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高等学校政治経済/政治/憲法の基本原理

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

憲法とは

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概要

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憲法(ここでは、近代民主制におけるもの、いわゆる近代憲法を指す[1][2])とは、国家の統治権や統治作用に関する根本的な原則を定める基礎法であり、国家の自己決定権の根拠となる法体系をいう(日本語版ウィキペディア『憲法』における定義)。

歴史的には、「支配者(当初は国王)に対する支配権力の行使の法による制限」という意味で発展してきたものであり、最初の憲法的な法律とされ、現在でもイギリスにおいて有効である1215年に制定された「マグナ・カルタ(大憲章)」はその典型である[3]。このように、憲法が有効であるのは、「支配者」もまた「法の支配」を受けると言うコンセンサスの下であることに注意しなければならない。また、憲法と言われるものの役割は本来、支配者(国王、後には、政府など)の権力の行使(いわゆる「支配」、「統治」と言い換えても良い)に制約を加えることであって、被支配者である個人や私人による団体に、法規範として、制約を課したり、拘束することとは位相を異にする(国民の義務憲法の私人間効力外国人の権利参照)[4]

近代においては、憲法による国家体制の背景として、国家とはすなわち国民が構成するものであるという国民国家概念や主権は国民に存する国民主権概念が一般的になり、近代憲法とは民主憲法を意味すると言われる。

憲法の主要な構成

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近代憲法は、一般的に、政府他支配の構造を定める「統治機構」の部分と、被支配者(国民)が支配者(国家)からの侵害から守られるべき権利、すなわち「人権」を列挙した「権利章典」の部分から構成されている。また、これらに合わせて、憲法機能の保障について定めた「憲法の最高法規性」が定められた部分を有するのを特徴としている。

統治機構

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統治の仕組みを定める。近代憲法においては、「国民主権」の実現方法と権力の分立と牽制、特に立法・行政・司法の「三権分立」を基本原理とする。国民主権が統治に適正に反映される機構を通して、民主主義を実現し、人権を保障する。
その他、財政(納税、予算、決算・監査など)は憲法において重要なポイントになる。
また、防衛・軍事も行政権の行使等として位置付けられる。

権利章典

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統治において守られるべき人権を列挙する。
比較法的には人権のカタログと呼ばれる「権利章典」が明示的に憲法典内に記述されているとは限らない。人権の保障は、上述のとおり統治機構を通じてなされるものであり、また、人権の内容は時代と共に変わるものであり、成文典に記載されたもののみを人権と認めるのでは、新たな人権の確立や保護に対して消極的に働く危惧がある。例えば、現行のフランス憲法(1958年)やオーストラリア憲法は権利章典を欠いている。ただし、例えば、フランスの場合、1789年「人および市民の権利の宣言(フランス人権宣言)」が、フランス憲法の基本的人権の法源となっており、それ以降に確立した人権に関しては、憲法院の判例により、1789年宣言のみならず、1946年憲法前文や現行憲法の原則も憲法的価値を持つと認めており、これにより宣言に明記されていない新しい人権も憲法的保護の対象となっている。なお、最初の成文憲法とされるアメリカ合衆国憲法は当初権利章典に当たるものは制定しない予定であったが、最初に招集された連邦議会で修正条項として追加された。
近代市民革命当時意識された人権は、主に国家からの自由権であったが、現代に入り、社会権をはじめとして人権思想も多様化している。これらの新たな人権思想を取り入れた憲法[5]現代(型)憲法と呼ぶ場合もある。

憲法の最高法規性

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一般的に、憲法は国会による法律や政府の命令に対して優越する最高法規と定められている[6]
違憲審査制
憲法体制を維持するために、憲法や憲法の精神に反した法律や行政の命令を違憲により無効であると主に司法部門において宣言する機能を有する。
違憲審査の対象に選挙で選ばれた議会が定めた法律に及ぶべきかは、民主主義に対する各国の観点に関わる論点である。現代では、法律に対して違憲を宣言できる憲法制度が一般的であるが、その方法としては、米国をモデルとして日本などが採用する具体的な訴訟案件において一般の裁判所で判断する制度と、ドイツなどに見られる特別な憲法裁判所によるものが見られる。
改正手続き
最高法規として憲法は、法令に比べ安定性を求められ、また、民主憲法として法律同等の改正手続きでは民意の反映に関して不足するなどの理由で、厳格な改正手続きが一般に定められる。

