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高等学校数学C/ベクトル

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』

理科において、力は大きさと向きを持つ量であると習っただろう。大きさと向きを持つ量は、力の他にも、速度や風の吹き方などがある。

例えば、ある地点ある時刻における風の吹き方は、風速と風向から成り立つ。このように、大きさと向きを持つ量を導入すると、これらを効率よく扱える。

このページでは、大きさと向きを持つ量であるベクトルを扱う。

また、図形の問題に対して代数的なアプローチを取れるのもベクトルの利点の一つである。

大学では、ベクトルを拡張した行列とともに、線形代数学という分野でより一般に扱うことになる。

本項の学習後、同じく数学Cの数学的な表現の工夫も参照されたし。ベクトルの回転移動などについて取り扱っている。

平面上のベクトル

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平面上の点 から点 へ向かう矢印を考える。このような矢印のように向きを持つ線分を有向線分という。

このとき、点 始点、点 終点という。

有向線分で、大きさと方向が同じものはベクトルとして同じものとする。

有向線分は位置、長さ(大きさ)、向きという情報を持つ。ベクトルは、有向線分の持つ情報のうち、位置の情報を忘れて、大きさ向きだけに着目したものと考えることができる。

有向線分 で表されるベクトルを とかく。ベクトルは一文字で などと表されることがある[1]。ベクトル の大きさを で表す。

有向線分 、有向線分 に対し、大きさが等しく、向きが等しいなら、位置が違っていても、ベクトルとして等しく、 である。[2](ベクトルの相等

大きさが 1 であるベクトルを単位ベクトルという。

単位ベクトルのうち座標軸の正方向を向くものを特に基本ベクトルという。

ベクトル の逆ベクトル

ベクトル に対し、ベクトル と方向がで、大きさが等しいベクトルを逆ベクトルといい、 とかく。

始点と終点が等しいベクトルを(ゼロ)ベクトルといい、 で表す。任意の点 に対し、 である。零ベクトルの大きさは 0 で、向きは考えないものとする。

ベクトルの加法

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ベクトルの和

ベクトル に対し、 となる点をとる。このときベクトルの加法を で定める。

ベクトルの加法について以下が成り立つ。

ベクトルの加法は可換である

また、 とする。


ほか、上述のベクトルを位置表示をもちいて書き換えただけだが、

である。もし、Bの代わりに別の位置 G を経由したとしても、

このように、途中の経路の位置(上述の位置 Bや 位置 G など)に関係なく、ベクトルは最初と最後の点だけで決まる。

もちろん、1個目のベクトルの終点と、2個目のベクトルの始点とが、同じ位置でなければいけない。

ほか、

のように、3つ以上の場合でも成り立つ。もちろん、足しあうベクトルの始点と終点とは連続していないといけない。

上式は、下記のように、文字式でいう結合法則を前提とすれば証明できる。

と計算すれば良い。


なお、大文字 A ,B , C や原点 Oなどで位置を表した場合の、 などのようなベクトルの書式を、位置ベクトルと言う。

位置ベクトルの書式の場合は、対応する始点終点の2点を書くことで、ベクトルの向きと大きさを示す。

の始点はAであり、終点はBである。

の始点はBであり、終点はAである。

の始点はOであり、終点はAである。


ベクトルの減法

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ベクトル に対し、 と書く。

ベクトルの減法

位置ベクトルの表示で書けば、

である。なお、とは原点のこと。

ベクトルの実数倍

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零ベクトルでないベクトル と実数 に対し、ベクトルの実数倍 を以下のように定める。

  1. のとき、ベクトル と方向が同じで、大きさが 倍されたベクトル
  2. のとき、零ベクトル
  3. のとき、逆ベクトル と方向が同じで、大きさが 倍されたベクトル

また零ベクトル に対し、実数倍を で定める。

任意の実数 に対して、以下の性質が成り立つ。

ベクトルの平行・垂直

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零ベクトルではないベクトル に対し、 となる点をとる。

このとき、直線 と直線 が平行であるとき、ベクトル は平行であるといい、 で表す。

また、直線 と直線 が垂直であるとき、ベクトル は垂直であるといい、 で表す。

ベクトル が平行のとき、明らかに、片方のベクトルを実数倍すれば大きさと向きが一致するから、

とは となる実数 が存在することと同値である。

ベクトルの実数倍

ベクトルの分解

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ベクトル がともに零ベクトルでなく() 、平行でないとき、任意のベクトル に対して、 となる実数 を取ることができる。このとき、は「一次独立である」という。一次独立でないときは「一次従属である」という。一次従属であるとき、各ベクトルは平行である。


