本書を読むための前提知識は、基本的な解析学の知識で十分である。
- 第一法則
- ある座標系が存在し、その座標系では、すべての力が働いていない質点は、静止するか直線上を一定の速度で運動をする(これを慣性系という)。
- 第二法則
- 慣性系において、質点に加わる力は質点の質量と加速度の積に等しい。
- 第三法則
- 二つの質点1,2が互いに力を及ぼし合うとき、質点1が質点2に作用する力と、質点2が質点1に作用する力とは、大きさが等しく逆向きである。
個の質点の系を考える。この系の自由度は
だから、その座標を
と書く事が出来る。各
について、第二法則は、
となる。ここで、関数
が存在して、
と書く事が出来るとき、これを保存力という。質点系に保存力のみが働く場合、ラグランジアンを
と定義すると、運動方程式は、
と変形することが出来る。これをオイラー・ラグランジュ方程式という。この方程式の重要なことは、これが座標変換によって形を変えないということである。
実際に、
のように座標変換するとき、
から、
となる。また、
となる。従って、
ここで、
ならば、線形方程式
を解いて、
を得る。
オイラー・ラグランジュ方程式は変分原理からも導出することができる。それはラグランジアン
の運動に沿った積分
が極値を取る経路が実現されるというものである。
まずは簡単な例として、関数
を最小にする
について考えよう。
が最小値を取るとき、
となるのだった。
となることは、
を微小量
だけ変化させたとき、
の変化量
は
になるということである。
ここからの類推で、
を最小にする
について、
を少しだけ変化させて
(ただし、境界条件
を課す)としたときの
の変化量
は
となると考えることが出来る。
ここで、
は任意であるので、オイラー=ラグランジュ方程式
を得る。
一般化運動量
を

で定義する。デカルト座標を使った場合、質量
の粒子のラグランジアンは、
であるから、
となって、通常の運動量に一致する。また、極座標では、
より、
となる。
に共役な運動量は角運動量に一致する。
ラグランジアン
が陽に
に依存しないならば、
となる。変形すると、
となる。従って、
は保存する。この量
はエネルギーと呼ばれる。
ラグランジアンに
を代入して一般座標で書くと、
となる。ここで、
とした。
運動エネルギーの部分を
と置くと、同次関数に対するオイラーの定理より、
となるから、
を得る。エネルギーとは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和であるということが分かる。
質量
の質点が重力を及ぼし合うときの運動を考える。質点の座標をそれぞれ
とすればラグランジアンは、
となる。ここで、重心
と相対位置ベクトル
を使って、
と書き直すことができる。ここで、
は全質量、
は換算質量である。
は循環座標だから、
は保存する。すなわち、ラグランジアンの
の部分は定数だから取り除いて、
とすることができる。すなわち、質量
を持った質点の距離に反比例するポテシャルでの運動に帰着される。このように中心対称の場での運動では、角運動量は保存されるから、質点の運動は中心を通るある面に限られる。この面で極座標を導入し、
とすると、
となる。エネルギーは、
[1]
ただし、
が循環座標であるから、角運動量
が保存されることを使った。この式を
について解くと、
[2]
となる。運動量保存から
を使うと、
となる。
と変数変換して、積分すると、
となる[3]。ここで、積分定数はこれが0になるように選ぶ。さらに、
とすると、
あるいは、
を得る。
従って惑星の軌道は二次曲線になる。
のときは、
となるから、惑星の軌道は楕円になる。また、
のときは、
となるから、惑星の軌道は放物線あるいは双曲線となる。放物線になる場合は無限遠に於いて速度が0となる。
軌道長半径
を
で定義する。軌道が楕円の場合は軌道長半径は長軸の半分の長さである。双曲線の場合は軌道長半径は負の値となり、絶対値は双曲線の半軸に等しい。
放物線の場合は軌道長半径は無限大になる。
ここでは、天体の軌道が楕円となる場合、すなわち
の場合を扱う。
時刻
と軌道上の惑星の位置の関係を求める。エネルギー保存の式まで立ち返って、それを
について解くと、
となる。ここで、
を代入すると、
となる。さて、今までは楕円の焦点を原点とした座標で計算を進めていたが、これを楕円の中心を原点とした座標に移行するほうが便利である。この座標では楕円の方程式は
となる。極座標で書くと、
Pは惑星の位置。P'はPをy軸と平行にその外接円(青)に射影した位置である。fは真近点角、Eが離心近点角である。
となる。ここで導入した
は楕円の中心から測った角度で、離心近点角という。対して、
は楕円の焦点から測った角度で真近点角という。右図より、
となる。これに、軌道の極方程式
