高等学校商業 経済活動と法/法の分類

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成文法と不文法[編集]

法律には、条文として表されている成文法(せいぶんほう)と、条文にはなっていない不文法(ふぶんほう)がある。

中学校までに習ってきた日本国憲法は条文があるので成文法である。そのほか、日本国の民法や刑法も成文法である。

しかし、実際の裁判などでは、公序良俗にもとづく慣習なども重視する。このように、裁判などに影響を与える慣習もあり、公序良俗にもとづくなどの正当な慣習が場合によっては法律と同等の効力を持つ場合がある。このように法律と同等の効力をもつ慣習を不文法(ふぶんほう)という。

不文法のうち、その正当性の根拠が世間一般での慣習によるものを慣習法(かんしゅうほう)という。

一方、裁判においては過去の判決が今後の判決を予想する際の参考になる。過去の裁判の判決が先例になったものを判例(はんれい)という。ある種類の事件の裁判において、似たような結果の判決が繰り返され、今後の同様の事件の裁判でも同じような判決が出るだろう、と予測されるものは判例が(当然ながら)しだいに同じ内容に定まってくる。このようにして、あたかも法律的な効力をもつにいたったものを判例法(はんれいほう)という。

とはいえ、成文法と判例法となら、一般的に日本の裁判では成文法が優先される。なぜなら、日本国憲法にあるように裁判官は憲法と法律にのみ拘束(こうそく)されるからである。(憲法76条

なお、ドイツとフランスが成文法を重視する国である。(※参考文献: 有斐閣『法律学入門 第3版増補訂』、佐藤幸治ほか、166ページ、)いっぽう、イギリスは判例法を重視する国である。(※参考文献: 慶應義塾大学出版会『法学概論』、編: 霞信彦、72ページ、)なお、ドイツとフランス以外にも成文法を重視する国家は存在するし、イギリス以外にも判例法を重視する国家も存在する。

また、ある事件の一審と二審において、仮に一審と二審が同じ内容の判決を下しても、最高裁判所では一審・二審とは異なる判決を下しても構わない。

なお、刑法では罪刑法定主義(ざいけい ほうていしゅぎ)の原則があるため、ほかの法律よりも不文法の影響力が弱いとされる。(※参考文献: 慶應義塾大学出版会『法学概論』、編: 霞信彦、72ページ、)(しかし、刑事訴訟での判例は今後の刑事訴訟に影響を及ぼすので、その点では慣習法(判例法も慣習法であり不文法である)の影響を受けているだろう(推測)

いっぽう、民法や商法では慣習もまた重視される。たとえば、民法第92条では、「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。」(民法第92条)と規定されている。つまり、民法では慣習が成文法と異なる場合でも、契約の当事者がその慣習に従って判断し契約した、と思われるのが妥当であれば慣習が成文法に優先するのである。また、商法第1条2項でも、「商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。」と規定されている。前半部の「この法律に定めがない事項については商慣習に従い、」にあるように商慣習が成文法に優先する。

民法・商法以外のその他の法律では一般的に成文法が慣習に優先する。(法の適用に関する通則法 3)


一般法と特別法[編集]

日本の法律では、個人どうしの契約や貸し借りなどについては民法が扱う。いっぽう、商法は商事に関する契約や貸し借りなどを扱っている。つまり、商法と民法の対象は部分的に重なっている。

もし、同じことがらについて民法と商法とでは違った結果になる内容が書かれている場合、商事に関しては商法が適用される。

商法は適用対象が商事に限定されてる分、その適用対象(すなわち商事)に関しては商法が優先されるのである。

商事に関しては、民法は一般法というものに分類される。いっぽう商法は特別法というものに分類される。

そして、特別法と一般法に同じ規定があるとき、特別法は一般法に優先する。(「特別法優先主義」という。)

アパートを借りる時は一般法である民法の規定に対して、特別法である「借地借家法」(しゃくちしゃくやほう)の規定が優先する。

※ 範囲外: どの法律が特別法であるかはどうやって決まるのか?