証明

となる点をとる。点 を通り、直線 に平行な直線が、それぞれ 直線 と交わる点をそれぞれ と置く。

このとき、 となる実数 を取ることができる。ここで、四角形 は平行四辺形なので、 が成り立つ。

ベクトルの成分表示

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ベクトル に対して、座標平面上の原点を とするとき、 となる点 を取ることができる。そこで、 をベクトル の成分表示とし、座標と同様に、または「,」を取り除いて、または縦に並べて と書く。

※後者二つはそれぞれ「行ベクトル」「列ベクトル」という。詳しくは行列で扱う。


ベクトル に対して、 となる点 をとり、 とするとき

が一致する かつ


また、 に対して、 とするとき、 なので、

である。


ベクトル に対して、以下の性質が成り立つ。


練習問題として、基本ベクトルを成分表示してみよう。基本ベクトルとは、大きさが1であり、向きがそれぞれの座標軸の正方向と平行のものである。

基本ベクトルを成分表示すれば、

の2種類が存在する。

このように、基本ベクトルは、単に平行な座標軸の成分だけが値が1で、他の軸の値は 0 とすれば良い。

なお、混同しやすいが「単位ベクトル」とは、向きが必ずしも座標軸と平行とは限らない、大きさが1のベクトルの事である。

位置ベクトル

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ある点を基準にして、その点を始点とするベクトルについて考えることにより、ベクトルを用いて点の位置関係について考察することができる。

点の位置関係基準となる点 を予め定める。このとき、点 に対して、ベクトル を点 の位置ベクトルという。位置ベクトル で与えられる点 で表す。

また、点 のとき、 が成り立つ。

内分点・外分点の位置ベクトル

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以下、位置ベクトルの基準点を点 とする。

を通る線分 に内分する点 を求める。

より、 したがって、 である。[3]


次に、点 を通る線分 に外分する点 を求める。

の場合は、 より、 したがって、 である。[4]

の場合は、 に注意して同様に計算すれば、前と同じ、 が得られる。[5]

三角形の重心の位置ベクトル

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三角形 に対し、 と置く。この三角形 の重心 を求める。

線分 の中点を とすると、点 は線分 に内分する点なので、 である。

は線分 に内分する点なので、 である。[6]

三角形の内心の位置ベクトル

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三角形 に対し、 と置く。さらに、 と置く。三角形 の内心の位置ベクトル を求める。[7]

の二等分線と線分 の交点を とする。このとき、三角形の二等分線の性質より したがって、 である。

ここで、[8] である。

したがって、 である。

ベクトルの内積

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中学理科または高校物理の力学では、力学的な仕事の定義を習ったことがあるだろう。この仕事では、移動方向以外の力は、仕事に寄与しなかった。このような力の仕事の計算をベクトルの観点からみれば、内積という新しい概念が定義できる。[9][10]

ベクトル に対し、 となる点 をとる。このとき、 ベクトル のなす角という。


ベクトルの内積の導入には、いくつかの流儀がある。ここでは、余弦定理を使う流儀を紹介する。

まず、 において余弦定理を適用すると、

・・・・(1)

なお,OAとOB のなす角を θ(シータ) と置いた。


次に、点Aの位置が直交座標上で (ax, ay) とする。

同様に、点Bの位置が直交座標上で (bx, by) とする。

余弦定理で表した(1)式の右辺と左辺は、上述の座標を用いれば、ピタゴラスの定理(三平方の定理)により、両辺をそれぞれ次のように置換できる。

=


両辺が等しいので、それぞれの辺の結論同士をまとめれば、

=

両辺から同じもの同士を引き算すれば、

=

整理すれば

=

今後の説明の都合で、式中の文字の順序を下記のように並び変える。

=


さて、ここでベクトルの内積を定義する。

ベクトル のなす角を とするとき、内積

で定める。念のため注記するが、内積はベクトルではなく実数である。

※内積 のように表記してはいけない。 はベクトルの外積(範囲外)を表す。

さて、上述の余弦定理を用いた式変形の結論から、

となるので、ベクトルの内積は、直交座標上では、同じ座標同士の積の和として求められることが分かる。


また、ベクトルの大きさ(ベクトルの長さ、ベクトルの絶対値)は、自分自身との内積として下記のように定義し直す事もできる。

まず、余弦定理の式を再掲。

・・・・(1)

