歴史的には微分(differentiation)の研究は、曲線の接線の問題から始まりました。曲線と、その上の点が与えられた時、その点での曲線の接線の傾きを調べるにはどうしたらよいでしょうか?
特別な場合だけ、明らかな解答が得られます。例えば、 直線 y = m x + c は、その上のどんな点でも、それ自身が接線になるので傾きは m です。放物線 y = x2の場合は、原点 (0,0) での接線は y=0 なので、その傾きは 0 です。
しかし、 の x = 1.5 での接線の傾きはどのように求めたらよいのでしょうか?
それを知るための簡単な方法が微分法です。関数 f(x) を微分して得られた関数に値を入れると、元の関数のその点での接線の傾きが求まります。このように微分して得られた関数を導関数(derivative)と呼び、のように書き「えふぷらいむえっくす」、「f(x)の導関数」、「f(x)の微分」などと呼びます。分数のような記法として
なども用いられます。しかし、分数のように分母と分子というような分け方はできませんので注意してください。問題によってはとても分かりやすい記法です。
微分演算子(微分作用素、differential operator)として扱われる時は
などの記法もよく用いられます。
なお、微分の記号の後に付いたりつかなかったりしている括弧 [ ] は、殆どの場合はいりません。例えば、関数の積の微分 D(fg) を扱う場合など、 D fg と表記すると、 D(fg) なのか、 (Df)gなのか分かりにくいので明示するために括弧を用いたりします。
例えば、 f(x) = 3x + 5 であれば、 f'(x) = 3 になります。 xが何かということは気にする必要はありません。
- (絶対値のついた関数)
の場合は
となります。
この f(x) は、全区間で連続なのですが x = 0 の所で尖っていて、右極限の と左極限の が一致しないので f'(0) が定義されません。そして、 f'(x) は x=0 の所で不連続になります。この種類の微分不可能な点の事を、尖点(cusp)といいます。 関数は、無限大に発散したり、無限に振動したりすることがあるため、いつも微分可能とは限りません。
二点 (x1, y1)、(x2, y2)の間の平均変化率とは
のことです。もし、この二点が、関数 f(x) の上の点であれば、 f(xi) = yi となります。
と書いてみると
となります。また y の方もみてみると
です。
したがって、平均変化率 m は、二つの変数(Δ x と x1)を用いて次のように書き表せます。
そして、ある一点での接線の傾きを調べたいので、x2 を x1 に近付けます。これはつまり、Δ x を 0 に近付けるということになります。
Δ x と x を用いて、関数 f(x) の 点 x での接線の傾き(微分係数、英:differential coefficient)を極限のときのように定義すると
となります。
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これが導関数の定義です。右辺の極限が存在するならば、 f(x) は x で微分可能(differentiable)といい x での f(x) の微分係数を、と書きます。感覚的な説明をしますと、二点間の差 Δ x が 0 に近付いていくとき、接線の傾きの極限がこの式の右辺になります。
簡単な関数の導関数を求めてみます。
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= 2
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これは、元の関数 f(x) が直線の式ですから、それ自身の傾きになりました。定義から期待される結果です。この例では、x によらない定数になりましたが、当然ながら一般の曲線では接線の傾きが x によって変わります。これを次の例で見てみます。
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放物線 y=x2 の導関数は 直線 y=mx+c の形になりました。しかし、この導関数の示しているものは接線の傾きであって、接線そのものではないということに注意してください。接線の傾きは、 x によって変わっていきます。
x=aでの接線の傾きは となりますから、 x=a での接線の式は y = 2ax−a2 となります。この接線が、(a, a2) を通ることに注意してください。そして、接線の変数 x と、導関数の変数 x を混同しないでください。
- ちなみに後で出てくる、積の微分法則を使っても f(x)=x2 の微分は
- となり上の結果と一致します。
導関数の記法は、数学の中でも、結構、特徴的なものです。最もよく使われる記法は、
