高校化学 有機化合物と人間生活
この章での色の定義は、直感的な理解でよい。(正確に色覚を説明すると、生物学など他分野が関わり、広範かつ専門的になる。)ここでは、色素の分子構造と電磁波との関係に注目する。
物質の色
[編集]| 色 | 波長 |
|---|---|
| 紫 | 380-450 nm |
| 青 | 450-485 nm |
| 水色 | 485-500 nm |
| 緑 | 500-565 nm |
| 黄色 | 565-590 nm |
| 橙色 | 590-625 nm |
| 赤 | 625-780 nm |

| 色 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 色名 | 赤 | 黄赤 | 黄 | 黄緑 | 緑 | 青緑 | 青 | 紫青 | 紫 | 赤紫 |
材料に添加した場合に色を加える物質を色素という。繊維に染色できる色素を染料という。
白色光で照らされた物体は、可視光の特定の波長を吸収して、残りの波長の光を反射する。たとえば、赤色の物体は、赤色以外の色を吸収して、赤色のみを反射するから、赤色に見えるのである。
物質がある色の光だけを吸収すると、反射または透過する光は、吸収された色の補色に見える。たとえば、青緑色の光を吸収する物質は赤色に、青色の光を吸収する物質は黄赤色(橙色)に見える。
| 吸収される光の色 | 物質の見える色 |
|---|---|
| 青緑 | 赤 |
| 青 | 黄赤 |
| 紫青 | 黄 |
| 紫 | 黄緑 |
| 赤紫 | 緑 |
色の知覚
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色は、網膜に存在するS錐体、M錐体、L錐体の3種類の錐体細胞により知覚される。S錐体は可視光のうち短い波長(440 nm付近)に反応し、M錐体は中程度の波長(540 nm付近)に反応し、L錐体は長い波長(560 nm付近)に反応する[1]。光の三原色に対応して、S錐体が青、M錐体が緑、L錐体が赤の知覚に関わると思われることもあるが[2]これは適切ではない。実際、L錐体のピーク波長 560 nmは黄緑であって、赤ではない。

S錐体、M錐体、L錐体が等しく刺激されると、白(あるいは灰)に感じる。また、赤と青緑の光を混合すると白に感じる。これは、赤がL錐体を主に刺激し、青緑がS錐体とM錐体を刺激するので、両者を混合した光はS錐体、M錐体、L錐体をほぼ等しく刺激するためである。このように、2つの色の光を混ぜたとき、白に感じる関係を補色という。
なお、赤紫の単色光は存在しない。これは、赤紫がL錐体とS錐体のみが反応して知覚される色だからである。このような光は、紫と赤の単色光の混合色であるが、単色光ではありえない。光のスペクトルの両端に赤紫をつなげることで、色を円形に配置することができる。ここで、補色の関係にある色が相対するように配置すると色相環が得られる。
色素
[編集]色素には炭素化合物などの有機化合物からなる有機系の色素と、無機化合物からなる無機系の色素がある。本節では有機色素について説明する。
化合物に色を付けるには、その構造中に可視光を吸収できる官能基が必要である。可視光を吸収できて、物質に色を付けられる官能基を発色団という。有機色素の発色団は、 や などのように、共役二重結合をもった官能基である。共役二重結合によって電子が動けるようになっているので、電磁波と電子が相互作用して、外部からの光を吸収できる。(金属などの自由電子をもつ物質が不透明であることと、同様の理由による。)
発色団以外の官能基で、発色団の作用を強めたり、親水性を高め染色しやすくする官能基を助色団という。助色団には、や や などがある。
| 種類 | 官能基 | 名称 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 発色団 | 炭素間二重結合 | 共役して長くなるほど、長波長側の光を吸収する。 | |
| カルボニル基 | |||
| イミノ基 | |||
| アゾ基 | アゾ染料の発色団。 | ||
| ニトロソ基 | |||
| 助色団 | ヒドロキシ基 | ベンゼン環に結合したフェノール性のものが多い。 | |
| アミノ基 | |||
| カルボキシ基 | 極性をもち、親水性を与える。 | ||
| スルホ基 | 極性をもち、親水性を与える。 | ||
| ハロゲン原子 |
アゾ化合物
[編集]アゾ基 を発色団として持った染料をアゾ染料という。アゾ染料として、コンゴーレッド、メチルオレンジ、メチルレッドなどがある。メチルオレンジやメチルレッドは、染料としてだけでなく、pH指示薬としても用いられる。
