高等学校 生物基礎/生態系と生物の多様性Ⅱ
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食物連鎖と食物網
[編集]生物の捕食・被食の関係は、生態系内の種多様性にかかわっています。
生物の捕食・被食の関係は一本の鎖のように繋がっています。これを食物連鎖といいます。また、生態系全体で見ると、捕食・被食の関係は網目のように複雑になっていることから、これらの関係全体を食物網といいます。
例えば、「ガ」はハチによって捕食されます。ハチはゴミムシやケラによって捕食されます。ゴミムシやケラはカエルによって捕食されます。しかし、「ガ」はカエルによって捕食されもします。生物同士は様々な関係によって成立しているのです。
生態ピラミッド
[編集]生態系において、生産者を出発点とする食物連鎖の各段階を栄養段階といいます。一般的には、栄養段階が下位のものほど個体数や生物量、エネルギー量が多くなっています。この段階を下位のものから順に積み重ねるとピラミッド状になるので、これを生態ピラミッドといいます。
例えば、北米の草原では、個体数ピラミッドで考えると、生産者の個体数は約14億個体/㎢に上るのに対し、植物を食べる無脊椎動物は約1億個体/㎢、さらにクモやアリなどの小さな動物を食べる動物は約8000万個体/㎢、鳥やモグラは740個体/㎢(これらは教科書内に存在する1982年の資料による)と、大きく差があります。逆にこれだけの個体数の差がないと、バランスが崩れてしまうのです。
ピラミッドは他にも、生体量(生物量)ピラミッド、エネルギーピラミッドがあります。
種の多様性の維持
[編集]生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしている生物種をキーストーン種といいます。また、ある生物が、その生物と直接捕食・被食の関係で繋がっていない生物の存在に対して影響を及ぼすことを間接効果といいます。
例えば、紅藻は生産者で岩に固着する種ですが、ヒサラガイやカサガイはこれを捕食します。さらに、ヒトデはこれらのカイを捕食します。このとき、ヒトデの数が増えると、ヒサラガイやカサガイの個体数が減少し、紅藻を捕食する数が減ります。すると、紅藻の個体数は増え、フジツボやイガイ、カメノテといった岩に付着する別個体の生息するエリアが減少してしまいます。ヒトデは、紅藻に対し間接効果を引き起こしたのです。
さらに、このままヒトデの数が増加し続けると、ヒサラガイやカサガイの個体数はいずれなくなってしまいます。これが絶滅です。人間による害や自然災害などによる大きなバランスのくずれによって絶滅が起きてしまいます。
生態系のバランスとかく乱・復元力
[編集]さきほど、絶滅について学びましたが、生態系のバランス変動するたびに何かの個体が絶滅しているわけではありません。通常はヒトデは捕食する生物の個体数が減少するためヒトデ自身の個体数も減り、紅藻が増えることでヒサラガイやカサガイは捕食する個体数が増加するため自身の個体数が増えます。これを生態系のバランスが保たれているといいます。
これは、森林における山火事や倒木、噴火などでもいえます。小規模なかく乱といえる小さな山火事や倒木であれば変動の幅は小さいため、生態系は元に戻ります。また、大規模なかく乱といえる噴火では、生態系のバランスは崩れてしまうものの、別個体による新たな生態系ができ、再びバランスが保たれるようになります。
河川や湖沼などに流入した汚濁物質が、分解者によって減少するはたらきのことを自然浄化といいます。
川の上流において、汚水が混入した時、水質は当然悪化します。ここでまず登場するのが細菌です。細菌は、有機物を酸素を利用して無機物に変化し、アンモニウムイオンを生産するはたらきを持っています。すると、細菌が増加するため、今度は原生動物が増加します。原生動物は細菌を捕食し増加します。下流に流れるにつれて、水中の有機物が減少し、こんどは水中の酸素が欠乏してきます。ここで藻類の登場です。藻類は水中においてアンモニウムイオンを消費して光合成し、酸素を生み出します。アンモニウムイオンが減少していくと、やがて藻類も減少していきます。よって、酸素は上流で無機物の生産のために減少した後、藻類の光合成によって増加すると考えられます。そして最後には、酸素量もアンモニウムイオン量も、それぞれの個体数ももとの状態に近づいていくのです。
ここまで、水質のバランスの復元力について考えてきました。しかし、生活排水が大量に流入した時、自然浄化だけでは水質が戻らなくなる時があります。アンモニウムイオンなどの栄養塩類が蓄積して濃度が高くなることを富栄養化といいます。聞こえはいいですが、これは水中のプランクトンにとって、栄養が大量にあることからですので、人間やたの水生生物にとっては困ってしまいます。
富栄養化によって起きることの代表例として、赤潮、アオコがあります。赤潮は、河川からの栄養塩類の流入によって海や湾にプランクトンが大量発生してしまうことをいいます。これが起きると、プランクトンの遺体の分解に大量の酸素を必要とするので、水中の酸素が欠乏し、魚などが大量死してしまうおそれがあります。一方アオコは、湖沼で植物プランクトンが水面を覆ってしまう現象です。これが起きると、水中に光が届きにくくなり、水生植物などが生育できなくなってしまいます。
生態系はバランスを保つはたらきはありますが、それを超えてしまう大きなかく乱が生じると、バランスが崩れてしまうということです。
※COD・BODとは
CODは、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)の略で、化学反応によりその水中の有機物を分解するのに必要な酸素の量です。この数値が高いと、水がより汚いと判断できます。 BODは、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand)の略です。CODと似ていますが、CODは化学的に、BODは生物化学的に考えるため、CODの方がキットを用いて速く簡単に測定できます。
資料出所
[編集]- 東京書籍株式会社『生物基礎』浅島誠ほか編著【生基701】
- 実教出版株式会社『生物基礎』最上善広ほか編著【生基703】
- 新興出版社啓林館『高等学校 生物基礎』赤坂甲治ほか編著【生基706】
- 数研出版株式会社『生物基礎』嶋田正和ほか編著【生基707】
- 数研出版株式会社『高等学校 生物基礎』嶋田正和ほか編著【生基708】
- 株式会社第一学習社『高等学校 生物基礎』吉里勝利ほか編著【生基710】
- 株式会社浜島書店『二訂版 ニューステージ 生物図表』2024年度版
- 数研出版株式会社『チャート式シリーズ 新生物 生物基礎・生物』本川達雄ほか編著 2023年