ある法律Aがその分野の別のある法律Bに対して、一般法であるか特別法であるかは、どちらの法律の条文を読んでも書かれていない場合がほとんどである。たとえば、民法の条文を読んでも、民事保全法(みんじ ほぜんほう)や民事執行法(みんじ しっこうほう)との関係は民法には書かれてない。けっして、(次のような内容の条文は無い →)「この民法は、強制執行に関する特別法として民事執行法(みんじ しっこうほう)および民事保全法(みんじ ほぜんほう)をもち、」(←このような条文は無い)とかなんて、いっさい書かれてないのである。

同様に、特別法の側の条文を読んでも、条文にはまったくその(特別法の側の)法律がどの一般法に対しての特別法であるかは、いっさい書かれていない場合が多い

実際に、民事執行法の条文の第1章の『総則』(そうそく)である第1条から第21条を読んでも、2017年の時点ではけっして(次のような条文は無い →)「この民事執行法は、一般法として民法をもつ」(←このような条文は無い)とかなんて、いっさい書かれてないのである。

なので、どの法律がある法律Aに対して特別法であるか一般法であるかは、覚える必要がある。しかし、丸暗記をする必要はなく、たいていは民事法の教科書を読めば、文脈から分かるようになっており、読んでいるうちに自然に覚えられるようになっている。

法学者たちが、ある法Cが別のある法Dについて、特別法か一般法かを、その学者たちの自己責任で決めている場合も多い。ある法律Cの内容や立法の過程などを参考に、その法律が別の法律Dに対して、特別法か一般法かを、法学者が決める事もある。今のところ、このような方法による(特別法か一般法かの)決め方でも、特に問題は起きていない。


(※ まとめ:) 民法の特別法となる法律として、主なものに、次のような法律(特別法)がある。

・ 民法の特別法のうち、商事に関する特別法として、商法や会社法がある。
・ 民法の特別法のうち、民事裁判の手続きに関する特別法として、民事訴訟法(みんじ そしょうほう)がある。
・ 民法の特別法のうち、民事での強制執行のありかたに関する特別法として、民事執行法(みんじ しっこうほう)および民事保全法(みんじ ほぜんほう)がある。
・ 民法の特別法のうち、アパート契約などの借家・借地の契約に関する特別法として、借地借家法(しゃくち しゃくやほう)などがある。


強行法規と任意法規[編集]

法律といっても、当事者の意志が尊重される法律もあれば、尊重されない法律もある。

たとえば刑法などの処罰対象である犯罪では、加害者の意志は尊重されない。刑法のように、公の秩序に関する法律では、当事者の意志は尊重されない。

当事者の意志が尊重されない法律のことを強行法規(きょうこうほうき)という。つまり、刑法のような法律は強行法規である。

いっぽう、当事者の意志が尊重される法規のことを任意法規(にんい ほうき)という。

さて、民法でも、所有権などの物権(ぶっけん)、親族や家族に関する事柄は強行法規である。一方、民法でも売買など債権(さいけん)に関することがらは任意法規である。

公法と私法[編集]

  • 私人と私法

売買・貸借や、親子・夫婦などのように、個人・法人どうしの関係を規律する法律を私法(しほう)という。 民法や商法、会社法(かいしゃほう)、借地借家法(しゃくち しゃくやほう)などは、私法である。

なお、個人や法人をまとめて「私人」(しじん)と言う。この言葉を使うなら、「私法とは、私人どうしの関係を定めた法の総称である」ともいえる。あるいは、私人と別の私人のあいだのことを「私人間」(しじんかん)と言うので、「私法とは、私人間の関係を定めた法律」などとも言える。

民法は、私法全体の一般原則を定めた法律である[1]

※ 「私的自治の原則」が指導要領で範囲内になっている[2]


  • 公法

いっぽう、刑罰や納税などのように、国家・地方公共団体と、個人との関係を規律する法律を公法(こうほう)という。 憲法や刑法や公職選挙法、民事訴訟法や刑事訴訟法は、公法である。

労働基準法などは、私人間である、企業と被雇用者との関係の法律であるが、それに労働基準監督署などの公的機関が積極的に介入しているので、労働基準法などは公私混合法といわれる。

労働基準法などの労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法 の3つの法律のこと)、そのほか、独占禁止法などが、公私混合法である。

実体法と手続法[編集]