比較法的な憲法の分類

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各国の憲法を比較することにより、各々の憲法の特徴を知ることができるが、多くは、立憲主義の始原とも言って良いイギリスの憲法体制の特殊性を認識する比較になっているので分類自体にこだわる必要はあまりない。

「国家の国民が定め『憲法典』という成文法にまとめられており、改正が法律に比べ難易度が高い」、すなわち、「民定憲法である成文憲法であり、硬性憲法という特徴を持つ」が一般的な現代憲法に対する理解となる。

憲法制定主体による分類

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憲法制定主体による分類で、国民が制定したとされるのを民定憲法で、君主が制定したとされるのを欽定憲法と呼ばれる。議会など国民が関与した憲法案に国王などが承認を与える、または、逆に国王の憲法案を議会などが承認して成立するものを協約憲法ともいう。明治憲法は欽定憲法で、日本国憲法は民定憲法であるとされる。しかし、明治憲法は改正にあたって国会両院各々2/3以上の出席したなかで、2/3以上の賛同を得ない場合改正できなかったし[7]、日本国憲法は欽定憲法とされる明治憲法の改正手続きによって成立している。いってみれば、成立時の経緯よりも施行後の改正手続きの関与が、実際の制定主体を決定しており、その意味からは、日本国憲法は間違いなく民定憲法であり、比較憲法的にも、この分類は歴史的な意味しかないと言える[8]

なお、制定主体が特殊な憲法にアメリカ合衆国憲法が挙げられる。アメリカ合衆国憲法の憲法修正案は連邦議会(上下両院)の3分の2の賛成、または州議会の3分の2の要請による憲法会議の発議によって提案され、その後、各州の4分の3以上の州議会または州憲法会議による批准によって成立する。批准の最終段階も州議会または州憲法会議によるものであり、直接的な全国民投票は規定されていない。これは、連邦政府は米国各州の代表であるという建前からの帰結であり、条約憲法と呼ばれる[9]

「憲法典」の存在/不存在による分類

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「憲法(または「基本法」など)」という名称の単一または同等の制定・改正手続きを要する法典(憲法典)が存在する場合、その法典を成文憲法という。一方、単一の憲法典が存在せず、国の統治機構や人権保障に関する法律や判例などの総体が憲法とされる場合を不文憲法という。

不文憲法の国の典型であるイギリスの憲法体制[6]を意識した分類と言ってよく、実際に国家の基本的な枠組みを、一般的に議会で制定される法律と同等の手続きで制定・改正できる国はごく少ない。例えば、憲法典がなく不文憲法の国に分類されるイスラエルには、改正手続きが厳格化された13の基本法が憲法的役割を負っており、それが憲法典と呼ばれていないだけであるとの見方もできる。

また、憲法典という名称にかかわらず、国家の仕組みなどを定めた規範(法令の他、判例や習慣)を広く「実質的意味の憲法」と呼び、特に憲法習慣[10]などは、憲法典に記載のないことで不文憲法と言って良い。また、上述のように「権利章典」が憲法典自体には含まれない場合も見られる。

憲法改正手続による分類

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憲法改正手続によって憲法の改正手続に法律改正手続よりも厳格な要件が付されている憲法を硬性憲法、これに対し法律と同様の手続で改正できる憲法を軟性憲法という。

これも、純粋な軟性憲法は、イギリス型の不文憲法しか当てはまらない。

一般には、国民投票や、議会で改正できる場合であっても定足数や賛成の割合などが通常の法律の成立より厳格化されているなど、硬軟に程度の差はあっても、憲法自身に厳しい改正手続きが決められている。なお、アメリカ合衆国憲法の場合、連邦法は連邦議会で可決され、大統領が署名することで成立するが、憲法修正(改正)の場合、上記のとおり、全州の4分の3以上の州議会または州憲法会議による批准を要する。

