高等学校古文/漢文の句法
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ここでは句法について解説を行う。
これまでに述べた「漢文の読み方」「返読文字」「再読文字」で述べたことを繰り返すところもある。
本ページは非常に長いので、例文は別ページに置く。
受身
[編集]- 見(ル)~(同義の字に被・為)
- 読み方:~る・らる
- 意味:~される。
- 為三ルAノ所二トB一スル
- 読み方:AのBするところとなる
- 意味:AにBされる。
- A二セラル於(=于・乎)B一ニ
- 読み方:BにAせらる
- 意味:BにAされる。
- 於・于・乎の助字はいずれも場所・目的・対象を表し、受身を示す。この場合、これらの助字は読まない。
- 文意から受身をとる。
- 特に「封ゼラル」「任ゼラル」「叙セラル」は受身に読む。「封ゼラル」は王侯になるなどして領地をもらうこと、「任ゼラル」は役職に付くこと、「叙セラル」は功績に応じて栄典を与えられることである。
使役
[編集]- 使二ム(=令・教・遣)AヲシテB一セ
- 読み方:AをしてBせしむ
- 意味:AにBさせる。
- 使役の意味を持つ動詞を用いる。
- 命二ジテA一ニB(セ)シム
- 召二シテA一ヲB(セ)シム
- 遣二ハシテA一ヲB(セ)シム
- 教二ヘテA一ニB(セ)シム
- 勧二メテA一ニB(セ)シム
- 説二キテA一ニB(セ)シム
- 文脈から使役をとる。
- 動詞の下が動作を受ける対象である場合は使役になることがある。
否定
[編集]単純な否定
[編集]- 不(=弗)二~一セ
- 読み方:~せず
- 意味:~しない。
- 主に用言(動詞・形容詞・形容動詞)を否定する。
- 「不」から下の言葉をすべて否定するので口語訳のときには注意が必要である。例えば「見レ木ヲ不レ見レ森ヲ」も「不二見レ木ヲ見一レ森ヲ」も書き下し文としては「木を見(、)森を見ず」となるが、「見レ木ヲ不レ見レ森ヲ」は「木は見たが森は見ない」の意味になるのに対して、「不二見レ木ヲ見一レ森ヲ」の方は「木も森も見ない」あるいは「木を見ずに森を見る」の意味になる。曖昧さを避けるには、「不見木而見森」「不見木不見森」に言い換える必要がある。なお、この「不」の特徴を知っておくと後述する部分否定と二重否定の違いを理解するうえで助けになる。
- 非(=匪)二ズ~一ニ
- 読み方:~にあらず
- 意味:~でない。
- 主に体言(名詞・代名詞)を否定する。
- 無(=莫)二シ~一(スル)
- 読み方:~(する)なし
- 意味:~ない・~することがない
- 未二ダ~一セ
- 読み方:いまだ~せず
- 意味:まだ~しない。
- 再読文字である。
不可能
[編集]いずれも意味は「~できない」である。
- 不レ能ハ
- 読み方:あたはず
- 意味:(能力が無くて)できない。
- 不レ得
- 読み方:えず
- 意味:(チャンスが無くて)できない。
- 不レ可カラ
- 読み方:べからず
- 意味:(状況を熟慮して)できない。
- 禁止の意味もある。
- 不ニ敢テ~一セ
- 読み方:あへて~せず
- 意味:強い否定の意味もあるため、「決して~できない」と訳したほうがよい。また、単に強い否定にとすることもでき、その場合は「決して~しない」の意味になる。
全部否定と一部否定
[編集]「不」の説明のときにも述べたが、「不」は下に続く言葉をすべて否定する。そのため、ここで述べるような違いが生じる。全部否定と一部否定では以下のような形になる。
- 全部否定:副詞+不+用言
- 一部否定:不+副詞+用言
要するに全部否定は否定の部分を副詞が強調している形であるが、一部否定は副詞の部分も否定しているため結果的に否定が限定的になっているのである。また、全部否定と一部否定とでは送り仮名も異なるので注意したい。
