高等学校 地理探究/交通・通信

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 本ユニットでは交通・通信を学習します。交通・通信は私達の生活に欠かせません。例えば、当たり前ですが、郵便局の荷物や宅急便の荷物とか運ぶ際、配達員は車・バイクとかを使います。また、自宅から10キロ以上離れた高校に通っている学生は学校や親からの送迎がない場合、公共交通機関(電車・バス)を利用しているでしょう。

世界の交通網[編集]

航空交通[編集]

交通・移動手段の発達[編集]

 人間は元々徒歩で移動しましたが、様々な交通手段の発明によって、行動の範囲は広がりました。船の発達により、水上を移動出来るようにもなりました。陸上交通では、馬車の時代から鉄道の時代を経て、現在では自動車が主流です。さらに、航空機によって人間の行動圏は著しく拡大し、地球上の時間距離を大幅に短縮させました。

 現在、世界には様々な交通機関がありますが、人の移動にも貨物の流通にも、用途ごとに最適な手段を選べるようになっています。

時間距離
長さの単位で表した距離(絶対距離)ではなく、2地点の所要時間から測定される距離を時間距離といいます。利用する交通機関によって、時間距離は異なります。また、時間距離の短縮には地域差がみられます。航空交通や、高速鉄道、高速道路を利用出来る大都市間では、時間距離は大幅に縮小しました。しかし、そうした交通機関を利用出来ない地域では、時間距離は十分には縮小されていないのが現状です。

水上交通[編集]

航空交通が発達するはるか以前から、水上交通は重要な交通手段でした。水上交通には、河川の流路や深さに影響されたり、移動の速度が遅い欠点もありますが、重い貨物や容積の大きい貨物を安い運賃で遠くまで運べるため、石油・石炭・鉱石・穀物などの輸送に利用されています。石油はオイルタンカー、鉱石は鉱石輸送用の撒積船などの大型専用船で輸送されます。また港として、港湾での積み替え作業を合理化、高速化するためにコンテナ船が普及し、世界各地の港湾にはコンテナ埠頭やオイルタンカー向け専用岸壁が整備されています。中国の上海、香港、シンガポール、オランダのロッテルダムは、中継貿易港として取り扱い貨物量の多い港湾都市として知られています。

ヨーロッパでは、河川や運河が国境を越える貨物輸送に欠かせない輸送路となっています。ライン川やドナウ川などの国際河川は、大小様々な運河を通じてオランダ・ドイツなどの工業地帯の河港を結びつけ、原料や製品の輸送路として利用されています。

鉄道交通[編集]

 ヨーロッパやアメリカ合衆国では鉄道が発達しました。これらの地域には広大な平野が広がり、鉄道網を整備しやすかったからです。産業革命以降、産業活動の活発化に伴って高密度の鉄道網が形成され、経済発展の基盤となりました。鉄道は、レールの敷設や整備に多額の費用がかかりますが、大量の旅客や貨物を長距離にわたって、時間も正確に輸送出来るという利点があります。しかし、現在、鉄道の輸送量は多くの先進国で減少あるいは停滞しています。一方、ヨーロッパや日本のように国土が狭く人口密度の高い地域では、新幹線やフランスのTGV、ドイツのICE、ロンドン・パリ間を結ぶユーロスターなど、都市間に高速鉄道が整備され、旅客輸送では鉄道の利用度は高まっています。  先進国では、貨物輸送は鉄道の役割は薄かったのですが、渋滞がなく、温室効果ガス排出量が少なく環境への負荷を削減出来ているので、自動車輸送からの転換が進んでいます。また、鉄道によるコンテナ輸送の増加や、都市内の近距離用の路面電車・地下鉄・近郊鉄道などの路線も拡充されました。都市部ではLRTも増え、高齢者や障害者が利用しやすい低床車両も導入されています。ドイツでは、郊外駅に自家用車を駐車し、鉄道に乗り換えて市街地に出入りするパークアンドライド方式が普及しています。一方、発展途上国では、依然として貨物鉄道・旅客鉄道ともに大きな役割を担っています。

LRT
 ライトレール交通ともいい、利便性が高く低コストの都市内鉄道システムです。部分的に道路上の専用軌道を利用するなど、1両から数両編成の列車が走行します。
ライトレール

道路交通[編集]

自動車は、船舶や鉄道に比べて一度に輸送出来る旅客数や貨物量は少ないですが、道路網を自由に移動でき、目的地まで積み替えなしで貨物を運べる点で優れています。現在、世界各地でモータリゼーション(車社会化)が進み、道路交通は重要な陸上交通になっています。先進国では高速道路網や幹線道路などが整備され、貨物や旅客輸送に頻繁に利用されています。自動車は短距離利用がほとんどですが、国家間を結びます。

