高等学校化学基礎/物質量
物質量
[編集]物質量
[編集]原子の質量は非常に小さく、1個単位で扱うのは非常に煩雑である。そこで化学ではふつう、6.0×1023個をひとまとまりにして原子・分子などを数える。この6.0×1023個のまとまりを1molと呼ぶ。「mol」は「モル」と読む。molは原子や分子の、まとまりを表す単位である。
1個、2個、……と「個」の単位で数えたものを数というのに対して、1mol,2mol,……と「mol」の単位で数えたものを物質量(ぶっしつりょう, amount of substance)という。
1molの意味
[編集]1mol、すなわち6.0×1023という数値は、12gの炭素の中に含まれる炭素原子12Cの数にほぼ近い。しかし、厳密には少し質量がずれるので、相対的に、12Cが1molの相対質量を12と定義する。なお、1molに相当する6.0×1023という数値この数値はアボガドロ定数(Avogadro constant)と呼ばれ、記号NAを用いて表す。
原子量と分子量
[編集]原子量
[編集]ある原子Aについて、炭素12Cの相対質量を12とおいた時の、その原子Aの質量の相対値を原子量(げんしりょう, atomic mass)と呼ぶ。よって、原子量には単位を付けない。
- 例:23Na原子の原子量は22.990である。
正確に言うと、原子量の計算には、同位体も考慮する。たとえば天然の炭素Cは安定同位体が2種類あり、12Cと13C(相対質量は13.003)がある。存在比は、12Cが98.90%に対し、13Cが1.10%なので、炭素Cの原子量は、
よって炭素Cの原子量は12.01である。
分子量
[編集]分子についても、質量の基準として12C=12を基準とした相対質量で表す。この分子の相対質量を分子量(ぶんしりょう, molecular mass)という。分子量の大きさは、原子を構成する各々の原子の、原子量の総和である。
- 例:H2Oの分子量 = 1.0 × 2 +16.0 = 18.0
- 例:H2SO4の分子量 = 1.0 × 2 + 32.1 + 16.0 × 4 = 98.1
- 例:CO2の分子量 = 12.0 +16.0 × 2 = 44.0
H2Oの分子量は18.0である。H2SO4の分子量は 98.1である。CO2の分子量は 44.0 である。
式量
[編集]塩化ナトリウムNaClのようにイオン結晶構造をとる化合物は1個の分子のような単位粒子の形を取らない。金属結晶も同様に単位粒子の形を取らない。これ等の化合物は、組成式の中に含まれる原子の原子量の総和を相対質量として、この組成式を構成する原子の原子量の総和を式量(しきりょう, formula weight)という。
- 例:NaClの式量 = 23.0 + 35.5 = 58.5
モル質量
[編集]物質1molあたりの質量のことをモル質量(molar mass)といい、単位[g/mol]を用いて表す。ある物質のモル質量は、その物質の原子量・分子量・式量にg/molをつけたものである。
- 例:ナトリウム(Na)のモル質量は23g/molである。また、水(H2O)のモル質量は18g/molである。
気体の体積
[編集]気体は、物質の種類にかかわらず、温度0℃かつ圧力101kPaていどの状態(これを標準状態という)のもとでは1molの体積は22.4Lになる。単位の L はリットルのことである。
- 備考
101kPaは、通常の大気の平均的な気圧である。「kPa」とは圧力の単位Pa(パスカル)の、キロパスカルである。
1kPaとは1000Paである。 101.3kPaとは、1.013×105 Paである。
中学で「気圧は平均で1013hPa」とならったが、高校や大学の物理学や化学では、ケタの多い場合の圧力単位にはhPa(ヘクトパスカル)ではなく、kPa(キロパスカル)を使う機会が多い。
なお、やや古い単位だが100kPaていどの圧力のことを「1気圧」といい、1atmと書くことも昔はあった。(atmは「アトム」と読む。1atmは「いちアトム」と読む。)
- (※ 範囲外: ) じつは、業界によって「標準」の意味することがバラバラなので、「標準」状態という言葉の使用には、やや気をつける必要がある。化学では慣習的に、特に断りのないかぎり0℃かつ大気圧を基準とする慣習が、長く続いてきたので、それはそれで記憶する必要がある。0℃を基準にするのも、水の大気圧での融点であることに加えて、さらに水の三重点(0.01℃、611Pa)の温度がその付近なこともあり、よって物質科学の業界で0℃は温度の基準になっている場合も多い。
- しかし、業界によっては、温度の基準には20℃を基準とする業界もある。たとえば精密機械の業界では、20℃を基準にする場合もある(20℃がアメリカやヨーロッパの気温の平均に近いので)。
- このように、業界によって、温度の基準は違う。
- なので、入試問題などでは、おそらく、実際に何℃なのか、何気圧なのか、問題文に記述されているだろう。