これをベクトルで書き換える。

 ・・・(2)


とりあえず図形的な意味は無視して、左辺を文字式の分配法則のように展開してみると、

となる(この計算は後述の内積の性質 から正当化できる)。これは(2)式の右辺に等しい。

このように、ベクトルの内積は、文字式の分配法則のように展開してよい事が分かる


発展的だが、正射影を使った考え方を紹介する。大学では、こちらの考え方を使って4次元以上のベクトルの内積を定義する。

補足:正射影

において、とする。また、のように表記する。

OBからOAへ伸ばした垂線の足をHとするとき、「線分OHは、線分OBの線分OAへの正射影である」という。また、線分OHをベクトルとしてみた正射影ベクトルという。このとき、が成り立つ。

つまり、内積に正射影したときの、の大きさと正射影ベクトルの長さの積でも定義される。


正射影ベクトルを内積を用いて表現してみよう。

の長さはなので、に平行な単位ベクトルはである。
正射影ベクトルはに平行で長さがなので、と表現できる。
分母分子にを掛けるとであり、
後述の内積の性質を用いることにより、と内積のみを用いて表現できる。

(図)

成分表示された内積

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ベクトル と成分表示したときの、内積 について考えてみよう。

ベクトル に対し、 となる点 をとり、ベクトル のなす角を とする。このとき に対し余弦定理を用いて

(図)

ここで、 と、 より

であるので、 である。

ここで、 なので、これを代入すれば

である。

したがって が得られた。

内積の性質

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内積の計算法則

内積の性質 ― ベクトル と実数 に対し以下が成り立つ。

  1.  
  2.  
  3.  
  4.  

これらはベクトルを成分表示して計算すれば証明できる。


なお、

4 

について、内積は一次元の実数であるので、不等号や大小関係を考える事ができる。

内積を取っていないベクトルそのものは、不等号や大小関係が定義されない。

ベクトルの次元は、高校では、必ず2以上の自然数とする(つまり、2次元、3次元、4次元、5次元、・・・)。図形への応用を考えるなら、2次元ベクトル(a,b)と3次元ベクトル(a,b,c)だけを考えればよい( 4次元ベクトル(a,b,c,d)またはそれ以上の次元は、この単元では考えない )。

また、「 1次元のベクトル 」の存在については考えない事とする(実数の係数 k などとの混同を避けるため。1次元のベクトルについては考えない方が合理的である)。


さて、計算法則ではないが、頻繁に使う計算結果として、次の結果がある。

0ベクトルでない2本のベクトル について、
が垂直に交わる  ⇔ 

ただし、少なくとも片方が0ベクトルだとすると、θの値に関わらず積が0になってしまうので、0ベクトルがある場合は除外する。

上記の公式の結果は、公式のように証明なしで用いて良い。

なお、念のため証明すると、

 ・・・(3)

の式から証明できる。上(3)式の2番目の辺 の θ に90°を代入すれば、


内積の値は、直交座標の座標軸を回転させても変わらない。内積の値は、両ベクトルの大きさと、図形的な「なす角」によってのみ決まる。

この性質は、物理学の力学などで内積の計算を使うときに重要である。物理学で用いる座標軸は、直交でありさえすれば、計算しやすいような向きに自由に設定してよい。具体的に言えば、力学の「仕事」は、座標系を直交座標で定義さえすれば、どのような向きで座標系を置いても、仕事の値は同じ結果になる。


ほか、x軸方向の基本ベクトル (1,0) と y軸方向の基本ベクトル(0,1)の内積は、成分同士の積として内積を計算すれば

となり、上述の議論のように結果は 0 になり、上述の議論(垂直に交わるベクトル同士の内積はゼロ)と整合性がある。

ほか、

または なら、

である。証明は、それぞれの場合の両ベクトルの成分同士の積による。入試などでは、公式として証明なしで用いてよい。

なお、少なくとも片方のベクトルが零ベクトルである時の「なす角」については、考えない事とする。

演習問題
上の点における円の接線をベクトルを利用して求めよ


ベクトル(x,y)のような2次元ベクトルのことを「平面ベクトル」とも言う。平面上の位置や変化量を表す事が出来るからである。

ベクトル(x, y, z)のような3次元ベクトルのことを「空間ベクトル」または「立体ベクトル」などとも言う。空間上の位置や変化量を表すことが出来るからである。

このように、2次元、3次元のベクトルは、図形的に解釈する事もできる。

4次元以上については、通常は図形的な意味合いについては考えない。

図形的な意味を考えれば、数直線は1次元のベクトルのように思えそうだが、しかし係数 k などとの混同を避けるため、1次元のベクトルについては考えないのが一般的である。

