ここでは、微分・積分の考えで学んだ微分の性質についてより詳しく扱う。特に、関数の和、差、積、商、更に合成関数や、逆関数の導関数について詳しく扱う。また、三角関数などの複雑な関数の微分についてもここでまとめる。
数学C「ベクトル」「二次曲線」の先行履修を必須とする。
関数が任意の点xで極限値
を持つとき、関数は微分可能と言い、関数 f' を、関数fの導関数と呼ぶ。
関数が微分可能ならば、連続関数である。
(証明)
fが微分可能とすると、
なので、fは連続である。
ここでは、関数の和、差、積、商の微分について扱う。これらの方法は以降の計算で常に用いられる内容であるので、十分に習熟しておく必要がある。
f,gを微分可能な関数とする。このとき、fとgの和について次が成り立つ。
これは、関数の和を微分して得られる導関数は、それぞれの関数の和を足し合わせたものに等しいことを表している。
導出
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次に、関数の実数倍の導関数について考える。関数の実数倍をしたものを微分したものは、実数倍する前の関数に対する導関数を実数倍したものになる。具体的には次の式が成り立つ。
(aは定数)
導出
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積に関しては、和や実数倍と比べて計算結果がより複雑になる。具体的には次が成り立つ。
これは、それぞれの関数の微分とそれ以外の関数との積が得られるということを表している。これは導出を見ないとなぜこうなるかがわからないかも知れないが、よく導出を検討することが重要である。
導出
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ここで、に注意すると、
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関数を冪関数という。
数学Ⅱで習ったように、nを自然数とするとき、
である。
ここでは、数学Ⅱでは扱わなかった上式の導出を行う。
(導出その1)
ここで、二項定理により
ただし
なので、
この式を、式(1)の右辺に代入すると
である。
(導出その2)
- を①とする。
[1] のとき
左辺は
であり、右辺は
なので、のとき①は成り立つ。
[2] のときが成り立つと仮定する。
のとき、積の導関数の式より
よって、のときも①が成り立つ。
[1] [2]より、すべての自然数について①が成り立つ。
商の導関数については次式が成り立つ。
この式についても、よく導出を検討することが必要である。
導出
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また、商の導関数の式と、積の導関数の式より、次の公式が導かれる。
この式は、積の式と商の式から直接従う式だが、よく現れる形であるので、覚えておくと便利なことがある。
導出
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の指数が自然数であるとき、であるのは既に証明した。
ここでは、指数が整数の場合を考える。
[1] が負の整数のときとおく。
このときは正の整数で、商の導関数の式より
が成り立つ。
[2] のとき、
なので
が成り立つ。
よって、整数についてが成り立つ。
合成関数とは、2つの関数を用いて、という形で書くことができる関数のことである。合成関数は、与えられた変数に対する関数と見ることができ、導関数を取ることも可能である。具体的には、
が成り立つ。
導出
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とすると、、のときなので、
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となる。
- 例
、とする。この合成関数は、である。
この合成関数の導関数を求めてみよう。
なので、
である。
※関数の合成関数をと書くことがある。
合成関数の微分はライプニッツの記法を用いて、のとき、、、なので、
と書くことができる。
また、以下の公式が成り立つ。
導出
と置くと、で、
のときであるから、
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また、
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の指数が整数のとき、が成り立つのは既に証明した。