ジアゾカップリング
[編集]- ジアゾ化
アニリン などの芳香族アミンを希塩酸に溶かしたのち、氷冷しながら亜硝酸ナトリウム水溶液を加えることで、ジアゾニウム塩をつくることができる。このジアゾニウム塩が、アゾ染料の原料となる。芳香族アミンをジアゾニウム塩にする反応をジアゾ化という。
アニリン をジアゾ化する場合は、アニリンを希塩酸に溶かし、5 °C 以下に冷やしながら亜硝酸ナトリウム水溶液を加える。これによって、塩化ベンゼンジアゾニウム ができる。ジアゾニウム塩は、温度が高いと分解して窒素を発生し、フェノールになるので、低温に保つ必要がある。
ジアゾニウム塩は水に溶け、陽イオンのベンゼンジアゾニウムイオン と、陰イオンの塩化物イオン とに電離する。 の窒素原子は、三重結合と単結合をあわせて4本の結合をつくっており、正電荷をもつ。
この正電荷を明示した構造式の書き方として、塩を と書いたり、陽イオンを と書く場合もある。
- カップリング
塩化ベンゼンジアゾニウム の水溶液に、ナトリウムフェノキシド の水溶液を加えると、ジアゾニウム塩とフェノキシドが反応して、-ヒドロキシアゾベンゼン(-フェニルアゾフェノール) が生じる。このように、ジアゾニウム塩が芳香族化合物と反応してアゾ化合物をつくる反応をジアゾカップリングという。
-ヒドロキシアゾベンゼンは、発色団の と助色団の をもつので、黄橙色の色素となる。2個のベンゼン環とアゾ基が連なって、共役二重結合が長くなっていることが、可視光の吸収につながっている。
フェノキシドの代わりに、ナフトールやアニリンの誘導体などを用いても、カップリング反応が起こる。
例題 アニリン 9.3 g をすべてジアゾ化し、得られた塩化ベンゼンジアゾニウムをすべてナトリウムフェノキシドとカップリングさせた。生じる p-ヒドロキシアゾベンゼンは何 g か。原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16 とする。
解答 アニリン のモル質量は 93 g/mol であるから、9.3 g は である。上の2つの反応式より、アニリン 1 mol から塩化ベンゼンジアゾニウム 1 mol が生じ、そこから p-ヒドロキシアゾベンゼン (モル質量 198 g/mol)が 1 mol 生じる。したがって、 である。
答: 20 g
染料の分類
[編集]天然に存在する色素からつくられた染料を天然染料といい、合成によって得られた色素を用いた染料を合成染料という。天然染料には、植物から得られる植物染料と、動物から得られる動物染料がある。
植物染料には、アカネの根から得られる紅色の色素のアリザリン、アイの葉を発酵して得られる藍色の色素のインジゴなどがある。
動物染料には、サボテンに寄生するコチニールカイガラムシから得られる赤色の色素のカルミン酸(コチニール色素ともいう)や、アクキガイ科の貝の分泌物から得られる赤紫色の色素のジブロモインジゴ(貝紫)などがある。
天然染料の多くは、共役二重結合を含む環状構造をもち、可視光の一部を吸収する。インジゴは水に溶けにくいので、還元して水溶性にして繊維に吸収させたのち、空気中で酸化して、もとの青色の色素にもどす。
コラム: 合成染料のはじまり 1856年、イギリスのパーキンは、マラリアの治療薬キニーネを合成しようとして、アニリンを原料とする実験から、偶然に紫色の色素を得た。この色素はモーブ(モーベイン)と名づけられ、最初の合成染料として工業的に生産された。その後、19世紀後半には、アリザリンやインジゴも化学的に合成されるようになり、天然染料の多くが合成染料に置きかわった。
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アリザリン
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インジゴ
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カルミン酸
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ジブロモインジゴ
医薬品
[編集]一般に、ヒトや動物の病気を治すために使用する物質を、医薬品という。
医薬品が、それを使用した生物におよぼす変化を薬理作用という。
一般に、医薬品は体内でさまざまな作用を起こす。このうち、治療の目的に沿った作用を主作用といい、それ以外の作用を副作用という。