ベクトル方程式

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数学では、全ての図形を「点の集合」と考える。数学Ⅱで習ったように、「任意の点についてがある方程式(*)を満たす」ことが「の集合が図形である」ことの必要十分条件であるとき、(*)を「図形の方程式」と呼んだ。

同様に、「の位置ベクトルがある方程式(**)を満たす」ことが「の集合が図形である」ことの必要十分条件であるとき、(**)をベクトル方程式(vector equation)という。


演習問題

とする。 このとき、線分OAを1:3に分ける点と、線分OBを5:2に分ける点をそれぞれ、A',B'とする。

(1) ベクトル をベクトルを用いてあらわせ。

(2) 線分AB'と、BA'の交点 M の位置ベクトルをベクトルを用いてあらわせ。

直線のベクトル方程式

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を通り、ベクトル に平行な直線を とする。 上の点を とすると、または だから

となる実数 がある。

すなわち、

よって、

これを、直線 のベクトル方程式といい、 方向ベクトルという。また、媒介変数(ばいかいへんすう)パラメータ)という。


点Aの座標を、点Pの座標をとおくと、ベクトル方程式

となる。したがって

これを直線 媒介変数表示パラメータ表示)という。


演習問題

点Aを通り、に平行な直線の方程式を、媒介変数tを用いて表せ。

また、tを消去した式で表せ。


2点 を通る直線のベクトル方程式を考える。

直線ABは、点Aを通り、を方向ベクトルとする直線と考えられるから、そのベクトル方程式は

となる。これは次のように書ける。


演習問題

2点A,Bを通る直線の方程式を、媒介変数tを用いて表せ。


点Aを通るベクトルに垂直な直線をgとする。g上の点をPとすると、またはだから

…(1)

である。

点A,Pの位置ベクトルをそれぞれ、とすると、だから、(1)は

…(2)

となる。(2)が点Aを通って、に垂直な直線gのベクトル方程式であり、をこの直線の法線(ほうせん)ベクトル(normal vector)という。


点Aの座標を、点Pの座標をとおくと、だから、(2)は次のようになる。

この方程式は、とおくと、となるから、次のことがいえる。

直線の法線ベクトルは、である。


演習問題

点Aを通り、に垂直な直線の方程式を求めよ。


円のベクトル方程式

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円の数学的な定義は「ある点からの距離が等しい点の集合」である。

よって、中心をC, 円上の任意点をPとすると、が一定値(半径rの値)をとるならばPの軌跡は円であるといえる。

これを位置ベクトルを用いて書き換えると円のベクトル方程式を得る。


これを両辺2乗して成分表示すると座標平面上での円の方程式を得る。


また、以下のような考え方をしても良い。

直径ABに対する円周角が常にであることから、円上の任意点をPとすると常にである。

これは位置ベクトルを用いて以下のように表せる。

これもまた、円のベクトル方程式であり、先ほどの形に変形することができる。


  • 変形できることの証明
平方完成して
ここでより、
よって、これは中心、半径の円を表す。

一般にABを直径とする円は中心がABの中点で半径は(直径)の半分である。よって、式を変形して得られた結論は妥当である。


円の接線のベクトル方程式も以下の二つの考え方で得る。

(以下、接線上の任意点をP, 円の中心をC, 接点をA, 半径をrとする。)

円の接点を通る半径と接線は常に垂直であることから、

これを成分表示して、//


への正射影ベクトルは、接点を通る半径と接線が必ず垂直であることから常にと等しい。

よって

最左辺を位置ベクトル表示して//

これを座標表示すると座標平面上での円の接線の方程式を得る。


円のベクトル方程式と同様、片方の形からもう片方の形に変形することができる。

  • 証明
より、
ここでより、

空間座標とベクトル

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ここまでは、平面上のベクトルについて考えてきたが、ここからは3次元空間上のベクトルについて考える。より一般にベクトルはn次元(ユークリッド)空間上で定義することができるが、このようなものは高校では扱わない。

空間座標
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(空間座標については2022年度施行課程から数学A「数学と人間の活動」に移されたが、当該範囲を履修していない生徒が出る可能性を考慮してこちらの記述も残すことにした。)

