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高等学校政治経済/日本国憲法と人権保障

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

基本的人権の尊重

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基本的人権の性格

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日本国憲法は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」(第11条・第97条)として保障している。これは、人間が生まれながらにして持つ固有の権利(自然権・天賦人権)を承認したものである。 第13条(個人の尊重と幸福追求権)は、すべての人権規定の基盤であり、後述する「新しい人権」の包括的な根拠条文となっている。

公共の福祉による制約

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人権は無制限に認められるものではなく、「公共の福祉」(社会全体の共通の利益、他者の人権との調整原理)による合理的な制約を受ける(第12条・第13条)。

  • 自由権の制約: 主に他者の人権を侵害しないための消極的制限。
  • 社会権・経済活動の自由の制約: 経済的弱者の保護や社会秩序の維持を目的とした積極的制限。

法の下の平等(平等権)

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憲法第14条第1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、貴族制度の禁止(2項)や栄典の特権否認(3項)を定めている。

主な判例

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  • 尊属殺重罰規定違憲判決(1973年): 直系尊属に対する殺人罪の法定刑を死刑と無期懲役のみに限定していた刑法第200条について、最高裁は尊属を重く罰すること自体は合憲としつつも、刑罰の格差があまりに著しく不合理であるとして法の下の平等に反し違憲と判断した(後に同規定は削除)。
  • 議員定数不均衡訴訟(一票の格差): 選挙区ごとの人口比率と議員定数の不均衡について、最高裁は投票価値の不平等が「不合理な程度」に達し「合理的期間内に是正されない」場合に違憲と判断する基準を示した。違憲と判断した場合でも、選挙を無効とせず事情を考慮して違憲状態の宣言にとどめる事情判決の法理が用いられる。
  • 婚外子(非嫡出子)相続分差別違憲決定(2013年): 民法の規定(嫡出子の半分)を法の下の平等の観点から違憲と判断し、法改正により同等の相続分に是正された。

自由権(国家からの自由)

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精神の自由

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  • 思想・良心の自由(第19条): 個人の内心における思考や信仰の自由。国家が特定の思想を強制したり不利益を科すことを禁じる。
    • 三菱樹脂事件(1973年最高裁判決): 憲法の人権規定は私人間(民間企業と個人など)に直接適用されないが、民法第90条(公序良俗)などを通じて間接的に適用されるとする間接適用説を示した。
  • 信教の自由と政教分離(第20条・第89条): 信仰の自由とともに、国家と宗教の結びつきを断つ政教分離の原則を定める。
    • 津地鎮祭訴訟(1977年): 公金支出の合憲性を判断する基準として「目的・効果基準」(宗教的意義を持ち援助・圧迫の効果があるか)を示し、地鎮祭は世俗的な慣習であるとして合憲とした。
    • 愛媛玉串料訴訟(1997年): 県による靖国神社等への玉串料公金支出を違憲と判断した。
    • 砂川市政教分離訴訟(空知太神社訴訟、2010年): 市有地を神社用地として無償提供した行為を違憲と判断した。
  • 表現の自由(第21条): 集会・結社・言論・出版の自由を保障し、検閲の禁止通信の秘密を明記している。
    • チャタレー事件(1957年): わいせつ文書の規制は公共の福祉に基づく制限として合憲と判断した。
    • 家永教科書検定訴訟: 文部科学省による教科書検定は、行政による事前審査・禁止ではないため検閲には当たらないとして合憲と判断した。
  • 学問の自由(第23条): 研究・発表・教授の自由と大学の自治を保障。
    • ポポロ事件(1963年): 大学の自治は主に教授団の研究・教育活動を守るものであり、学生の実社会的な政治活動には及ばないとした。

身体の自由

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刑事手続における適正手続(デュー・プロセス・オブ・ロー)を保障する。

  • 奴隷的拘束・意に反する苦役の禁止(第18条): 徴兵制の禁止の根拠。
  • 法定手続の保障(第31条)および罪刑法定主義
  • 令状主義(第33条・第35条): 現行犯逮捕等を除き、裁判官の発する令状が必要。
  • 拷問および残虐な刑罰の禁止(第36条): 最高裁は死刑制度自体は残虐な刑罰に当たらないと判断している。
  • 被告人・被疑者の権利(第37条・第38条): 迅速な公開裁判を受ける権利、弁護人依頼権、黙秘権、不当な自白の証拠能力排除。
  • 一事不再理・遡及処罰の禁止(第39条)