- 常ニ不二~一セ
- 読み方:つねに~せず
- 意味:いつも~しない。
- ニュアンス的には「~しないのがいつものこと(常)だ」というのである。
- 不二常ニハ~一セ
- 読み方:つねには~せず
- 意味:いつも~とは限らない。
- 「いつも~だ」を否定しているので、「いつも~と限らない」となっているのである。
- 必ズ不二~一セ
- 読み方:かならず~せず
- 意味:きっと~しない。
- 不二必ズシモ~一セ
- 読み方:かならずしも~せず
- 意味:必ず~とは限らない。
- 復不二~一セ
- 読み方:また~せず
- 意味:今度もまた~しなかった。
- 「前回も今回もしなかった」というニュアンスになる。
- 不二復~一セ
- 読み方:また~せず
- 意味:それきり二度としなかった。
- 「今回はしたが、それ以降はしなかった」というニュアンスになる。
- 倶ニ不二~一セ
- 読み方:ともに~せず
- 意味どちらも~しない。
- 「両方とも行動をしない」のである。
- 不二倶ニハ~一セ
- 読み方:ともには~せず
- 意味:どちらも~とは限らない。
- 「両方ともその行動をするとはかぎらない」ので、片方だけが行動することも両方とも行動することもありうる。
- 尽ク不二~一セ
- 読み方:ことごとく~せず
- 意味:全部~しない。
- 不二尽クハ~一セ
- 読み方:ことごとくは~せず
- 意味:全部~とは限らない。
- 甚ダシク不二~一セ
- 読み方:はなはだしく~せず
- 意味:ひどく~しない。
- 不二甚ダシクハ~一セ
- 読み方:はなはだしくは~せず
- 意味:それほど~しない。
例外
[編集]形は全部否定・一部否定に似ているが、意味はまったく異なるので注意。
- 敢テ不ニランヤ~一セ
- 読み方:あへて~せざらんや
- 意味:反語「どうして~しないだろうか。いや、きっと~する。」
- 不ニ敢テ~一セ
- 読み方:あへて~せず
- 意味:強い不可能「決して~できない」または強い否定「決して~しない」。
二重否定
[編集]否定形を否定することで強い肯定とすることが多い。
- 非レズ不二ルニ~一セ
- 読み方:~せざるにあらず
- 意味:~しないのではない。
- 非レズ無二キニ~一
- 読み方:~なきにあらず
- 意味:~がないのではない。
- 無レシ不二ル~一セ
- 読み方:~せざるなし
- 意味:~しないものはない。
- 無レシ非二ザル~一ニ
- 読み方:~にあらざるなし
- 意味:~でないものはない。
- 無三シA不二ルB一セ
- 読み方:ABせざるなし
- 意味:BしないAはない。どんなBでもAしないこと(もの)はない。
- 不三敢テ不ニンバアラ~一セ
- 読み方:あへて~せずんばあらず
- 意味:~しないではいられない。
- 未三ダ嘗テ不二ンバアラ~一セ
- 読み方:いまだかつて~せずんばあらず
- 意味:今までに~しなかったことはなかった。(いつも~したものだ。)
- 不レ可レカラ不二ル~一セ
- 読み方:~せざるべからず
- 意味:~しなければならない。~しないことがあってはならない。
- 不レ為レサ不二ト~一セ
- 読み方:~せずとなさず
- 意味:~しないとはいえない。
- 不レ得レ不二ルヲ~一セ
- 読み方:~せざるをえず
- 意味:~せずにはいられない。
二重否定と混同しがちな表現
[編集]否定語が並んでいるが、これらは二重否定ではない。ポイントは否定の部分が二つの節に分けられる、すなわち読点をつけられることにある。
条件
[編集]- 不二ンバA一セ不二B一セ
- 読み方:AせずんばBせず
- 意味:AしなければBしない。
- 非二ザレバA一ニ不二B一セ
- 読み方:AにあらざればBせず
- 意味:AでなければBしない。
- 非二ザレバA一ニ勿二カレB一(スルコト)
- 読み方:AにあらざればBすることなかれ
