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高等学校政治経済/政治/日本の選挙制度

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

選挙制度の概要

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選挙の基本原則

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近代以降の選挙制度においては、民主的な選挙が遂行される必要がある。そのために、以下の4つの原則がある。

①普通選挙

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一定の年齢に達すれば、全ての国民に選挙権、被選挙権を与える選挙制度。反意語は制限選挙

②平等選挙

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ある一人の投票の価値をすべて平等に取り扱う選挙制度。反意語は等級選挙。

③秘密選挙

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誰が誰に投票したかを秘密にする選挙方法。反意語は公開選挙。

④直接選挙

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直接代表者を選ぶ選挙制度。反意語は間接選挙。


選挙制度の種類とその特徴

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大きく2つに分けることができる。選挙区代表制度と比例代表制度である。また、選挙区代表制度は、大きく小選挙区制度大選挙区制度に分けることができる。

選挙区制度

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代表者を選出するための区域を選挙区といい、それに基づいて当選者を選出する方法を選挙区制度と呼ぶ。例えば、東京都を人口等により30に区分し、その区域内で選挙を行う。選挙区制度は、大きく小選挙区と大選挙区に分けられる。

小選挙区制度
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1つの選挙区から1人が当選する選挙制度。日本においては衆議院がこの制度を採用している。一つの選挙区から1人しか当選しないので、選挙区自体は比較的狭くなる。

選挙区が比較的狭いので、選挙費用が安くすむ点が、メリットとしてあげられる。日本の選挙改革の際に小選挙区制度が代替案に上がったのはこのメリットを重視したためである。詳しくは日本の政党政治を参照のこと。

また、小選挙区制度では1人しか当選することができず、2位以下は落選するため、トップを取ることができる政党、すなわち大政党(自民党など)が当選しやすく政権が安定することもメリットとして挙げられる。

ただし、この点については、少数政党の意見が国会に反映されにくいというデメリットと表裏一体である。

この時問題となるのは、他の制度と比較して死票が多くなる傾向があるという点である。死票とは、落選者に投じられた票のことである。選挙という形態のため、死票は必ず生まれてしまうが、ただの多数決ではなく、民主主義にのっとって考えた場合、死票はできる限り少なくすることが望ましい。

大選挙区制度
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1つの選挙区から2人以上が当選する選挙制度。日本においては参議院がこの制度を採用している。一つの選挙区から2人以上当選するので、選挙区は比較的広い。

原理上2位でも当選することができるので、少数政党でも当選することが期待できる。また、死票が他の制度と比較して少ないことがメリットとしてあげられる。

一方で、政権運営が難しくなったり、選挙区が比較的広いので、選挙にかかる費用は高くなってしまうというデメリットもある。

制度の比較
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選挙制度の長所と短所
小選挙区 大選挙区
当選人 1人 2人以上
メリット 政権が安定する、選挙費用が安くすむ 死票が多くなる、少数政党の意見が反映されにくい
デメリット 死票が少ない、少数政党の意見が反映されやすい 政権が不安定になる、選挙費用が高くなる

比例代表制度

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比例代表制度とは、各政党が獲得した投票数に比例して候補者に議席を配分する選挙制度である。多くの場合、選挙区代表制度と比例代表制度を組み合わせた選挙制度になっている。

この制度の主語は政党であるから、基本的に有権者は政党に投票し、政党は、その得票数に応じて議席を獲得する。議席の分配方法については、日本においてはドント式を採用している。

ドント式
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ドント式とは、比例代表制において政党の獲得議席を割り出すため計算方法のことである。各政党の総得票数を自然数で割り、その商の大きい順に当選する。具体的には、以下の表を参照のこと。

ドント式例(定数7のとき)
X党 Y党 Z党
総得票数 1500 1200 900
÷1 1500① 1200② 900③
÷2 750④ 600⑤ 450⑦
÷3 500⑥ 400 300
当選人数 3人 2人 2人

上のように、自然数で割っていくと、多い順に、A党÷1、B党÷1、C党÷1、A党÷2、B党÷2、A党÷3・・・と続いていく。なお、この表では省略しているが、「定数まで自然数で割る」としている教科書もある。

日本の選挙制度

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ここでは、日本の国政選挙における選挙制度を学習していく。地方自治における選挙制度については、地方自治の頁を確認してほしい(未執筆)。なお、選挙制度に関しては、公職選挙法が根拠法となっている。