次は、として指数が有理数のときを考える。
[1] を自然数とすると、のとき、が成り立つので、逆関数の導関数の式より
[2] を整数とすると、有理数について
より、
なので、[1]と合成関数の導関数の式より
が成り立つ。
よって、有理数についてが成り立つ。
となる。
導出
- 加法定理とより
に注意すると、
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となり、結果が得られた。
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については、
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- なお、について、
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ここでと置くと、
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kを0に近づけていくと、は、
(計算:Windows付属電卓)
となり、一定の値に近づいていく(証明は数学IIIの範囲ではできない)。
この一定の値、すなわち
をeで表す。すると、
これを、上の式に代入すると、
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特にのとき、
eを底とする対数を自然対数という。
eは自然対数の底またはネイピア数と呼ばれることが多い。
数学では、のeを省略してと書く。
数学以外の分野では、常用対数と区別するために、が用いられることもある。
また、の微分は、
x>0のとき
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x<0のとき
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よって、
また、合成関数の微分法より、が成り立つことがわかる。
と先ほど定義したが、この定義式は以下のように書き換えられる。
上の二つの式はと置き換えると、それぞれの定義式の片側極限の場合を表していることがわかる。
これらの式を利用することで、今まで解けなかったパターンの極限を求められるようになる。
例題)の極限を求めよ
解答)
とおくとのときなので、
(上式)
ここで、対数関数は連続関数なので、logとlimを入れ替えても良い。
(上式)
よって、収束して極限値は-1である。
両辺の自然対数をとると、
両辺をxで微分すると、
特にa=eの場合
のxが煩雑な場合、のように表す場合がある。
また、両辺の自然対数をとってから微分する操作を対数微分法と呼ぶ。
微分係数の定義式を用いて極限を求めることもできる。
例題)を求めよ
解答)
ここで、微分係数の定義式より、とおくとで
(上式)
よって、収束して極限値は1である。
の指数が有理数のとき、が成り立つのは既に証明した。
最後に、として指数が実数のときを考える。
のは実数であるとする。
両辺の絶対値の自然対数をとって
両辺をxで微分して、
よって
が成り立つ。
最初は指数が自然数の場合のみだったのに比べ、より一般の範囲で上式が成り立つことがわかった。このようにある式をより一般に言えるようにするのが、数学の発展性であり醍醐味である。
(補足)
が成り立つことは冪関数の微分と積の微分から容易にわかる。この公式は関数 の冪の積の微分を計算するときに役に立つ。また、関数が4以上のときにも同様の式が成り立つ。
(補足ここまで)
- 問題例
- 問題
- を求めよ
- 解答
- それぞれ
- が得られる。
導関数f'(x)をf(x)の第1次導関数という。
導関数の導関数を第2次導関数という。
導関数の導関数の導関数を第3次導関数という。
一般に、関数f(x)をn回微分して得られる関数を第n次導関数といい、
のいずれかで表す。
また、nが1,2,3の時はそれぞれやと表す。
2次以上の導関数を高次導関数という。
第n次導関数を求める操作をn階微分という場合がある。
(例)の第3次導関数は
なのでである。
第n次導関数を求めるとき、具体的な値で実験して一般式を推測してからの数学的帰納法が有効である。
- 問題
- 関数について、を求めよ。
- n階微分可能な2つの関数について、であることを証明せよ。(ライプニッツの定理)
の形で表された関数を陽関数と呼ぶ。
それに対しの形で表された関数を陰関数と呼ぶ。
例えば、円の方程式は陰関数表示された関数である。
