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高校化学 化学反応とエネルギー

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
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反応熱

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化学反応や状態変化に伴って熱エネルギーの出入りが起こる時の熱のことを反応熱という。発熱、吸熱のいずれの場合も、反応熱と言う。反応熱には燃焼熱、溶解熱、中和熱、生成熱、融解熱、蒸発熱、昇華熱などがある。熱量の単位にはジュールを使い、熱量の記号は J またはキロ(k)をつけて kJ で表す。反応熱の表記は、1 molあたりの熱量(単位は kJ/mol )で表すことが多い。

エンタルピー

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(※ 再掲)ヘスの法則の説明図。水(H2O)の場合。

エンタルピー とは、内部エネルギー に、圧力 と体積 を使って、

で定義される。

熱力学第一法則によれば、内部エネルギーの変化 は、 を系の得る熱量として、

で与えられる。

通常の化学実験では、圧力が一定の環境で行われるため、 を変化前の体積、 を変化後の体積とすると、

となる。従って、等圧過程でのエンタルピー変化は、

となるから、系の得る熱量に等しい。

右に再掲したヘスの図の表などでは、「エネルギー」のところを、「エンタルピー」と読み替えていい。

熱化学方程式

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化学反応式の右辺に反応熱を記し、両辺を等号で結んだ式を熱化学方程式(thermochemical equation)または熱化学反応式という。 たとえば、炭素(黒鉛)を燃焼させた場合の熱化学方程式は次のようになる。

C(黒鉛)+O2(気) → CO2(気)  ΔH = -394 kJ/mol

水素を燃焼させた場合、次のようになる。

H2(気)+ O2 → H2O(液)  ΔH = -286 kJ/mol

反応熱は、上の式のように右辺に表す。

  • エンタルピー変化は、発熱反応のときは負で、吸熱反応のときは正である。
  • 物質のもつエネルギーはその状態によって異なるので、原則として化学式に物質の状態を気体のときは(気)または(g)を付記、液体のときは(液)または(l)を付記、固体のときは(固)または(s)を付記、水溶液や大量の水は aq のように付記する。また、炭素のように同素体がいくつもある物質の場合は、「黒鉛」や「ダイヤモンド」などの語句を付記するなどして表す。つまり、「C(黒鉛)」のように付記する。

反応熱の種類

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反応熱は下記のように種類がいろいろあるが、特に断りの無い限りは、いずれも 1molあたりの熱量である。

燃焼熱
1 molの物質が完全燃焼するときの反応熱。
たとえば水素の燃焼熱は、286 kJである。
H2(気)+ O2 → H2O(液)  ΔH = -286 kJ/mol
溶解熱
1 molの物質が多量の溶媒に溶解するときの反応熱。
たとえば水酸化ナトリウムNaOHが水に溶ける場合、水酸化ナトリウムの溶解熱は44.5 kJである。
NaOH(固)+ aq → NaOH aq  ΔH = -44.5 kJ/mol
中和熱
酸と塩基の中和反応によって、1 molの水が生成するときの反応熱。
たとえば、塩酸と水酸化ナトリウムの中和熱は、56.5 kJである。
HCl aq+ NaOH aq → NaCl aq + H2O(液)  ΔH = -56.5 kJ/mol
水素イオンと水酸化物イオンの中和熱は、56.5 kJである。
H+OH → H2O(液)  ΔH = -56.5 kJ/mol
生成熱
1 molの化合物がその成分元素の単体から生成するときの反応熱。
融解熱
1 molの固体が融解して液体になるときに吸収する熱量。
蒸発熱
1 molの液体が蒸発して気体になるときに吸収する熱量。
たとえば水H2Oの蒸発熱は44.0kJである。
H2O(液) → H2O (気)   ΔH = -44.0 kJ/mol
H2O(液)+ 44.0kJ → H2O (気)
昇華熱
1 molの固体が昇華して気体になるときに吸収する熱量。