今までは、平面上の図形をベクトルや数式を用いて表現する方法を学んで来た。ここでいう2次元とは、平面のことである。平面上の任意の点を指定するには最低でも2以上の実数が必要だからこのように呼ばれている。


もちろん容易に分かる通り、2つ以上の次元を持っている図形も存在する。例えば、直方体は縦、横、高さの3つの長さを持っているので3次元立体の1つであり、3次元図形である。

(図 - 空間座標の座標軸の図。およびxy平面、yz平面、zx平面の図)

空間内に点を通る1つの平面をとり、その上に直交する座標軸をとる。次にを通りこの平面に垂直な直線をひき、その直線上で、を原点とする座標を考える。

この3直線は、どの2つも互いに垂直である。これらを座標軸といい、それぞれx軸y軸、z軸という。

(単に、2次元の座標軸の「x軸」,「y軸」の最後に、「z軸」が追加で加わっただけである。「x軸」や「y軸」の用語は、2次元でも3次元でも共通である。)

また、x軸とy軸とで定まる平面をxy平面といい、y軸とz軸とで定まる平面をyz平面といい、z軸とx軸とで定まる平面をzx平面といい、これらを座標平面という。

空間内の点に対して、を通って各座標平面に平行な3つの平面をつくり、それらがx軸、y軸、z軸と交わる点をとし、のそれぞれの軸上での座標をとする。

このとき、3つの数の組

を点座標といい、x座標といい、y座標といい、z座標という。

ある点の位置を座標の値であらわす時、3次元の場合は、単に

(x座標、y座標、z座標)

のように、3つ目の座標の値が追加されるだけである。

たとえば、座標が(1, 4, 2) なら、x=1, y=4, z=2 の位置にある点である。


上述のように座標の定められた空間を座標空間と呼び、点を座標空間の原点という。

上述のような3次元の座標空間のことを「xyz空間」とも言う。由来は、座標名の「x座標」・「y座標」・「z座標」から由来している。なお、このxyz空間と言う呼び方をした場合は、当然だが座標軸の名前も「x座標」や「y座標」など対応する名前を用いないといけない。(「a座標、b座標、c座標」とか「u座標、v座標、w座標」のような、空間名に用いてない座標軸を用いてはいけない。)

(参考)コンピュータ・グラフィック業界では「uv座標」「uv空間」などの語もあるが、高校数学の科目の範囲内では、座標名・空間名は「xy座標」や「xyx座標」や「xyz空間」のようにxyzだけを用いるほうが、採点者に誤解がなく無難であろう。

ほか、xyz空間のことを座標軸が3本あるので(x軸、y軸、z軸で合計3本)、「3次元空間」とも言う。なお、4次元以上の場合も、図示はできないが「4次元空間」のように言ってよい。

入試の答案で、立体図形や空間ベクトルを扱う際には、「xyz空間」や「3次元空間」などの語を用いても大丈夫である。


2点間の距離は平面座標でも空間座標でも、ピタゴラスの定理により下記のような公式になる。

平面座標での2点間の距離は である。

空間座標での2点間の距離は である。

説明は省略する(座標平面上の距離は数学Ⅱ「図形と方程式」で、空間座標上の図形は数学A「数学と人間の活動」で詳しく習う)。

上記の距離の公式の計算練習も兼ねて、原点から空間内の点Pまでの距離も考えてみよう。

空間座標で、原点から点までの距離は である。

証明は、単に上記の2点間の距離の公式で、片方の点の位置を原点座標である と置いて公式に代入すれば良い。


空間ベクトルの諸公式
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平面ベクトルで成り立った多くの公式や概念が、空間ベクトルでも成り立つ。(平面ベクトルの解説と同じような解説になるので、理解しているならば読み飛ばしてもいい。念のため、下記に公式を明示する。)