です。この記法は、 x の変化量に対して、 y の変化量はどのくらいなのか?という意味を表すと考えられます。或いは、y の微少量を x の微少量 で割る という意味を表す記法と見る事もできます。いずれにせよ導関数の定義を率直に表した記法です。
という記号もよく見かけます。これは、 x に関して微分するという意味です。 の 類型と思ってください。 y の部分の表現が長くなったりする場合に便利です。
微分を学んでいく内に、dy や dx は分数の分子や分母のように切りはなして考えることができるかもしれないと思うかもしれません。
のように、まるで分数の逆数でも取ったかのような記号も見かけるでしょう。
或いは、極座標(polar coordinates system)を用いた微分で
のようなものにも出会うでしょう。
の微分を表す記法として、次のようなものがありますが、全て同じ意味です。
導関数の定義を用いて、次の関数の導関数を求めてみましょう。
何かパターンのようなものがわかりましたか? xn の形の微分は、べき乗関数の微分の項目で扱います。
毎回、微分を定義通り導くのは関数が大変です。したがって、一般の関数を微分しやすいように、微分の性質をいくらか調べておき、それを用いて微分を行えば、楽に計算できるようになります。微分の演算規則を知ることで、かなり多くの関数を微分できるようになります。最も簡単な規則のいくつかは一次関数の微分に関するものですので、一次関数の微分はその傾きになるという性質と併せて考えると分かりやすいかと思います。
この特別な場合として x を x で微分するととなります。分数だと思って約分したときと同じに見えますが、分数とは違い導関数の定義から求められた結果ですので、誤解しないように理解してください。で一つの記号なのです。
これからもまるで分数を扱う時のような計算規則を目にすることになると思いますが、分数と誤解してしまうと、そのうち、dxや dyが実際には何なのかと考えはじめたときに躓く原因にもなります。混乱した場合は定義に戻ってみてください。
基本的な関数についての微分の規則をいくつか学びました。ここからもっと複雑な関数について微分するための規則を学びます。複雑な関数は、簡単な関数に分解して考えると分かりやすくなりますので、そのための手段として、ここでは定数倍の微分と和の微分について学びます。
このように、定数 c は、微分記号の外に出せます。微分の定義に戻れば、分子を定数 c でくくり、その c を極限操作の外に出すことができるということから成り立ちます。
x2の微分が
- .
となることは既に学んだ通りです。
そこで今度は 3x2の微分を考えます。
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これは、
- 3x2 = x2 + x2 + x2
と考えれば、次の和の微分を使っても確かめることができます。
この式は複号同順です。左辺が + なら右辺も+ 左辺が−なら右辺も−です。
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この、定数倍や、和の微分の法則は、数学的にとても重要な性質で、微分が線形性(linearity)を持つことを意味します。
足し算を行ってから微分をしても、一つ一つの項について微分を行ってから足し算を行っても結果は変わりません。線形性は複雑な計算をとても簡単にするのです。
和の微分の法則や、定数倍の微分の法則を使うことを考えて、多項式を分解していくと xnの微分という問題に帰着されます。その部分を解決するのがこの公式です。
例えば、既に確認したように x2 の微分は、2x1 = 2x になります。
この規則は、指数が 分数や 負の数の時(一般に実数の時)も成り立ちます。
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多項式は単項式の和なので、この規則と、定数倍の微分、和の微分の規則を使うことで、どんな微分もできるようになります。
以上の規則により、多項式の微分ができるようになりました。これらの公式を眺めているだけでは計算力は身に付かないので、いろいろな多項式を実際に微分してみることが大切です。ここでは、その手順を詳しく説明します。
例として
を計算してみます。
最初に、和の微分の法則を用いて単項式に分けます。
一次の項と定数項は
となります。
高次の項は定数倍の微分の規則を用いて、微分の外に出します。
ここでべき乗の微分法則により、それぞれの単項式の微分が求まります。
あとは、代数計算をして式を簡単をまとめて、最終的に
- 30x4+6x+3
という解答が得られます。
微分を使う時の便利な規則はもっと沢山あります。もう少し高度な手法に関しては、この後の「微分の公式」という項目で学びます。
導関数の定義から、定数関数や一次関数の微分、定数倍や和の微分の法則を導いてみてください。
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