- 意味:AでなければBしてはならない。
並列
[編集]- 無二クA一ト無二クB一ト、
- 読み方:AとなくBとなく
- 意味:AとBの区別なくすべて。
限定
[編集]終尾詞を用いる
[編集]- ~耳(爾・已・而已・而已矣)
- 読み方:~のみ
- 意味:~だけだ。
副詞を用いる
[編集]文末の終尾詞「のみ」と呼応する。終尾詞がない場合には修飾される語に送り仮名「のみ」をつける。
- 唯(惟・但・徒・只・直)ダAノミ
- 読み方:ただAのみ
- 意味:ただAだけ。
- 独(獨)リAノミ
- 読み方:ひとりAのみ
- 意味:ただAだけ。
比較・選択
[編集]- AハC二ナリ於(=于・乎)B一ヨリモ
- 読み方:AはBよりもCなり
- 意味:AはBよりもCである
- 下の語に「よりも」と送る。なお、於・于・乎は前置詞。
- Aハ不レ如(=若)二カB一ニ
- 読み方:AはBにしかず
- 意味:AはBに及ばない。AはBするのが一番良い。AはBするに越したことはない。
- Aハ無(=莫)レシ如二クハB一ニ
- 読み方:AはBにしくはなし
- 意味:AはBに及ばない。AはBするのが一番良い。AはBするに越したことはない。
- 寧ロAストモ無(=毋・勿)二カレB一スル
- 読み方:むしろAすともBするなかれ
- 意味:いっそAするとしてもBしてはならない。
- 選択の形をとる。前者Aを採って後者Bを捨てる形になる。なお、前者の送り仮名は終止形、後者の送り仮名は連体形であるので、変格活用や下二段・上二段活用の語の送り仮名に注意しなければならない。
- 与二リハ其ノA一セン寧ロBセヨ
- 読み方:そのAせんよりはむしろBせよ
- 与二リハ其ノA一セン不レ如二カB一スルニ
- 読み方:そのAせんよりはBするにしかず
- 意味:AするよりはBのほうがよい。
- 共に意味は同じ。選択の形をとる。前者Aを捨てて後者Bを採る表現。
願望
[編集]- 請フ〜
- 読み方:こう〜
- 意味:どうか〜させてください。
感嘆
[編集]感動詞を用いる
[編集]- 嗚呼(=于嗟・噫)
- 「ああ」と読み、文の冒頭に置く。
感動の終尾詞を用いる
[編集]- 哉(=矣・乎・夫・与)
- 「か」「かな」と読み、文末におく。
疑問・反語形による詠嘆
[編集]- 豈ニ不二~一哉
- 読み方:あニ~ずや
- 意味:なんと~ではないか。
- 不二亦~一乎
- 読み方:また~ずや
- 意味:なんと~ではないか。
累加
[編集]物事を付け加える表現である。
- 不二唯ダニ~一ノミナラず
- 読み方:たダニ~ノミナラず
- 意味:ただ~だけではない。
- 豈ニ惟ダニ~ノミナランヤ
- 読み方:あニたダニ~ノミナランヤ
- 意味:どうしてただ~だけだろうか(いや~だけではない)。
疑問
[編集]疑問詞を用いる
- 安(悪・焉・烏・寧)クンゾ~
- 読み方:いづクンゾ~
- 意味:どうして~か。
- 誰(孰)カ〜
- 読み方:たれか〜
- 意味:誰が〜か。
反語
[編集]疑問詞や反語の副詞を用いる
[編集]- 安(悪・焉・烏・寧)クンゾ~ンヤ
- 読み方:いづクンゾ~ンヤ
- 意味:どうして~か、いや、~ない。
- 誰(孰)カ〜乎
- 読み方:たれか〜や(か)
- 意味:誰が〜か、いや、ない。
疑問の終尾詞を用いる
[編集]- ~ン乎(邪・耶・也・哉)
- 読み方:~ンや
- 意味:~か、いや、~ない。
その他
[編集]- 豈ニ〜ンヤ(乎・哉)
- 読み方:あニ~ンヤ
- 意味:どうして~か、いや、ない。
仮定
[編集]- 若シ〜バ
- 読み方:もシ~バ
- 意味:もし〜ならば。
抑揚
[編集]漢文独特の表現で、前者を抑えて後者を揚げて強調する句法。
- Aスラ且ツB。況ンヤCヲ乎。
- 読み方:AスラかツB。いはンヤCヲや。
- 意味:AでさえBだ。ましてCの場合はなおさら(B)だ。