コンテンツにスキップ

高校化学 脂肪族炭化水素

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
分子式 名称 構造式
CHA4 メタン メタン
CA2HA6 エタン エタン
CA3HA8 プロパン プロパン
CA4HA10 ブタン ブタン
CA5HA12 ペンタン ペンタン
CA6HA14 ヘキサン ヘキサン

脂肪族炭化水素のうち、鎖式炭化水素で炭素原子間の結合がすべて単結合である化合物をアルカン、二重結合を1個だけもつ化合物をアルケン、三重結合を1個だけもつ化合物をアルキンという。

環式炭化水素で炭素原子間の結合がすべて単結合である化合物をシクロアルカンという。

シクロペンタン

たとえば図のシクロペンタンは、シクロアルカンの一種である。

脂肪族炭化水素のうち、鎖式のものは、アルカン・アルケン・アルキンに分類される。環式のうち、ベンゼン環をもたないものを脂環式炭化水素という。


アルカン

[編集]

アルカンの分子式は CAnHA2n+2 と書ける。右の表に、おもなアルカンの分子式と名称、構造式を示す。

炭化水素 CAnHAm の不飽和度は、2n+2−m2 で表される。アルカンは m=2n+2 であるから、不飽和度が 0 である。

アルカンが含まれる物質

[編集]

天然ガスの主成分は、メタン CHA4 である。また、都市ガス(ガス導管を通じて供給される天然ガス)の主成分もメタンである。液化石油ガス(プロパンガスともいう。主にガスボンベによって供給される。)の主成分はプロパンやブタンなどのアルカンである。

また、ガソリンには、さまざまなアルカンなどの有機化合物が含まれている。

アルカンの立体構造

[編集]

メタンは分子式 CHA4 であり、炭素原子を中心として、4個の水素原子が正四面体の頂点の位置に結合した構造をしている。H-C-H のなす角(結合角)は、109.5∘ である。

炭素原子間の単結合は、その結合を軸として自由に回転できるが、二重結合は回転することができない[1]。

したがって、アルカンの炭素間の単結合は自由に回転でき、分子はさまざまな形をとることができる。

プロパンの炭素原子は、炭素原子間の結合角が109.5∘ であるため、折れ線状に並んでいる。

アルカンの異性体

[編集]

炭素数が3以下のアルカンには、構造異性体がない。炭素数が4と5のアルカンには次の構造異性体が存在する。

  • CA4HA10 にはブタンと2-メチルプロパン(イソブタン)
  • CA5HA12 にはペンタン、2-メチルブタン(イソペンタン)、2,2-ジメチルプロパン(ネオペンタン)

構造異性体どうしは、沸点などの物理的性質が異なる。枝分かれが多く、分子が球形に近いほど、分子間の接触面積が小さくなってファンデルワールス力が弱くなるため、沸点が低くなる。

アルカンの沸点と状態

[編集]
分子式 名称 沸点
CHA4 メタン -161 ℃
CA2HA6 エタン -89 ℃
CA3HA8 プロパン -42 ℃
CA4HA10 ブタン -1 ℃
CA5HA12 ペンタン 36 ℃
CA6HA14 ヘキサン 69 ℃

直鎖のアルカンは、炭素数が増えるにつれてファンデルワールス力が強くなるため沸点・融点が次第に高くなる。たとえば常温(20 ℃程度)では、炭素数1のメタンから炭素数4のブタンまでは気体であるが、炭素数5のペンタンや炭素数6のヘキサンは液体である[2]。

また、アルカンの炭素数が4以上になると、そのアルカンには構造異性体が存在する。炭素原子数が多くなると異性体の数は爆発的に増加し、たとえば炭素数4のブタンは他に1種類のみ異性体をもつが、炭素数10のデカンは他に74種の異性体をもつ。さらに、炭素数20のエイコサンになると、他に36万種を超える異性体が存在する。

アルカンの性質

[編集]
  • 水に溶けにくいが、有機溶媒(ジエチルエーテルやトルエンなど)によく溶ける。
  • ススをほとんど出さずに燃えて、二酸化炭素と水を生じる。
  • 固体や液体のアルカンは、水より密度が小さく、水に浮く。

燃焼

[編集]

