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高校生活ガイド/科目の選択

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

科目の選択

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高校では、履修する科目を選択する場面が多くあります。まず、学校ごとに開講される科目が異なりますので、学校を選んだ時点で履修科目の幅は狭まっています。その上で、高校に入学して以降も、様々な場面で科目を選択する場面があります。

  • 主な選択科目(現行課程)
    • 地歴科:世界史A・B、日本史A・B、地理A・B(世界史A・Bはどちらかを必ず履修しなければなりません)
    • 公民科:現代社会、倫理、政治経済
    • 理科:化学基礎・物理基礎・生物基礎・地学基礎、物理・生物・化学・地学
    • 芸術科目:音楽、美術、書道、工芸

なお中学にある技術・家庭科の「技術」分野は、高校では取り扱われず家庭分野のみの家庭科となっています。普通科高校では、職業教育はありません。

高校の検定教科書の購入は、全科目とも学校教科書の販売を扱っている取次店(とりつぎてん)で買えます。自分が何歳になっても取次店で高校教科書を買えますので、高校生は検定教科書を入手したいだけなら、その選択科目を履修する必要はありません。

(※ 検定教科書の購入方法については『小学校・中学校・高等学校の学習/検定教科書の購入方法』に解説がある。)


芸術科目

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普通科高校での芸術科目は、音楽・美術・書道・工芸の中からどれか一つを選ぶ選択制になっています。1年生でどれか1つを選択必修、他学年では開講しない、という学校が多いかと思います。芸術科目は、自分の好きな芸術表現の科目を選ぶのが安全でしょう。もし音楽を履修した場合、授業ではまったく美術や書道が取り扱われません。これはどの芸術科目を選んだ場合にも同様です。好きでもないことを、1年間も毎週2時間ほど練習することは苦行ですので、芸術科目の選択は、自分の好きな芸術表現の科目を選ぶべきです。

なお、現在の中学3年までの芸術科目が、90年代までは高校1年や2年で習っていた内容です。現在の高校1年の芸術科目では、「脱・ゆとり教育」などの影響もあり、90年代の高校芸術科目よりも細かく、専門性のやや高まった事を習ってますので、そういう点からも、興味の無い芸術科目は、履修しないのが無難です。

さて、もし美大・音大または芸術系専門学校などの芸術系の進路を希望する場合は、その分野の科目を履修しておくのが無難ですが、全生徒を対象とする芸術科目だけではどのみち練習量が大幅に不足ですので、外部の芸術系進路用の予備校などで習う必要があります。

なお、音大・美大・教育大を除く一般の大学では、芸術の授業が無い場合が大半です。このため、人によっては高校が最後の学校での芸術教育になる場合も多くあります。


文系・理系

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文理選択とは

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普通科高校では、多くの場合2年生次(一部は3年生次)[1]に、文系か理系のどちらかの類型を選択することが一般的です。これは、普通科高校生の多くが目指す大学進学にあたって、入試に対応するためにはポイントを絞る必要があるためです。この選択は一度選択してしまうと卒業まで変更することは、現実にはできない(後述)ため、慎重に選択する必要があります。文理選択までに、進学したい進路先をよく考えておかねばなりません。

少数例ですが学校によってはコースが分かれずに、文系志望の生徒にも数学IIIなどの理系科目を教える文理両立の高校の場合もあります。たとえ文理両立の高校でも、3年生では選択科目が増えてきます。高校普通科の全科目を履修するのは、たとえ文理両立の高校でも、授業時間の制限のため、不可能です。

また、「国際科」・「理数科」などの普通科以外の進学系の学科では、そもそも入学当初から文理選択がなくて、その学科の類型のカリキュラムとなることが普通です。たとえば理数科では、そもそも全生徒が理系のカリキュラムになり、文系特化のカリキュラムは選べません。

私大の推薦入試に関わる

推薦入試で大学に入学するなら文理選択は関係ないかというと、そんなことはありません。私立大学の推薦受験(指定校推薦のほか、「総合型選抜」も学校推薦型総合型選抜という推薦の一種です)では、受験生に特定の科目の履修を条件づける場合があります。たとえば、私立の理系学部を推薦受験する場合は、条件として数学III、および進学先学科に応じた「物理」・「生物」・「化学」などの科目の履修を条件づける場合もあります。なぜ科目制限するかというと、科目制限しないと文系科目だけで好成績を取って、理系科目が出来ないのに推薦入学してしまう受験生が出現してしまうからです。

文系科目でも、一部の難関私大では、文系学部の推薦入試の要件に、地歴公民など文系科目での必要単位数を設けている場合があります。理系コースだとその出願単位数を満たせない場合があるので、文系志望なら高校では文系コースを履修するのが無難でしょう。

どうやって選択するか

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文理選択をするにあたっては、進路先としてどのような大学・学部を考えるかを最優先しましょう。間違っても、科目の得意不得意で選んではいけません。後でつまらない思いをします。なお、勘違いされやすいことですが、英語は文系・理系ともに大学入試で要求されることが一般的なので、「英語が苦手だから理系」という選択はやめましょう。

また、「数学が苦手だから文系」という選択肢をとる生徒が少なからずいますが、こちらも先のことを考えると安易であるといえます。というのも、いわゆる文系に属する学部学科でも数学を使うことがあり、「文系なら数学を使わなくても済む」とは限らないからです。具体的には経済学部・経営学部・社会学部では入試の段階で数学が必要な場合もあります(有名どころでは慶應義塾大学経済学部や商学部、早稲田大学政治経済学部)し、入試で使わなくとも大学の授業では必修とされることは珍しくありません。