歴史
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人類は、古代から天然の植物などから医薬品として機能するものを採取して使用してきた。このような天然由来の医薬品を
ケシの実から取れる果汁を乾燥させた阿片(アヘン)も古代から知られている生薬の一つである。阿片は紀元前1500年ごろのエジプトでは鎮痛剤として利用されていた。
1804年ごろ、ドイツの薬剤師ゼルチュルナーによって、アヘンから麻酔・鎮痛薬のモルヒネが分離された。これは、生薬から有効成分を取り出した最初の例とされる。
19世紀後半には、いくつかの薬の化学構造が解明され、これらの成果をもとに、新しい薬品が合成された。
1910年、ドイツのパウル・エールリヒと
現在では、人工的に化学合成された有機化合物が、医薬品として多く使用されている。
サリチル酸系の医薬品
[編集]古くから、ヤナギの樹皮には解熱作用や鎮痛作用が存在することが知られていた。これは、ヤナギの樹皮にあるサリシンが体内で加水分解されてサリチル酸を生じるためである。
19世紀前半に、化学分析によってサリシンとそれから生じるサリチル酸が明らかにされた。
19世紀に、サリチル酸は解熱鎮痛薬としてさかんに使われたが、胃を荒らすことがしだいにわかってきた。そのため、副作用の弱いアセチルサリチル酸が開発され、使用されるようになった。
アセチルサリチル酸は、1899年にドイツでアスピリンの商品名で医薬品として販売された。現在でも世界各地で用いられている。
現在では、サリチル酸系の医薬品が多数ある。

サリチル酸 は、ヒドロキシ基(フェノール性)とカルボキシ基の両方をもつ。このうち、ヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化するとアセチルサリチル酸が、カルボキシ基をメタノールでエステル化するとサリチル酸メチルが得られる。
サリチル酸は塩化鉄(III)水溶液で赤紫色を呈する(フェノール性ヒドロキシ基の検出)が、アセチルサリチル酸はフェノール性ヒドロキシ基をもたないので呈色しない。
また、サリチル酸にメタノールを反応させてつくられるサリチル酸メチルは、消炎鎮痛薬(筋肉痛などを抑える薬)として、湿布薬などに用いられている。サリチル酸メチルは揮発性の液体である。
サリチル酸系の解熱薬は、熱や炎症などの症状をやわらげるものである。このように、病原菌を攻撃せず、症状をやわらげることが主な作用の医薬品を対症療法薬という。
参考: プロスタグランジンとサリチル酸系医薬品との関係
アセチルサリチル酸が炎症や発熱を抑えるのは、ケガなどの異常があったときに炎症を起こして回復させようとする体内物質のプロスタグランジンの合成を、阻害するからである。
プロスタグランジンは、脂肪酸を原料として体内で合成される生理活性物質である。さまざまな生体の働きに関わっているので、その合成が阻害されると、胃腸障害などの副作用が起こりうる。
- 例題
サリチル酸 13.8 g から、アセチルサリチル酸 は理論上、何 g できるか。原子量は H = 1.0、C = 12、O = 16 とする。
- 解答
サリチル酸のモル質量は であるから、13.8 g は である。上の反応式より、サリチル酸1 mol からアセチルサリチル酸1 mol が生じる。アセチルサリチル酸のモル質量は であるから、 である。
- 例題
サリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチルのいずれかである試料 A、B、C がある。次の結果から、A〜C はそれぞれどれか。
- 塩化鉄(III)水溶液を加えると、A と C は赤紫色に呈色したが、B は呈色しなかった。
- 炭酸水素ナトリウム水溶液を加えると、A と B は気体を発生して溶けたが、C は気体を発生しなかった。
- 解答
塩化鉄(III)水溶液で呈色するのは、フェノール性ヒドロキシ基をもつサリチル酸とサリチル酸メチルであるから、B はアセチルサリチル酸である。炭酸水素ナトリウム水溶液と反応して を発生するのは、カルボキシ基をもつサリチル酸とアセチルサリチル酸であるから、C はサリチル酸メチルである。したがって、A はサリチル酸である。
答: A サリチル酸、B アセチルサリチル酸、C サリチル酸メチル
アミド系の医薬品
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アニリンから得られるアセトアニリドにも解熱鎮痛作用があるが、副作用が重いため、現在は使用されていない。