アルカンを完全燃焼させると、二酸化炭素と水が生じる。アルカン CAnHA2n+2 の完全燃焼は、次のように表される。

CAnHA2n+2+3n+12OA2⟶nCOA2+(𝑛+1)HA2O

たとえば、メタンとプロパンの完全燃焼は、次のとおりである。

CHA4+2OA2⟶COA2+2HA2O
CA3HA8+5OA2⟶3COA2+4HA2O

例題 メタン 8.0 g を完全燃焼させるのに必要な酸素の体積は、標準状態で何 L か。また、生じる水は何 g か。原子量は H=1.0、C=12、O=16 とする。

解答 メタン CHA4 のモル質量は 16 g/mol であるから、メタン 8.0 g は 8.016=0.50 mol である。反応式 CHA4+2OA2⟶COA2+2HA2O より、必要な酸素は 0.50×2=1.0 mol、生じる水は 0.50×2=1.0 mol である。標準状態での酸素の体積は 1.0×22.4=22.4 L、水の質量は 1.0×18=18 g である。

答: 酸素 22 L、水 18 g

置換反応

[編集]

常温でアルカンは安定であり、薬品と化学反応を起こしにくい。しかし、光を当てると(おもに紫外線による作用で)、アルカンがハロゲンの単体と反応して、アルカンの水素原子がハロゲン原子と置き換わってハロゲン化水素を生じる反応が起こる。このように、分子中の原子や原子団が、ほかの原子や原子団に置き換わる反応を置換反応という。

メタン

[編集]
メタン

メタンは分子式 CHA4 の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルカンである。常温では無色の気体であり、また無臭である[3]。

実験室では、酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを混合して加熱することで得られる。メタンは水に溶けにくいので、水上置換法で捕集する。

CHA3COONa+NaOH⟶NaA2COA3+CHA4↑

メタンは光を当てるとハロゲンと置換反応を起こす。たとえば、メタンに光を当てながら塩素と反応させると、次のように1つずつ水素が塩素に置き換わる。

CHA4+ClA2⟶HCl+CHA3Cl(クロロメタン、塩化メチル)
CHA3Cl+ClA2⟶HCl+CHA2ClA2(ジクロロメタン、塩化メチレン)
CHA2ClA2+ClA2⟶HCl+CHClA3 (トリクロロメタン、クロロホルム)
CHClA3+ClA2⟶HCl+CClA4 (テトラクロロメタン、四塩化炭素)

塩化メチレンは沸点が 40 ℃と低く、分留しやすいので、有機溶媒としてよく用いられる。サスペンス系の作品において、「クロロホルムを染み込ませた布を口にあてがい、対象を眠らせる」という演出が用いられるが、クロロホルムにそんな作用は存在しない。クロロホルムは粘膜を強く刺激するため、使われた対象は眠るどころか激痛で暴れ回ってしまう。間違っても人に使用しないようにしよう。四塩化炭素はかつて有機溶媒として広く用いられていたが、毒性が強く、発がん性も疑われ、さらにオゾン層を破壊する物質でもあるため、現在は製造や使用が厳しく規制されている。

  • メタンハイドレート
メタンと水に分離し燃えるメタンハイドレート。左上にクラスレートの構造を示す。 (University of Göttingen, GZG. Abt. Kristallographie)
出典: アメリカ地質調査所。

近年、日本近海の海底など、世界のいくつかの海底の多くの場所の地層中で、氷の結晶中にメタンが存在している事が明らかになった。この海底のメタンの含まれた氷をメタンハイドレートという。採掘されたメタンハイドレートの外見はドライアイスに似ている。採掘されたメタンハイドレートに点火すると、メタンが燃え、また、最終的に氷が熱で解けて水になる。

将来のエネルギー資源として、メタンハイドレートが注目されているが、現状では実用化されていない。

アルケン

[編集]
分子式 名称 構造式 沸点
CHA2=CHA2 エチレン

(エテン)

エチレン -104 ℃
CHA2=CHCHA3 プロピレン

(プロペン)

プロピレン -47 ℃
CHA2=CHCHA2CHA3 1-ブテン 1-ブテン -6 ℃

アルケンの分子式は CAnHA2n と書け、不飽和度は 1 である。アルケンは不飽和炭化水素である。右の表に、おもなアルケンの分子式と名称、構造式を示す。

エチレンの水素原子1個をメチル基 CHA3A− に置き換えると、プロピレン(プロペン)になる。

エチレン (ethylene) はエテン (ethene) の慣用名である。IUPAC 命名法ではエテンであるが、慣用名のエチレンの使用も認められている。

シス-トランス異性体

[編集]