陽関数と陰関数は互いに互いの形へと変形できるが、変形すると式が煩雑になる場合がある。そこで、を合成関数と見做して微分することを考える。
(例)円の方程式について、を求める。
この式をyについて解くとであるが、この式を微分しようとすると式が煩雑で厄介である。
上のyについての等式から元の方程式のyは「xの式を別の文字で置換したもの」と考えられるので、合成関数の微分法を利用すると元の形のまま微分ができる。
元の方程式の両辺をxで微分すると、
より
なので、
すなわち
である。
なお、煩雑になるのでyをxの式に直す必要はない。
ベクトルで習ったように、点を通りに平行な直線の方程式は媒介変数tを用いて一次関数で表され、これを「媒介変数表示」と呼んだ。
二次曲線で習ったように、一般に媒介変数表示は曲線を表す。ここでいう「曲線」は単に曲がった線のことではなく、直線を含む一般的な線のことである。
をxで微分したい。
関数f,gが三角関数の場合等、高校範囲ではtを消去できないことがあるので、媒介変数表示のまま微分することを考える。
より、tをyの式と考えるとは合成関数と見做せる。
よって、合成関数の微分法より
である。
ここで、逆関数の微分法から
であるので、
が成り立つ。
なお、はに再び媒介変数曲線の微分法を用いることで、のように計算できる。
- 問題
- 次の式で表された曲線について、及びを求めよ。
関数上の点における接線の傾きはであるので、接線の方程式は
となる。
また、接点を通り接線に垂直な直線を法線(ほうせん)という。
垂直な直線同士は傾きの符号が逆であり、傾きの絶対値が逆数であるので、法線の方程式は
となる。
ただし、の場合、法線の方程式はである。
- 問題
- 以下の曲線について、点における接線の方程式と法線の方程式を求めよ。
2つの曲線に共通する接線(共通接線)の求め方について簡潔に記述する。
①一般の場合
- 任意の点における2曲線の接線をそれぞれ求め、それが一致する(恒等式である)条件から定数の値を求める
②2曲線が共有点で接する場合
- y座標が一致、微分係数が一致の2つの条件を式で表して連立させて定数の値を求める。
- 問題
- 2曲線の共通接線の方程式を求めよ。
- 2曲線が接するという。このとき、aの値, 共有点の座標, 共通接線の方程式をそれぞれ求めよ。
- 発展:因数定理の拡張
cが高次方程式の2重解である
・証明
- (①)とおくと(②)。
- このとき、が2重解cを持つならばである。
- 逆に、とすると①から、②から。
- よってなのでであり、このときcは方程式の2重解である。
- Q.E.D.
一般に、cが高次方程式のn重解であるための必要十分条件は、である。
を2次以上の多項式とする。曲線が点において直線と接するための必要十分条件が「方程式の解がc」であることを証明せよ。
はの点での傾きを表す。
よって、
- の時は増加し続ける(単調増加)
- の時は減少し続ける(単調減少)
- の時は一定
である。
また、で、の前後での符号がからに変わるならば、は点で増加から減少に転じる。このときのを極大値(きょくだいち)という。
また、からに変わるならば、は点で減少から増加に転じるので、このときのを極小値(きょくしょうち)という。
極大値と極小値をまとめて極値(きょくち)という。
であっても、前後で符号が変わらなければは極値ではない。
第二次導関数の図形的な意味を考えてみよう。導関数は各点での接線の傾きを表している。第二次導関数は導関数の導関数だから、接線の傾きの変化率、すなわちグラフの曲がり具合を表していることになる。第二次導関数が正のときは傾きが増加しているのだからグラフは下に凸、負のときは上に凸となる。
グラフの曲がり具合が変わる点のことを変曲点(へんきょくてん)という。上の考察から、変曲点は第二次導関数の符号が変わる点であることがわかる。極値の場合と同様に、たとえであっても、符号が変わらなければ変曲点ではない。
関数のグラフを書くときには、変曲点の情報は極値と同様に重要なので、増減表にも第二次導関数の欄をつくり、変曲点を記入するとよい。
(力学も参照。)
数直線上を運動する物体が時刻 のとき位置 にあるとする。この物体の速度を求める。
時刻が から に移動するとき、物体は から の位置に移動する[1]。このときの平均の速度は
ここで、 なので、 を限りなく 0 に近づければ、この物体の瞬間の速度が求められる。時刻 のときの物体の瞬間の速度を とすれば、
である。
同様に、加速度についても、時刻 のときの物体の加速度を とすれば
