高等学校政治経済/経済/経済成長と景気変動

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フローとストック[編集]

国内総生産(GDP)や国民総生産(GNP)では、市場(労働市場も含む)で商取引していないものの価値は、測れないのである。

人間関係とか人脈とかの価値は、一般に、GDP・GNPなどでは測れない。親子愛とか家族愛とかも、GDPなどでは測りづらい。また、ボランティアの価値も、GDPなどでは、測りづらい。家事労働や家庭菜園などの価値も、GDPなどでは測れない。

家事労働は、確実に労働であるが、しかし市場化してないのでGDP・GNPでは家事労働のぶんを算出できないのである。

また、土地の価値も、その年はその土地を保有し続けて、土地を売買してなければ、土地の価値もGDPなどでは測りづらい。

人間関係とか家族愛とかを数値的に算出するのは困難であるし、じっさいに経済学的には算出されていない。

しかし、土地の価値を経済的に算出することは、不動産市場などでの土地価格などを参考にすればよいので、経済学的には、土地の価格の算出は比較的簡単である。

GDPのように、その期間の商取引によって測れる経済価値をフロー(flow)という。「フロー」とは「流れ」という意味。 一方、土地の価格のように、その期間は商取引されてなくても、明らかに経済的価値が存在してる資産の経済価値をストック(stock)という。ストックとは、「蓄え」(たくわえ)という意味。

工場設備などの生産設備も、ストックとして見なされる。

また、ある国の保有する土地、道路、設備など、その国のストックを国富(こくふ、national wealth[1])という。

国民の所得[編集]

国内総生産(GDP)[編集]

国内総生産GDP)は、一国内で一定期間(通常は1年)内に生産された総生産額(サービス業なども含む精算額)から、原材料費や半製品(はんせいひん)などの中間投入額(中間生産物の価額)を差し引いて算出されたものである。

海外にいる日本国民の生産労働の価額は、日本のGDPには含まれない。なぜなら、海外は「国内」ではないから。 また、日本国内にいる外国人の生産労働の価額は、日本のGDPに含まれる。

国民総生産(GNP)[編集]

国民総生産(GNP)は、ある一国の国民全員の、一定期間(通常は1年)内に生産された総生産額(サービス業なども含む精算額)から、原材料費や半製品(はんせいひん)などの中間投入額(中間生産物の価額)を差し引いて算出されたものである。

海外にいる日本国民の生産労働の価額も、日本のGNPに含まれる。 一方、国内にいる外国人の労働の価額は、GNPに含まれない。

国民純生産[編集]

機械設備など設備は、しだいに老朽化していく。しかし、その設備を売買しないかぎり、GDPやGNPには計上されない。

GDP・GNPだけだと、老朽化した設備による損失を考えておらず、一国の経済力を過剰に算出してしまい、不合理である。 なので、老朽化した設備の、老朽のていどの価額を、差し引く必要がある。

機械設備など設備のことを「固定資本」という。そして、設備の老朽化の価額を、固定資本減耗(こていしほん げんもう)または減価償却費(げんかしょうきゃくひ)という。

国民総所得(GNP)から固定資本減耗を差し引いたものを、国民純生産(NNP, net national product)という。

(国民純生産)=(国民総所得)ー(固定資本減耗)

同様に、国内総所得(GDP)から固定資本減耗を差し引いたものを国内純生産(NDP, net domestic product)という。

国民所得[編集]

国民所得NI, national income)は、国民純生産から間接税を引き、国民への補助金を加える。

(国民所得)=(国民純生産)ー(間接税)+(補助金)

国民所得には、生産国民所得、分配国民所得、支出国民所得という三つの面がある。これら3つの面は、同じ対象を、ことなった側面から見ただけにすぎない。


第一次産業による国民所得、第二次産業による国民所得、第三次産業による国民所得の合計が、生産国民所得である(話を簡単化するため、海外所得は考えないでおく)。

雇用者報酬、財産所得、企業所得の3つの合計が、分配国民所得である。

経常海外余剰、消費、投資の3つの合計が、支出国民所得である。

国民所得の計算のおおもとに必要なのはGDPであった。GDPは、産業分類の立場から計算しようが、国内の労働者の給料の合計から計算しようが、企業など日本中の組織からの出入りの金額の合計から計算しようが、結果的にGDPの計算結果は同じである。