アルケンは二重結合が含まれているが、二重結合の部分は回転ができないため、いくつかのアルケンでは、異性体が存在する。このような異性体を、シス-トランス異性体(幾何異性体)という。

たとえば 2-ブテンでは、シス形とトランス形という2種類の異性体が存在する。


  • シス形

cis-2-ブテン

融点:-139 ℃

沸点:4 ℃


  • トランス形

trans-2-ブテン

融点:-106 ℃

沸点:1 ℃

付加反応

[編集]

二重結合や三重結合の一つが切れて、そこに原子や原子団が結合する反応を付加反応という。アルケンは二重結合を含むため付加反応を起こしやすい。

たとえばエチレンは、臭素と反応すると、付加反応により、1,2-ジブロモエタンになる。

エチレンの臭素付加反応の化学反応式

また、エチレンは、触媒として白金やニッケルを用いて、水素を付加させるとエタンが生成する。

エチレンの水素付加

赤褐色の臭素水に不飽和結合を持つ分子を通すと臭素が付加し、臭素水の赤褐色が消える。この反応は未知の分子が不飽和結合を持っているか検出する反応に利用される。

付加反応の例



  • 補:付加反応の仕組み

二重結合は、2種類の結合からなる。一方はσ結合(シグマ結合)という強い結合で、もう一方はπ結合(パイ結合)という、σ結合よりも弱い結合である。三重結合は、1本のσ結合と2本のπ結合からなる。

付加反応においては、これらのうち弱いπ結合が切れ、そこに原子や原子団が結合する。


マルコフニコフ則

[編集]
マルコフニコフ則


アルケンの二重結合に、HX[注釈 1]が付加するとき、二種類の生成物が考えられるが、このとき、二重結合している炭素原子に結合しているHが多いほうに、HXのHが付加し、少ない方にXが付加した化合物が多く生成する。これをマルコフニコフ則という。

たとえば、プロペンと塩化水素の付加反応では、主生成物として2-クロロプロパンが得られる。

CHA2=CHCHA3+HCl⟶CHA3CHClCHA3(主生成物)
CHA2=CHCHA3+HCl⟶CHA2ClCHA2CHA3(副生成物、1-クロロプロパン)

エチレンに水を付加させると、エタノールが生じる。

CHA2=CHA2+HA2O⟶CHA3CHA2OH

例題 プロペン CHA2=CHCHA3 に、酸を触媒として水を付加させた。マルコフニコフ則にしたがって、主生成物の示性式と名称を答えよ。

解答 二重結合の炭素のうち、水素が多く結合している端の炭素(CHA2= の炭素)に HA2O の H が付加し、水素が少ない中央の炭素に OH が付加する。

CHA2=CHCHA3+HA2O⟶CHA3CH(OH)CHA3

答: CHA3CH(OH)CHA3、2-プロパノール(副生成物は 1-プロパノール CHA3CHA2CHA2OH)

例題 エチレン 2.8 g に付加する臭素は、最大で何 g か。原子量は H=1.0、C=12、Br=80 とする。

解答 エチレン CA2HA4 のモル質量は 28 g/mol であるから、2.8 g は 2.828=0.10 mol である。CA2HA4+BrA2⟶CA2HA4BrA2 より、エチレンと臭素は物質量比 1 : 1 で反応するので、臭素も 0.10 mol である。臭素 BrA2 のモル質量は 160 g/mol であるから、0.10×160=16 g である。

答: 16 g

酸化

[編集]

また、不飽和炭化水素は酸化剤と反応して酸化される。赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液にたとえばエチレンを通じると、エチレンは酸化され、二酸化マンガン MnOA2 の黒色沈殿を生じるとともに赤紫色が消える。このような反応は、メタンをはじめアルカンでは起こらない。

その他

[編集]

その他、アルケンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。

  • 水に溶けにくい。
  • エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
  • ススを少し出しながら燃えて、二酸化炭素と水を生じる。

エチレン

[編集]
エチレン

エチレン(ethylene)は分子式 CA2HA4 の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルケンである。常温では無色の気体である。二重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一平面上にあるため、右図のようにエチレン分子は全ての原子が同一平面上にある。

エチレンは、実験室ではエタノールの分子内脱水により得られる。エタノールに濃硫酸を加え、160〜170 ℃程度で加熱すると、エタノールの分子内で脱水反応がおこり、エチレンが生成する。