経済の自由

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  • 居住・移転および職業選択の自由(第22条第1項)
  • 外国移住・国籍離脱の自由(第22条第2項)
  • 財産権の保障(第29条): 所有権の義務性に基づき公共の福祉による強い制約を受ける。
  • 二重の基準の原則: 精神的自由権の侵害は民主政治の根幹を損なうため厳格に審査される一方、経済的自由権に対する規制は政策的判断を尊重し緩やかに審査される。
    • 薬事法距離制限違憲判決(1975年): 薬局開設の距離制限規定を職業選択(営業)の自由の侵害として違憲と判断した。
    • 森林法共有林分割制限違憲判決(1987年): 共有林の分割請求権を制限する規定を財産権の不当な侵害として違憲と判断した。

社会権(国家による自由)

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20世紀以降、貧困や格差を是正し人間らしい生活を確保するために成立した権利。

生存権(第25条)

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「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障。

  • 朝日訴訟(1967年)堀木訴訟(1982年): 第25条は国に対する政治的・道義的責務(努力目標)を宣言したものであり、国民に直接具体的な権利を付与したものではないとするプログラム規定説をとり、国の裁量を広く認めた。

教育を受ける権利・勤労権・労働三権

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  • 教育を受ける権利(第26条): 能力に応じた教育を受ける権利と、保護する子女に普通教育を受けさせる義務(義務教育の無償)。
  • 勤労の権利(第27条): 勤労の機会を得る権利と、児童酷使の禁止・勤労条件の基準明記。
  • 労働三権(第28条): 団結権(労働組合を結成する権利)、団体交渉権(使用者と交渉する権利)、団体行動権(ストライキ等を行う権利)。
    • 公務員の労働基本権制限: 全農林警職法事件(1973年)などにより、全体の奉仕者としての公共性や勤務条件が法定されていることを理由に、公務員の争議行為禁止は合憲とされている。

新しい人権

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憲法制定後に生じた社会環境の変化(情報化、公害、医療技術の進歩等)に伴い、憲法第13条などを根拠に主張されている権利。

  • 環境権: 良好な環境を享受・保全する権利(環境影響評価法が整備されたが、憲法上の権利として最高裁は認めていない)。
  • プライバシーの権利: 私生活をみだりに公開されない権利から、自分の個人情報を管理・訂正する「自己情報コントロール権」へ発展(個人情報保護関連法などが整備)。
    • 「宴のあと」事件(東京地裁)、「石に泳ぐ魚」事件(最高裁)で侵害に対する賠償・出版差止めが認められた。
  • 知る権利: 主権者として国政の情報を得る権利(情報公開法が制定)。
  • アクセス権(反論権): マスメディアに意見表明の場を求める権利。
  • 自己決定権: 個人の人格的生存に関わる重要事項(治療法の選択、インフォームド・コンセントなど)を自ら決定する権利。

参政権と請求権(人権を確保するための権利)

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  • 参政権(国家への自由): 国民が主権者として政治に参加する権利。
    • 公務員選定罷免権(第15条)、国政選挙権・被選挙権(第44条)、最高裁判所裁判官の国民審査(第79条)、地方特別法の住民投票(第95条)、憲法改正の国民投票(第96条)。
  • 国務請求権(受益権): 人権が侵害された際に救済を求める権利。
    • 請願権(第16条)、裁判を受ける権利(第32条)、国家賠償請求権(第17条)、刑事補償請求権(第40条)。

国民の三大義務

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日本国憲法が国民に課している義務は以下の3つである。

  1. 子どもに普通教育を受けさせる義務(第26条第2項)
  2. 勤労の義務(第27条第1項)
  3. 納税の義務(第30条)

参考文献

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  • 文部科学省検定済教科書『高等学校 政治・経済』各社版
  • 芦部信喜『憲法 第八版』岩波書店、2023年。

脚注

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