すなわち
を代入すると、
また、
Bは惑星。Cは惑星の軌道の外接円にy軸に平行にBを射影した仮想上の天体。Dは外接円を一定速度(平均運動)で動く仮想上の天体。直線SBと直線SOのなす角が真近点角。角SOCが離心近点角。角SODが平均近点角である。また、右上のMは平均近点角、Eは離心近点角である。
を得る。この式を
の式に代入すると、
となる。
平均運動を
で定義すると、
となる。積分すると、
を得る。
は積分定数で、
のとき、
となるから近点通過時刻に対応する。
平均近点角
を
で定義する[4]と、
を得る。この方程式はケプラー方程式と呼ばれる。この方程式を
について解けば、惑星の運動が分かる。惑星が近日点を通過してから次に近日点を通過する時刻を
とする。このとき、
となる。惑星の周期は
だから、ケプラー方程式より、
を得る。また、平均運動とは惑星の周期に対応する角振動数であったことも分かる。平均運動の定義より、
となる。周期で表すと
を得る。これはケプラー第三法則である。
ケプラー方程式で、
とすると、
は周期
の周期関数で奇関数である。従って、
とフーリエ展開できる。フーリエ係数は、
となる。部分積分して、
となる。最後の積分は、ベッセル関数
で表せるから、
となる。従って、
を得る。
を太陽、
を惑星とする場合、
が
よりも十分に大きいと近似することができる。このとき、重心は太陽の位置に近似できる。また、
となる。このとき、次のケプラーの法則が成り立つ[5]。
- 第一法則
- 惑星の軌道は、太陽を焦点の一つとする楕円である。
- 第二法則
- 太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定である。
- 第三法則
- 公転周期の2乗と軌道長半径の3乗の比は惑星によらず一定である。
再掲
第二法則はケプラー方程式を幾何学的に表現したものである。簡単のために時間の原点を
に取る。ケプラー方程式
を、
と変形する。
ここで、扇形
扇形
三角形
より、
は、扇形
の面積を
で割ったものに等しい。点
の
座標を
とすると、 扇形
の面積について、
扇形
扇形
となる。
よって、ケプラー方程式より、
を得る。
扇形
は太陽と惑星を結ぶ線分が掃く面積であるから、これが時間
に比例することはケプラー第二法則に他ならない。
ケプラーの第三法則は太陽を公転するすべての惑星について述べたものである。惑星の公転周期の2乗と軌道長半径の3乗の比は
であるから惑星の質量にも依存するが、
と近似できる場合は、すべての惑星についてこの比が一定となる。
オイラー角の図。中心が太陽で、青のxy平面が黄道面でx軸は春分点の方向。赤のXY平面が軌道面でX軸の方向が近日点。緑のN軸は昇交点に対応する。
三次元空間中の惑星の軌道を決定するために、6つのパラメータが必要になる。軌道の形状は軌道長半径
と離心率
で決定される。
軌道の方向を決定するには、太陽系に基準となる基準面と方向を設定しなくてはいけない。基準面には黄道面を使うことが多い。黄道面は地球の公転する軌道面である。太陽と地球の中心を結んだ線分が地球表面と交わる点が赤道を南から北に交差する瞬間を春分という。このときの地球の方向を基準方向にする。
上図のオイラー角 α, β, γ の順に動かしたアニメーション。
基準面には、太陽系の全角運動量ベクトルに垂直な平面である不変面や、赤道面を使うこともある。
この基準面と方向から、惑星の軌道面と近点の方向へのオイラー角によって軌道の方向を決定できる。オイラー角
に対応して、それぞれ昇交点黄経
、軌道傾斜角
、近点引数
と呼ばれる。
最後に、惑星の軌道上の位置を特定するために、近点通過時刻が必要になる。
いろいろな物理量のケプラー運動に渡る時間平均を計算する。いくつかは離心近点角で計算するほうが簡単である。ケプラー方程式を微分して、
となる。これを使って計算すると、
を得る。また、エネルギー保存の式
より、
であるから、
を得る。次に軌道平均速度を計算する。
より、
となる[6]。ここで、
は第二種完全楕円積分である。超幾何関数を使うと
となる。
原点に固定された正の電荷
を持つ原子核と正の電荷
と質量
を持つ荷電粒子のラグランジアンは、
[7]
となる。原子核は十分重いため移動しないと考えていい。また、
である。
ラグランジアンはケプラー問題と同じ形だから、その軌道は
となる。
を粒子が無限遠に飛んでいった方向と、粒子が原子核に最接近する点と原子核を結んだ線分が為す角とすると、
図の
が
で、
は散乱角である。
[8]
となる。ここで、無限遠での速度を
衝突径数を
とすると、
となるから、
である。これを代入すると
となる。散乱角を
とすると、
となる。これを使って書き換えると、
を得る。