なので、国民所得も、

(国民所得)=(生産国民所得)=(分配国民所得)=(支出国民所得)

である(この等式を三面等価の原則という)。

経済成長率[編集]

ある期間での経済規模の拡大の大きさのことを経済成長という。 経済成長の計り方は、通常、国内総生産(GDP)を経済成長と見なす。

そして、国内総生産(GDP)の一定期間(通常は1年)での変動率を経済成長率という。 つまり、経済成長率とは、次の式によって定義(ていぎ)される。

(経済成長率)

なお、上の式で、

G1とは、ある年の国内総生産だと置いた。
G0とは、基準年の国内総生産だと置いた。

さて、もしインフレによって物価が年率10%上昇すれば、何の生産ノウハウの改善が無くても、経済成長率が10%上昇してしまう事になりかねない。それでは「経済成長」としては不合理なので、経済成長率の算出のさい、物価の変動分は修正する必要がある。

そこで、経済成長の計算でGDPを使うさい、物価の上昇ぶんを差し引いた実質GDPを用いる。 実質GDPを用いて、実質経済成長率を計算する。

一方、物価変動ぶんを考慮しないで単純計算で算出しただけのGDPを「名目GDP」(めいもくジーディーピー)といい、物価変動を考慮せずに名目GDPで算出しただけの経済成長率(単純計算で算出しただけの経済成長率)を「名目経済成長率」という。

名目GDPと実質GDPの比率をGDPデフレーターという(※ 検定教科書の範囲内。第一学習者の教科書に記述あり)。通常、

実質GDP=(名目GDP / GDPデフレーター)×100

で、これらの関係式は定義される(※「/」は分数。「分子/分母」の意味)。 係数の「100」は、基準値を100とするため。

(※ 範囲外: )「GDPデフレーター」と「消費者物価指数」の違いとして、「消費者物価指数」では算出の際に使う銘柄が多くの一般家庭がよく使う銘柄に限られているという違いがある[2]。つまり、企業しか購入しないような銘柄の影響は、消費者物価指数には直接的には含まれない(企業の物価については、別途、「企業物価指数」という指標が存在している)。このため、GDPデフレーターと消費者物価指数はおおむね連動するものの、それぞれの指標は増減のタイミングや増減幅などに若干の違いがある[3]
なお「消費者物価指数」は中学高校におけるインフレ・デフレなど物価の単元では普通に紹介される用語である。


GDPに福祉・環境を追加する試み[編集]

(山川出版の検定教科書に、これらの記述あり)

GDPでは家事労働やら家族愛やらボランティアなどを測れない。

そこで、家事労働をプラス要因として、環境汚染などをマイナス要因として、GDPに加えて「国民純福祉」(net national welfare)なるものが考えられているが、具体的な金額の算出が困難であり、定着していない。

同様に、GDPまたはGNPから、公害など環境汚染などの費用を差し引いたものとして「グリーンGDP」などが考えられてるが、算出が困難なため、定着していない。

景気の循環[編集]

景気循環は需給の不均衡によって起こる。景気変動には、好況、後退、不況、回復という四つの局面がある。 景気循環のパターンとして、つぎの4種類の循環が有名である。以下のそれぞれの循環パターンは、循環の年月の長さが異なる。


  • キチン循環

周期が約40ヶ月、企業の在庫投資の変動が原因

  • ジュグラー循環

周期が7年〜10年、企業の設備投資の変動が原因


  • クズネッツ循環

15年〜25年ていど、建築投資の変動が原因


  • コンドラチェフ循環

50年〜60年ていど、大規模な技術革新による循環


このうち、とくに企業の設備投資の影響が、景気への影響が大きいので、つまりジュグラー循環は景気への影響が大きい。

  1. ^ 塩澤修平『経済学・入門』、有斐閣、2021年、4月30日 第3版 第5刷 発行、P208
  2. ^ 平口良司・稲葉大 著『マクロ経済学』、有斐閣、2020年7月30日 新版 第2刷 発行、P.56
  3. ^ 平口良司・稲葉大 著『マクロ経済学』、有斐閣、2020年7月30日 新版 第2刷 発行、P.56