航空交通[編集]

航空交通には、発着が空港に限定され、輸送費用が高いなどの欠点もありますが、地形や海洋の影響をほとんど受けません。例えば、成田からホノルルに行く場合、航空手段を使えば、最短時間・最短距離で移動出来ます。国境を越えて移動する人々の数は年々増加傾向にあり、特に長距離旅客輸送では航空交通の利用が圧倒的に多くなっています。また、航空機の高速化・大型化によって、比較的近距離でも、高速鉄道などの競合する交通機関がない場合は、航空交通が利用されます。先端技術製品・生鮮食料品・花卉、貴金属など、付加価値が高く比較的軽量な貨物も航空機で輸送されるようになっています。

航空路線網と航空貨物輸送[編集]

航空路線網が密な地域は欧州・アメリカ・オーストラリアの域内路線です。このため、その地域の路線の利用が多くなっています。


世界中の物資流通の拡大とともに、航空機を利用した輸送も発展してきました。国際航空貨物を専門に扱う輸送業者も出現し、空港の近くには、先端技術産業のハイテクエ業団地や巨大流通センターが整備されています。日本でも成田国際空港は、電子部品や精密機械から生鮮食料品に至るまであらゆる貨物を取り扱い、輸入額では日本最大を誇っています。航空機で外国へ旅行する観光客も多く、国・大陸間の結びつきが強まっていますが、国際航空は国内と比べ大きな旅客数の変動があります。景気の変動や国際関係、感染症の流行などの影響を受けやすいからです。

航空交通網の地域差[編集]

最近の航空交通では、アメリカ合衆国のシカゴ、ヨーロッパのフランクフルトの空港など、国際・国内の航空路が集中する拠点であるハブ空港の重要性が高まっています。ハブ空港には、空港使用料ばかりでなく、人の移動や物流が生み出す大きな経済効果が期待されるため、先進国を中心に、ハブ空港をめぐる主導権争いが激しくなっています。

格安航空会社(ピーチ航空)

近年の航空交通の活発化を促進してきた一つの要因として、格安航空会社(LCC)の存在があげられます。かつては、大手航空会社によって国際航空運賃は高い水準で維持されていましたが、1980年代にアメリカ合衆国では規制緩和が進んで格安航空会社が登場し、低価格の航空運賃が普及するようになりました。

格安航空会社はその後、ヨーロッパでも急成長し、観光産業に新たな需要をもたらしています。21世紀に入ると、格安航空会社は東南アジアや中国、韓国でも出現し、低所得者を中心に移動手段としての重要性が増しています。現在、東南アジアでは航空輸送量の半分を格安航空会社が占めるまでになっています。

一方、発展途上国では航空路線網の整備が遅れ、先進国との経済格差の原因にもなっています。

ハブ空港
自転車の車輪のように中心のハブにあたる空港からスポーク(細い棒)状に航空路が放射状に伸びている空港をハブ空港といいます。アジアでは、ホンコン、インチョン、シンガポールの国際空港などが知られています。なお、ハブ空港となるには、24時間出来る離着陸や複数の4000m級の滑走路があるなどが必要となります。
ハブ空港の名前由来写真

情報通信の発達[編集]

通信技術の発達[編集]

通信設備の進歩によって、大量の情報が世界中に瞬時に伝達出来るようになりました。

このような、情報通信ネットワークが世界規模に発展した現在の社会は、高度情報化社会とよばれます。

情報をいかに早く大量に送受信出来るかが経済を左右するまでになっています。

インターネットの普及[編集]

インターネットは、世界各国のコンピューターを電話回線・衛星回線・専用回線などで相互接続したシステムで、大量の情報を瞬時に入手し、情報の発信も簡単に出来ます。

インターネット利用率[2020年]

かつてのインターネットは、学術研究や軍事目的が中心でした。 革命が進むにつれて、人々は、コンピューターや携帯電話を使うようになりました。このため、自宅にいながら買い物・チケットの予約や世界の人々との交流も出来るようになりました。

しかし、コンピューターを使った犯罪の多発や、コンピュータウイルス侵入による被害など、高度情報化社会には弱点もあります。

さらに、情報化は均等に進行しているわけではありません。

例えば、若者達はインターネットやSNSを頻繁に利用していますが、高齢者はパソコンやスマートフォンの使い方が分からない人達が多く、その結果、特殊詐欺などに巻き込まれやすくなります。

このような格差は、情報格差(デジタルデバイド)とよばれます。