なお、芸術系大学・短大・専門学校の志望や、体育大志望などは、文系を選ぶのが無難です。内容が文系かというとそうではないのですが、少なくとも高度な理系科目の学力は高校卒業後には要求されないためです。また、大学でスポーツ推薦などを受け入れている学部も、社会学部や文学部・経済学部など、いわゆる文系とされる学部です。経済学部は、日本では文系の学部として扱われます。企業からの視点も、経済学部卒を文系の人間として扱います。また芸術系卒や体育大卒も、企業からの視点では、彼らを文系の人間として扱います。


2020年代の現在、高大連携や探求学習があり、進学校の文系コースなどでは志望学科に近い分野の卒業論文のようなレポートなどを仕上げる学校もあったり、近隣の提携先の私立文系大学の授業を受けられたりなどの機会があるので、私大文系の推薦入試などで論文を自己アピール材料にできる場合もあります。このため、文系志望なら文系コースを選択するのが無難でしょう。

もし高校卒業後に浪人した場合、どんなに高大連携や卒業論文などの機会を得ようとしても、制度的に浪人生は不可能です(高校生以外はその機会がありません)。なので、高校在学中は志望分野にしたがったコースをそのまま選ぶのが安全です。

昔話ですが、平成初期のまだ探求学習の無かった時代ならば、文系志望でもあえて理系コースを選ぶという手法もありましたが、しかし令和の今ではその手法は上述の理由で時代遅れでしょう(高大連携などの利点を損失するので)。例外として、よほどの底辺高校で、文系コースが事実上の高卒就職コースとしてしか機能してない高校とかでない限り、平均以上の学力の高校ならば文系志望者は文系コースを選ぶのが無難でしょう。

現在、多くの大学の文系学科で、高校3年レベルの数学科目を履修でき、しかも大学の単位を取得できます(場合によっては高校2年レベルの数学で大学の単位取得できます)。底辺大学でなくても、です。このため、高校3年生の時点でわざわざ高大連携の機会を損失してまで、数学III・Cなどを履修するメリットは少ないのです。


ほかの理由としては、推薦入試や総合型選抜などの理由もあるので、文系志望ならば高校では文系クラスを履修するのが安全です。なぜなら推薦入試などでは、高校で単位取得した科目のほか、成績の平均値の高さも要求されます。難関私大では「評定平均 4.0以上」などと推薦の出願の最低基準を設けている場合もあります。このため、もし文系志望の生徒が理系コースを選択してしまうと、成績が悪化していまい評定平均の要求水準を満たせなくなりかねないので、推薦入試や総合型選抜などを利用できなくなり、入試において著しく不利になってしまいます。

文系の高校生が苦手を克服しようとして理系を履修しても、それは推薦入試などの要件に要求されません。私大志望では、「できる科目の幅の広さ」ではなく「できる科目の成績の平均値の高さ」が要求されるのです。


どんなに「理系科目も得意な文系の若者も必要だ」とか私立大学がタテマエを主張していようが、評定平均を下回ってしまえば、そもそもその私大の推薦入試などに出願そのものが出来ず、必然的にその私大への入試は失敗してしまいます。これが日本の大学入試の実態です。理系シフトなどを主張する幾つかの私立大学は、入試の実態と主張が、一致してないのが実態であり、これを言動不一致と言います。どうやら私大の文系の学科は、「清濁(せいだく)併せ吞む(あわせのむ)」ような人材が欲しいようです。

なので、よほど特別な事情が無い限りは、大学進学を目指す場合には、文系の学科の志望なら高校では文系クラスの履修、理系の志望なら高校では理系クラスの履修、とせざるを得ません。でないと、現代の日本では、進学が著しく難しくなります。


大学としては、たとえ総合大学の私大であっても、「幅広い分野の人材」というのは大学全体で見た時にだけ供給できればいいのです。(説明を簡単にするため、国公立大については省略します。)

文系学部は、文系の事しか分からない大学生と大学教員ばかりですし、

理系学部は、理系の事しか分からない大学生と大学教員ばかりです。


しかし大学全体で見た時には、その大学からは文系も理系も人材を抱えており、また人材を輩出しているので、バランスが取れています。

社会では分業によって労働が行われているので、大学もそれを反映して、このように分業のようになっているのです。

「文転」「理転」について

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理系から文系にクラスを変える文転、文系から理系にクラスを変える理転も可能ですが、現実的にはどちらも厳しい道を歩むことになります。

一番の違いは数学の扱いでしょう。理系の場合、3年になってからも新しいことを3年の2学期終わり頃までは授業で習いますが、文系の3年生の授業では夏ごろには新たな単元は扱われなくなり、その後は入試対策や過去問演習などの復習が増えてくる、という特性があります。また、文系では理系の生徒が学ぶ科目である数学IIIは履修しない、理科の「基礎」でない科目は履修しないなどが一般的です。したがって、3年になってから理転しようとしてもスタートラインから極めて大きな差ができてしまいます。よって、文系から理系に「理転」すると、全く習ってないことが続出するので、大学受験対策が間に合わず、ほぼ浪人が確定です。

文転は前述の理転に比べれば多少はマシですが、古文漢文や地歴・公民での学習量などの積み重ねの差は小さくはなく、一般の生徒よりも努力しなければ文系のまま2年3年と進んだ場合に比べて進路が狭まることは否めません。また、学校によっては文理で地歴・公民の進度・内容が違い、2年次に習っていなかったものを文転してから改めて学ぶ必要が出てくる場合があります。当然、その分学習量が増えるため、「文転は理転に比べて楽」という噂を鵜呑みにしてはいけません。

脚注

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  1. ^ 「『文系か理系か』早すぎる選択…受験科目に専念するため、大半が高1で決定」2019年7月26日読売新聞オンライン