かわりに、アセトアニリドの誘導体であるアセトアミノフェン(-アセトアミドフェノール)が、風邪薬などに含まれている。

アセトアミノフェンは、-アミノフェノールのアミノ基を、無水酢酸でアセチル化して得られる。この反応で、アミド結合 が生じる。
- 例題
-アミノフェノール 10.9 g をすべてアセチル化すると、アセトアミノフェン は何 g 得られるか。原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16 とする。
- 解答
-アミノフェノールのモル質量は 109 g/mol であるから、10.9 g は である。反応式より、アセトアミノフェン(モル質量 151 g/mol)も 0.100 mol 生じるから、 である。
答: 15.1 g
化学療法薬
[編集]サルファ剤
[編集]1935年ごろ、ドイツのドーマクは、アゾ染料の一種のプロントジルに、細菌の増殖を阻害する作用があることを見いだした。
のちに、プロントジルが体内で分解されて生じるスルファニルアミド
に、細菌の増殖をおさえる作用があることが分かった。これは、細菌が発育に必要な葉酸を合成するさいの酵素を阻害するからである。
細菌は-アミノ安息香酸
から葉酸を合成しているが、スルファニルアミドは-アミノ安息香酸に似た構造をもつため、その酵素の働きを阻害する。
スルファニルアミドの骨格をもつ抗菌剤を、サルファ剤という。
抗生物質
[編集]微生物がつくりあげる化学物質で、ほかの微生物や細菌を殺したり、ほかの微生物や細菌の増殖を阻害したりする作用(抗菌作用)のあるものを抗生物質という。
1928年にイギリスのフレミングは、アオカビがつくる物質に抗菌作用があることを見いだし、この物質をペニシリン(penicillin)と名づけた。
- (※ 暗記は不要: )パンなどに生える青色のカビも通常、アオカビである[4]。
のちに、ペニシリンは、細菌の細胞壁の合成を阻害するため、抗菌作用を示すことがわかった。
細菌は突然変異によって、抗生物質の効かないものが生じることがある。このような細菌を耐性菌という。抗生物質をむやみに使い続けると、耐性菌だけが生き残って増えてしまう。
ペニシリンの効かない耐性菌もすでに存在しており、そのような病原菌には、抗生物質のメチシリンやバンコマイシンが使われることがある。しかし、メチシリンの効かない耐性菌のMRSAや、バンコマイシンの効かない耐性菌のVRSAなども出現しており、医療現場では大きな問題になっている。
このため、抗生物質だけに頼らず、手洗いや消毒を徹底することが求められている。
なお、ストレプトマイシンは、結核に効く抗生物質である。土壌中の放線菌がつくる物質から発見された。
サルファ剤や抗生物質のように、病気の原因となる細菌や微生物に直接作用して、その増殖を抑えたり殺したりすることで病気を治療する医薬品を、化学療法薬という。
| 種類 | はたらき | 例 |
|---|---|---|
| 対症療法薬 | 病気の原因を取り除かず、発熱・痛み・炎症などの症状をやわらげる | アセチルサリチル酸、サリチル酸メチル、アセトアミノフェン |
| 化学療法薬 | 病気の原因となる細菌などに直接作用し、その増殖を抑えたり殺したりする | サルファ剤(スルファニルアミドなど)、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど) |
細菌の細胞には細胞壁があるが、ヒトの細胞には細胞壁がない。そのため、細胞壁の合成を阻害するペニシリンは、ヒトの細胞にはほとんど影響を与えずに、細菌だけにはたらく。このように、病原体だけに強く作用する性質を選択毒性という。
ペニシリンの作用の仕組み

ペニシリンGの構造の-ラクタム環とよばれる部分が、細菌の細胞壁の合成に働く酵素を阻害する。
- ^ それぞれ、Short, Medium, Longの頭文字に由来する。
- ^ かつては、B錐体、G錐体、R錐体と呼ばれていた。
- ^ 彩度の高い色とは、光を波長ごとに分けたときスペクトルのピークが鋭い波形になる色のことをいう。最も彩度の高い色とは、単一の波長のみで構成される単色光である。ただし、赤紫の色相については、赤紫の単色光は存在しないから、赤と紫の単色光の合成光が最も彩度の高い色となる。光のスペクトルに白色成分が増えるほど(すなわちスペクトルが平坦になるほど)、彩度の低い色となる。
- ^ David P.Clark 原著『クラーク分子生物学』、田沼靖一 監訳、平成19年12月10日 発行、丸善、P36