高等学校物理/物理I/運動とエネルギー/物体の運動

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物体の運動[編集]

物体が時間とともに、その位置を変えるとき、その物体は運動(うんどう、motion)をしている、という。 例えば、ボールを平らな机の上で転がすと、ボールは動いていく。このように、物体は動かすことが出来る。ボールを転がし始めた瞬間には、人間が手で物体に力(ちから、force)をかけて物体の運動のようすを変えたものと解釈することが出来る。この章では、特に物体がどのような力を受けたときにどのような運動の変化を受けるかを考察する。

運動の表し方[編集]

物体の運動は、物体の位置の変化と、時間との関係で、書き表すことが出来る。 1つの物体は、同時に2箇所には存在できない。よって物体の位置は、ある時刻を取ると、その時刻に対して、一つの位置だけに決まる。よって、式では、位置をxとして、時間をtとして、この2つの変数 xt で、物体の運動を記述できる。

速度[編集]

速さ[編集]

速さ(はやさ、speed)とは、単位時間あたりの移動距離の大きさである。式で書くなら、速さを v とし、移動距離をx とし、時間変化をtとした場合、

となる。運動の種類によらず、この式( vx/t 、ただし x は移動距離であり t は時間変化.) が「速さ」の定義である。 運動の種類には、等速直線運動や等加速度直線運動など色々とあるが、この式( v = x/t )は等速直線運動に限らず、あらゆる運動についての速さの定義である。

速さの単位は、距離と時間の単位の取り方によって異なる。距離の単位は、物理では普通、m(メートル) や km(キロメートル) を使う。特に理由が無いかぎり、km や cm(センチメートル) や mm(ミリメートル) などの接頭辞のある単位よりも、それらの基準である m(メートル) を優先して使う。高校では普通、m を距離の使う。

このメートルを優先して使う規則は、日本の高校だけでなく、メートル法を採用している世界の多くの国で、そうしている。

よって、物理での速さの単位には、普通、 m/s (メートル毎秒)を使う。日常生活では、自動車の時速などで km/h (キロメートル毎時)が使われる事もあるが、物理では特別な理由が無いかぎり、 m/s を使う。

理工学一般では「m/s」を「メーター・パーセカンド」(Metre per second)などと英語風に読む場合もある。教科書では、「メートル毎秒」が、m/s の公式の読みかたである。

他にも「メーター・パー・セック」と読む場合もあるが、天文学の単位の「パーセク」と紛らわしいので、この読み方(「メーター・パー・セック」)は、あまり用いないほうが安全だろう。


なお、数式で「速さ」を表すための文字記号には、後述する速度(そくど、velocity)を文字記号をあわせるのが一般的だという理由により、速さの文字記号には v を用いるのが一般である。


  • 例題 単位の変換

72 km/h は、何m/sか?

解法:

72 km = 72 × 1000 m = 72000 m
1 h = 3600 s

したがって、72 km/h = 72000 m / (3600 s) = (720/36) m/s =20 m/s

よって、20 m/s (答え)

速度[編集]

速さが同じだからといって、全く同じ運動をしているわけではない。 たとえば、新幹線同士がすれちがうとき、普通速さは同じであるが、向きは全く逆である。 速さと向きを組み合わせた量を、速度(そくど、velocity)という。 一般に速度のように大きさと向きを持つ量をベクトル(vector)という。これに対して、「速さ」のように、大きさだけを持つ量をスカラー(scalar)という。

物理で運動を考える際には、「速さ」よりも、「速度」を使うことを優先するのが一般である。

数学でのベクトルの表記を説明するなら、 のように量を表す記号の上に矢印をつけるか、または のように始めの位置と終わりの位置を表す記号の上に矢印をつけて表すのが規則である。
は AからBの向きを表し、 はBからAの向きを表すので、大きさは同じだが、向きは全く逆である。
ベクトルの矢印は量を表す数字の上に直接付けてはいけない(を除く)。
ベクトルについては数学Bで詳しく学ぶ。
高校の物理では、記述の簡略化のため矢印を省略することも多いので、単に v と書いてあっても速度のベクトルとして扱う場合も多い。
変位

ある時刻の位置にあった物体が、それより後のある時刻の位置に移動した。説明の簡単化のため、 および とする。

この場合、からまでの時間はであり、 からまでの位置の変化は、である。

のような、位置の変化量を 変位(へんい、displacement)という。

変位をΔxのように表すこともあり、「Δx」の読みかたは「デルタ・エックス」と読む。Δは変位を表す記号として、よく用いられる。「Δ」の読みは「デルタ」であり、ギリシャ文字の大文字のデルタのことである。(小文字ではない。小文字のデルタは δ である。)

つまり、

である。

時間についても同様に、

というに表記してよく、また「時間の変位」などと呼ぶ場合もある。

平均の速度[編集]

x-tグラフと平均の速度

ここで速度について

[m/s]

という式が考えられる。 をこの間の平均の速度という。は「ブイ・バー」と読む、 ̄は平均を表す。


瞬間の速度[編集]