まず、いくつかの計算の、定義式を明示する。

空間ベクトルの加算、減算、および実数倍は、下記のように定義される。なお、下記の公式の内容は、単に、平面ベクトルの最後にz軸の成分が追加されただけである。


また、上記の公式の場合は(単にz軸を追加すれば空間ベクトルの公式になるため)、平面ベクトルで成り立った下記の性質は、空間ベクトルでも成り立つ。

任意の実数  に対して、以下の性質が成り立つ。
*  
*  
*  

上記の証明は、成分をひとつひとつ計算すれば可能だが、しかし平面の場合と同じような公式が多いので、本wikiでは省略する。


なお、ベクトルの加算と減算について、基本的には同じ次元のベクトル同士でしか、加算、減算は出来ない。

つまり、計算できない例を挙げると、3次元の空間ベクトル と 2次元の平面ベクトル をそのままの形で加算・減算しあう事は不可能である。

どうしても、図形の応用問題などで平面ベクトル(2次元)の計算結果を空間ベクトル(3次元)で使用したい場合は、たとえば のように次元の不足しているほうのベクトルに、不足している座標軸に 0 などの適切な値を設定すれば良い(設定する値は問題ごとに異なる)。


ほか、3次元の零ベクトル や逆ベクトル なども同様に、単に座標軸を1つ増やす方法で定義されるので、平面の場合と同じような下記の性質が成り立つ(証明は省略)。

* 
* 
* 

内積も同様に定義できる。空間ベクトル同士の内積は、成分表示を用いれば、次の公式になる。(3次元の作図が難しいので、余弦定理との関係式の紹介よりも先に、成分表示の公式を紹介する)

 と成分表示されるベクトル  があるとする。このとき、下記の公式が成り立つ。

* 

また、ベクトルのなす角θも、平面ベクトルと同様に内積をもちいて算出できて、下記の式が成り立つ。

ただし、三次元の作図は難しいので、本書では余弦定理の作図は省略する。作図は難しいが余弦定理そのものは空間ベクトルでも成り立つので、上記のθの公式が成り立つ。

3次元らしく見えるように、上述の成分表示から求める内積の公式と、なす角θの式を合わせれば、

のように書ける。文章題などで「なす角」θ を求めたい場合は、この式を活用すれば解ける場合が多い。

本書では、後述の単元でより詳しく空間ベクトルの公式や性質を説明しているので、今の単元ではこれ以上の深入りを省略する。今の段階では、平面ベクトルの性質の多くが空間ベクトルでも成り立つ事さえ、分かれば良い。


単位ベクトルや基本ベクトルの概念も、空間ベクトルでも存在する。なお、基本ベクトルとは、大きさ1のベクトルであり、さらに座標軸と平行のものである。

つまり、基本ベクトルとは、成分表示すれば、

の3種類が存在する。このように、基本ベクトルは、単に平行な座標軸の成分だけが値が1で、他の軸の値は 0 とすれば良い。

なお、ある空間ベクトル の成分表示を、 のようにxyzで表すとは限らず、たとえば のように番号で書く場合もある。大学数学では、4次元以上のベクトルへの応用も考慮して、番号で書く場合の方が多い。

高校生向けの教材などでも、番号で書く書式の教材があるので、番号の書式にも慣れておくと良い。なお、座標軸の名前は、そのまま「x軸」「y軸」「z軸」のように呼び続ける(「1軸」「2軸」といった呼び方は存在しない)。 「xy平面」や「xyz空間」などの用語も、そのまま呼び続ける。

よく、基本ベクトルを番号の書式で書く事がある。それを紹介すると

となる。このように、eの右下の番号と、左の成分から数えた1の位置が対応している。

数列と同様に、ベクトルの成分を左から第1項、第2項、・・・と呼ぶ場合がある。それを用いれば、「は第k項に1という成分を持つ基本ベクトルである」といえる。なお、第n項まで存在するベクトルをn項(行/列)ベクトルと呼んだりする。

球面の方程式
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ここでは、特に3次元空間の図形に注目する。 まずはベクトルを用いる前に3次元空間の空間図形を、数式によって記述する方法を考察する。


2次元空間において、もっとも簡単な図形は直線であり、その式は一般的に

で表わされた。 (,,は任意の定数。) ここで,は、2次元空間を代表する2つのパラメーターであり、3次元空間を用いたときには、これらは3つの文字で表わされることが期待される。

実際このような式で表わされる図形は、3次元空間でも基本的な図形である。つまり、

が、上の式の類似物として得られる。 (,,,は任意の定数。)

このような図形はどんな図形に対応するだろうか?