衆議院の選挙制度

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衆議院では、小選挙区比例代表並立制を採用している。その名の通り、小選挙区制と比例代表制を組み合わせる選挙制度である。 まず、有権者には2枚の投票用紙が配られる。小選挙区用の投票用紙と、比例代表用の投票用紙である。それぞれに分けて解説する。

小選挙区

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小選挙区では、各選挙区で立候補した候補者名を書いて投票する。小選挙区制であるから、前述のように、得票数1位の候補のみが当選することとなる。なお、小選挙区のみの立候補もできるが、小選挙区と比例代表の双方に立候補することも可能。双方に立候補することを重複立候補という。

比例代表

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比例代表では、政党名のみを書いて投票する。個人名を書いた場合は無効票の扱いとなる。当選者は、政党があらかじめ候補者名簿を作成し、その名簿順位順に当選する。この方法を、拘束名簿式比例代表制という。比例代表のみに立候補することも可能。

取り扱い

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名簿は、以下のような形となっている。

X党立候補者名簿
順位 氏名 惜敗率 当選順
A 比例単独 1番目
B 小選挙区当選
C 90% 3番目
D 98% 2番目
E 小選挙区当選
F 比例単独 4番目

X党の比例獲得議席が2議席だったとしよう。この時当選するのは、 まず名簿順1位のA であるが、次に当選するのは誰だろうか。名簿順2位のBは小選挙区で当選しているため比例代表では当選しない。名簿順3位はは、C、D、Eの3人いる。Eは小選挙区で当選しているため除外。C、Dのうち、同時に行われた小選挙区の、当該選挙区における最多得票数に対する当該候補者の得票数の割合(惜敗率)が高い方が当選者となる。

例えば、Cは小選挙区において90万票を獲得したが、当選者は100万票を獲得していたとする。この時の惜敗率は90%である。一方でDは、98万票を獲得したが、当選者は100万票を獲得していた。この時の惜敗率は98%である。よって、惜敗率がより高いDが当選することになる。

近年の動向

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若者の政治的無関心(後述)の改善のため、2015年6月に公職選挙法が改正されたことに伴い、2016年6月から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた(18歳選挙権)。

一票の格差(後述)の是正のため、2022年に公職選挙法が改正されたことに伴い、次回衆議院選挙(第50回)から、小選挙区の定数は10増10減(東京で5増、神奈川で2増、埼玉、愛知、千葉で1増。広島、宮城、新潟、福島、岡山、滋賀、山口、愛媛、長崎、和歌山で1減)、比例代表は3増3減(東京ブロックで2増、南関東ブロックで1増。東北、北陸信越、中国ブロックで1減)となる。この際に使用された定数配分の計算方法をアダムズ方式という。

参議院の選挙制度

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参議院においても、選挙区制と、比例代表制を組み合わせる選挙制度となっている。有権者には2枚の投票用紙が配られる。選挙区用の投票用紙と、比例代表用の投票用紙である。それぞれに分けて解説する。

選挙区

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選挙区では、原則として都道府県を一つの選挙区としている。各選挙区で立候補した候補者名を書いて投票する。選挙区制であるから、2名以上が当選する。例えば、東京選挙区の当選人数(定数)は12名である。 一方で、参議院の場合、1度の選挙で半数を選挙する形式となっているので、一度の選挙で選ばれる改選議席は6となる。同様に、例えば青森選挙区は定数2名であるが、改選議席は1となる。このような選挙区を一人区と呼ぶこともある。

なお、選挙区と比例代表の双方に立候補することはできない

比例代表

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参議院の比例代表では、政党名あるいは個人名を書いて投票する。衆議院のように政党が、当選順を記した名簿を作成するのではなく、比例代表に立候補する候補者のみの名簿(順位は記さない)を作成する。その上で、以下のように当選者を決定する。

まず、政党名で書かれた票と、その政党に所属する個人名票を合算し、合計を政党が獲得した票とする。その上で、ドント式によって獲得議席を割り出す。当選順は、個人名票が多い順に当選する。この方法を、非拘束名簿式比例代表制という。

取り扱い
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X党比例名簿
候補者 得票数 当選順位
A 50万票 1位
B 10万票 3位
C 30万票 2位
X党 20万票

例えば、X党は以下のように得票したとする。この時のX党の合計得票数は、50万+10万+30万+20万で110万票となる。

これをドント式により議席を割り出し、X党の獲得議席は2議席となったとする。この時当選するのは、個人名票がより多いAとCとなり、Bは落選する。

近年の動向

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2016年の参議院議員通常選挙より一票の格差是正のため(後述)、徳島県・高知県ならびに鳥取県・島根県の2つの合同選挙区(いわゆる合区)が設置された。一度の選挙で「徳島県・高知県」という選挙区から一人の当選者を選出するという制度である(鳥取県・島根県も同様)。

