高等学校 地学/気候変動

出典: フリー教科書『ウィキブックス(Wikibooks)』
小学校・中学校・高等学校の学習>高等学校の学習>高等学校理科>高等学校地学>高等学校 地学>気候変動

 地球上では、酸素・二酸化炭素・水など、様々な物質が移動しています。つまり、気候は大気や海だけではなくて、森林などの生命圏とも関係があります。

大気と海洋の相互作用[編集]

 大気と海洋では、熱容量が違います。つまり、同じ量の太陽放射を浴びても、その温度変化の仕方は違います。季節風(モンスーン)や海陸風は、このような仕組みで発生します。また、海水は太陽放射のエネルギーを取り込んで蒸発するので、水蒸気となります。この水蒸気が蒸発する時、それまで蓄えていた熱(潜熱)を放出します。海洋は潜熱を放出しており、それが大気中に入り込み、暖かくなります。また、積乱雲を作り、台風や温帯低気圧のような大規模な大気現象を引き起こすエネルギーとなります。一方、風が海面を吹くと、水と摩擦するため、波(風浪)や海流が発生します。

 このように、大気と海洋は、熱などのエネルギーと水などの物質をやりとりして、お互いに影響を与えます。これを大気と海洋の相互作用といいます。エルニーニョ現象はその代表例です。エルニーニョ現象が発生すると、熱帯地方の気候だけでなく、中高緯度の気候にも影響を与えます。このように、離れた場所の気象が連動する仕組みをテレコネクション(遠隔連鎖)といいます。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象[編集]

 太平洋赤道付近の海面水温は、通常、西部で高温、東部で低温となっています。また、暖水層は東部で薄く、西部で厚くなっています。これは、この地域を吹く貿易風(東風)の影響で、暖水層が西側に流されるからです。太平洋赤道付近の西側にある暖水層は、空気を暖めて、対流活動を活発にします。これが低気圧を作り、貿易風を維持します。また、赤道付近の海面温度は南北ともに低くなっています。何故なら、東から西へ吹く貿易風によって、赤道から中緯度に海水が流れるからです。このため、赤道上の深層から冷水が上がってきます。

 しかし、貿易風が弱くなると、赤道太平洋中部から東部の暖水層が厚くなり、冷水があまり上がってこなくなります。ここからエルニーニョ現象が始まります。暖水層が太平洋中部から東部へ移動すると、大気の活発な対流運動の領域も、太平洋中部から東部へ移動します。そうすると、エルニーニョの状態が続き、貿易風が弱くなります。一方、ラニーニャ現象とは、貿易風が平年より強く、赤道太平洋中部から東部にかけての海面水温が平年より低い状態をいいます。

エルニーニョ・ラニーニャ現象に伴う太平洋熱帯域の大気と海洋の変動

 したがって、エルニーニョ現象は大気と海洋が連動して起こります。大気側では、太平洋東部と西部の海面気圧がシーソーのように変化して、一方は高く、もう一方は低くなります。これを南方振動といいます。熱帯では転向力が弱いので、東西方向の転向力と気圧傾度力が等しくなるような地衡風にはなりません。貿易風の強さは、南方振動に大きく関係しています。そのため、これらの海洋・大気の現象をまとめてエルニーニョ・南方振動(El Niño-Southern Oscillation)という言葉がよく使われます。エルニーニョ現象は特に珍しい現象ではありません。エルニーニョ現象もラニーニャ現象も、自然変動で特に振れ幅が大きい現象です。

エルニーニョ・南方振動とテレコネクション[編集]

 エルニーニョ・南方振動は、テレコネクションを通じて、世界中の天候に様々な影響を与えています。エルニーニョ現象が発生すると、夏に北太平洋高気圧が弱くなります。そのため、梅雨が明けるまでに時間がかかり、日本の夏の平均気温は下がります。冬は季節風が弱くなるので、気温が上がります。エルニーニョ現象は、気象の長期予報を行う上で大きな役割を果たしています。いつ発生するのかを正確に予測するためには、赤道太平洋の海洋状況や大気の状態を注意深く観察しなければなりません。

海流と気候[編集]

 海洋から大気への熱移動は、太平洋と大西洋の西海岸を低緯度から高緯度へ流れる黒潮とメキシコ湾流付近で多く発生します。これは、この付近では海面の温度が空気の温度よりも高いために起こります。何故なら、熱帯からやってくる海流は暖かく、冬になると西の大陸からの季節風でこの海域の空気は冷たくなるからです。海水から大気への熱移動は、熱伝導(顕熱)でも行えますが、それよりも海水が蒸発して、水蒸気の潜熱を大気中に放出させる方が重要です。このように、海洋から大気への熱移動は効率的に行われます。ヨーロッパは暖かいメキシコ湾流の下流にあるため、高緯度に位置していながら、冬でも温暖な気候です。

異常気象[編集]

 異常気象とは、これまでの平均的な気候(平年値)とは大きく違う気象をいいます。毎年、厳しい寒波・暖冬・猛暑・少雨・旱魃・洪水などの異常気象が世界各地で起こっています。これらの異常気象は、地球温暖化のような長期の気候変動が原因となっている場合もあれば、気候システムが働いている仕組みの中にある場合も考えられます。このうち、北極振動は日本に異常気象を招く自然現象の一つです。

北極振動[編集]

 北極振動は、北半球全体に影響を与える気象の変化です。北極振動は、北極上空の気圧が平年より低くなると中緯度の気圧が上がり、北極上空の気圧が平年より高くなると中緯度の気圧が下がる変化です。正の北極振動は中緯度の気圧が上がる場合、負の北極振動は中緯度の気圧が下がる場合です。振動は数日から数十年続きますが、決まった周期をたどるわけではありません。北極振動が正の時は、偏西風が強く、蛇行がほとんどありません。そのため、日本付近の冬は暖かくなります。一方、北極振動が負の時は、偏西風が弱く蛇行するため、極域の空気が流れ込みやすくなります。そのため、日本付近の冬は寒く、雪が多くなります。

 日本付近の気候変動は、エルニーニョ現象なども原因になっているので、はっきり分かりません。北極振動の原因ははっきりしませんが、エルニーニョ現象と同じように、海面水温の変化や北極振動の気圧配置が成層圏までよく届くので、突然暖かくなるなど成層圏の変化も影響していると考えられています。

 南極振動は、南半球で起こる振動現象です。