実際にはこの図形を特徴づけるのは、後に学ぶ3次元ベクトルを用いるのがもっとも簡単であるので、これは後にまわすことにする。

しかし、ただ1つこの式から分かることは、3次元空間の座標を表わすパラメーター

のうちに1つの関係

を与えることで、3次元空間上の図形を指定できるということである。この場合は、

を用いていた。

ベクトルを使わなくても図形的解釈が得られる式として、

が挙げられる。 (,,,は任意の定数。) この式は、2次元でいうところの

の式の類似物である。2次元の場合はこの式は、

中心半径の円に対応していた。 3次元のこの式は、結論をいうと中心半径の円に対応しているのである。

  • 説明

上の式

を満たすある点を取り、その点と点との距離を考える。

空間座標に置ける軸、 軸、 軸はそれぞれ直交しているので、2点の距離は3平方の定理を用いて

で与えられる。

しかし、上の式からここで選んだ点は、条件

を満たしているので、2点の距離は

である。 (を用いた。)

よって、上の式を満たす点は全て点からの距離がである点であり、これは中心半径の円に他ならない。


演習問題

中心

半径

の球の式を求めよ。

演習問題

がどのような 球に対応するか計算せよ。

空間におけるベクトル
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次に3次元空間上におけるベクトルを考察する。

2次元空間上ではベクトルは2つの量の組み合わせで表わされた。 これは1つのベクトルはx軸方向に対応する量とy軸方向に対応する量の2つを持っている必要があったからである。

このことから、3次元空間のベクトルは3つの量の組み合わせで書けることが予想される。 特に軸方向の成分, 軸方向の成分, 軸方向の成分 (,,は任意の定数。) で表わされるベクトルを、

と書いて表わすことにする。

2次元平面では あるベクトル

は、 (,は任意の定数。)

2本の基本ベクトル

を用いて、

で表わされた。

3次元空間でもこのような記述法があり、上で用いたベクトル

は、

3本の基本ベクトル

を用いて

と表すことができる。

3次元ベクトルに対しても2次元ベクトルで定めた定義や性質がほぼそのまま成立する(一般のn次元でも)。

3次元ベクトルの加法は、それぞれのベクトル要素を独立に足し合わせることによって定義する。

また、それぞれのベクトルの要素が全て等しいベクトルを"ベクトルとして等しい(ベクトルの相等)"と表現する。

演習問題

ベクトルの和

を計算せよ。


空間ベクトルの内積
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ベクトル,間のベクトルの内積も平面の場合と同様に

(は、ベクトル,のなす角。)

分配法則や1次独立の性質もそのまま成り立つ。 ただし、3次元空間の全てのベクトルを張るには、3つの一次独立なベクトルを持って来る必要がある。


演習問題

2つのベクトルの内積

を計算せよ。

演習問題

2次元空間のベクトルは2本の1次独立なベクトルがあれば、必ずそれらの線形結合によって計算できるはずである。

ここで、

を用いて、

を、

の形に書いてみよ。 (,は、何らかの定数。)


この表式を用いて、以前見た

の図形的解釈を述べる。

この図形上の任意の点をで表わす。 この点は原点Oに対する位置ベクトルを用いるとで与えられる。 便宜のために このベクトルをと書くことにする。

一方、ベクトルを用いると、上の式はベクトルの内積を用いてで与えられる。 つまり、この式で表わされる図形はあるベクトル との内積を一定に保つ図形である。 この図形は、実際には に直交する平面で与えられる。 なぜならこのような平面上の点は、必ず平面上のある一点の位置ベクトルに加えて、 ベクトル に直交するベクトルを加えたもので書くことが出来る。 しかし、 ベクトル に直交するベクトルと ベクトル の内積は必ず0であるので、 このような点の集合は ベクトル と一定の内積を持つのである。

よって元の式

は、 ベクトルに直交する平面に対応することが分かった。 次にが、図形が表わす平面と、原点との距離に関係があることを示す。

特に、ベクトルに比例する位置ベクトルを持つ点を考える。このときこの点と原点との距離は、 平面

と原点との距離に対応する。 なぜなら、位置ベクトルは、原点から平面

に垂直に下ろした線に対応するからである。

このことから仮に方向の単位ベクトルをと書き、平面と原点との距離をと書くと、が得られる。 この式を

に代入すると、

が得られる。よって、は、 平面と原点の距離とベクトルの大きさをかけたものである。



演習問題

特にベクトル

を取ると、どのような式が得られて、その式は どのような図形に対応するか。

平面に平行であり、平面からの距離がである平面。

発展:外積

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外積は高校数学範囲外で入試には出ないが、外積は数学や物理などに応用でき、便利なのでここで扱う。