平均速度と瞬間速度

平均の速度の式において、に限りなく近づけていく場合、つまり Δt を極めて小くしていく場合、これをこれを瞬間の速度という。つまり、x-tグラフでは、瞬間の速度は、その時刻における接線の傾きとして表される。

数学的な表記では、瞬間の速度を

[m/s]

と書く。(詳しくは数学II数学IIIで習う)

物理学で、単に「速度」と書かれている場合は、瞬間の速度を指すことが多い。


自動車のスピードメーターに出ている速度は普通、瞬間の速度です。

等速直線運動[編集]

一直線上を一定の速度で同じ向きに進む運動を等速直線運動(とうそくちょくせんうんどう、linear uniform motion)あるいは 等速度運動(とうそくど うんどう) という。 等速直線運動における物体の位置xを時刻tの関数で表すと、 となる。(vは定数) このvが速さである。

  • 問題例
    • 問題

時刻に速度で位置から 方向に移動し始めた物体は、 時刻には、どの位置に移動することになるか。

    • 解答

速度がで一定であるような等速直線運動の式は、

で与えられる。この式に直接代入すると、 時刻で、この物体は

に現れることがわかる。

相対速度[編集]

  • 例1

動く物体Aから観測した他の物体Bの速度のことを、Aに対するBの相対速度という。(相対速度は「そうたいそくど」と読む。 相対速度:relative velocity) このとき、観測者の速度が基準となる。 例えば一直線の道路をトラックAと自動車Bが同じ向き(正とする)にそれぞれトラックAが40 km/h 、 自動車Bが60 km/h の速さで走行している場合を考える。説明の簡単化のため、最初から自動車Bのほうが前にあるとして、トラックAはその後ろの位置にあるとする。 この場合、トラックAの中から見ると、自動車Bが 速さ 20 km/h で前方へ進んで遠ざかっていくように見え、 逆に自動車Bから見るとトラックAは 速さ 20 km/h で後方へ(、つまり 速度 ー20 km/h で)遠ざかっていくように見える。

このような相対的な速度を式にしよう。 Aの速度を、Bの速度をとすると、Aに対するBの相対速度

で表される。すなわち物体の速度から基準の速度を引く。

  • 例2
相対速度 電車の中から見た場合

動いている電車の中に観測者がいて、外は雨が振っているとする。電車の中の観測者から見て、雨の速度は、どう見えるか? 雨の方向と、電車の動く方向とが違うので、ベクトルで考える必要がある。 電車の速度を として、雨の速度(つまり雨の落下速度)を とする。 この関係をベクトルで表記すると、

となる。


速度の合成[編集]

  • 例1

図のように、動く歩道の上を歩いてる人 A がいるとする。(※ 編集者へ 図を描いてください。) 歩道は速度 で動いている。歩く人 A の速度は、一般の歩道では、 とする。 動く歩道の上でも、一般の歩道の場合と同じように歩くとする。

歩行者 A 本人から見た場合の、歩行者 A 本人の速度は、一般の歩道の場合と同じように歩いているので、速度 である。

しかし、このとき、外から見ている静止した人 B にとって、歩道上を歩いている人 A の速度 は、

である。(動く歩道の出力は充分に大きく安定しているとして、歩行者からの反作用を考えないとした。)

このように、速度を合成できる問題の場合、このような を合成速度という。


  • 例2
速度の合成

川が流れており、その川の上を横切ろうとする船を考える。 川の流れを として、静水中での船の速度を とすると、 実際の速度は

となる。 ただし計算の簡単化のため、流水中でも、静水中と同じ出力で、船が動くとした。

右の図のように、川の流れの速さのぶんだけ、船は下流に流される。よって、合成速度は、図のように斜めの方向になる。


加速度[編集]

加速度[編集]

自由落下は等加速度直線運動である。

動いている自転車がブレーキを掛けて止まったり、止まっていた自動車が発進するときのように、速度 も時刻 によって変化する。 よって、速さのときと同じように速度の変化を表すベクトルが考えられ、これを加速度(かそくど、acceleration)という。 加速度は、単位時間あたりの速度の変化量を用いて定義される。 加速度の記号は で表すのが一般的である。

時刻 での速度を として、時刻 での速度を とした場合、加速度 は、次式で表される。

加速度の単位は [m/s2] である。「m/s2」の読み方は、メートル毎秒毎秒(メートルまいびょうまいびょう)と読むのが高校の検定教科書では公式である。

加速度の単位を考えよう。加速度は単位時間(ここでは1 秒とする)あたりに速度(ここではm/sで表すとする)が、どのくらい変化するかという割合なので、加速度の単位は m/s を s で割った単位になり、よってm/s2である。

m/s2の読み方を、日本の理工学の実務一般では「メーター・パーセカンド二乗」(振り仮名:メーターパーセカンドじじょう)などと読む場合も多い(「二乗」は「じじょう」と読む)。英語風の読み方と、「二乗」という日本語風の読み方が混ざっているが、理工系では、この読み(「メーター・パーセカンド二乗」)で通用してるので、高校生は、あまり気にしないで良い。

加速度の向き[編集]