また、上述した「実質的意味の憲法」における、憲法典でないそれを補完する法令、判例、憲法習慣は、一般に、憲法典のような特別な改正手続きを要しないが、例えば、日本において憲法判例を変更するような重要な憲法判断を行う場合には、最高裁判所の大法廷(裁判官15名で構成)において審理される運用が取られている。

脚注

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  1. ^ 元々は、「憲」は「法」の同義語で、聖徳太子十七条の憲法に見られるように、単に「おきて」「さだめ」の意味であったが、英語やフランス語で国家の基本法を意味する"constitution"に「憲法」を当てたのは、1873年(明治6年)に箕作麟祥がフランス語の「Constitution」に「憲法」という訳語をあてたのが始まりとされている。当時は他にも「国憲」「根本律法」など様々な訳語が使われてたが、「憲法」という語が公的に定着したのは、1882年(明治15年)に伊藤博文に「憲法取調」の勅命が下された時期とされる。
    英語・フランス語の"constitution"("constitute"(設立する、構成する)の名詞形)は、「秩序、規則、取り決め」などを意味するラテン語"cōnstitūtiō", "cōnstitūtiōnem"("cōnstitio"(設立する、構成する)の名詞形; "cōnstitio"は、"con-"(ともに) + "statuō"(立てる、"stand","status"などと同語源))を中世に借用したもので、元々は「勅令,布告」などの意味であったが、1730年代から「国家の組織原理や統治の基本法」を指す意味で使われ始め法学者ウィリアム・ブラックストンが用法を定着させ、北アメリカ植民地では各州の基本法の名称に採用され、1787年にはアメリカ合衆国憲法が成立した。また、フランスでも1789年のフランス革命および1791年の最初のフランス憲法制定を通じて、「constitution」が国家の基本法を意味する語として広く認識されるようになった。
  2. ^ 比較法的には、「憲法」("constitution")に代えて、「基本法」("basic law", "fundamental law")などの語を用いる場合もある。典型例は、現代ドイツの憲法である「ドイツ連邦共和国基本法(Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland)」である。
  3. ^ ただし、マグナ・カルタが制定以来継続して有効だったわけではなく、イギリスの憲法体系に組み込まれるのは、17世紀のイングランドにおいて国王と議会が対立した時期にエドワード・コークら法学者・裁判官によって、コモン・ローの法源として「発見」され、市民革命で体制の根拠となった後になる。
  4. ^ ここで、「位相を異にする」という曖昧な表現をとっている意図は、憲法において、国民の果たすべき義務を記述する例や、私人間において憲法的な権利関係が意識されることは、事実としてあるため、これらを憲法論から全く除外するのは適当ではないというものである。しかしながら、一般的な憲法論において、一方の当事者は国民であって、他方の当事者は国家であり、その国家を覊束するのが憲法であると考えて良い。
  5. ^ ワイマール共和国憲法がその嚆矢とされる。
  6. ^ 6.0 6.1 イギリスには、「憲法典」のような法律に優越する法体系がないので、議会によって成立した法律を、過去の法律に照らして無効にする制度はない。
  7. ^ この点、協約憲法的な性質が見られる。ただし、議会側からの改正は提案できなかった。
  8. ^ 君主が、国民の意思を汲まずに憲法を扱える、すなわち、人権は君主の恩恵である(啓蒙専制主義的な思想)とするのであれば、近代憲法が成立する立憲主義の社会とは言い難い。
  9. ^ 米国大統領も同様で各州の代表という建前になっている。そのため、大統領選挙において票差に関わらず州単位の選挙人(人口比例)を総取りするという事態が発生し、当選者と米国全体の投票数が逆転するという事態が発生しうる(例.2000年大統領選挙2006年大統領選挙)。
  10. ^ 日本国憲法においては、憲法第3条(内閣の助言と承認)による憲法第7条第3号に定める天皇の国事行為として実質内閣総理大臣が衆議院を解散することができることなど。