これにより、各県の代表を一人も参議院に選出することができなくなる可能性が生じ、実際に鳥取県ではそうした事態が起こった。

よって、優先的に当選人となるべき候補者を当選させるため、2019年の参議院通常選挙より、参議院比例区においても、優先的に当選させたい候補を上位に指定する拘束名簿式の要素を加えた。これを特定枠という。なお、特定枠の人数に制限はない。

選挙をめぐる問題

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本稿では、選挙における近年の問題を記述する。

一票の格差の問題

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一票の格差とは、同一の選挙において、選挙区ごとの有権者数が異なることから、1票の価値が異なるという問題である。

例えば、A選挙区では、有権者が10万人いるのにたいし、B選挙区では有権者が100万人いるとする。どちらも当選者が1名だった場合、A選挙区における有権者票の価値を1とすれば、B選挙区におけるそれは0.1となってしまう。これは平等選挙の原則に反しているため、是正が必要なのである。

過去、衆議院では裁判所が2度、違憲判決を出した例がある(1972年、1983年の総選挙)。ただし、選挙結果は有効としている(これを事情判決という)。その一方で、参議院では違憲状態であるとする判決は出ているものの、違憲判決は出ていない

政治とカネの問題

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2024年においても、政治家とカネの問題が生じている。このような問題は、実は今に始まった問題ではない。詳しくは日本の政党政治で解説しているが、特に55年体制以降、自民党の政治は、金によって政治が動かされるという金権政治の面が大きかった。

これを受けて非自民政権である細川内閣は政治改革に着手し、政治改革四法とよばれる政治改革法案を成立させた。それぞれを簡単にみていこう。

①公職選挙法の改正

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以前までの中選挙区制(1選挙区に2〜4人が当選する。大選挙区制と同義であるが、日本独自の選挙区制度ということで、中選挙区制と呼ばれた)から、小選挙区比例代表並立制へと変更された。また、選挙運動の際に買収行為があった場合、その候補者がそれを知らない場合でも処罰の対象となる連座制が強化された。

②衆議院議員選挙区画定審議会設置法

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一票の格差の是正のため、小選挙区の区分けを審議する、衆議院議員選挙区画定審議会という審議会が設置された。

③政治資金規正法の改正

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政治家個人への政治資金の寄付を、個人、企業・団体問わず原則禁止とした。ただし、企業・団体から、政党や、政治資金団体への寄付制限はない。このように、政治資金規正法は、政治資金の規制(禁止)ではなくあくまで規正(ただす)目的を持つものである。

④政党助成法

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政治献金などは、一部の個人・団体から資金を寄付される。寄付を受けた政治家は、その人・団体の政治のためを行うと予想できる。

政治は国民全体のものであるという考え方から、国民全員から政治資金を平等に徴収し、それを政治資金とする旨を定めたのが政党助成法である。国会議員が5名以上いるか、国会議員が1名以上かつ、直近の選挙で2%以上の得票率を得た政党に対し、政党交付金(国民一人当たり250円とされる)が支払われている。

投票率の低下の問題

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直近の衆議院選挙である第49回衆議院議員総選挙(R3年10月)の投票率は 約56%であった。また、令和4年7月に行われた第26回参議院議員通常選挙では約52%となっている(国政選挙の投票率)。このように、約半数が投票をしておらず、問題となっている。 さらに、国政選挙の年代別投票率は、第49回衆議院議員総選挙では、10歳代が43.23%、20歳代が36.50%、第26回参議院議員通常選挙では、10歳代が35.42%、20歳代が33.99%、30歳代が44.80%である(国政選挙の年代別投票率)。このように、若者の投票率が低いという点も問題となっている。なお、一般に、高齢者ほど投票率が高いため、高齢者に有利な政策が実現しやすいといわれている(シルバーデモクラシー)。

このような問題を解決するため、各政党は政策目標であるマニフェスト(選挙公約)を公表していたり、インターネットでの選挙運動の解禁(2013年)などを行なっているが、効果が出ているとは言い難い。

そもそも、投票率が低い理由の一つには、政治的無関心があるとされる。有権者の政党への期待感が薄まり、政党支持がない層(無党派層)が急増しており、政党や政治への信頼の回復は急務である。