加速度も、速度と同じように向きがある。 よって、加速度も、大きさと向きを持つので、加速度はベクトルである。

また、速度のプラス符号とマイナス符号と同じように、加速度にもプラスとマイナスがある。


ある物体が東向きに運動している場合、加速度の向きは、東向きに取る場合もあれば、西向きに取る場合もある。

また、ある物体が落下している場合、加速度の向きは、下向きに取る場合もあれば、上向きに取る場合もある。

このように、加速度の向きの正負は、問題によって違うので、試験などでは、きちんと問題文を読むこと。


  • 発展: 円運動の加速度
円運動の加速度の方向

円運動をする場合、加速度の向きは、速度の向きに対して、垂直である。

円運動や遠心力については、詳しくは物理IIの範囲である。

平均の加速度と、瞬間の加速度[編集]

瞬間の加速度

加速度にも、速度と同様、平均の加速度と、瞬間の加速度がある。

普通、単に「加速度」と言った場合、瞬間の加速度を意味する。(検定教科書でも、そう記述している。)

等加速度直線運動[編集]

一直線上を進む加速度が一定の物体の運動を等加速度直線運動(とうかそくど ちょくせん うんどう、linear motion of uniform acceleration)という。

  • 公式

一定の加速度 で運動する物体について、考える。基準となる時刻 0 での速度を(この時刻 0 での速度を初速度という)とする。時刻 には、速度は だけ増加している。よって、次の公式が成り立つ。

となる。 上の公式が、等加速度直線運動での、基本的な式である。

  • 変位
等加速度直線運動 v-tグラフ
等加速度直線運動 v-tグラフ 距離の導出

また、 グラフを元にして、等加速度直線運動での 変位が求められる。 計算の簡単化のため、時刻0での位置を原点とする。また、簡単化のため、軸の向きを初速度の向きに取る。 以下の公式が成り立つ。

この場合、変位の式を求めると、

となる。


上の2つの公式から、を消去すると、次の式が導かれる。(積分を使うともっと簡潔かつ本質的に導出できる)

よって


  • 問題例
    • 問題

時刻に速さ0で位置にあった物体にx方向にだけの 一定の加速度を与えた。このとき、 方向に移動し始めた物体は、時刻には、どの位置に移動することになるか。

    • 解答

等加速度運動の式

に代入すれば良い。 このときには、が与えられているので、 上の式にを代入すれば良い。答えは、

となる。

等加速度運動[編集]

加速度が一定の運動を等加速度運動(とうかそくどうんどう)という。 等加速度運動の例に、落下運動がある。 空中に放った物体は、重力(gravity)により、加速度を持ち落下する。 この落下の加速度を重力加速度gravitational acceleration)といい、その大きさをで表す。 地球上ではおよそ m/s2 となる。 これにより、斜めに放った物体は放物線の軌道を描く。

重力による加速度が負の運動[編集]

空気中の落下では、空気抵抗のため、物体の形や重量によって、落下の加速度が変わる。たとえば鳥の羽や、あるいは紙1枚を落下させると、空気抵抗によって、落下にやや時間が掛かる。 物理学では、空気抵抗を考える場合もある。

だが、とりあえず空気抵抗を考えない場合を計算してみよう。空気抵抗を無視できる場合として、普通のボールを落とした場合を考えよう。

鉛直上向きに投げ上げた場合[編集]
鉛直投げ上げのグラフ

重力加速度の大きさは 約9.8 m/s2 であり、記号 で表す。

この問題では、鉛直上向きをy軸の正の向きに取るのが普通なので、加速度は負の向きになり となる。

初速度を とすれば、時刻での速度は、

である。

これより、先ほどの節の公式によって、重力による投げ上げの運動について、次の公式が成り立つ。

変位yについてグラフを書くと、図のように、放物線になる。

斜面で打ち出した場合[編集]
(※ 図を追加してください。)

図のように、斜面で小球を上向きに打ち出した場合を考える。

加速度の大きさを とする。これは ではない。小球は斜面からの反作用を受けているので、加速度の大きさが、投げ上げの場合とは違う。

座標の向きは、斜面を登る向きを、正の向きに取ると、計算しやすい。(検定教科書でも、そうしている。) この、斜面を登る向きを、軸の正の向きとする。

最終的に小球は斜面を転がり落ちるので、加速度は負の向きであり、加速度は である。


斜めに投げ上げる場合[編集]
斜方投射

小球を、水平線から角度θ をなす向きで、投げ上げたとする。 この場合、軌道は、図のように上に凸(とつ)の放物線になる。

この場合の問題での座標系の取り方は、普通、水平方向をx軸にとり、鉛直上向きをy軸に取る。

初速度を とすると、 まず、初速度のx軸方向の成分 は、

であり、 初速度のy軸方向の成分 は、

である。

水平方向であるx軸は、重力加速度の影響を受けないため、t秒後の速度のx軸方向の成分の式 は、

である。 t秒後の速度のy軸方向の成分の式 は、加速度 の影響を受けるので、

である。


これらの速度の式をもとに、時刻での位置を求められる。

位置の軸成分(記号をで表す)は、

同様に位置の成分は、

である。