エチレンの生成の化学反応式


また、エチレンは二重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により臭素の色が消え無色になる。

エチレンの臭素付加反応の化学反応式


さらに、赤紫色の過マンガン酸カリウム水溶液に通じると、エチレンは酸化され、黒色の二酸化マンガンの沈殿が生じる。

工業的には、ナフサの熱分解でエチレンが得られる。エチレンは様々な薬品の合成原料であり、工業的に重要な物質である。

エチレンは、植物ホルモンでもある。

コラム: エチレンと果実の成熟
[編集]

エチレンは、植物自身がつくり出す気体の植物ホルモンであり、果実の成熟を促進するはたらきがある。リンゴなど、エチレンを多く放出する果実と、未熟なキウイフルーツなどを同じ袋に入れておくと、キウイフルーツの成熟が早まる。逆に、収穫した野菜や果物を長く保存するために、貯蔵庫のエチレンを取り除く工夫も行われている。

アルキン

[編集]
分子式 名称 構造式 沸点
CA2HA2 アセチレン アセチレン -84 ℃(昇華)
CA3HA4 プロピン プロピン -23 ℃

右図のアセチレンのように、炭素原子間の結合に三重結合を1個含み、分子式が CAnHA2n−2 と書ける炭化水素をアルキン(alkyne)という。不飽和度は 2 である。右の表に、おもなアルキンの分子式と名称、構造式を示す。

アセチレンの立体構造は、すべての原子が直線上にならぶ配置になっている。三重結合を含む炭素原子間は、回転できない。

アルキンの性質

[編集]

アルキンは三重結合のため、付加反応を起こしやすく、酸化剤と反応して酸化される。

また、アルキンは次のような有機化合物一般の性質をもつ。

  • 水に溶けにくい。
  • エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
  • ススを多く出しながら燃えて、二酸化炭素と水を生じる。

燃焼時のススの多さは不飽和度が高いほど多くなり、その時の炎も明るくなる。

アセチレン

[編集]
アセチレンの構造式
アセチレン分子の形状

アセチレンは分子式 CA2HA2 の、もっとも炭素数が少ない基本的なアルキンである。構造式は HC≡CH である。常温ではアセチレンは無色の気体である。三重結合で結びついている炭素原子と、それに直接結合した原子はすべて同一直線上にあるため、右図のようにアセチレン分子は全ての原子が一直線上にある。

アセチレンは、実験室では炭化カルシウム CaCA2(カルシウムカーバイド)を水と反応させることにより得られる[注釈 2]。炭化カルシウムを、細かな穴をあけたアルミニウム箔で包み、水を入れた水槽に入れると、アセチレンが発生する。アセチレンは水に溶けないため、水上置換法により捕集する。

炭化カルシウムと水を反応させる様子
CaCA2+2HA2O⟶Ca(OH)A2+CA2HA2↑

例題 炭化カルシウム 6.4 g を十分な量の水と反応させると、発生するアセチレンは標準状態で何 L か。原子量は C=12、Ca=40 とする。

解答 CaCA2 のモル質量は 40+12×2=64 g/mol であるから、6.4 g は 6.464=0.10 mol である。反応式より、CaCA2 1 mol から CA2HA2 1 mol が生じるので、アセチレンは 0.10 mol 生じる。標準状態での体積は 0.10×22.4=2.24 L である。

答: 2.2 L

なお、アセチレンの工業的な製法では、石油などに含まれるアルカンなどを熱分解して、アセチレンをつくる。

酸素アセチレン炎
酸素アセチレン炎

アセチレンは、溶接用のバーナーの炎に用いられる。アセチレンに酸素を混ぜて点火すると、3000 ℃を超える高温の炎が得られる。そのため、金属の溶接や切断の際に酸素アセチレン炎が用いられる。

なお、炭化カルシウム CaCA2 のことをカーバイドともいう。ただし、炭化カルシウム以外の金属の炭化物も、カーバイドということがある。

アセチレンの反応

[編集]

付加反応

[編集]

三重結合は付加反応を受けやすい。アセチレンに、白金やニッケルなどを触媒として水素を反応させると、付加反応によりエチレンやエタンを生じる。

HC≡CH+HA2⟶HA2C=CHA2
HA2C=CHA2+HA2⟶HA3C−CHA3
アセチレンへの水素の付加によって、エチレンが生じた反応


臭素との反応

[編集]