反応熱の測定

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反応熱を測定するには、外部からの熱の出入りのない断熱した容器が必要である。反応熱などの熱量を測定するための測定器を熱量計という。反応熱の熱量計には、燃焼熱測定用のボンベ熱量計や、溶解熱測定用熱量計などがある。 ボンベ熱量計の測定原理は、試料を燃焼させた後に、容器内の水の温度変化を測定することで燃焼熱を測定する方式である。

熱化学

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図のように、固体の水酸化ナトリウムから塩化ナトリウムを生成する反応には2つの経路があるが、どちらの経路で合成を行っても、出入りする熱量(反応熱)の総和は同じである。

化学反応の反応熱は、反応途中の経路には影響を受けない。反応熱は、反応の始めの状態と反応の終わりの状態によってのみ決まり、このことをヘスの法則という。

また、このヘスの法則のため、計算によって反応熱を

反応熱 = (反応後 物質の生成熱の和)- (反応前 物質の生成熱の和)

上記の式の同じ内容だが

反応熱 = (生成物の生成熱の和)- (反応物の生成熱の和)

と求める事もできる。


結合エネルギー

水素分子1molに432kJのエネルギーを与えると、結合を切り離すことができる。この結合を切り離すのに必要なエネルギーは、結合の強さを表すと考えて、この結合の切り離しに要したエネルギーを結合エネルギー(bond energy)と言う。結合エネルギーは1molあたりのエネルギーで示されるのが通常である。結合エネルギーは普通、共有結合について用いる。

たとえば水素の結合の切り離しを熱化学方程式で表すと、以下の様になる。



例題. 一酸化炭素 CO

検定教科書では、よく練習問題で、COの生成熱を求めさせる問題が出題される。

解法は、図より

394ー283=111

よってCOの生成熱は 111 kJ/mol である。

答え  111 kJ/mol



そのほかの例 H2O
ヘスの法則の説明図。水(H2O)の場合。
H2(気体)=2H(気体)  ΔH = 432 kJ/mol


気体や液体、固体などといった状態変化も同様に、経路によらず、発生する熱量の総和は一定である。


結合エネルギー(kJ/mol)(25℃、1Pa)
結合   結合エネルギー
 H-H   436
 C-H   413
 N-H   390
 O-H   463


結合   結合エネルギー
 H-F   563
 H-Cl   432
 F-F   158
 Cl-Cl   243


結合   結合エネルギー
 O-O   490
 C-C(ダイヤモンド)   357
 C-C   348
 C=C   590
 C≡C   810

同じ結合でも、周辺の分子の配置や数によって、すこしだけ結合エネルギーが変わってくる。そのため、正確な結合エネルギーの値は、分子ごとに違ってくる。高校では、ふつう、これら周辺分子の影響は扱わないので、無視してよい。

以上の表での結合エネルギーは、おおよそのエネルギーであり、正確なエネルギーの値は分子ごとに違うので、学校のテスト問題などを解くときは問題文を参照のこと。

解離エネルギー

3個以上の分子は、結合の数が複数になる。この分子の全ての結合を切り離すのに必要なエネルギーを解離エネルギー(bond dissociation energy)という。通常は1molあたりの切り離しのエネルギー量で解離エネルギーを表す。 解離エネルギーは、その分子の持つ全ての結合の結合エネルギーの総和である。H2やO2などの結合を一個しか持たない分子では、結合エネルギーの値と解離エネルギーの値は一致する。

反応熱と結合エネルギー

反応熱や生成熱は、反応の前後の物質の結合エネルギーが分かっている場合は、計算で求められる。その物質の、反応後の結合エネルギーの総和から、反応前の結合エネルギーの総和を引いた値で、反応熱を近似できる。 「近似」といったのは、分子間引力などの、結合の変化以外にもエネルギーが使われる場合があるからである。

(反応熱) = -(反応前の結合エネルギーの和) + (反応後の結合エネルギーの和)

上記の式の同じ内容だが

(反応熱) = (生成物の結合エネルギーの和)- (反応物の結合エネルギーの和)

である。

格子エネルギー

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金属結合や、イオン結合の結晶、共有結晶(ダイヤモンド)などの、結晶を構成するために必要とされるエネルギーのことを格子エネルギーという。この格子エネルギーは直接には測定できないので、ヘスの法則で間接的に求める。