ポテンシャルによる散乱のされやすさを見るために散乱断面積を定義する。一定の速度と密度を持った粒子束を散乱中心に向かって射出する。ここで、射出された粒子束の、単位面積単位時間あたりの粒子の個数を
とする。
を単位時間あたりに散乱角
から
の間に散乱される粒子の個数とする。直感的にもわかるように
が大きいほど散乱されやすいことを意味する。散乱断面積を
と定義する。これは面積の次元を持つ(
は単位時間あたりの量で、
は単位時間単位面積あたりの量だから)。また、散乱角
に対応する衝突径数を
とすると、入射粒子が
の円環の中にある確率、つまり
の円環の面積が散乱断面積を与える。
立体角
についての関係式
で割れば、
を得る。これを微分散乱断面積という。絶対値を付けたのは
が負になることもあるからである。これにラザフォード散乱の衝突径数の式を代入すると、
となる。
ハミルトニアン
を
で定義する。ハミルトニアンの全微分は、
となる。従って、ハミルトニアンは、
の関数
である。また、
と比較すれば、


が成り立つ。これを正準方程式という。
変数変換
についてある関数
が存在し、
が成立するとき、この変換を正準変換という。新旧変数の間の関係を求めよう。変分原理からは、
となる。同様に新変数に対しても、
が成り立つ。すなわち、この被積分関数の差はある関数
の全微分でなくてはならない。すなわち、
となる。整理すると、
となる。
は
の関数ということも分かる。また、
を得る。関数
を正準変換の母関数という。一般に母関数は新旧変数の関数
である。母関数の変数が
で表される場合について、正準変換の公式を求めておこう。
と書き換える。母関数
を定義すると、
を得る。
関数
の時間微分は、
となる。正準方程式より、
となるから、ポアソン括弧を、
で定義すると、
と書くことができる。一般の関数
に対しては、
と定義する。関数
が時間に陽に依存しない場合は
となる。特に、
となるが、これは正準方程式である。
次のポアソン括弧の一般的な性質は簡単に示すことができる。
は関数、
は定数である。
また、ヤコビ恒等式と呼ばれる次の恒等式が成り立つ。
例えば、
を展開して出てくる項は、
のように
あるいは
の二階偏導関数とその他の2関数の一階偏導関数の積である。そこで、左辺の内
の二階偏導関数が登場する項だけを集めて計算しよう。
に
の二階偏導関数は登場しないから、それが登場するのは、
である。ここで、ポアソン括弧を線形微分演算子として
と書く。簡単のために
と定義し
をひとまとめに扱った。
は系の自由度である。また、
は
の関数である。同様に、
と置く。そうすると、
の二階偏導関数が登場する部分について、
となる[9]。
の二階偏導関数は打ち消し合って、残っているのは
についての二階偏導関数である。
についてもその二階偏導関数を持つ項は打ち消し合うから、結局、表式は0となる。
正準変換によって、新ハミルトニアンが恒等的に0となる変換を求めてみよう。新しい運動量を
、新しい座標を
とすると、正準方程式は、
となるから、
は定数となる。この変換の母関数を
とすると、正準変換の公式より、
となる。旧ハミルトニアンの中の運動量を
によって書き換えると、
を得る。この偏微分方程式をハミルトン–ヤコビ方程式という。
ハミルトン–ヤコビ方程式の解
が求まったら、代数方程式
を
について解くことによって、座標
を定数
及び時間の関数によって表すことができる。運動量は
によって求まる。
- エリ・デ・ランダウ、イェ・エム・リフシッツ著、広重徹、水戸巌訳『力学(増訂第3版)』東京図書(1974)
- 須藤靖『解析力学・量子論』東京大学出版会(2019)
- ^
と定義すると、
と書くことができる。すなわち、運動は有効ポテンシャル
の中で移動する一次元運動と見なすことができる。
- ^ 平方根を取るときに、正負の符号が付くが、これは運動が右回りになるか左回りになるかの違いしかないから、正の方を選ぶことにする。
- ^ 積分
で、
と置き、
と変数変換することで、
と計算することもできる。
- ^ 平均近点角は時間変数を1周が
となるように調整したものである。
- ^ 太陽と惑星以外にも、地球と月、地球と人工衛星のように、片方の質量が一方に比べて無視できるほど小さいならばケプラーの法則が成り立つ。
- ^ 長半径
離心率
の楕円の周の長さは
であること使うと、平均速度を
と求めることができる。
- ^ 重力場中の運動では引力が働くが、ラザフォード散乱では斥力が働くから、ポテンシャルの符号が逆になっている。我々は係数
が正となるように設定している。
- ^
では
となるから、有効ポテンシャルを
とすると、
となる。この式を変形すると、
となる。従って、
- ^ 数学的に言うと、ポアソン括弧は多様体上のベクトル場として考えることができ、ベクトル場の括弧積はまたベクトル場になるということである。