また、アセチレンは三重結合を含むため、赤褐色の臭素水に通じると、付加反応により1,1,2,2-テトラブロモエタンが生じるため、臭素の色が消え、無色になる。

HC≡CH+2BrA2⟶CHBrA2−CHBrA2

水との付加

[編集]

硫酸水銀(II) HgSOA4 を触媒として、アセチレンに水が付加することにより、不安定な中間生成物を経て、最終的にアセトアルデヒドを生じる。アセチレンは、まずビニルアルコール(CHA2=CHOH)になるが、これは非常に不安定であり、アセトアルデヒド(CHA3CHO)になる。

アセチレンへの水の付加。まんなかの式にある、途中の生成物はビニルアルコール。いちばん右の式にある、最終的な生成物がアセトアルデヒド。


ビニルアルコールはエノール体、アセトアルデヒドはケト体というものに分類され、この反応は「ケトエノール互変異性化」と呼ばれる。一般に、ケト体とエノール体の反応において、平衡はケト体側へと偏る。

その他

[編集]

塩化水素を付加させると塩化ビニル CHA2=CHCl を生じる。

HC≡CH+HCl⟶CHA2=CHCl

銀アセチリド

[編集]

アンモニア性硝酸銀溶液にアセチレンを通じると、爆発性の銀アセチリド AgC≡CAg の白色沈殿を生じる。

過マンガン酸カリウム水溶液

[編集]

塩基性の過マンガン酸カリウム水溶液(赤紫色の状態)に通じると、MnOA2 の沈殿が生じる。


赤熱した鉄

[編集]

アセチレンが、赤熱した鉄にふれると、鉄が触媒として作用し、アセチレンの3分子が重合して、ベンゼンが生じる。

3CA2HA2⟶CA6HA6
アセチレンの3分子重合。右側の式がベンゼン環


シクロアルカン

[編集]
分子式 名称 構造式
CA4HA8 シクロブタン シクロブタン
CA5HA10 シクロペンタン シクロペンタン
CA6HA12 シクロヘキサン シクロヘキサン

一般式 CAnHA2n で表される環式炭化水素をシクロアルカンという。炭素原子間の結合はすべて単結合であり、不飽和度は 1(環1個)である。右の表に、おもなシクロアルカンの分子式と名称および構造式を示す。

シクロアルカンの「シクロ (cyclo-)」は環式であることを表す接頭辞であり、英語の cycle に相当する。「シクロアルカン」は、環式のアルカンであることを示している。

シクロアルカンとアルケンは、同じ一般式 CAnHA2n で表され、互いに構造異性体の関係にある。たとえば、CA3HA6 には、プロペンとシクロプロパンがある。

例題 分子式 CA4HA8 で表される炭化水素の異性体を、シス-トランス異性体も区別してすべて答えよ。

解答 不飽和度は 2×4+2−82=1 であるから、二重結合を1個もつアルケンか、環を1個もつシクロアルカンである。

  • アルケン: 1-ブテン CHA2=CHCHA2CHA3、2-ブテン CHA3CH=CHCHA3(シス形とトランス形の2種類)、2-メチルプロペン CHA2=C(CHA3)A2
  • シクロアルカン: シクロブタン、メチルシクロプロパン

1-ブテンと2-メチルプロペンは、二重結合の一方の炭素に同じ原子(H)が2個結合しているので、シス-トランス異性体をもたない。以上より、構造異性体は5種類、シス-トランス異性体を区別すると6種類である。

一般的な性質

[編集]

シクロアルカンは飽和炭化水素であり、アルカンに似た性質をもつ。

  • 光を当てると置換反応を起こす。
  • 水に溶けにくい。
  • エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。
  • ススをほとんど出さずに燃えて、二酸化炭素と水を生じる。

シクロヘキサン

[編集]

シクロヘキサンは分子式 CA6HA12 のシクロアルカンである。分子の構造として次の2種類が存在する。

  • いす型: シクロヘキサン-いす型
  • 舟型: シクロヘキサン-舟型

舟型は不安定な構造であり、通常はいす型の構造をとる。いす型では、結合角が109.5∘ に近く、ひずみが小さい。いす型と舟型は、炭素原子間の単結合の回転により、互いに変換する。

