高等学校化学基礎/酸と塩基の反応
酸性と塩基性
[編集]- 酸とは
塩酸HCl 、硫酸H2 SO4 、硝酸HNO3 、酢酸CH3 COOH などの水溶液は、次のような性質を示す。
- 青色リトマス紙を赤色に変える。
- BTB液を加えると黄色になる。
このような性質を酸性(さんせい、acidity)といい、水溶液が酸性を示す物質を酸(さん、acid)という。または、その酸の溶液を簡略化して酸という。
酸は、次のような性質を持つことが多い。
- 亜鉛、鉄などの金属と反応して水素を発生させる。
- 鉄さびなどの金属のさびを溶かす。
- 酢酸水溶液やクエン酸水溶液などは酸っぱい味がする。
- 塩基とは
酸性の溶液に対して、水酸化ナトリウムNaOHのように、酸性の溶液に添加することで、その酸性の性質を打ち消す種類の物質がある。このような酸性を打ち消す性質を塩基性(えんきせい、basic)またはアルカリ性(alkaline)という。また、水溶液が塩基性を示す物質を塩基(base)という。塩基性の物質には以下のような特徴がある。
- 酸を中和する。
- 赤色リトマス紙を青色に変える。
- BTB液を加えると青色になる。
- 水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると、赤色に変わる。
酸性を示さなければ塩基性も示さない物質の性質を中性(ちゅうせい,)という。塩基性の物質が酸性を打ち消して、溶液を中性にすることを中和(ちゅうわ、neutralization)という。また、塩基性の溶液に、酸を加えて溶液を中性にさせることも中和という。
例えば、酢酸、塩酸、硫酸などは酸であり、水酸化ナトリウム、アンモニアなどは塩基である。さまざまな水溶液が、酸性や塩基性や、そのどちらでもない中性といった性質を持つ。
- 補足
- 水に溶けやすい塩基をアルカリ(alkali)と呼ぶことがある。塩基性水溶液が示す性質をアルカリ性ともいう。
- 酸の水溶液も塩基の水溶液も、電気伝導性があることから、酸や塩基は水溶液中ではイオンに電離していることがわかる。
アレニウスの酸・塩基の定義
[編集]1887年、スウェーデンの化学者アレニウスは、酸と塩基を次のように定義した。
「酸とは、水に溶けて水素イオンH+を生じる物質であり、塩基とは、水に溶けて水酸化物イオン OH− を生じる物質である。」
塩化水素HClや硫酸H2SO4は、水溶液中で次のように電離して、水素イオン H+ を生じる。
- HCl → H+ + Cl−
- H2SO4 → 2H+ + SO42−
オキソニウムイオン
[編集]アレニウスの酸の定義の提唱よりも後の研究では、水素Hは単独で塩基と電荷のやりとりを生じているのではなく、オキソニウムイオン H3O+ として、電荷の授受をしていることが明らかになった。たとえば、塩酸の場合は以下の様な式である。
- HCl + H2O H3O+ + Cl−
しかし書式では、簡略化のため、特別にオキソニウムイオン(oxonium ion)を強調したい場合を除いて、酸の水素イオンは単にH+と書くことが多い。
ブレンステッド・ローリーによる酸・塩基の定義
[編集]アレニウスによる酸と塩基の定義の後、彼の定義では例外の物質があり、不都合なことが分かってきた。たとえば、アンモニアNH3は分子中には水酸基OHを含んではいないが、塩酸HClなどの酸を中和する能力をアンモニアは持ち、明らかにアンモニアは塩基性を持つと見なせることが分かってきた。このような例に基づき、そこでブレンステッド(デンマーク)とローリー(イギリス)は、アレニウスの酸・塩基を拡張して、1923年に、次のように酸と塩基を定義した。
「酸とは、水素イオンH+を与える分子・イオンである。塩基とは、水素イオンH+を受け取る分子・イオンである。」
今日(西暦2023年)における、酸と塩基の化学上の定義は、このブレンステッドの定義に近い定義である。
ブレンステッドの定義によると、塩酸HClが水H2Oに溶解して電離する反応では、水H2Oは水素イオンを受け取りオキソニウムイオンになるので、水H2Oを塩基と見なせる。
- HCl + H2O H3O+ + Cl-
いっぽう、アンモニアが水に溶解して電離する反応では、水H2Oは、アンモニアに水素イオンを提供し、水酸化イオンOH-になるので、水は酸と見なせる。
- NH3 + H2O NH4 + OH-
このような例から、ブレンステッドの定義では、水は反応する相手によって酸として働いたり、塩基として働いたりする物質(両性物質)になる。
酸と塩基の価数
[編集]- 酸の価数