民事訴訟法は、民事訴訟(中学校で習った「民事裁判」のこと)の手続きについて定めた法律である。民事訴訟法そのものでは、どんな行為が民法に違反するかは、とくに定めていない。

同様に、刑事訴訟法は、刑事訴訟(中学校で習った「刑事裁判」のこと)の手続きについて定めた法律である。刑事訴訟法そのものでは、どんな行為が刑法に違反するかは、とくに定めていない。

民事訴訟法や刑事訴訟法などのように、裁判の手続きを定めた法律のことを手続法(てつづきほう)という。行政事件訴訟法、民事訴訟法、刑事訴訟法などが、手続法である。いっぽう、民法や刑法などのように、どんな権利や義務があるかを定めた法律は、実体法(じったいほう)という。

※ 「実定法」と「実体法」とは、意味が違います。(※ 「政治経済」科目で「実定法」を習う。) 政治思想では、生命の権利などの「自然法」という、人為によらず存在すべき基本的な法という概念があります。実定法とは、その自然法以外の法のことです。自然ではなく人間が定めた、という意味で、「実定法」と言います。(※ 清水書院の検定教科書で確認。)


なお、実際の法律では、 民事訴訟法や刑事訴訟法などの手続法の条文の中にも、裁判に関する権利、つまり上告や控訴などの権利が書かれていたりする。

実体法と手続法の関係については、たとえば法学書などでは「実体法が定めた権利・義務などを実現するための、裁判などの具体的な手続きを定めたのが手続法である。」のように説明されている場合が多い。(※ 検定教科書の東京法令出版『経済活動と法』も、このように実体法と手続法の関係を説明している。)(※ 三省堂『現代法入門』も、このように実体法と手続法の関係を説明している。)

範囲外?: 「六法」[編集]

(※ 検定教科書の図表中で、どの法律が「六法」なのかが紹介されています)

六法(ろっぽう)とは、日本国憲法刑法刑事訴訟法民法民事訴訟法商法という6つの法律のことです。

(※ 範囲外: )学校で習う「六法」の意味と、現実が違っています

現代では、「六法」とは、単に、「多くの法令、多くの法典」というぐらいの意味でしかない。

「四方八方」とか「四民平等」とかの「四」「八」などの数字と同じで、実情は「多く。たくさん」という意味で「六」を使っているだけにすぎない。

市販の書店または地域図書館などにある「六法全書」(ろっぽうぜんしょ)という書籍に収録されている法律も、普通は、けっして6個の法律だけではなく、数百個~数千もの法律が市販の「六法全書」に掲載されているのが普通である。さらに持ち運びやすいサイズに小型化した「小六法」(しょうろっぽう)と言われているものでも、書籍にもよるが、やはり数十個~百・二百個ていどの法律と、書籍編集者が重要と思った判例が「小六法」に掲載されている。

また、分野に関連する法律を集めた法律分野のことを「〇〇(←分野名)六法」という場合もおおい。たとえば、鉄道に関連する法律を集めた法律書なら「鉄道六法」(てつどうろっぽう)となるし、教育に関する法律を集めた法律書なら「教育六法」(きょういくろっぽう)となる。 書店などにある、教育六法などの「〇〇六法」とは、その分野の法律の条文の掲載を中心に、書籍によっては重要と思われる判例(はんれい)などを追加したものである。



(※ 範囲外: )また、現代では、この「六法」という分類には、実務的にも、あまり利点が無く、たとえば21世紀現代の「会社法」は、20世紀の昔は商法の一部だった。現代では、「商法」とは別に「会社法」がある。

また、現代の「民事保全法」の一部は、昔は「民事訴訟法」または最高裁判所の定める民事訴訟規則の一部だった。

このように、法の条文が法改正により別の法にたびたび移動しているので、あまり分類を鵜呑みにしないほうがいい。

範囲外?: 法の分野名など[編集]

範囲外?: 「民事法」と「刑事法」[編集]

法の分野名とその法律
分野名
憲法 日本国憲法
行政法 内閣法
刑事法 刑法、軽犯罪法など
民事法 民法、商法など
労働法 労働基準法、労働組合法など
社会保障法 健康保険法、国民年金法など
経済法 独占禁止法など
(※ 検定教科書の図表中に「民事法」と「刑事法」の用語を紹介している検定教科書があります。第一学習社の「政治経済」科目の検定教科書(平成24年検定版)で、「民事法」とか「刑事法」などの用語が、分類表に書かれています。)
(※ 検定教科書では用語の意味の解説はなく、用語の名称の紹介のみです。以下の解説はwikibooks執筆者の考えた内容ですので、もしかしたら間違っているかもしれません。)