シクロアルケン

[編集]
シクロへキセン。 融点: -104℃。 沸点:83℃。

環状構造で炭素原子間に二重結合を1個もつ炭化水素を シクロアルケン(cycloalkene)という。 一般式は CAnHA2n−2 で表される。不飽和度は 2(環1個と二重結合1個)である。

シクロアルケンの化学的性質は、鎖式構造のアルケンに似た性質があり、付加反応を起こしやすい。

シクロアルケンには、シクロペンテン CA5HA8 やシクロヘキセン CA6HA10 などがある。

脂肪族炭化水素のまとめ

[編集]
アルカン アルケン アルキン シクロアルカン
一般式 CAnHA2n+2 CAnHA2n CAnHA2n−2 CAnHA2n
不飽和度 0 1 2 1
炭素原子間の結合 単結合のみ 二重結合1個 三重結合1個 単結合のみ(環1個)
代表例 メタン CHA4 エチレン CA2HA4 アセチレン CA2HA2 シクロヘキサン CA6HA12
おもな反応 置換反応(光) 付加反応 付加反応 置換反応(光)
臭素水の脱色 しない する する しない
過マンガン酸カリウム水溶液の脱色 しない する する しない
燃焼時のスス ほとんど出ない 少し出る 多く出る ほとんど出ない

例題(元素分析)

[編集]

例題 炭素と水素だけからなる化合物 0.70 g を完全燃焼させたところ、二酸化炭素 2.2 g と水 0.90 g が生じた。この化合物は臭素水の赤褐色を消した。分子量を 70 として、分子式を求め、この化合物がアルケンかシクロアルカンか判定せよ。原子量は H=1.0、C=12、O=16 とする。

解答 化合物中の炭素の質量は 2.2×1244=0.60 g、水素の質量は 0.90×2.018=0.10 g である。合計 0.70 g で、化合物の質量に一致する。物質量の比は C:H=0.6012:0.101.0=0.050:0.10=1:2 であるから、組成式は CHA2(式量 14)である。分子量が 70 であるから、70÷14=5 より、分子式は CA5HA10 である。この化合物は臭素水の色を消す、つまり付加反応を起こすので、環をもつシクロアルカンではなく、アルケンである。

答: CA5HA10、アルケン

参考事項

[編集]

シクロアルキン

[編集]

環状構造で炭素原子間に三重結合を1個もつ炭化水素をシクロアルキン(cycloalkyne)という。一般式は CAnHA2n−4 で表される。

炭素数が多く結合に柔軟性がある場合のみ存在し、通常は非常に不安定である

分子模型セットを持っている人は確かめてほしいが、炭素数が7以下だと三重結合を含む環状構造を作るのがとても難しい。炭素数8ならば歪みがあるものの、辛うじて環状構造を形成することができる。実際、安定して単離されるのはシクロオクチンC8H12である。炭素数10では炭素数8に比べて安定した環状構造を取るが、炭素原子同士の距離が近いので容易に化学反応を起こし、環状構造が壊れてしまう。そのため、シクロアルキンは非常に存在しにくい炭化水素であると言える。

一般に、炭素数が多くなるほど環状構造は不安定になる。

高校化学で考える必要はないが、「シクロアルカンとシクロアルケンはあるけどシクロアルキンは存在しないのか」という疑問を解消するため紹介した。

アルケン以外のシス-トランス異性体

[編集]

環状構造の単結合も回転することができないため、環構造を含む化合物はアルケンと同様にシス-トランス異性体が存在する。

また、錯体についてもシス-トランス異性体が存在する場合がある。

この、アルケン以外のシス-トランス異性体は難関大入試では定番のテーマである。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ HCl や HA2O(H-OH)など
  2. ^ CaCA2 は CaA2+ と CA2A2−(A−A22−C≡CA−)がイオン結合した物質であり、水と反応すると、CaA2+ と OHA− 2個が Ca(OH)A2 をつくり、CA2A2− は水から HA+ を2個受け取って CA2HA2 になる。
  1. ^ これは量子力学的な性質によるものである。
  2. ^ プロパンを主成分とするプロパンガスは常温で気体だが、8気圧程度に加圧すると常温でも液体となる。一方、メタンを主成分とする天然ガスは、常温で加圧しても液化しない。
  3. ^ 都市ガスはメタンが主成分であり、ガス漏れを気づきやすくするために、臭いのある気体が混ぜてある。