を測定する方法が用いられる。そのための測定機器としてpHメータがある。


緩衝液[編集]

少量の酸や塩基を加えたり、薄めたりしてもpHがほとんど変化しない溶液を、緩衝液(かんしょうえき)あるいは緩衝溶液という。弱酸とその塩、または弱塩基とその塩の混合水溶液などが緩衝液として使われる。また、このようにpHを一定に保つような作用を緩衝作用という。

例えば、代表的な緩衝液として、酢酸 CH3COOH と酢酸ナトリウム CH3COONa との混合水溶液を考えてみよう。この溶液中の酢酸ナトリウムは、電離してCH3COO-とNa+とを生じる。一方、酢酸も電離するが、酢酸ナトリウムの電離により生じるCH3COO-の影響で、ルシャトリエの原理により、電離平衡は大きく酢酸の側に偏る。従って、実際には酢酸はほとんど電離せず、酢酸分子として水中に存在している。

まず、この混合溶液に酸を加えると、生じたH+は酢酸イオンと反応して、酢酸を生じる。これにより、[H+] はほとんど増加しない。また、この混合溶液に塩基を加えると、生じたOH-は酢酸分子と反応して中和される。従って、[OH-] もほとんど増加しない。

弱酸・弱塩基の電離[編集]

濃度c[mol/l]の弱酸HAの水溶液では、電離度をαとすると、[H+]と[A-]はcα[mol/l]となる。 従って、電離定数Kaは、次のように表される。

ここで、弱酸の濃度が大きいときには、電離度は1に比べて十分に小さいから、と近似でき、が成立する。

溶解平衡[編集]

例えば、塩化ナトリウムを水に加えていくと、やがて溶けきれなくなり、飽和溶液になる。このような状態を溶解平衡といい、の電離平衡が成立する。ここで、この飽和溶液に濃塩酸を加えると、新たに塩化ナトリウムが沈殿してくる。これは、濃塩酸を加えることにより[Cl-] が増加し、ルシャトリエの原理により上式の平衡が左に移動するからである。濃塩酸の代わりに塩化水素ガスを吹き込んでも同様の結果が得られる。

このように、ある電解質の飽和溶液に、その電解質を構成するイオンと同じ種類のイオン(共通イオン)を生じる別の電解質を加えることで、もとの電解質の溶解度が減少して沈殿を生じる現象を、共通イオン効果という。

溶解度積[編集]

塩化銀AgClのような難溶性の塩でも、水に加えれば、わずかながら電離をする。

この難溶性の塩の場合も、以下のように平衡定数が定義できる。

[AgCl]の濃度の値は、固相の影響が支配的であり、一定値と見なせるから、これを右辺に移項して、

として、式が得られる。この式の、

を塩化銀の溶解度積(ようかいどせき、solubility product)といい、記号KSPで表す。

平衡定数Kが温度のみの関数であり、[AgCl]は一定と見なせることから、溶解度積KSPもまた温度のみの関数で濃度に無関係である。

塩化銀以外の他の難溶性の塩に対しても、同様に溶解度積が定義できる。一般の塩 AmBn に対しては、溶解度積の定義KSPは、反応式が次の式の場合、

この反応式の場合、溶解度積の定義式 KSP は、

で定義される。

さて、塩化銀の水溶液に、溶液への新たな添加物として、食塩NaCl(塩化ナトリウムNaClであるように、塩素Clを含む)などの塩素を含む物質を添加したとしよう。すると、塩化ナトリウムは容易に電離することから、溶液中の塩素イオン濃度 [Cl]- が増える。すると、平衡定数を一定に保つには、 銀イオン濃度 [Ag]+ を減らさなければならなくなる。従って、塩化銀の電離が減少し、塩化銀銀の沈殿が生じる。これは共通イオン効果の一種である。 塩化ナトリウムの代わりに、塩酸HClや塩化カリウムKClなどの塩素を含む他の物質を添加しても、同様に共通イオン効果により、塩化銀の沈殿現象は起こる。

これ等の場合、銀イオンと塩素イオンのイオン積[Ag]+ [Cl]-が溶解度積 KSP よりも大きくなると沈殿を生じる。

[Ag]+ [Cl]- > KSP   ・・・沈殿を生じて、 [Ag]+ [Cl]- = KSP となる。
[Ag]+ [Cl]- ≦ KSP   ・・・沈殿を生じない。