酸では、化学式中に含まれる水素原子のうち、H+イオンになることのできる水素原子数を酸の価数(かすう、degree of acidity)という。たとえば塩酸HClでは価数は1である。酢酸CH3COOHの価数は1である。酢酸のCH3の基の部分のイオンにはならず、酢酸でイオンになるのはCOOHの部分に含まれる水素Hのみである。硫酸H2SO4の価数は2である。
- 塩基の価数
塩基では、化学式中に含まれる水酸化物イオンOH-の数を塩基の価数 (degree of basicity) という。または塩基1化学式が受け取ることができるH+イオンの数ともいえる。例として水酸化ナトリウムNaOHの価数は1である。水酸化カルシウムCa(OH)2の価数は2である。
酸・塩基の強弱と電離度
[編集]塩酸と酢酸は、ともに1個の酸であるが、同じモル濃度のこれらの酸に亜鉛を加えると、塩酸のほうが酢酸より激しく水素を発生する。この反応は、次のイオン反応式で表されれるが、H+ イオンの濃度は、塩酸のほうが非常に大きいためである。
- Zn + 2H+ → Zn2+ + H2
水に溶けて陽イオンと陰イオンを生じる物質を電解質(でんかいしつ、electrolyte)という。電解質の水溶液で溶けている電解質全体の物質量に対して、そのうち電離している電解質の物質量の割合を電離度(でんりど、degree of electrolytic dissociation)という。
電離度αを式であらわせば、
電離度α= (電離した電解質の物質量)/(溶解した電解質の物質量)
である。電離度αの値は 0<α≦1 である。 電離度は温度によって変わる。
- 強酸と弱酸
酸の強さの定量化は、電離度を用いて定量化ができる。塩酸HClや硫酸HNO3などは電離度が、塩酸の電離度は約0.9、硝酸の電離度は約0.9、などと電離度が1に近く、このように電離度の大きい酸を強酸(きょうさん、strong acid)という。 いっぽう、酢酸CH3COOHの電離度は0.01程度と非常に小さく、このように電離度の小さい酸を弱酸(じゃくさん、weak acid)という。
- 強塩基と弱塩基
塩基の強さについても、電離度を用いて定量化される。水酸化ナトリウムNaOHの電離度は約0.9であり、水酸化カリウムKOHの電離度は約0.9である。これら水酸化ナトリウムのように、電離度の大きい塩基を強塩基(strong base)という。アンモニアは電離度の観点からは、アンモニアの電離度が約0.01と低い。アンモニアのように電離度が低い塩基を弱塩基(weak base)という。
強酸や強塩基のように電離度の高い電解質のことを強電解質という。 弱酸や弱塩基のように電離度の低い電解質のことを弱電解質という。
- 多価の酸の場合
溶液中で、多価の酸が水素イオンを電離するときは、段階的に1個ずつ水素イオンを電離をしている。 たとえば2価の酸である硫酸では、以下のように電離をする。
- H2SO4 → H+ + HSO4- (第1段階)
- HSO4- → H+ + SO4- (第2段階)
このように段階的に多段階に電離することを、多段階電離という。 一般に、多価の酸の電離度は、第2段階以降の段階の電離度と比べて、第1段階の電離度がもっとも大きい。 硫酸の場合も第一段階の電離度が、もっとも大きい。
- 多価の塩基の場合
いっぽう、多価の塩基が電離するときについては、事情が異なる。たとえばイオン結晶である水酸化カルシウムCa(OH)2の水に溶けて生じた電離では、1段階でまとめて電離をする。
- Ca(OH)2 → Ca2+ + 2(OH)-
酸・塩基の強弱の測定
[編集]水の電離
[編集]純水の水は、わずかであるが電離をしていて、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-を生じて、電離平衡(でんりへいこう)の状態になっている。このとき、水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH-]は等しく、25℃で1.0×10-7[mol/l] となっている。
水の電離は[H2O]の値はほぼ一定で、定数とみなせる。これより、[H+]と[OH-]の積の値も温度一定のときに一定値となる。この値を水のイオン積(ion product)といい、Kwで表す。イオン積Kwは以下の関係にある。
- [mol2/l 2]
このイオン積の値が成り立つのは、水だけでなく、酸や塩基や他の中性の水溶液でも同様に、水素イオンと水酸化イオンとのイオン積は一定で、1.0×10-14 [mol2/l 2]が成り立つ。また、値の1.0×10-14 [mol2/l 2]は常温付近での値であり、温度がかわると少しだけ値が変わるが、常温付近ならば桁の10-14のところまでは変わらないので、実用上は一定値1.0×10-14 [mol2/l 2]と見なすことが多い。