「刑事法」とは、刑法や軽犯罪法や破壊活動防止法や刑事訴訟法などのように、主に警察関係の仕事の人が、関わることになる法律について総称した分野名です。

※ 第一学習社の教科書では、刑事訴訟法を「刑事法」からは外していますが(刑法・軽犯罪法が実体法である一方で、刑事訴訟法が手続法であるので、刑事訴訟法を刑法・軽犯罪法とは分類表内の別々の箇所で紹介しているため、第一学習社の教科書では刑事訴訟法が「刑事法」から外されている。)、しかし一般的には、刑事訴訟法を「刑事法」に含める場合も、あると思います。


いっぽう、「民事法」とは、民法や民事訴訟法などのような、民間人の人が、主に関わることになる法律についての分野名です。商法や会社法などを「民事法」に含める場合も、多くあります。

※ 検定教科書では、民事訴訟法を「民事法」には含めず、かわりに、民事訴訟法を「民事手続法」(※ 後述する。分野名です。)に分類しています。しかし一般的には、民事訴訟法を「民事法」に含める場合も、あると思います。

現実には、警察や検察だって、民法や会社法などを無視はできませんが、しかし分類上では「刑事法」には民法・商法・会社法などは含めません。


「刑事法」とは分野名にすぎないので、つまり「刑事法」という名前の1個の法律は、ありません(2017年の現在では)。

同様に「民事法」という名前の1個の法律も、ありません。


※ なお、山川出版社の教科書では、「刑事法」という用語の代わりに、「刑事実体法」(刑法・軽犯罪法)および「刑事手続法」(刑事訴訟法)という分野名で紹介している。「民事法」についても、山川出版社では、民事法のかわりに「民事実体法」(民法、借地法、商法など)および「民事手続法」(民事訴訟法)で紹介している。
※ 例えば、もし図書館や書店などに「民事法」というタイトルの法学書があれば、おそらく民法や民事訴訟法についての解説が書かれているわけです。同様に図書館などに「刑事法」という法学書があれば、おそらく刑法や刑事訴訟法についての解説が書かれているわけです。

範囲外?: 「行政法」、「労働法」、「経済法」など[編集]

(※ 山川出版社、第一学習社など、いくつかの「政治経済」検定教科書で図表中に「行政法」などの用語の記載を確認。)

「労働法」とは、労働基準法や労働組合法などの、労働関係の法律をまとめて呼ぶときの分野名です。

「社会保障法」とは、健康保険法や国民年金法など、社会保障関係の法律をまとめて呼ぶときの分野名です。

「経済法」とは、主に、独占禁止法などの法律をまとめた分野名です。

「行政法」とは、内閣法や国家公務員法など、主に公務員が中心的に関わる法律をまとめた分野名です。


実際には、行政機構や公務員は、日本のほぼ全ての法律に関わることになるでしょうが、しかし分類上では、「労働法」や「社会法」や「経済法」などに分類されるような法律は、「行政法」には含めません。

手続法の細かい分類[編集]

(※ 山川出版社、第一学習社など、いくつかの「政治経済」検定教科書で図表中に「民事手続法」「行政手続法」「刑事手続法」などの用語の記載を確認。)

手続法には、いろいろとありますが、それらは更に「民事手続法」および「行政手続法」および「刑事手続法」などに分類されます。


「民事手続法」とは、民事訴訟法のような法律をまとめた分野名です。

「行政手続法」とは、行政事件訴訟法などのような法律をまとめた分野名です。

※ 検定教科書では、「行政法」と「行政手続法」は、それぞれ別の分野として扱っています。つまり検定教科書では、行政事件訴訟法は、「行政法」には含めていません。

「刑事手続法」とは、刑事訴訟法などのような法律をまとめた分野名です。

  1. ^ NHK高校講座 公共『第7回 市民生活と私法』、放送日 7月10日、
  2. ^ 『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説』公民編