高等学校歴史総合/ナショナリズム

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 本節は、ナショナリズムの特集です。高校生には難しい論点ばかりなので、興味がある人だけ読み進めてください。実際の国際関係論は、このように奥深く、ナショナリズムを解説しています。

ナショナリズム[編集]

 ナショナリズムとは、全国民が同じ仲間意識を持つ考え方です。政治学や国際関係からナショナリズムを見ると、ヨーロッパが近代に入ってから出来た言葉だと分かります。言葉「ナショナリズム」は古代や中世に見られません。ヨーロッパの封建制が中世に入って崩壊すると、絶対王政がイギリス・フランス・オランダなどで発展します。こうして「イギリス人」「フランス人」「日本国民」と意識されるようになりました。

 私達2人はフランス出身なので、文法や発音も現地と同じなので、同じフランス語を話します。このような国民意識は、国民が共通の言語・歴史・伝統を持つからこそ、より深まりました。また、教育を通じて自国の素晴らしい歴史が後世に伝わると、より高い愛着(愛国心)を感じられます。しかし、このような愛国心は、仲間達と同じ価値観を共有していて、皆で力を合わせようという気持ちを思い出させてくれます。一方、違う見方をすると、違う信条を持つと敵視され、国内から追い出したり、国内にいても差別的な扱いを受けたりする危険性があります。例えば、「外国人は国から出て行け」「お前は国民じゃない」というような言い方をすると、様々な悲劇に見舞われています。

ヨーロッパ型ナショナリズム[編集]

 歴史を振り返ると、西欧型ナショナリズムは、「普遍的帝国」→「局地的な地方政治」→「一元的専制」→「政治的統合」のように発展してきました。

非ヨーロッパ型(発展途上国型)ナショナリズム[編集]

 ナショナリズムはヨーロッパで始まり、アジアやアフリカなど世界各地に広がりました。植民地支配や社会的支配がなくなると、非ヨーロッパ諸国で国民主義政府の誕生に繋がります。また、生活圏・文化圏・コミュニケーションなどが整っていない場合、ナショナリズムの単位も小さくなります。途上国では、ナショナリズムの指導者として有名な学者は少ないかもしれません。よって、ナショナリズム運動は弱まっていると言えるでしょう。また、途上国のナショナリズム運動は2種類あります。

  • 西洋の物質主義的な文化を否定して、民族固有の伝統に戻りたい運動
  • 低開発から抜け出すために、西洋のように近代化したい運動

ナショナリズムとインターナショナリズム[編集]

 ヨーロッパは、中産階級や新興市民層(ブルジョワジー)が国民国家の必要性を感じるようになると、ナショナリズムを強める傾向にあります。このようなナショナリズムは、民主主義思想(右翼思想)と繋がりやすくなります。一方、インターナショナリズム(国際的労働運動)は、労働者や下層民衆が奴隷や苦労から逃れようとする傾向にあります。労働者が自分達の権利を守るために、国家ではなく世界的一体感を求めるため、インターナショナリズム社会主義思想(左翼思想)と頻繁に結びついています

 国家に縛られないからこそ、人種・国籍・場所に縛られない社会を作れるかもしれません。このような考え方をコスモポリタニズム(世界市民主義)といい、それを支持する人達をコスモポリタンといいます。

エスニシティ(エスニック・グループ)と民族(ネイション)[編集]

エスニシティと政治[編集]

 国家は、同化政策と同じように、エスニシティの居住国と強い結びつきがあれば、その民族を政治に参加させても構いません。エスニシティの指示で、政治的正統性を取得出来ると考えられています。しかし、エスニシティと国家の関係が対立すると、国家は中々まとまらなくなります。なぜなら、このような国家から抜け出して独立するために、激しい抗議運動を始めるかもしれないからです。

資源ナショナリズム[編集]

 アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどのように、ほとんどの途上国には豊富な天然資源を持っています。天然資源を利用して自国の近代化と経済成長を図り、残った天然資源を先進国の貿易材料に利用しようという考え方(資源ナショナリズム)が途上国で生まれました。1970年代になると、産油諸国が資源ナショナリズムに従って原油価格を引き上げました。その結果、先進国は大きな影響を受けました。なお、資源ナショナリズムと似たような表現で開発独裁があります。開発独裁はフェルディナンド・マルコス政権時代のフィリピンスハルト政権時代のインドネシアで行われました。

ブルース・ラセットのデモクラティック・ピース論[編集]

 ブルース・ラセットは、著書『パクス・デモクラティア』の中で民主的平和論を取り上げています。民主的平和論によると、民主主義国同士は、民主主義国家と非民主主義国家間、非民主主義国家間よりも戦争につながりにくいと考えられています。

 しかし、民主主義体制だと、相手が非民主主義国家なら戦争しても構わないと考える傾向があります。例えば、アメリカは日本とおそらく戦争をしないでしょう。しかし、アメリカがアフガニスタンやイラクを攻撃したのは、アメリカの民主主義の基準を満たしていなかったからでしょう。

 民主的平和論は、カント的国際政治観とも呼ばれ、近代ドイツ哲学者イマヌエル・カントの『永遠平和のために』に由来する政治理論です。

デモクラティック・ピース論とナショナリズム[編集]

エスニック・ナショナリズムをめぐる問題[編集]

資料出所[編集]

  • 大卒程度公務員試験準拠テキスト 専門科目⑭国際関係  東京アカデミー編著 呼守康著