このやといったイオン濃度の概念を用いると、水溶液における酸性の定義や塩基性の定義を以下のように数値的に定義できる。
水溶液における酸性とは、水素イオン濃度が水酸化イオンよりも大きい状態である。
- 酸性:
同様に、水溶液の中性や塩基性も、イオン濃度で定義できる。
- 中性:
- 塩基性:
水素イオン濃度
[編集]水溶液の酸性は、水素イオン濃度[H+]が大きいほど強くなり、塩基性は水酸化物イオン濃度[OH-]が大きいほど強くなる。 [H+]の値は広い範囲で変化するため、扱いにくい。そこで、[H+]の常用対数をとって、それに負符号を付けたものを用いて、酸性/塩基性の程度を表す。この値を水素イオン指数といい、pHで表す。pHの読みは「ピーエイチ」またはドイツ語読みで「ペーハー」と読む。日本語訳ではpHを水素イオン指数(hydrogen ion exponent)ともいう。
pHの値がpH=7ならば中性である。 pHの値は塩基性になるほどpHが高くなる。pHが7より高いpH>7の状態では塩基性である。pHがとりうる最大値は理論上では14である。pH=14のときは、 [H+]=10-14 である。
pHの値は酸性になるほどpHが低くなる。pHが7より低いpH<7の状態では酸性である。pHがとりうる最大値は理論上では0である。pH=0のときは、 [H+]=100=1 である。
水酸化イオン[OH-]の対数をとったものをpOHという。(「ピー オーエイチ」と読む) pHとpOHについて、イオン積から次の公式が成り立つ。
- pH + pOH =14
あるいは
- pH =14 - pOH
pHの測定
[編集]pH指示薬
[編集]物質の中には、水溶液に接触させた時に、水溶液のpHの値によって色が変化するものがある。このような物質はpHを調べるのに用いることができるので、これらの物質のうちpHを調べる物質として実用化されている物質をpH指示薬(pH indicator)という。いわゆるリトマス試験紙もpH指示薬に含まれる。またリトマス試験紙のように、pH指示薬を試験用の紙に染み込ませて用いる事が多い。このようなpH指示薬を染み込ませてある紙をpH試験紙(pH indicator paper)という。 pH指示薬は、その物質によって、色を変えるpHの範囲が限られている。たとえば、メチルオレンジはpH=3.1以下では赤色で、そこからpHが高くなると黄色味を増していき、pH=4.4では橙黄色である。pH=4.4より高いpHでは橙黄色のまま、ほとんど色が同じなので、このpHの範囲では指示薬として用いられない。 このように指示薬の色が変わるpHの範囲を変色域(へんしょくいき)という。
pHメータ
[編集]pHを正確に測定するには、電位差を測定する方法が用いられる。そのための測定機器としてpHメータがある。
中和
[編集]中和
[編集]酸と塩基が反応すると、酸から生じるH+と塩基から生じるOH-が結びついてH2Oとなり、互いの性質が 打ち消されるこのような変化を中和という。
たとえば、塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOH水溶液の反応は、次のように表される。
- HCl + NaOH → NaCl + H2O
また中和後の反応液を蒸発させると、塩化ナトリウムNaClの結晶が得られる。
NaClのように、中和反応で生じる酸の陰イオンと塩基の陽イオンとからなる化合物を塩(えん)という。
中和反応は、次のようにまとめられる。
- 酸 + 塩基 → 塩 + 水
中和滴定に用いる道具
[編集]- 純水で洗って濡れたままでよい
- メスフラスコ
- コニカルビーカー
- 使用する溶液で洗う
- ホールピペット
- ビュレット
pH指示薬
[編集]- 強酸+強塩基 中和点は中性
- フェノールフタレイン
- メチルオレンジのいずれでもよい
- 弱酸+強塩基 中和点は弱塩基性
- フェノールフタレインのみ
- 強酸+弱塩基 中和点は弱酸性
- メチルオレンジのみ
中和滴定
[編集]塩
[編集]塩の分類
[編集]- 酸性塩
- 酸のHが残っている塩。 例 NaHSO4、NaHCO3
- 塩基性塩
- 塩基のOHが残っている塩。 例 MgCl(OH)、Cu2CO3(OH)2 (水酸化炭酸銅)
- 正塩
- 酸のHも塩基のOH含まない塩。 例 NaCl、NH4Cl、CH3COONa
'注意' この分類は、塩の水溶液の液性とは無関係なので要注意。
例 NaHCO3は、酸性塩だが水溶液は塩基性。 NH4Clは、正塩だが、水溶液は酸性。
この単元「酸と塩基の反応」の内容は、詳しくは化学Ⅱの「化学平衡」などに続く。