- また「1気圧」といったが、じつは、この1気圧も、具体的に何パスカルなのか、業界によって微妙に違う場合がある。業界ごとに、101.3kPaを基準にするのか、それとも100kPaを基準にするのか、それぞれ業界によって違う。なので、入試問題文には、圧力が具体的に何パスカルなのかは書かれているだろう。近年、atm単位を高校教育であまり使わなくなった背景には、こういう事情があるのだろう。
高校の検定教科書でも、近年では「0 °C,1.013×10⁵ Pa」と温度と圧力を明記するスタイルになってきている[1]。初出のページでだけ「標準状態」という用語を教え、あとのページでは数値を明記する編集方針を検定教科書会社が行っている。
- 計算問題でよく、温度や圧力を変えたときに、気体の体積などがどう変わるかを調べる問題があるが、けっして単なる入試のための計算問題だけの意義ではなく、上述したように異なる業界ごとの比較をできるようにするという実務的な意義もある。
1molのとらえ方
[編集]1molというのは、原子の数を示す単位である。 例えば、リンゴを6個入れた箱が、3箱あると考えると、合計でリンゴは 6×3=18個 あることになる。 つまり、箱の数と実際のリンゴの数には関係があるが、箱の数とリンゴの数は同じ数値で表現できるものではない、ということである。
原子を仮にa個集めたとしよう。このとき、この原子の集まりが、原子量に重さの単位であるグラムを付けただけの質量を持つとしたらどうだろう。 例えば、H2は分子量2であり、これをある個数あつめたときにちょうど2gになったとしたら、このある個数は非常に重要ではないだろうか? なぜなら、どの原子や分子でも、その数分だけ集めれば、その質量数にgを付けた質量を持つのだから。
このように、本来ならばとらえにくい原子や分子を、まとまった個数にして扱おう、というのが物質量、すなわちmolの考え方である。
溶液の濃度
[編集]溶解と濃度
[編集]ある物質がある液体に溶かし込まれて均一に混じりあったとき、このような現象を溶解と呼ぶ。このとき溶かし込んだ物質を溶質(solute)と呼び、溶かした物質を溶媒(solvent)と呼び、できた液体を溶液(solution)と呼ぶ。
- 例:食塩を水に溶かして食塩水としたとき、溶質は食塩、溶媒は水、溶液は食塩水であるといえる。
ある溶液の濃度の表し方には2通りある。質量パーセント濃度は溶液の質量に対する溶質の質量を百分率で表したものである。また、モル濃度は、溶液1リットル中の溶質の物質量を表したものである。
電解質
[編集]イオン結晶が水へ溶解して、陽イオンと陰イオンに分かれることを電離(ionization)という。水溶液で電離する物質を電解質(electrolyte)という。これに対し、電離しない物質を非電解質ということもある。
化学反応式と物質量
[編集]化学変化と物理変化
[編集]水素と酸素が反応して水ができるなど、化学結合が変化してある物質が異なる物質に変化することを化学変化(化学反応)という。これに対して、水が蒸発して水蒸気になるなど、物質を構成する粒子そのものが変化しない状態変化を物理変化という。ここでは主に化学変化のみを扱う。物理変化については、高等学校化学Ⅱ/物質の三態を参照すること。
化学反応式
[編集]化学変化を表した式を化学反応式(chemical equation)という。
- 例:2H2+O2→2H2O(水素と酸素から水が生じる化学変化)
化学反応式では左辺に変化前の物質(反応物)の化学式を、右辺に変化後の物質(生成物)の化学式を書き、矢印「→」でつなぐ。さらに、それぞれの化学式の前に係数をおいて全体の原子の比率があうようにする。触媒などの変化しない物質は記述しない。
化学反応式における量的関係
[編集]化学反応式では係数の比と物質量の比が等しい。
- 例:2H2+O2→2H2O であるから、水素H2を1mol燃焼させると水は1molできる。あるいは水H2Oが10mol生成した場合、反応に使われた酸素は5molである。
化学反応の基礎法則
[編集]化学反応式における量的関係は、以下のような基礎法則がもととなっている。
- 質量保存の法則:反応物の質量の総和は、生成物の質量の総和に等しい(1774,ラボアジエによって発見)
- 定比例の法則:同じ化合物中の成分元素の質量比は一定である(1799,プルーストによって発見)。「一定組成の法則」ともいう[2]。
- 倍数比例の法則:ある2種類の元素からなる化合物が2種類以上あるとき、片方の元素の一定質量に対するもう片方の元素の2つの質量の間には簡単な整数比が成り立つ(1803,ドルトンによって発見)。「倍数組成の法則」ともいう[3]。
- 気体反応の法則: 気体の反応における体積比は、簡単な整数比になる(1808, ゲーリュサックによって発見)。「反応体積比の法則」ともいう[4]。
- アボガドロの法則: 同温・同圧・同体積の気体中には、その種類にかかわらず同数の分子が含まれる(1811,アボガドロによって発見)