これは、平面上を運動する物体にも拡張できる。時刻 のときの物体の位置ベクトルが で与えられるとき、この物体の速度ベクトル は である。同様に加速度ベクトル についても、 。
例えば、角速度 で原点を中心に半径 の円運動する物体が で にあるとき、この物体の時刻 のときの位置ベクトル は である。速度ベクトルは、。加速度ベクトルは。ここから、位置ベクトル と速度ベクトル は直行し、位置ベクトル と加速度ベクトル は逆向きであり、 、 が成立することが分かる。
また、円運動の 成分 または 成分だけに注目すれば、それは単振動である。
(範囲外)
加速度をさらに時間で微分したものを躍度という。躍度が大きいと生物に不快感を与えたり機械の損傷を引き起こしたりする。そのため、機械工学の中でも特に乗り物を扱う分野では非常に重要な概念となっている。
(範囲外ここまで)
微分係数はなので、が十分小さいとき、である。すなわち、が成り立つ。これを一次近似式と呼ぶ。
また、とすると、が小さいときである。
とおき、と見做すことにより、が得られる。これを二次近似式と呼ぶ。
一次近似式と二次近似式を見比べると、n次近似式はn項目までの有限級数になることが予想できる。ここで、近似式の次数を無限に大きくしていくと、近似値ではなく真に正確な値が得られる。逆に言うと、真に正確な値を求める無限級数をある項で打ち切ることで、近似式として機能する。この無限級数については以下の「テイラー級数」を参照。
関数 は で連続、 で微分可能とする。
ならば となる点 が存在する。
証明
関数 には最大値または最小値が の範囲に一つ以上存在する。最大値または最小値では関数の導関数は 0 なので、その点を選び とすると、 となる。
関数 は で連続、 で微分可能とする。このとき、 となる が存在する。
証明
とする。定数 を を満たすように定める。
したがって、 より、 である。
ここで、関数 に対して、ロルの定理を用いることにより、 となる が存在する。であるから、 となる が存在することがいえる。
- 問題
- 平均値の定理を用いて以下を証明せよ。
- の時は単調増加
- の時は単調減少
- の時は一定
関数 は で連続、 で微分可能とする。このとき、 となる が存在する。さらに、 とすれば、
となる が存在する。
証明
とする。ここで、 は で連続、 で微分可能、 なので、ロルの定理より、 となる が存在する。 を変形して を得る。さらに、 ならば、
である。
を区間 で 回微分可能な関数とする。任意の に対して、 が の中間に存在して、
証明
とする。 と関数 に対して、コーシーの平均値の定理を適用すると、 より、 となる が の中間に存在する。 であるから、右辺にも同様にコーシーの平均値の定理を適用することで、 となる が の中間に存在する。 だから、 を得る。
関数 に対して、 となるような関数 を一般に と表す。
ランダウ記号について次が成り立つ。
- ( は定数)
- ならば、
ランダウの記号は一般には違う関数を同じ記号で表しているので注意が必要である。例えば 1. は任意の である関数について、 という意味である。
2. は とすると、 3. は ならば、 となるから、
ランダウの記号について、 がどこに近づいたときか()ということは重要だが、文脈から明らかな場合は省略される。
テイラーの定理における右辺最後の項を剰余項といい、これを と書く。 が で連続ならば、
これは、 と書けるから、
すなわち、
漸近展開を用いると極限の問題を簡単に解くことが出来る。例えば、
例
を実数とする。 について、 なので、
ただし、 は一般二項係数。
例えば、
など。これらは近似公式としてもよく使われる。
テイラーの定理において、関数 が区間 で無限回微分可能(任意の次数の導関数が存在すること)で剰余項が ならば、
これをテイラー級数といい、特に のものをマクローリン級数という。
いくつかの関数のテイラー展開を求めよう。
とすると、 で、 より、任意の に対して、 となる。すなわち、
についても同じように計算して、
を得る。
指数関数のテイラー展開の式
は が複素数であるときにも収束するから、これによって複素数に対する指数関数を定義することができる。
三角関数も同様に
によって、複素数に拡張できる。
このとき、
を得る。これはオイラーの公式と呼ばれる。ここで、一行目の級数を が偶数の項と奇数の項に分割したが、これが可能なのは級数が絶対収束するからである。
特に、 のときは、オイラーの等式
を得る。
- ^ ここで、 は関数であることに注意せよ。