三次元ベクトル に対し、外積 を次を満たすものとする。

  1. それぞれと垂直[11]
  2. フレミングの左手の法則の格好をする。このとき、中指を 、人差し指を 、としたとき、 は親指の方向である。
  3. ベクトル のなす角を とする。[12]
外積の方向を表した図。上の→記号がないが、これはベクトルである。

次に外積の成分表示を考えてみよう。この定義から成分表示を直接導くのは面倒なので、天下り的に成分表示を与えてから、それが外積の定義を満たすことを確認する。

としたとき、 である。

まずは、 それぞれと垂直であることを確認する。これは、 であることを成分表示を代入すれば証明できる。

次に、 を証明する。 。ここで、 を代入し、 を得る。この式に、成分表示を代入すれば、両辺が等しいことが確認できる。

最後に、フレミングの左手の法則で は親指の方向であることを確認する。

のとき、 である。これより、二番目の性質も確認できた。


外積の応用

2つのベクトルに垂直なベクトルを求めたいときなどは、外積の成分表示から計算すれば、面倒な計算をしなくても求められる。

四面体 の体積は である。 実際、 である。ただし、 h はΔABCを底面としたときの四面体の高さである。

また、物理学に於いて力学のモーメント電磁気学のローレンツ力は外積を使うとそれぞれ と簡潔に表せる。

外積は行列を用いて表記できる。具体的にはこちらを参照。


覚え方

図のように要素をかけ合わせる。

コラムなど

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ベクトルの理論の歴史
ハミルトン

複素数とベクトルの理論はそれぞれ独立した理論として教えられているが、歴史的にはハミルトンによって複素数を拡張した四元数が発見され、四元数を元にギブスなどによってベクトルが発見された。

四元数は、

a + bi + cj + dk (a,b,c,dは実数)

のように、実数と3つの虚数単位i,j,kをもちいて表される数である。 ここで、i,j,k は i^2=-1, j^2=-1, k^2=-1 を満たす数で、i,j,k は互いに異なる。

実数の単位1個に加えて、さらに3つの単位 i,  j,  k をもっているので、合計で4個の単位があるので四元数といわれるわけである。

さて、ハミルトンによる四元数の発見後、さらに研究が進むと、図形や物理学などの問題を解く際には 2乗して-1になる性質はほとんどの空間・立体(3次元の図形)の問題を解く応用の場合には不要であることが分かり、学校教育の場ではベクトルと複素数を別々に教えるようになったわけである。

そして、四元数の公式のうち、ベクトルでも類似の公式が成り立つ場合には、その四元数の公式がベクトル用に改良されてベクトルの公式として輸入されたので、結果的にハミルトンはベクトルの公式の発見者としても紹介されることになった。

また、四元数は現代では3DCGなどの分野で応用されている。


五心の位置ベクトル・オイラー線

の五心の位置ベクトルはそれぞれ以下のように表される。ただし、各頂点の位置ベクトルをとし、面積をとおく。

  • 内心
  • 外心
  • 重心
  • 垂心
  • 傍心

これらの式を見ると、全ての形(加重平均)となっていることがわかる。


外心と垂心の分母が一致していることに注目すると、以下の定理を見つけられる。

この式から、重心は外心と垂心を結んだ線分を1:2に内分することがわかる。すなわち、重心・外心・垂心は必ず一直線上に存在することが言える。この直線をオイラー線という。

脚注

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  1. ^ または、太文字で などと表記されることもある。しかし、日本の高等学校、大学入試では がほとんどである。
  2. ^ ベクトルとして等しくても、有向線分として等しいとは限らない
  3. ^
  4. ^
  5. ^ の場合、つまり線分を に外分する点は存在しない。なぜなら、任意の線分ABに対してAP:BP=1:1となる点Pは線分ABの直角二等分線上にあるが、点Pが線分AB上にある場合、これは内分点であり、点Pが線分AB上にない場合、これは外分点ではありえない。
  6. ^
  7. ^ ここで、線分の長さと頂点の位置ベクトルを同じアルファベットで置いているが、記号 のついているものは、ベクトル。記号 のついていないものは実数であることに注意せよ。
  8. ^ より
  9. ^ 物理数学Iなどを参照
  10. ^ これは、内”積”という名前がついているが、実数の”積”とは様子が違い、単純に実数の積をベクトルに拡張したものが内積というわけではない。実数の積は実数から実数への演算であるが、ベクトルの内積はベクトルから実数への演算である。
  11. ^ 数式で表すと かつ
  12. ^ はベクトル の作る平行四辺形の面積に等しい。